ぼくの愛バはむっつりさん【完結】   作:帝都造営

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文字数伸びたので分割します。


目標達成のあとに:滾る本能
冬芽揃い踏み、迫る春風。


 

 

 

 冬休みが明けて、数日経ったある日。

 この日は記念すべき、新年明けて初めて応接セットの向こう側が埋まった日となった。

 

「……という訳で。春のクラシック特番にてスティルインラブさんを扱わせて頂きたく」

 

 そう、つまり取材である。

 まあ、相手はいつも通りぼくの親友。扱う媒体もどうせ目テレ系のオンラインコンテンツだろう。

 

「スティルはどうしたい?」

「そう、ですね」

 

 少し考える素振りのスティル。もっとも、彼女の腹はほとんど固まっているハズ。

 

「やはり、時期尚早ではないかと」

 

 うん。そうだろうね。

 

「記事の取材ならともかく、テレビというのは……」

「うん? テレビ???」

「お前、やっぱり聞いてなかっただろ」

 

 机の向こう側に座る親友からだけでなく隣のスティルからも非難の視線が押し寄せる。ぼくは堪らず降参。

 

「しかしテレビだって?」

「正確には、富嶽オンデマンド(配信サービス)の特別番組だがな。みたことあるだろ?」

「富嶽って、目テレの同業他社(ライバル)じゃないか」

 

 驚くぼく。もちろん案件をシャットアウトしなかった親友に対してもだが、大して情報を仕入れていない(与えていない)はずの富嶽系メディアに対してもだ。

 このタイミングでスティルに興味を持つなんて。

 

富嶽系(あそこ)の月刊トゥインクルにえげつない記者がいてな」

「えげつない記者」

 

 彼の語るところによると、トゥインクル・シリーズ関係ではその記者の右に出るモノなし、鋭い洞察と燃えたぎる熱意で良質な記事を量産し、さらには親会社(サンキュースポーツ)どころか他系列のメディア各局を動かして大規模なレースイベント「トゥインクルスタークライマックス(TSC)」の開催を実現したという。

 

「というか……あれ(TSC)って、ひとりの記者が成し遂げたことだったのか」

「そうだぞ。ウチの(目テレ主催)新年駅伝より高視聴率を叩き出したTSCの立役者。尊敬と畏怖を込めての『えげつない記者』ってわけだ」

「で、そんな敏腕記者にスティルのことを嗅ぎつけられたと」

「と、トレーナーさん。そんな言い方しなくても」

 

 困ったように、スティルの手がぼくの方へと伸びる。しかしスティルも思うところはあるのだろう。その手は空を切って、おずおずと彼女の膝の上へと戻された。

 

「それでまあ、番記者の俺に話を通して欲しいと言われたんだよ。こっちとしても筋を通された以上、シャットアウトは出来なくてな」

「なるほど。けれど、それならぼくにだけ伝えても良かったはず」

 

 言外に「なぜスティルも居る場で伝えた?」と問えば、彼はスティルの方へと視線を注いだ。

 

「これはチャンスだ」

「「……」」

 

 ぼくらは沈黙をもって彼に続きを促す。

 

「スティルインラブさんについて分かっている(公にされている)情報は、今のところあまりに少ない。レース勝利時のインタビュー、俺が担当した500文字記事。あとはURAが公式に発表している戦績情報。学園のウマ娘名鑑は重賞勝利までは公開しないから掲載なし」

 

 つまり文字通りの「無名」。そもそも特番への招待がくることが妙な話なくらい。

 

「ここが『スティルインラブの第一印象(ファーストインプレッション)』となる。レース好きなら確実に視るであろう、クラシック期の若駒を集めたこの特番が」

 

 ぼくはスティルの表情を視界のフチで確かめる。

 静かにソファに座る彼女、その()()()()姿()をターフの上で維持するのは難しいとぼくは考えていた。というか、維持するべきでないとすら考えていた。だから隠した。

 

 しかし、ターフに立つ前から印象づける機会があるとしたら。それを利用しない理由はないのではないだろうか?

