TS飛行士は空を飛ぶ   作:soradayo

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57.レーダー施設

 地上でコーヒーを飲んで休憩をしていると、リョーヴァが報せを持って入ってきた。

 なんでも、総司令部(スタフカ)から特殊任務航空小隊(わたしたち)宛のお手紙を持った飛行機が来てたらしい。……エンジン音に慣れすぎて、外で飛行機が飛んでいても違和感を感じなくなってた。

 昔の私の任務みたいだね。傍受されるとまずい情報は人の手で渡すのだ。

 受け取った手紙を開いてみると、どうして私たちに任せるのかよくわからない任務が書いてあった。

 

「ええ……?」

「なんて書いてあるんだ?」

「元帥と親衛装甲師団(シャルロットさん)から直々の依頼だよ。ある場所を攻撃して欲しいって」

「地上攻撃か、珍しいな。敵の司令部か?」

「いや、なんか見慣れないものがあるからそこ周辺の敵を排除してほしいみたい」

 

 機体を変える必要もありそうだ。

 Lav-7は戦闘機としては傑作機だけど、地上攻撃は不得手。持っていけるのも小さな爆弾を翼に吊るしてなんとか2つ程度。機関砲も200発くらいしか弾は積んでいけない。

 こういう時は専門家に聞いてみよう。

 

「そんなにピンポイントで攻撃なんて出来る自信ないんだけどなぁ。ミール、どう思う?」

 

 ミールの方を向くと、薄く切ったパンの上にたっぷりのキャビアを乗せていた。……しょっぱそ。

 口の中にそれを放り込んで小さなグラスに注いだウォトカで流し込むと、ミールは私の質問に答えてくれた。

 ところで、うちの小隊では飲酒飛行禁止なんだけど?

 

「ぼくの出番だね。とりあえず、合衆国の機体を借りてくるよ」

「えっ」

「12門の重機関銃、装弾数はおよそ1200発。爆弾は1トン積めて、ロケットにすれば100発程度。うちの襲撃機は余ってるの無かったでしょ?」

「……まあ、ね」

「じゃあ、合衆国の機体を借りないと! いいよね、リーナ?」

 

 義勇軍(アンウェルカムズ)は……確か、ここからそう遠くない基地にも展開していた。車で30分くらいだから、飛行機ならそこまで距離は変わらない。

 ギラギラした目で見つめられながらそう言われてしまうと、私は断れなくなっちゃう。ミールの提案も悪いものじゃないし。

 

「…………はあ、許可します。けどさぁ、交渉はミールがやってよね。別に私は双発機でもいいんだから……」

 

 結局、ため息と一緒に許可することになった。

 「ありがとう!」と弾んだ声で感謝してくれたミールは、すぐに外に飛び出ていった。交渉をしてくるんだろう。

 部屋に残されたリョーヴァと私は、見つめ合って肩を(すく)めた。

 

 

 

 

 

 

『まさか本当に借りてくるなんてな』

『アメリアさんにお礼を言っておかないと……』

『今は南の方に展開しているみたいだから、しばらくは会えなさそうだけどね』

 

 聞き慣れないエンジン音がコックピットに響いていた。無線装置も合衆国のやつで、距離に関してはあんまり遠くまで届かないらしいけれど音質は私たちのやつよりも良い。音質なんて無線では重要なことでもないのに、お金持ち国家なだけある。

 

『にしても、エンジンが良いな。重いだけの機体だと思ってたが、悪くないじゃねえか』

『ええ……。私はあんまり好きじゃないな。なんか太っちゃった気分だよ』

『ぼくは大好きだけどなあ! 最高じゃない? 重い機体!』

 

 エンジンは確かに悪くない。よく登るし、よく加速する。ただ、動きが重すぎる。思い通りに動いてくれなくてこう……ちょっとイライラする。

 

『人それぞれ好みがあるってことだな』

『Lav-7に戻りたいよぉ。私はあの機体大好きになっちゃった……』

 

 合衆国の人はなんでも出来るパワフルな機体が好きで、評議会共和国の人は特定の任務に特化させた機体が好きだった。

 どちらが良いというものでもない。どっちも一長一短だし、長所を伸ばすことでもう一方の短所がほぼ無くなるっていうこともあり得る。

 けど私はやっぱり、祖国の機体のほうがしっくりくる。

 

 敵の警戒網に引っかからないように低空を飛んでいくと、次第に目的の施設が見えてきた。

 

『あ、見えてきたよ』

『あれか。なんだあれ、丸っこい。大聖堂の屋根みたいだな』

『なんだろう?』

 

 そこにあったのは、まるでドームのような屋根を持つ施設だった。

 そういえば、どこかで見たことがあった。リョーヴァの言う通り、首都の大聖堂の屋根とも似ていたし、他にもどこかで……。

 ――思い出した。レーダーだ!!

