マリオたちが訪れる遥か以前の荒野が広がっていた。この場所には大地と岩しかなく、生命の気配すら感じられない荒涼とした風景が果てしなく続いていた。
その虚無の中から、突如として猛スピードでネスとピカチュウが現れた。ネスは両足を前方へ伸ばし、急ブレーキをかける。その勢いは見る見るうちに減速し、やがて完全に静止した。ピカチュウは目を見開いたまま周囲を見回した。ほんの数秒前まで闘技場にいたというのに、ネスの手を握った瞬間、目の前の景色がぐるぐると回転し、気がつけば見知らぬ荒野に立っていたのだから無理もない。
ピカチュウ「ピカ?」
ピカチュウは困惑した声を上げ、ネスに説明を求めた。
しかしネスもまた、疑問に満ちた表情を浮かべていた。
ネス「あれ、おかしいな…家にテレポートしたつもりだったのに」
ピカチュウは目の前の少年を不思議そうな眼差しで見つめた。その視線に気づいたのか、ネスは話題を振った。
ネス「そういえば君はなんであの大会に参加していたの?よかったら事情を聞かせてよ」
ピカチュウ「ピ…ピカ〜ピカピーカ、ピカチュ、ピ、ピカチュ〜」
ピカチュウは身振り手振りを交えながら懸命に説明した。
ネス「え!つまり君の意思関係なく連れてこられたってこと?」
ピカチュウは頷いた。
ネス「そんな…だったらこの大会絶対ろくでもないじゃん…」
ネスは暗い表情を浮かべ、落胆した声で続けた。
ネス「だったら願いを叶えるって話も嘘か…」
あまりにも沈んだ表情を見せるネスに、ピカチュウは話題を変えようと思った。それに、目の前の不思議な力を持つ少年について知りたいことが山ほどあった。
ピカチュウ「ピカ、ピーカピカピカ、ピッカチュウ」
ピカチュウは好奇心に満ちた目で尋ねた。
ネス「あー僕は
ピカチュウは世界の広さに驚いていた。人間がエスパータイプのポケモンのような力を使って戦うこと、さらには驚くべきことに、ニャースのように人語を話すわけでもなく、ラプラスのように人語を理解する知能を持つわけでもなく、テレパシーを用いるわけでもない自分が、人間と会話できているという事実に感激していた。
ネス「まぁとにかくこんな所から早く離れて元の場所に戻ろう」
ネスが提案すると、ピカチュウは頷いて同意した。
ネス「僕はネス、君の名前は…ピカチュウだっけ?」
ピカチュウ「ピカッ」
ピカチュウは元気よく返事をした。
年齢だけでなく見た目も近いこの少年。初めて会ったにもかかわらず力を貸してくれるその姿に、ピカチュウはふとサトシの姿を重ね合わせた。ピカチュウは首を横に振り、ネスが差し出した手に自分の手を伸ばした。二人が握手を交わした瞬間、ピカチュウの目に何かが映った。
ピカチュウ「ピカー?」
ピカチュウは遠くに見える何かに目を凝らした。
ピカチュウ「ピカッ!ピカッチュウ!」
突然、ピカチュウは興奮した様子で指を指した。
ネス「え?あっちを見ろ?」
ピカチュウが指す方向に目をやると、一人の女性が複数の兵士に追われている姿が見えた。
その光景を目にした瞬間、ネスとピカチュウの表情が一変した。助けなければならないという決意に満ちた戦士の眼差しへと変わっていった。
ネス「!こうしちゃいられない!助けに行こうピカチュウ!」
ネスは躊躇なく声を上げた。それにピカチュウも勇敢に応えた。
ネスは手を放し一目散に走っていく。ピカチュウもそれに続いて走り出した。
その女性は茶髪に黒い瞳を持ち、右腕には強大な銃口のような武器が取り付けられていた。すでに包囲され、わずかな動きにも斬撃か銃撃が飛んでくることを察し、身動きが取れなくなっていた。周りの兵士たちは苦悩の表情を浮かべながら言葉を発した。
兵士A「メアリさん、招待状をこちらに渡してください」
メアリ「いやよ!自分達がやっていることに何も思わないの!!」
すると別の兵士も口を開いた。
兵士B「これは、仕方のないことなんです…光の民、私たちが平和に暮らすためにマスターが考えたことです…」
また別の兵士が声を上げる。
兵士C「俺たちは貴方と争いたくないんだ…メアリさん…どうか考え直してくれ」
メアリ「たとえマスターの意志でも、あなた達のお願いでも…私は自分の正義を貫き通す!」
兵士C「どうしてこんな時にかたくなになるんですか」
メアリ「こんな時に素直になれる人間は光の賢者なんてやってないわ」
兵士たちは口を強く噛みしめ、何かを堪えながら言葉を発した。
兵士A「やるぞ…民たちの平和のために…」
兵士たちが決意の表情で剣を構えた瞬間だった。
ネス『PKキアイストレート!!!』
兵士A「なんだ!」
兵士B「うわ!」
包囲の外側から野球ボールほどの球体が一人の兵士に突き当たった。
ネス「おりゃ!!!」
兵士C「ぐっ!」
ネスは崩れた陣形に果敢に突っ込み、バットで一人ずつ兵士をなぎ倒していく。動きは正確で、一撃ごとに確実に相手を倒していった。
兵士A「なにごとだ!」
兵士達は混乱しながらも攻撃の続く場所を避け、異物の正体を確認した。
兵士A「
ピカチュウ「ピーカーヂュウウウウウ!!!」
兵士A「うわぁぁぁぁぁ!!」
ピカチュウの体から放たれた強烈な電気『10マンボルト』が兵士たちを襲い、ほとんどを気絶させた。金色の光が一瞬辺りを照らし、その後には倒れた兵士たちの姿があった。