 

「ここで『スティルインラブはこのようなウマ娘』という印象づけをしておけば、2人の考える『タイミング』まで()()()()()()()()()ことも不可能ではないと俺は考えている」

「たしかにね。実戦(レース)において『多少興奮する』ことは『ままある』ことだ」

 

 それに口にはしないけれど、そういう落差(ギャップ)を好むレースファンは多い。

 真面目そうに、大人しそうに見えるウマ娘が血に飢えた猟犬の如き走りを見せる……それは普段の姿が清楚で、お淑やかで、可愛く見えれば見えるほど「価値」に繋がる。

 そしてその「価値」とやらを、中央という興業(トゥインクル・シリーズ)は求めている。

 

 うん。いける。ぼくの頭の中の算盤はそう結論づけた。

 

「どうだろう。スティル、彼はこう言っているけれど。やってみるかい?」

「……」

 

 スティルは、長く、少しだけ苦しそうな表情でなやんでいる。

 それは、そうだろう。なにせテレビへの出演は、自分をそのまま曝け出す行為。しかも特番となれば複数のウマ娘と共演することになるだろうから、勝利者インタビューや単独取材のように()()()()()()()()こともできない。

 

 だから、そうだな。

 

「ぼくは、やる必要はないと思っている」

「!」

 

 ぼくの言葉に、スティルが身体を強ばらせる気配。

 まさかぼくが出演に否定的なことを言うとでも思ったのだろうか。

 

 だとしたら、きみはぼくのことを()()()()()()()()ね。

 

「スティルの『ありのままの走り方(あり方)』を認めさせる。それがぼくらの目標である以上、過程は()()に過ぎないんだ」

 

 もちろん、きみにとって過程は些事では済まないのだろう。

 だからぼくは、この件については背中を押すしかない。

 

テレビ(晒されるの)は、怖いかい?」

「……はい」

 

 それでも、彼女は逃げるべきでないことを知っている。

 逃げられないと分かっているから、踏みとどまるために震えている。

 

 だからぼくは、背中に手を回して、そっと押す(なでる)

 

「大丈夫だ。ぼくがとなりにいる」

「はい」

 

 消え入るような声。背中越しに伝わる鼓動が少しだけ早くなる。

 そんな彼女の緊張を解くために、ぼくはゆっくり彼女の背中をさする。

 

「あー、お二人さん。仲の良いところ悪いんだが……」

 

 バツの悪そうな様子で口を開いたのは机の向こうの彼。

 

「特番に出られるのは競走ウマ娘(スティルインラブさん)だけだぞ?」

「「えっ」」

 

 

 

 


 

 

 

 

 スティルの様子がおかしい。

 

 

 苦しそうに胸を押さえて、浅い息を繰り返して。

 ぼくが背中をさすると振り払うように身体を揺する。

 いつもよりも鼓動が早くなっているらしく、頬はわずかに上気していた。

 

「どうしたんだい、スティル。楽屋に入ってから……いや、テレビ局についてからずっとじゃないか」

 

 ぼくらは特別番組の収録のため、富嶽テレビへと来ていた。そしてここはスティル専用に与えられた楽屋。もう少しするとカメラ映りを良くするためのメイクをスタッフが施してくれることになっているので、なんとか落ち着けないといけないのだけれど……。

 

「トレーナーさん。分からないのですか?」

「うーん。分からないね」

 

 椅子に座ったスティルが上目遣いでぼくを見る。信じられません、みたいな顔されても見当がつかない。

 

「ここ、すごいです」

「……そりゃ、テレビ局だからね。ぼくも来るのは初めてだよ」

「そうではなくて」

 

 集まっている競走ウマ娘たちが、すごいのですと彼女は言う。

 

