「ここら辺は異常無し、と」
こむぎ、いろは、悟と出会ってから、かれこれ時間が流れた。そして、あれからフブキはメエメエのお陰で学校にも通えて三人と共に過ごす時間が増えた。
現状に満足しており、あと残すはガルガルの問題くらいだ。学校に通い始めてから一向にガルガルの姿どころか、気配すら感じられない。
このまま何事も無く平穏な日々を過ごせれたら良いなと思う反面、嵐の前の静けさという可能性だってある。
一日たりとも油断は出来ないとフブキは考え、ここ最近は夜の街に繰り出しては街周辺を散歩ついでにパトロールをしている。
「それにしても、本当にこの街は野生の動物が多いな。それはそれで全然良いんだけどね」
クスリ、と小さく笑みを溢す。
こむぎ達の情報によれば、ガルガルは元は黒い卵から孵って現れるとのこと。
それを手掛かりにフブキは今日も街を歩き続ける。
◯
街から林の中まで隅々まで探し続けるフブキ。ガルガルの卵らしきものは見つからず、時間だけが静かに流れていく。
「今日も成果は無し。まあそれはそれでだけど」
何も無いならそれに越した事はない。なにより平和が一番。
「流石に深夜帯は冷えちゃうな。早いところ帰ろっか」
猫だから夜目は効く。しかし気温だけはどうにもならない。ましてや今は人間の姿。猫の時のような毛は無い為、普段より夜の風がダイレクトに伝わって体温を下げる。
「誰か来た?」
踵を返して帰ろうとした矢先だった。茂みの方から葉が揺れる音がした。
夜も深い時間に人間なんて誰も出歩かないと思ったが、万が一の時もある。人間という生き物は、下手にこの時間帯で子供だけの姿を見ると事件性を感じて警察を呼ぶ。
ほぼ住所不特定なフブキを調べられたら、後々言い訳が立たなくなる。
素早く猫の姿に変身して、近くの木に登る。此処で一旦やり過ごそうと、下の様子を伺い顔を覗かせる。
木の下には、やはり人間が居た。念の為に隠れて正解だったと安堵する。
でも一つだけ気になることがある。それは、その人間はいろはや悟と大して変わらない年齢だろうと思われる少女。
「何でこんな時間帯に子供が? それにあの子」
ただその姿は普通とはまた違っていた。容姿は明らかにプリキュアに変身したこむぎといろはにそっくりだった。独特な全身真っ白な衣装に包み込まれており、その鋭い眼光は遠くの方を見据えている。
「三人目のプリキュアが居るなんて事は二人からは聞いていないし」
もう少し彼女の事を観察しようと更に前のめりになる。ただちょっと顔を出し過ぎた。
足を滑らせてしまい体勢が崩れた。猫の素早い反射神経を駆使して爪を枝に引っ掛けれたが、いかんせん宙ぶらりん状態。両の爪で持ち堪えれてはいるが、全体重を支えるにしては心許ない。
(わわ、落ちちゃう!)
普通に着地をすれば良かったのに、中途半端に手を出したのが間違いだった。
足を枝に引っ掛けたくともいかんせん猫の脚は短い。ジタバタともがくほど枝が軋む。
「全く、貴方何をやっているの?」
不意に聴こえた声。そしてすぐに浮遊感は消えて、何故か地に足が着いた。
違う、足下をよく見ると手が差し出されておりその上に乗っていた。
「自分から登った癖に降りられないなんて世話ないわ」
彼女だ。さっきまで木の下にいた彼女が、わざわざ登ってフブキを助けてくれた。彼女はフブキを片手に、アクロバットに地面に着地。そして、ゴミでも捨てるかのようにしてフブキから手を離した。
ようやく地に足が付いたフブキは、助けてくれた彼女を見上げる。
猫でもない人間。然程そういう意味合いで人間に興味を示さなかったフブキなのに彼女に釘付け。
なんというかこう「絶世の美女」という感じだ。
「とても見てられない状況だったから、仕方なく助けてあげた」
「にゃー」
ありがとう、とフブキは伝えた。
そんな猫の言葉が通じたのか、彼女もまた口を開く。
「今回だけよ。普段のわたしなら絶対助けない」
「にゃ?」
じゃあ何故? とつい口走った。
「猫の気まぐれ。これに懲りたら、もう身の丈に合わない真似事は止すのね」
それだけ言葉を残して、彼女は月明かりが照らされる林の奥へと消えて行った。
フブキはその後ろ姿を見送り、人間の姿を変える。
「あ、名前を聞くの忘れちゃった」
折角の恩人だというのに名前を聞き忘れるなんて。自分でもらしくないと思った。今度会ったら名前を聞いて、お礼をしないと。
「何かネズミ……あいや、相手は人間だからちゃんとそれ相応の、って人間の姿でやったら正体バレちゃうしな」
女の子に対して、しかも人間相手にお礼は初めて。何を送ればいいのか、フブキは暫く頭を悩ませるのであった。
12話冒頭の部分だから短い内容でした。
また時間掛かるかと思います。
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