マリオ「んん……僕は……眠っていたのか?」
朦朧とする意識の中、マリオはゆっくりと目を開いた。
目に入ったのは、古ぼけた独特な模様の壁掛けと、木製の机と椅子。
辺りを囲むのは冷たい石壁だった。
マリオ「ここはどこだ……?」
マリオは、目の前に広がる景色から確かな結論を導き出した。
――知らない場所だ。
そう気づいた瞬間、マリオの頭に一人の姿が浮かんだ。
マリオ「……ルイージ?」
彼の脳裏に、直前の記憶が閃光のように駆け巡る。
あの不可解な招待状。そして、光に包まれて消えていったルイージの姿。
弟は無事なのか――。
その安否を確かめるように、マリオは咄嗟に弟の名を叫んだ。
マリオ「ルイージ! ルイージィ!!」
その叫び声はむなしくも石壁に吸い込まれ、何の応答も返ってこなかった。
ルイージはおそらく、ここにはいない。
自分と同じように、どこかへ連れ去られたのか。それとも、すでに何者かの手にかかり、取り返しのつかない事態に陥っているのか。
考えれば考えるほど、最悪の想像ばかりが頭をよぎった。
背筋に悪寒が走った。
得体の知れない不安に息を詰まらせる。
胸の内で膨れ上がった不安が、じわじわと呼吸まで奪っていった。
その時――。
かすかな音が、マリオの耳に届いた。
顔を上げると、そこにはいつの間にか両開きの巨大な扉が出現していた。
さらにその扉の向こうから、何かがざわめくような音が響いていた。
マリオはその正体を探るように、じっと聞き入った。
高く、低く、様々な音が幾重にも折り重なり、やがて空気を震わせるほどの大きなうねりになっていた。
その音を聞き続けるうちに、マリオは気づいた。
マリオ(これは……歓声??)
その瞬間、マリオの中で一つの可能性が浮かび上がった。
見知らぬ場所。突如として現れた巨大な扉。そして、その向こうから聞こえてくる歓声らしき音。
それらの点が一本の線となって、ここへ来る直前に目にした、あの招待状へと繋がっていく。
マリオ(僕はあの手紙の大会に連れてこられたってことなのか……?)
その考えに確信めいたものを抱きながら、マリオは改めて質素な室内を見渡した。
マリオ(つまりここはロッカールームなのか…?)
ひと通り室内を見回した後、マリオの視線は再び巨大な扉へと向けられた。
マリオ(そうなるとこの扉の奥には…戦いが待っているという事になる…)
扉を見つめたまま、マリオはその場に立ち尽くしていた。
一瞬の葛藤はあったものの、やがてその表情には覚悟が滲んだ。
マリオ(この部屋に居続けても意味はない…行くしかない!)
ゆっくりと扉に近づき、不安に震える指先でそっとその表面に触れた。
そして少しずつ体重をかけて押し込んだ。
ギギギッという鈍い音とともに、太陽の光がマリオの目に差し込む。
手で目を覆いながら光をやり過ごすうちに、だんだんと目が慣れ、景色が鮮明になっていった。
そして、目の前の光景を捉えた瞬間――マリオはハッと目を見開いた。
マリオを迎えたのは、巨大な円形闘技場。まるでローマのコロッセオを彷彿とさせる、圧倒的な規模の空間。観客席は人間で埋め尽くされ、会場全体が活気に満ちていた。
呆気にとられていると、突如、ザザッというマイクのノイズが会場に響いた。
そして次の瞬間――
アナウンサー「「さあさあ、お待たせいたしました!!世界で一番強いのは誰なのか!?誰もが一度は抱いたその疑問!その答えを決めるべく、世界中の強者がここに集結しました!最強の座をかけてぶつかり合う、夢の戦い!大乱闘スマッシュブラザーズ、開幕です!!!」
宣言とともに、観客席から割れんばかりの歓声が沸き起こった。拳を突き上げる者、口笛を吹く者。無数の拍手が重なり、闘技場全体を震わせる。
その熱狂の中で、マリオは険しい表情を浮かべていた。
いったい、何者と戦わされるのか。
マリオは周囲へ視線を走らせた。歓声に包まれながらも、直感は警告を発し続けていた。
アナウンサー「それでは、さっそく最初の対戦カードをご紹介しましょう!まずはこちらの選手!抜群の身体能力と自慢のジャンプで幾多の危機を救った英雄!赤い帽子と口ひげといえば、この男しかいない!ミスタージャンプマン!マリオォォォ!!」
自分の名が会場中に響き渡り、観客の視線が一斉に集まった。
マリオは口を引き結んだ。こちらの事情などお構いなしに、紹介は進んでいく。説明を求めようにも、その声を届ける相手がどこにいるのかさえ分からない。
そして、マリオに続いて対戦相手の紹介が始まった。
アナウンサー「対するは!圧倒的なパワーでジャングルを守る、ネクタイ姿の暴れん坊!豪快な一撃で勝利をつかめ!ドンキーィィ!コングゥゥゥ!!」
アナウンサーがその名を叫び終えた次の瞬間、ドン、ドン、ドンッ――と、鈍い音が向かいの扉の奥から響いてきた。
音がすぐそこまで迫ったかと思うと、巨大な影が扉を突き破り、闘技場へと跳び込んできた。
轟音とともに破片が飛び散る。その中を宙高く躍った巨体が、両の拳と足を地面に叩きつけて着地した。
衝撃で砂埃が舞い上がり、マリオの足元にまで振動が伝わってくる。
そこにいたのは、全身を濃い茶色の毛に覆われた、大柄なゴリラだった。
盛り上がった肩に、分厚い胸板。ひときわ長い両腕の先には、岩のような拳がついている。顔と胸元には明るい肌がのぞき、首から下がった赤いネクタイには、黄色い文字で「DK」と刻まれていた。
ゴリラはゆっくりと上体を起こすと、観客席を見渡し、にっと口の端をつり上げた。そして、両腕を高々と掲げる。
ドンキー「イエーイ!!みんなー!見てるー!!この俺がー!D!K!ドンキーコングだああああ!!」
マリオは、観客席に向かって両腕を掲げるゴリラを、気圧されながらも見つめていた。
その体格もさることながら、何より圧倒されたのは、あふれんばかりの自信だった。無数の視線を浴びながら、まるで自分のために用意された舞台だと言わんばかりに、歓声に応えている。これから戦うというのに、緊張するどころか、この状況を心から楽しんでいるようだった。
マリオ「君は一体何者なんだ?」
その呼びかけに、ようやくゴリラが振り向いた。
ドンキー「なんだ…!?俺を知らないのか?だったら教えてやる!俺はDKアイランドのヒーロー、ドンキーコングだ!!」
ドンキーコングは胸を張り、両腕を曲げて力こぶを作ってみせた。観客席からひときわ大きな歓声が上がると、ますます得意げに笑みを深める。
マリオはその様子を見ながら、小さく息をついた。相手はすっかり戦う気でいる。観客もまた、二人の対決を今か今かと待ち構えていた。
マリオ「やるしかないか…」
大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出す。弟を見つけ出すためにも、ここで負けるわけにはいかない。マリオは気持ちを切り替え、目の前の相手に意識を集中させた。
マリオは足を開き、ドンキーコングをまっすぐに見据えた。
マリオ「言っておくけど、弟を待たせているんだ。ここで負けるつもりはない…!」
鳴りやまぬ歓声の中、アナウンサーの声が響き渡る。
アナウンサー「それではさっそく、マリオVSドンキーコング!試合開始です!」
アナウンサー「3、2、1――!」
そして、戦いは始まった。
次回は決着まで書きます!
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