「君はゲームをするかい?」
「暇潰しくらいには」
唐突な彼女の質問に、俺は即答で返す。
「RPGとかFPS、あとはACTとか好きだな」
「FPSって何だい?」
「フィールド パーソナル シューティングの略称のこと」
「じゃあ、ACTは? アメリカの大学進学希望者に行われる統一テストのことかい?」
「アクションの略称だよ。むしろ、なんでそっちを知ってんだよ・・・・・・」
相変わらず知識が偏ってるヤツだ。
「君は博識だね」
「こんな実用性が限定されまくってる雑学、何も誇れねぇよ」
「少なくとも、私は知らなかったんだから誇っていいと思うよ?」
「さいで」
めんどくせぇ。
「それで、なんでこんな話をしてんだよ」
彼女のことだ、真面目にゲームの話をするとは思えない。
きっと、別に本題があるはずだ。
「まぁ、例えば一度クリアしたデータを引き継いで、二週目に持ち込めるシステムがあるじゃないか」
あるな。スキルとかレベルの引き継ぎができるゲームが。
「もしも、そういことが出来たら、人生をやり直すことができるとしたら、君はどうする?」
「それはつまり、今持ち合わせてる記憶とかそういうのを引き継いで、ってことか?」
その通り、と彼女ははにかみながらウィンクまでしてくる。
なんかテンション高いな、コイツ。
「身長のような身体的特長は無理としても、知識のような脳内にある情報を引き継いだ上でのやり直し、言ってしまえば『強くてニューゲーム』というやつだ」
で、それがもしも可能ならば、という話か。
「なんか、いつもと違うな」
「? なにがだい?」
「お前が持ちかける話は、いつも人の色恋についての皮肉と愚痴みたいのだろうが」
「・・・・・・そんな、喪女みたいなことはしていないつもりだが?」
拗ねたように睨まれる。
こういうところは、妙に子供っぽいのが彼女だ。
というか、なんで喪女という言葉は知っていんるんだろうか。
やっぱり、どこか知識が偏っている。
「えぇと、ニューゲームをするかどうかだっけ?」
多少、無理矢理に話の軌道修正をする。
「・・・・・・たぶん、俺はしないな」
俺は彼女にそう言った。
「それはまた、何故だい?」
不思議そうに、だが顔にニヤニヤとした嫌味な笑顔を貼り付けながら彼女は言う。
「後悔してることとか、やり直したいことは無いのかい?」
「そんなもんいくらでもあるよ。それこそ後悔だって言うなら、大なり小なり毎日後悔の処分市だ」
ならなんで? と彼女は質問重ねる。
「別に、やり直してまで取り返したいと思ってないからだよ」
「ホントに?」
「だって、面倒臭いだろ。気にくわないからって幼稚園の先生と御遊戯するところから始めるなんてよ」
ふーん、と間を置き彼女は再び問う。
「じゃあ、取り返しがつかない後悔だったら?」
彼女は続けて話す。
「例えば、事故にあって半身不随になってしまった。救えたかもしれない人間を目の前で死なせてしまった。最愛の相手を手の届かぬところ、見ず知らずのところで喪ってしまった。そんなこともあるだろう」
「・・・・・・なんの話だよ」
「確率論の話だよ。"もしかしたら"のifストーリーさ」
なんてことも無いように、危うさと妖しさの含んだ話を彼女は語る。
「もしかしたら、君は10年後に愛する誰かを喪うかもしれない。5年後に目の前で誰かが五体微塵に死に晒すかもしれない。1年後にはベッドの上で呼吸器に繋がれているかもしれない。明日になると私がこの世にいないかもしれない。
そんな時に、遺されてしまった君は少しでも、"やり直したい"と考えないのかい?」
まるで、俺を試すかのような口振りで、彼女は俺に質問を投げかける。
だが、俺の中での答えは変わらない。
「それでもやり直そうとは思わないな」
「何故だい? 取り返せない損失をなかったことにするチャンスなのに」
確かに、それはチャンスなのかもしれない。
戻らないものを再び手に入れる、この上なく素晴らしいものかもしれない。
それでも、"やり直し"は必要ない。
「だって、面倒臭いだろ?」
俺の中にあるのは、一貫してこの感情だけである。
「誰かが死んでも、俺がベッドから動けなくなっても、たとえお前が明日には死んでも、それは仕様がないことだ。俺にはどうしょうもないことだ。だったら、きっぱり諦めて前向いて生きる方が建設的だ。まぁ、お前がいなくなるのは嫌だけどよ」
最後に少し付け加える形で、俺は彼女にそう言った。
「・・・・・・君はたまに嬉しいことを言ってくれるね」
「なにがだよ」
「気にしないでくれていいよ」
俺が憮然として言うと、苦笑いしながら彼女は華麗に流す。
「まぁ、人生をやり直したりなんかしたら、きっと満足することができなくなるだろうしね」
「満足?」
「人生をやり直せるぶん欲が出るからね。アレもコレも望んだようにしたい、そんな欲が出る。つまり、妥協ができなくなる。諦めは人の可能性を奪ってしまうことだけど、長い人生では必要なことでもある」
相変わらず達観している物言いをするヤツだ。
「『後悔の無いように』なんて言葉があるけど、なんとも馬鹿らしい言葉じゃないか。人間、どれだけ最良の選択をしようと、少なからず後悔するものなのに」
「必要なのは、後悔してもし続けないこと、か?」
「そんなところだよ」
彼女は笑い、俺は笑わない。
いつも通りの日常風景。
いつか、こんな当たり前が無くなる日が来るのだろう。
それも当たり前のことだ。
明日、俺は死ぬかもしれないし、死なないかもしれない。
それは彼女にも当てはまること。
ごく当たり前のことだ。
「じゃあさ、お前は明日自分が死んだら、って例え話を俺にしたが、もしそれが逆だったらどうするんだ」
「逆?」
「明日、俺が死んだらお前はどうするんだ?」
軽い意趣返しのような質問だ。
彼女ならなんと答えるだろう、という軽い興味からの疑問だった。
そんな俺の質問に彼女は、
「泣くよ」
「・・・・・・はっ?」
予想の範疇を越えた回答をした。
「そりゃ泣くよ。思う様泣くさ。体の血液を全て涙に還元するほどに、喉を潰す勢いで泣くだろうね」
「・・・・・・なんで?」
「なんで? なんではむしろ私の言葉だ。君という何よりも大切な友人を無くすなんて、この先の私の人生全てと引き換えにしてでも嫌なことだよ」
・・・・・・よく本人を前に、こんな恥ずかしいことを言える。
まぁ、悪くない。
「だから、私を泣かせたくないなら、私を置いて死ぬようなことはしないでくれよ?」
彼女は笑わず、真剣な面持ちでそんなことを言って、
「ハハッ、敵わねぇな、お前には」
俺は笑って、降参するように両手の挙げたのだった。
End
何だかラブいエンド。
2ちゃんSS「弱くてニューゲーム」という哲学な話に触発されて書いたような記憶があります。
人は一生一度きりの命を大切にしよう的な話でやんす、かも?