ドアの外には生前見慣れた屋敷の内装があった。
みんなが気を利かせて屋敷を再現して建ててくれたらしい。
なんでこんな私に優しくしてくれるの……
「珍しい奴が外に出てきたな」
そんな一言が部屋を出た私にかけられる。
「……ケイトか、顔を合わせるのはいつぶりかしら」
「お前が引き篭もって5ヶ月だから5ヶ月ぶりだな、アキル」
「……そう、結構引き篭っていたのね私」
「だな、髪の毛はボサボサだし若干臭うぜ? 丁度いいや、一緒に風呂入るか?」
「……そうする」
「よし、じゃあさっさと風呂場行こうや」
そう言ったケイトに引っ張られて風呂場に連れて行かれる。
正直ちょっと気まずい。
私は生前……魔皇としてあった時にケイトを殺している。
そんなケイトが優しくしてくれるのが怖い。
普通、自分を殺した相手にこんなことはしないはずだ。
「どしたん? 顔暗いぜ?」
「何でもない」
ケイトは笑顔で話しかけてくる。
そこに悪意や敵意はない。
ただの友人として気さくに話しかけているだけだ。
思えば、この屋敷に私がいること自体おかしな事だ。
私はみんなを殺した。
そんな私が受け入れられているなんておかしい話だ。
私は迫害されるべきだ。
受け入れられるべきではない。
「……アキル、だいぶガリガリになったな。つうか骨と皮しかないじゃねぇか! 飯食え、飯!」
脱衣所で服を脱いだ私に対してケイトが心配そうに言う。
確かに5ヶ月何も口にしてないけど別に問題ない。
私達は死者、これ以上何かを失うことはないのだから。
別に何も食べなくても外見以外に問題はないのだから。
「いいのよ、別に」
「いやいや不健全すぎるぜ? ……何つうかお前自滅したいのか? もう死んだ身だからそんなの出来ないぞ? ソレとも自分への罰のつもりか?」
「そんなところじゃないかしら? 私は本来ここにいちゃいけないんだから……」
そう、私は本当はこんな恵まれていい人間じゃない。
「……バカだなぁ、別にいいじゃねぇか? アタシなんか自分の為に人殺ししてたクズだぜ? その上で今を楽しんでるし、生前も好き放題やった。アタシの方がよっぽど罰せられなきゃいけないぜ?」
「けど……」
「けども何も無し! とりあえず風呂入る! その後は飯食って遊びでもしようや!」
そう言ってケイトと風呂場に入りシャワーを浴びる。
髪を洗うがなかなか泡立たない。
5ヶ月も放置したから当然か。
……不意に自分の額から生えている歪なツノに手が触れる。
あぁ……思い出したくもない記憶が蘇る。
ケイトを殺した時の記憶、ただ触れただけでケイトが崩れ去っていったあの光景が想起される。
「…………」
「アキル、だいぶ手こずってるな? しょうがねぇからケイトちゃんが洗ってやるよ! そもそもお前は生前は短髪だったのに今や腰まであるロングヘアだ、洗いなれてないんだろ?」
私のことは御構い無しにケイトは私の髪に触れる。
そのまま私はされるがままにケイトに洗われる。
ケイトは怖くないのだろうか?
触れただけで何もかもを壊す私が。
「ふぅ……よし! こんなところでいいだろ! あとは湯船に浸からないように髪の毛纏めてっと……よし、アキル! 湯船入っていいぜ!」
ケイトに引っ張られて湯船に浸かる。
温かくて気持ちいい。
……本当に私は恵まれすぎてる。
「……どうした急に泣き出して? 話くらいなら聞いてやるぜ?」
「……何でそんなに優しいのよ! みんなそう! 私はみんなを殺したのよ?! 何で!」
「そりゃ、お前がアキルだからだよ。大切な家族だから、いやアタシからしたら親友だからか。だから大切にするし元気でいて欲しいんだよ。他の奴らもそう思ってるぜ?」
「……意味わからない。私は……」
「……そい!」
ケイトが私の頭に軽くチョップを打つ。
「もう泣くの無しな。お前は律儀すぎるんだよ! 別にお前は殺したくて殺したわけじゃないだろ? ソレにお前のおかげでこの世界は邪神との接続を絶ったんだろ? むしろ誇れよ! お前は世界を救ったんだぞ?」
「けど……」
「けどじゃない! お前は間違いなくよくやったよ! だからいい加減自分を苦しめるのはやめろ! そろそろこっちが怒るぞ!」
そう言ってケイトは私の両頬をつねる。
「ひゃめて!」
「あいよ! たく、いつまでもウジウジすんな!」
ケイトは笑いながらそう言う。
あぁ……やっぱり私には都合が良すぎる。
これは夢なのかもしれない。
だとしたら、どうにか醒めないで。
お願いだから。
「さて、次は飯だな! クリス辺りに頼めばなんか作ってくれるだろ! って事で食堂いくぞ!」
着替え終わった後、ケイトは私をまたしても引っ張って食堂に連れて行く。
あぁ、本当に私には勿体無いくらいの親友だ。