強者の集う場所(トレセン学園)の空気を吸うことには慣れています(耐えてきました)。でも、ここは違う」

 

 皆さんが、ひとつの番組(ゴール)に向けて意識を高めているのが、空気に染みだしている。

 

「ああ、そういうことか」

 

 ぼくは納得。なにせ強敵のいるレース(そういう場所)は避けていたから、彼女にとってはここが、初めて強敵(ライバル)とまみえる場所なのだ。

 

「よし、少し落ち着こうか。スティル」

 

 ぼくは腰を落として、スティルに視線をあわせる。

 

「今日は、まだお預けだよ」

「い、言われなくても」

 

 そうだね。きみの聡明な頭脳は、きっとちゃんと分かっているのだろう。

 

「けれどスティル。ひとたびスタジオに出れば、きみは強敵たちの隣に居続けることになるよ?」

「……っ」

 

 その時、きみはきっと我慢できなくなってしまうのだろう。ジュニア級の間、ずっと我慢してきたのだ(野良レースで「狩り」をしていない)から。なおさらに。

 

「よし。考え方を変えよう。これはトレーニングだ」

 

 つまり強者たちのプレッシャーに晒されるなか、いかに自分を保つかのトレーニングである。

 まあ。ぼくとしては、自分を解放した方が(そんなことしなくても)スティルは強いと考えているのだけれど。

 

「トレーニング、ですね。それなら、頑張らないと……」

 

 そう言うスティル。けれど身体は余計に強ばっている。却って緊張させてしまったらしい。

 こうなってくると撮影中の暴発が怖いな。今回の収録は発言のタイミングが少ないから、変な顔(いまの上気している顔がそうだ)が映ってしまうと視聴者に変な印象を持たれかねない。

 

「ふむ。ディレクターに許可をとっておいたのは正解だったね」

「……?」

 

 首を傾げるスティルに、ぼくは無線式のイヤフォンを取り出す。

 

「収録中、隣にはいられないけれど。代わりにこれを」

 

 つまり声だ。

 ぼくの声で、彼女に落ち着いてもらう。

 

「……トレーナーさん」

「さ、つけて。メンコに隠れて目立たないだろうから、心配いらないよ」

 

 イヤフォンを差し出すぼくに、スティルはどうしたことか不満顔。

 

「トレーナーさんは、私がトレーナーさんの声で落ち着くと思うのですか?」

「うん? だっていつもそうじゃないか」

 

 認識に間違いがあっただろうか。普段から応接セットのソファで、隣にいる彼女はリラックスしているように見えたのだけれど。

 

「……それは、そう見えてるだけです」

「?」

 

 聞き取れなかったぼくにスティルはイヤフォンの受け取りを拒むジェスチャー。

 困惑するしかないぼくに、彼女は強く目を瞑った。

 

「トレーナーさんがつけて下さい」

「えっ」

「ですから、トレーナーさんがイヤフォンを」

 

 このヴェール型のメンコを外して、つけるだけ。簡単でしょう?

 

「いや、それは……」

 

 出来るか出来ないかで言えば、それはもちろん。出来るのだけれど。

 

「出来ませんか?」

「いや、できるさ。もちろん」

 

 しかし、しかしだ。どうなんだろうか。それは。

 仮にも彼女を覆い隠す、その、ヴェールを外すというのは。

 

「……やっぱり、やめておこう」

「恥ずかしいのですか?」

「いやいや、そんな深い意味なんてないんだ。ただ、こう、なんというか。よくないだろう?」

「恥ずかしいのですね?」

 

 微笑むスティル。

 

 その表情はどこか嬉しそうで。

 いつの間にか、彼女の緊張は消えてなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スティルインラブさんの担当トレーナーさんですね? 

 月刊トゥインクルの乙名史と申します」

 

 

 

 




目テレのヒミツ①
実は、新年駅伝をはじめとするスポーツ番組(特に野球とレース)に自信アリ。
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