「愛、というものを君はどう考える?」
彼女は俺に質問を投げ掛けた。
「・・・・・・好意の一歩先のもの、とかか?」
俺はよく考えず適当に答える。
「半分当たり。そして、半分ハズレだ」
彼女の回りくどい表現には慣れてきたが、今回はさらに解らない。
「よくわからない、って顔をしてるね」
そう言うと、彼女はクスクスと口に右手を添えて綺麗に笑う。
「お前はどうなんだよ?」
同じ意味合いで、俺も彼女に質問をした。
「んー、『依存関係』かな?」
スラリと、可愛らしい笑みに小首を傾げる合わせ技で、実に重いことを彼女は言った。
まぁ、彼女らしいと言えば彼女らしいが。
「共依存、というものを知っているかい?」
字的におおよその意味合いは想像できるが、全く知らない言葉だった。
「互いが互いに依存されることに自分の存在意義を感じてしまっている状態のことを言うらしい。
こうなると互いが依存に依存を重ねていき、ズルズルと抜け出せなくなってしまうんだ」
相変わらず、妙なことに詳しいヤツだ。
「君は好意の一歩先のものと言ったね。たぶんそれはハズレじゃない。好意あっての愛なんだからね。でも、それじゃ説明しきれないんだよ」
わかるかい?と、彼女は目線で問いかけてくる。
俺はそれに対し首を横に振ることで答える。
判りやすい否定の意で。
彼女はそれに落胆と抗議の目を向けてくる。
俗に言うジト目というやつ。
解らないものはしょうがないじゃない。
一度ため息を吐き、彼女は続けて話し始めた。
「・・・・・・依然に恋を『精神病』と言ったのを覚えているかい?
愛は、言ってしまえば恋が重症化したものなんだよ。それこそ、ちょっとバランスが崩れれば一気に悲劇に繋がるようなものなんだ」
これは理解できた。安い例えで言うなら昼ドラのようなやつだろう。
「互いに互いを好いて愛しているなら"まだ"いいと思う。それこそ救いようが有るからね。
だけど、"一方的"な愛っていうのは報われない。どうやったって救われない。行くとこまで逝ってしまえば、あとは捻れて曲がって錆びて壊れてしまう。まさに悲劇だよ」
そうでしょ?と、彼女は静かに笑う。
「だからといって相思相愛な状態が完璧かと言えばそうじゃない。さっき言ったみたいに愛とは依存関係だ。自分にないものを相手に求めて相手も自分に求めてくる」
「それで成り立つのが恋愛か?」
「そうだよ。酷く中傷的な言い方をすれば、打算的な人間関係だね」
彼女の話が見えてきたことで、俺の中でも考えが見えてきた気がする。
彼女は続けて話す。
「共依存というのは病名だけど、これはわざわざ病気として分類する必要は無いと、私は思うんだ。互いが互いに求めあって、自分のための逃げ場を作ろうとする。それで、望んだものが手に入らなければ切り捨てる。相手が泣こうが傷つこうが関係ない。愛っていうのは本当に便利な言葉だよ」
便利、ね。言われてみればそんな気がする。
人間ていうのは、事あるごとに"愛"という単語をに頼りすぎている。言葉なんて、使えば使うほど擦り切れていくものなのに。
「でも、それは愛じゃないだろ。お前の言うところの『愛』は相思相愛の上に成立するもんなんだろ?」
「どちらにしても同じことじゃないか」
俺の問いに対し、彼女は突き放すように答える。
「どんなに強く相手を想っても、どれだけ深く相手を好いていても、結局行き着くところにあるのは今生の別れさ。聖典の婚儀で使われる誓いの言葉にだって『死が二人を別つまで』なんていう一節もあるくらいだ。愛はそこで打ち止めなんだよ。
出逢って、愛しあって、最後に哀される。
つまるところ、そういうモノなんだよ」
彼女はそこで言葉を切った。
それから俺に目線を合わせ、
「君はどう思う?」
「どうって?」
「君はどう思っているのかな、って」
「言っていいのか?」
「君の発言を規制した覚えはないよ?」
そうか、ならハッキリ言わせてもらおう。
「それは違うだろ」
俺は彼女の意見を否定した。
そりゃもう、バッサリと。
「何が、違うんだい?」
驚くことを目を丸くする、と表現するがまさにこのことを言うのだろう。
中々にレアな顔だ。
「まず、お前の言ってることは中学生が『いつか死ぬんだから生きていたって意味なんてない』とか言っているのと同じことだ」
中二病かよ、って思ったことは言わない。
「そもそもお前の定義する"依存関係"ていうのは、いつかくる未来が嫌で終わるような薄いもんじゃないんだろ?お前は、どうせ無くなるからって目の前の幸福を捨てるようなのが病気と言っていたんじゃないだろ。目の前のモノが見えなくなるくらい没頭する、先の事なんかどうでもよくなる程の依存を病気って言うんじゃないのか?」
・・・・・・我ながらよく喋った。正直のど痛い。
ていうか、なんか相手さんは黙ってるし、なんか間違ったか?
「あ・・・・・・と、何て言うのかな?つまり、俺がいいたいのは――」
「くっ、ハハハハッ」
言い訳をしようとしてキョドる言葉を遮るように彼女は笑いだした。
ていうか、その笑い方はキャラじねーだろ。
「うん、まったくもって君の言うとおりだね。てっきり、いつも私の話は適当に流しているものだと思っていたのだけど、中々に君も言うね?」
そう言って彼女はまた笑いだした。
そんなに笑うことないだろ・・・・・・。
顔が熱くなる感じがしてそっぽを向くが、
「最後の質問」
彼女は右の人差し指を立てて、いつもの笑顔と共に言った。
「例えば、私と君を恋仲としよう。周りの人間も引いてしまう程のバカップルさ」
「・・・・・・いきなり、なに?」
「例え話だよ。それで、君は重い病気にかかっていて、あと数日の命と医師に宣告されてしまった」
「はぁ・・・・・・」
話が唐突なせいで曖昧な返事が口から出る。
「そこで、だ」
いきなり彼女を、それこそ目と鼻が触れあうほどにまで顔を近づけ、こう言った。
「もし君だったら、その数日の間でどれだけ私を愛してくれる?」
悪戯好きの子供のような笑顔で、俺に向かって彼女はそう言った。
「愛して、って・・・・・・」
「難しい問題じゃないとは思うよ?」
「そういう問題でもないだろ」
てか、ニヤニヤするのやめろ。
「で? どうするんだい?」
まさに引くに引けない状況。
まぁ、確かに難しい問題ではない。
「そうだな。それじゃ――」
俺は彼女に目線を合わせ言ってやる。
「俺が死んだ後も、いつまでも俺のことを引きずってグダグダ生き恥晒しちまうくらいに、愛してやるよ」
俺の言葉のあとを、少しの間を開け、
「・・・・・・なら私は、君がその人生の最後の一瞬まで私に縋り付いて惨めったらしく涙を流すくらい、君に愛されるとするよ」
彼女は笑いながら、満足そうにそう答えた。
End
くどいですね。これ書いた時に何かあったのかな。
愛なんて消耗品
そんな思いを殴り書きしたような話でした。