遠くにいるピカチュウを見つめながら、ネスは困惑していた。
ネス(な、なんだあの可愛い動物は……。あんなのが強力な電気を出すなんて、何かの間違いじゃないのか?)
ネスが感じている緊張感とは裏腹に、観客たちの熱気はまるで歴戦の猛者を見に来ているかのようだった。すると、アナウンサーの声が割り込んでくる。
アナウンサー「それでは早速、ネス VS ピカチュウを始めます!
3、2、1……!」
戦いのゴングが鳴り響く。ネスは過度な緊張もあってか、ピカチュウの可愛らしい見た目に少し油断していた。
ネス(とりあえず電気が怖いし、あんまり近づかないように……)
そう考えた矢先、すでに電撃は目の前まで迫っていた。
ネス「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
リングはかなり広く、まだ開始直後で距離もあったはずなのに、気づくとネスは全身に電撃を浴びていた。
ネス「まさか……電気がこんな距離まで届くなんて……」
続けざまに電気が飛んでくる。
ネス(まずい……避けないと……!)
一直線に迫る電撃は、普段から剛速球を打ち返しているネスなら視認できる。ネスは足に力を入れ、サイドステップを試みるが――
ネス(足が動かない!)
ネス「ああああああああっ!」
再び強力な電気を浴びてしまう。
遂に身体の自由が利かなくなり、そのまま倒れ込んでしまった。
会場は唖然としている。まさかの一撃KOを見たピカチュウですら戸惑っていたのか、その場に座り込んでしまったほどだ。あまりにもあっけない展開に、会場中が静寂に包まれる。
だが、ネスの意識はまだ残っていた。早く戦闘に戻ろうと、怪我や疲労を回復する
ネス(ライフアップは効いてるはずなのに……くそっ……どうして体が動かないんだ……! 早く立たないと……負ける……)
ネスはまだ気力を失ってはいなかった。瞳には闘志の炎が宿っている。
ネス(嫌だ……! こんな序盤で負けてたまるか! 僕は絶対、ポーキーに会わなきゃいけないんだ!)
短時間で状況を整理する思考は、野球の試合や冒険で慣れたもの。ネスは必死に頭を回転させ、ひとつの結論にたどり着いた。
ネス(電気……。もしかして、体が麻痺してるのか……?)
人の筋肉は脳からの電気信号で動いている。強力な電撃を浴びたなら、筋肉が硬直して動かなくなるのも道理だ。そこでネスは一か八か、別の
(PKヒーリング
念じると、白いオーブのような光がネスの周囲を回り始める。「PKヒーリング」は風邪などの病気や状態異常を回復する能力だ。そして――
ネス「痛ってぇ……まさかこんな距離まで電気を飛ばしてくるなんて。油断してたな、僕……」
ケロッとした様子で起き上がったネスを見て、会場は大いに沸く。ピカチュウも再び身構えた。
ネス(とはいえ、あの攻撃範囲を全部避けるのは不可能だ。だったら……)
ネスは考え直し、軽くうなずいてからピカチュウを睨む。
ネス「今度は僕から行くぞ!」
そう言うや否や、ネスはピカチュウに向かって一直線に駆け出した。少し焦ったピカチュウは、先ほどよりも高速の電撃を放つ。ネスはバッターとして鍛えた動体視力と
ピカチュウ「ピカ……ッ!」
ネスの常識外れの回避を目の当たりにしたピカチュウは、一瞬動揺する。しかしすぐに頭を振って落ち着きを取り戻すと、今度は速度より範囲を重視した電気を一気に放出した。ピカチュウ自身を丸ごと覆うような電撃のバリアだ。
ネスはそれを見て、なぜか不敵に笑い叫ぶ。
ネス「よし! 作戦開始! PKヒーリング
ネスの作戦は単純だった。麻痺が発生した瞬間に「PKヒーリング」で回復しながら突き進むというものだ。ただし欠点は大きい。何度も状態異常を受けるたびに
やがて、あと一歩で届くというところまで接近したネスだが、体力はすでに限界に近い。同じ作戦をもう一度は使えそうにない。
ネス(よし、あとちょっと! ここで逃したら終わりだ。思いっきり打つ!)
ネス「うおおおおおお!」
ネスが大きく振りかぶると、ピカチュウは即座に雷の攻撃を中断し、ネスの股下をすり抜けた。焦ったネスは、すばやくピカチュウを目で追う。
ネス(まずい……このまま距離を取られたら今度こそ負ける……!)
ネス「逃がすかっ!!」
ネスは右手を突き出し、力を込める。
ネス「PKキアイ
ネスの右手に白い光が集まり、野球ボールほどの大きさになった瞬間、それをつかんで大きく振りかぶり、ピカチュウへ投げつける。
ネス「ストレート!!」
凄まじい速度で飛ぶ光弾は、ピカチュウの回避を許さず直撃。ピカチュウの体が浮き、体勢が大きく崩れる。
ネス(今がチャンス! 動きが止まった! ここを逃したら次はない!)
ネスは右手にふわりとした力を宿し、ピカチュウめがけて疾走する。
ピカチュウ「ピ……ピカァ!!」
体勢を崩しつつも、ピカチュウは再び電撃を放とうとしている。
ネス(くそ……間に合え、間に合ってくれ!)
