ネスには、一度でも訪れたことのある場所ならテレポートできるという特技がある。ところが、今いるのはまったく初めて見る部屋だった。
周囲を見回すと、壁や床は石造りで、ところどころにペルシャ模様のタペストリーが掛けられ、さらに招待状に描かれていた、円の中の左下に十字が書かれた印が床に大きく描かれていた。家具と呼べるものは机と椅子だけで、机の上には置き手紙のようなものがあった。
ネスはしばらく部屋を眺めてから、ふとあることに気づく。
ネス「……あれ、この部屋、扉がない……」
普通の人間ならここで恐怖を感じそうなものだが、ネスはいたって落ち着いていた。
ネス「まあ、最悪テレポートで逃げればいいし。大丈夫だよね。それより、この手紙は何だ?」
手紙は机と一体化しているようで、手に取ることはできない。そして表面にこう書かれていた。
『ネス様、ようこそお越しくださいました。このテーブルは、貴方の望む食事を瞬時に実現させます。試合開始まで、ご自由にお楽しみください』
ネス「望む食事を実現する……? そんな夢みたいな道具があるのか……。じゃあ、ハンバーグ」
半信半疑で「ハンバーグ」と唱えた瞬間、まばたきするよりも早く、ほかほかのハンバーグと食器が机の上に出現した。ネスは少し警戒しながらもナイフとフォークを手に取り、肉を切って口に運ぶ。ゆっくりと咀嚼して味わうと――
ネス「おいしい……しかも、これ、ママの手作りの味じゃないか? まさか、望む味まで再現してるのか……?」
出口のない部屋に閉じ込められたと思ったら、無限にご馳走を提供する不思議な机でもてなされる。いったい自分をここに呼び寄せた人物は敵意を持っているのか、それとも歓迎したいのか……。ネスは判断しかねながら、この世界に来るきっかけとなった招待状をポケットから取り出す。
ネス「もしかして、ここはあの手紙に書かれていた“格闘大会”の控室ってやつなのか?」
そう考え始めた途端、外からかすかに大勢の会話が聞こえてきた。聞き耳を立てれば立てるほど、自分の推測が当たっていると確信する。そして、ネスは手紙のある文面を思い出し、改めて読んだ。
ネス「優勝者には、どんな願いもかなえて差し上げましょう……これが本当なら、ポーキーとまた会えるかもしれない……!」
淡い希望が胸に浮かんだその瞬間、何もなかったはずの壁から急に扉が現れた。ネスはごくりと息をのみ、そっと扉に手をかけ、ゆっくりと押し開く。
そこは、まるでコロッセオのように巨大な闘技場だった。目に飛び込んでくる圧倒的な光景に、ネスの心は大きく高揚する。そして、観客たちがネスの入場を確認した途端、凄まじい歓声があがった。普段の野球の試合ではまず味わえない規模の声援に少したじろいでいると、アナウンサーの実況が会場に響き渡る。
アナウンサー「さあさあ、お待たせしました! 今宵は世界中の強者たちが集う夢の祭典! 誰が最強か、世界中の誰もが気になっていたことでしょう! ここに、世界一熱い戦いが用意されました――大乱闘スマッシュブラザーズ、開幕です!」
その声を合図に、歓声は最高潮に達する。アナウンサーは続けて選手の紹介を始めた。
アナウンサー「まずは、一見ただの少年に見えて実は凄腕のエスパー! 仲間たちとともに凶悪生物ギーグをも封じたこの男――ネス!」
ネス(ギーグのことまで知ってるんだ。いったいこの大会の主催者は何者なんだ……?)
困惑するネスの耳に、次の対戦相手の紹介が飛び込む。
アナウンサー「続いては、アフリカゾウすら失神させる強力な電気を放つポケモン、ピカチュウ!」
その紹介と同時に、ネスとは対角線上の位置にまた扉が出現した。ネスは紹介を聞いて身構える。
ネス(そんな強力な生物が相手なのか……。やっぱり、願い事がかなう大会ってだけあって、簡単には勝たせてくれないんだな)
自分に言い聞かせながら、向こう側の扉をじっと見つめる。すると扉がゆっくり開き、そこから姿を現したのは――
ピカチュウ「ピ……ピカ……?」
全身が黄色く、赤いほっぺたが特徴的な、可愛らしいネズミのような生物だった。
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