兵士たちは必死に応戦するも、二人の息の合った攻撃にはなすすべもない。
ネス「お姉さん!こっちです!」
メアリ「!」
崩れた包囲網から聞こえた声を信じ、女性は地面を蹴って駆け出した。
兵士A「追え!!」
すり抜けていった女性を兵士たちは追うが、不運にも、ネス達が逃げた先には巨大な岩石があり、タイムラグが発生した。その隙に兵士たちは再び追いつき、彼らを取り囲んだ。
ネス「うっ、しまった!囲まれた!」
兵士A「もう逃げられないぞ」
背後に超えることのできない岩がそびえ、兵士たちは逃げ道を完全に塞いだ。地の利を活かした連携が取れるのは、彼らがこの土地に精通しているからだろう。
ネス「逃げられない?ピンチでも諦めないのがスポーツマンってものさ!」
ピカチュウ「ピカチュウ!!」
二人は戦闘態勢を整え、再び構える。状況は絶体絶命だった。抵抗すれば攻撃が飛んでくることは明らかだが、ネスにとってはそれも問題ではなかった。どれほど深手を負っても自身の力で回復し、押し通すつもりでいた。この回復力は自分以外にも及ぼすことができるため、ネスはすでに動き出そうとしていた。
そのとき、突如として——
プリン「プリィィィィィィン!!」
ネス「え?」
上空からピンク色の、つぶらな瞳を持つ風船のような生物が舞い降りてきた。兵士の一人が緊迫した面持ちで叫ぶ。
兵士B「こいつは
プリン「プリッ!」
ネス(な、なんなんだこいつ…?)
その生物はこの緊迫した場に不釣り合いな存在感を放っていた。敵味方関係なく、場の視線を一身に集めようとするその姿に、ネスは一瞬戸惑った。
しかし——
ピカチュウ「ピッピカ…!」
ネス「え…まずい…まずいって何…?」
ピカチュウや周りの兵士、そして守っているメアリまでもが、明らかな警戒心をもってそのピンク色の生物を見つめていた。
すると、その生物はキャップがマイクのように見えるマジックペンを取り出した。そして——
プリン「プープルル~プー♪プリプ~♪プリン~♪」
ネス「え?歌…?」
唐突に歌い始めた目の前の生物に困惑する。
プリン「プープルル~プー♪プリプ~♪プリン~♪」
ネス「君、歌ってるばあいじゃない!危な…い…あれ?」
ネスは急に違和感を覚えた。目の前の生物に手を伸ばしたはずなのに、視界がぐらつき、足元がおぼつかなくなっていた。
ネス(なん…だ…これ…ぼく…何をされたんだ…)
思わず周囲を見回すと、信じがたい光景が広がっていた。
「ZZZ」
ネス(え…?みんな…寝てる…?)
ピカチュウも兵士も、敵味方関係なく、プリン以外のすべてが眠りに落ちていた。全員の表情は穏やかで、戦闘の緊張感は消えていた。
ネス(まさか…この歌のせい…?)
目の前の生物を何とか止めようと手を伸ばそうとするが、もはや体は重く、思うように動かなかった。
ネス(これ…だめだ…あらがえな…)
ネスはその場に倒れ込み、深い眠りに落ちていった。
目の前の生物は周囲の状況に気づくこともなく、陶酔するように歌い続けていた。
さて、この生物はいったい何者なのだろうか。彼女の名前はプリン。実はピカチュウと同じく「ポケモン」だ。ノーマルタイプ、ふうせんポケモン。彼女の最大の武器である歌声は、その独特な体の構造のおかげで熟睡している脳波と同じ波長で歌うことができる。この歌声には抵抗することが難しく、基本的には誰もが眠りに落ちてしまう。プリンの歌声を録音したCDが販売されるほど効果的だ。これはプリンの自衛の力でもあり、自分より強いポケモンと出くわしたときにも使用する。
プリン「プ?」
そのとき、プリンは唐突に歌をやめた。周りの様子に気づいたのだ。
プリン「プキュー!!」
それには理由があったここにいるプリンは自衛のためではなく、歌が趣味なのだ。自身の歌を聞いてもらいたいという承認欲求が強い。
プリンは息を吸い込み、激怒した。このプリンは自身の歌声に睡眠効果がある自覚はなく、自身の歌が退屈で皆が眠ってしまったと勘違いしているのだ。しかし彼女は諦めず、また別の機会に歌い続けるだろう。この執着が負の連鎖を作り出していることに気づかないまま。
そして眠ってしまった者たちにはプリンの制裁が下る。
プリン「プー!プリ!」
眠っている者たちにビンタを食らわせる。これでも目が覚めないほど、プリンの歌は強力だ。制裁のビンタでも気が収まらず、プリンは油性マジックペンの蓋を取り、一人一人の顔に落書きを始めた。この時、プリンの体からは「大乱闘スマッシュブラザーズ」への招待状が落ちた。そのことにプリンは気づかず、ただ落書きを続けた。
プリン「プイ!」
そして怒りに満ちた表情で落書きを終えたプリンは、どこかへと姿を消した。
キャラクター紹介
プリン
ふわふわとした風船のような姿のポケモン。特技は「うたう」で、やさしく心地よいメロディを奏でて聴いた者を眠らせる。アニメではマイク片手に熱唱し、歌を最後まで聴いてもらえないことに怒って顔に落書きをするのがお約束。見た目に反して、意外と頑固なところもある。
メアリというオリキャラを登場させました、この世界の案内役のような立ち位置にしようと思ってます。