俺と彼女の恋愛議論   作:素品

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死生論

「君は死にたいと思ったことはある?」

 

彼女は何気ないような調子で俺に問いかけた。

 

「無いよ。俺は自殺志願者でもないし、自傷癖もないからな。それがどうかしたのか?」

 

俺自身も彼女と同じ調子で返す。

 

「とくに理由はないよ。単純に君への理解を深めようと思っての質問だよ」

 

そう言って、朗らかに彼女は笑う。

 

「じゃあ、質問の内容を変えてみよう」

 

唇の端を僅かに上げ、綺麗に笑い彼女は言う。

 

「君は今までの人生、死にたくないと思ったことはあるかい?」

 

そう言われて、俺は静かに思い返してみる。

 

「無いな」

 

俺は短く答えた。

 

「そもそも自分の命を省みるような瞬間に立ち会うようなこと、俺の平凡な半生にあると思うのか?」

 

別に誇れるようなことでは無いのだが、俺は少し大仰に言ってみる。

 

それを聞いて、彼女は予想通りと言わんばかりに言い返してきた。

 

「そう言えば、君は毎日を眠るように過ごして、眠るように死ぬのが本望だったね」

 

クスクスと小気味よく笑う彼女に少しばかり苛立つが、適当に流すことにする。

 

「そういうお前はどうなんだ?」

 

俺は彼女に聞き返す。

 

「ないよ。私は別に自分の人生の最後に大して興味がないからね」

 

「アッサリしたヤツだな」

 

少し呆れ気味に俺は言った。

 

「じゃあ訊くけど、君にとって生きることと死ぬこと、この相反する概念をどう考える?」

 

「どうって、言われてもなぁ・・・・・・?」

 

「なら、解りやすく訊こうか。君にとって死ぬことは怖いこと? 生きることは楽しいこと?」

 

改めて彼女はそう言った。

 

より解りやすく言ってくれたのはありがたいが、それはただの二度手間だ。

 

「それって、もう答え出てるよな」

 

俺がそう言うと、彼女は虚を突かれたように目をしばたたかせる。

 

「そっか、そう言えばそうだったね」

 

彼女はさっき自分で言っていた。

 

俺にとって生きていることなんて夢遊病のようなもので、死ぬことなんてただ起きることのない眠りに着くことだけだ。

 

特別に、何か気にするようなことではない。

 

「なら、それを踏まえて君に訊いてみたい。"ただ"生きて、"ただ"死んでいくであろう君にとって、生きるのは楽しい? 死ぬのは怖い?」

 

少し考えて俺は答える。

 

「生きることを楽しめるヤツは、きっと目的や目標が在るんだろうさ。自分の進むべき道標を持ってるヤツさ。だからこそ、苦しくても充実感と達成感がその人生を彩ってくれる。死ぬことが怖いヤツは失いたくないものがあるヤツだよ。自分が持ってるもの、金や物や家族、捨ててたくないものを一つでも持ってるヤツは死にたいなんて思わないよ」

 

俺は彼女みたいに語る。

 

正直ガラじゃない。

 

「じゃあ、君の人生は灰色で着飾ってるわけか」

 

「否定はしねぇな。んじゃあ締めだが、三つお前に訊きたいことがある」

 

終始笑っていた彼女に俺は問いかける。

 

 

 

 

 

「生きることに意味はあるか?」

 

 

「意味なんて無いよ。生きることにそんな大層な大義名分は必要ない」

 

 

 

「死ぬことに価値はあるか?」

 

 

 

「価値なんて無いよ。死んだ後に残るものなんて何も無いんだから」

 

 

 

 

 

そして、俺は最後の質問をする。

 

 

 

 

「お前ってどういう風に生きて死にたい?」

 

 

 

 

 

一拍置いて、彼女はこう答えた。

 

 

 

 

「今みたいに笑って過ごして、今みたいに笑って死ねるなら充分だよ」

 

 

 

 

 

彼女はそう言って、いつものように朗らかに笑う。

 

 

 

 

 

END

 

 




一番原点に近いスッキリ纏まった話です。

ジョジョ四部の殺人鬼が言っていた植物のような平穏な人生、という思想から思いついた話だったと思います。

結局、この世で一番幸せなのは現在の全てに満足してしまった、止まった人間だという話です。

在庫はここでストップ。次回は期待しないでね☆
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