ネスはそのままピカチュウの眼前に手のひらを向けて叫ぶ。
ネス「くらえっ! PKフラッシュ
すると、ネスの手のひらから強い光が放たれ、ピカチュウを包み込む。攻撃を止められたピカチュウは地上へ落下し、衝撃を受けるが、今度は自分が麻痺してしまったのか身体が動かない。PKフラッシュは相手に状態異常を付与する能力だ、くしくも麻痺を引いてしまったのは皮肉なものだ。
ネス(危なかった……もし数秒でも遅れてたら、また電撃地獄に逆戻りだった。そうなったらもう手は残ってなかったな……)
ネス「はぁ……はぁ……はぁ……」
荒い息を整えながら、ネスはゆっくりとピカチュウに近づいていく。
ピカチュウ「ピ……ピ……カチュ……」
どうやらピカチュウは負けを覚悟したのか、抵抗する気配もない。ネスはその小さな体を見下ろし、拳を強く握る。
ネス「ごめん……でも、僕は勝たなきゃいけないんだ……」
拳を振り上げたその瞬間――
ピカチュウ「ピカピ……(サトシ……)」
不意に自身のテレパシーで聞き取ってしまったピカチュウの声。それは悲しく、苦しげで、そしてどこか寂しさを帯びていた。ネスは拳を下ろせず、力を抜いてピカチュウに触れる。
ネス「PKヒーリング
ピカチュウ「ピ、ピカ……?」
ピカチュウはきょとんとした顔でネスを見つめる。ネス自身も矛盾した行動だと分かっていた。
ネス(僕は優勝してポーキーに会うんだろ? なのに……こいつを癒やしてたら、もう勝ち目はなくなるかもしれないんだぞ……)
それでもネスは、どうしてピカチュウを治療してしまったのか、はっきり理解していた。
ピカチュウはゆっくりと座り込み、ネスを見上げる。
ピカチュウ「ピカ…? ピーカ、ピカチュウ…?」
ネスはピカチュウの言葉が分かった。なぜ治してくれたのか、と聞いている。
ネス「なぜ……か、って? さっき名前を呼んでただろ……サトシって……」
ピカチュウ「ピカ……!」
ネスが自分の言うことを理解したと知って、ピカチュウは驚いた表情を浮かべる。それを気にせず、ネスは話を続けた。
ネス「僕にはポーキーって友達がいたんだ。だけどケンカしちゃって、いまはどこにいるか分からない。
そんなときにこの招待状が届いてさ、『優勝したらどんな願いもかなう』って書いてあったから、ここに来たんだ……。でも……」
ネスはポケットから招待状を取り出し、ピカチュウに見せる。
ネス「君の声を聞いてたら、なんだか戦う気がなくなってきて……」
一呼吸おいて、ネスは優しい口調で話しかける。
ネス「僕を倒していいよ。サトシって人に会いなよ。君も、そのために参加したんだろ?」
そう言うネスに対し、ピカチュウは思いがけない反応を見せた。
ピカチュウ「ピカッ! ピカチュウッ!!」
ネス「え? 違うのか?」
ピカチュウ「ピカピカッ! ピーカ!! ピカチュウ!!」
ピカチュウの必死な訴えに、ネスは両手を前に出して静止を求める。
ネス「ちょ、ちょっと待ってよ。まずは整理させて……」
ピカチュウが一歩退いてくれたので、ネスは落ち着いて質問を続ける。
ネス「つまり、サトシって人と一緒に招待状を見たけど、参加を拒否したのに無理やり連れてこられた……ってこと?」
ピカチュウは強くうなずいた。ネスの中で、この大会への不信感が一気に高まる。そもそも“どんな願いもかなう”という時点で眉唾ものだ。それに、参加していない者まで連れ去るなんて正常ではない。負けた場合に強制送還される保証もなければ、本当に帰れるのかすら分からない。
ネスは決意を固めたように、ピカチュウに手を差し伸べる。
ネス「ここから一緒に出よう」
ピカチュウ「ピ……ピカチュウ?」
ピカチュウはわけもわからぬまま、ネスの手を取る。その瞬間、二人はものすごい勢いで回転を始め――
気がつくと、そこにはもう誰もいなかった。
ピカチュウはアニポケのサトシのピカチュウです。
時系列はセキエイリーグが終わった「ポケモンリーグ!さいごのたたかい」からしばらく経った後です。
キャラクター紹介
ピカチュウ
『ポケットモンスター』シリーズのマスコット的存在で、サトシの相棒として長年活躍している電気タイプのポケモン。黄色い体に赤いほっぺ、雷の形をした尻尾が特徴。「ピカピカ」と鳴くが、感情表現が豊かで、アニメではサトシとの強い絆が描かれる。戦闘では「10まんボルト」や「かみなり」などの強力な電気技を使い、スピードを活かした俊敏な動きで戦う。
冒険履歴
アニポケカントー編全話+ミュウツーの逆襲(本人はこの出来事を忘れてる)
次回からまた視点が変わります!お楽しみに!
良ければ感想と高評価よろしくお願いします!