「冥獣が出たぞ!」
そんな大きな声と悲鳴で目が覚める。
冥獣?
聞いたことのないものだ。
「アキル! ちょうどいいから手伝え! ワンチャンお前のイメージ払拭にもなるぞ!」
そう言って扉を乱暴に開けてケイトが部屋に入ってきた。
「ちょっと! せめて説明を……」
「説明なら道中でやる! とにかく着替えろ! 時間がねぇ!」
言われるがままに服を着替えてケイトに引っ張られて冥府街に連れて行かれる。
これは良くない。
魔皇である私が冥府街に行ってしまったら混乱が起きてしまう。
そう思っていた。
だが、すでに冥府街はパニックに陥っていた。
一体何が彼らをここまで怯えさせているんだ?
「あぁ、そういや説明忘れてたな。冥獣ってのはわかりやすく言えば怪獣だ。死者の魂を餌にしてる。で、定期的に現れては私達を襲うんだ。本来死者は何されようが死にはしない。なんせもう死んでるからな! けど、冥獣は違う。アイツらに食われたら最後魂は無に帰る。存在そのものがなくなっちまうんだ。
だから、冥獣が現れた時は戦える奴ら総出で撃退する。まぁ、つまりお前を連れ出した理由は至極単純、冥獣討伐に参加してもらうためだ!」
ケイトは早口で説明する。
なるほど、確かに理にかなっている。
まだ魔皇としての力を振るうことができる私はその冥獣討伐において良い戦力になりうるだろう。
それに……誰かを守るために力を振るうのなら私的にも問題ない。
「分かった。協力するわ」
「おっしゃ! そんでもって冥獣だが、まだ街には入ってきてねぇな。アキル、あれ見えるか?」
そう言ってケイトは指を指す。
はるか後方に巨大な影が見えた。
あれが冥獣か。
確かにでかい。
ここから見ただけでも視認できるのだ。
サイズはキロメートルクラスだろう。
だが、視認できるなら話は早い。
「もう冥獣の近くにまで行っている人はいる?」
私はそんな質問をケイトに投げかけた。
「ちょい待ち……まだいねぇってよ。それがどうかしたか?」
ケイトは耳につけた機械越しに会話をして確認を取った。
冥獣のそばに人がいないならもう迷うことはない。
「いないなら大丈夫。今から冥獣を討伐するわ」
「……は?」
目が点になっているケイトは置いておいて冥獣を視界に収める。
そうして手のひらを握りしめる。
すると冥獣の巨影がみるみると縮んでいく。
私の視界に入ったが最後、その存在は私の任意で圧縮される。
今回はサイズがサイズだから少し時間がかかりそうだが、既に冥獣の足は潰した。
あとはじっくりと潰すだけだ。
「……マジかよ、やっぱお前すげぇわ。いつもなら撃退するのがやっとなはずの冥獣を握り潰すとか流石だな」
「ええ、だって私、魔皇ですもの」
「魔皇って言われるの嫌じゃなかったっけ?」
「……まぁ、たまには良いんじゃない? はい、お終い。冥獣は完全圧縮したからもう脅威じゃないわよ」
「仕事早えな?! むぅ……なんか納得いかねぇ」
「ふふ、けどこれでみんな安全でしょ? なら良いじゃない」
不思議と満足感がある。
こんな私でも誰かの役に立つことができるんだ。
魔皇の力も使いようによって悪くはないのかもしれないな。
「さてと……屋敷に帰りましょうか、ケイト」
「だな、まぁその前に一応冥獣がどうなったかだけ確認しに行くぞ。アレで終わったとは思うが念の為にな?」
「そうね、慢心するのは良くないものね」
そう言ってケイトと共に冥獣のいた地点まで確認に向かう。
そこには数センチのキューブになった肉塊が落ちていた。
「まぁ、なんつうか色々と規格外だな、お前」
「褒め言葉として受け取っておくわ。最後の仕上げね。空間ごと抉り取るわよ」
そう言って私は肉塊に触れる。
瞬間、肉塊は次元の狭間へと消し飛ばされた。
「事後処理も完璧ですか、流石は魔皇様ってところか」
「言い方が腹立つけどまぁ、良いわ。さ、帰りましょう」
そう言って2人で帰路に着く。
帰り際に街の人にお礼を言われた。
嬉しい。
感謝の言葉じゃなく私が魔皇であるにも関わらず話しかけてくれたのが嬉しかった。
あぁ、本当に嬉しい。
いつか、みんなから受け入れてもらえる様になるまで頑張ってみるのも悪くないかなぁ。