 

『レーダーだよ! しかも先進的なやつだ……!』

『レーダー? そういえばそんなのもあったな、ウチじゃ全然使ってないやつだけど』

『そっちの技術に関しては、大衆ゲルマンの方が進んでいるみたいだね。なるほど、元帥たちはこれを研究したいから無傷で手に入れたかったのか』

『そして、秘密にしておきたいから私たちに任せたって訳だ。これ以上使われる前にさっさとやっちゃおう!』

 

 スロットルを押し込んで、今一度コックピットのスイッチを確認した。

 間違ってもレーダーにロケットを当てないようにしないと……!

 

 ――航空学校の訓練以来の地上攻撃はすぐに終わった。

 というか、ミールの指示に従ってやるだけで拍子抜けなほどに簡単に出来た。そんな彼は頭の中で爆弾の軌道がわかっているのか、なぜかピンポイントで爆撃を行っていた。どうなってんの?

 

『簡単な任務だったね。シャルロットさんに通信しておくよ』

『いいの? お願い、ミール』

『久しぶりの対地攻撃が出来たから気分が良いだけだよ』

 

 そんなこんなで何事もなく地上攻撃は終わった。

 

 そして翌日。

 私は、元帥と一緒に車に乗って例のレーダー施設へと向かっていた。

 

「どうして私だけ?」

「知見を頼りたいのだ」

「レーダーとか電子関係は専門外ですけど……」

「見ればわかる」

 

 頭の中にはてなマークが沢山浮かんできたけれど、元帥がそう言うなら従うしかない。

 レーダーを近くから見たところで、なにもわかんないんだけどな。そりゃステルス機の形状くらいは見た目が独特すぎたから覚えているけどさ。元帥がそれを知っているはずもない。

 

「ところで……」

 

 このまま聞いても現地に着くまではなにも教えてくれなさそうなので、また別の気になることを聞くことにした。

 ある人の話だ。

 

「ミールとリョーヴァに、アンナさんの話はしたんですか?」

「言っていない。無用な混乱を引き起こすだけだろうと思ってな。南方戦線に逃れたらしい、とだけ」

「そうですか……」

 

 私がいない間……死んだと思われた間に伝えられたものだと思っていたけど、生き延びて戦っている、と伝えているみたいだった。

 南方戦線――南方の山岳地帯、石油が豊富に産出する場所で、あっちも確か軍需産業が盛んだった。東方戦線(わたしたち)と同じく自然の要塞があるお陰で耐え続けていたらしい。

 当分はそれで嘘を貫き通せそうだけど、反攻作戦は南方戦線とも共同で行われていた。そう遠くない未来に両戦線は合流するだろうから、嘘も見抜かれることだろう。

 

「真実を伝えておこうか?」

「いえ、その時は……戦場で気が付いたほうが、頭の切り替えもすぐ終わるでしょうし」

 

 どちらが正しいかはわからない。早めに知ったほうがいいかもしれないし、ずっと気が付かないほうがいいかもしれない。

 私よりも関係が深い訳では無いけれど……2人にとっても、大事な教官だ。空を飛ぶ基礎、戦争を生き延びるための術を教えてくれた大事な人なんだ。

 真実を知る場所は戦場の方がまだ良いかもしれない。空戦中なら迷っている時間もないからね。

 

「そうか。ならこのままにしておくぞ」

「お願いします」

 

 それから無言の時間が続いて、レーダー施設に到着した。

 周辺はよく開けていた草原だった。シャルロットさんの親衛装甲師団が展開していて、周辺の警戒を行っていた。

 元帥は先導して、レーダーの管制室のような場所へと案内をしてくれた。

 

「これだ。見てくれ」

 

 そこには黎明期のテレビのようなものが置いてあって、画面上には雲のようなものが幾つも表示されていた。

 見た感じ、このレーダーによって見えている航空機とかかな。……先進的だけど、特に驚くものでもなさそう。

 

「薄らぼんやり……なんか、雲みたいなのが映っていますね」

「そうだ。これを拡大すると……」

「6つの点ですか。……これが航空機ってことですよね? そりゃすごいですけど、レーダーなんてそんなもんじゃないですか?」

 

 場所がバレていても、「レーダーがある」という事がわかっていれば対処はそう難しくない。地上部隊の偵察で発見した後に爆撃機で攻撃を行っても良いし、もっと軽量な襲撃機や戦闘機なら、地表近くを飛べばレーダーに映らないで施設の破壊をすることもできる。

 確かに脅威ではあるけれど、全てがわかるわけでもないしね。それに、対空ミサイルもまだないし。

 

「そうだな。問題は最大距離なんだ。どの程度だと思う?」

「結構精密ですし、そうだな。50kmくらい?」

 

 どの国よりもいち早くジェット機を実用化した彼らだ。それくらいのレーダーを作るなんていうのは造作もないことなのかもしれない。

 しかし、元帥が答えたのは私の想像を遥かに超えるものだった。

 

「200kmだ」

「にひゃく……!? そんなの、大衆ゲルマンが国境地帯に3、4個レーダー施設を置いたらこっちの動きが丸わかりじゃないですか」

「そうなる。合衆国と太平連盟が妙に手間取っているから不思議に思っていたが、西側にはコレを既に幾つも建設しているのだろうな」

 

 200kmとなると、ヴォルシノフから首都までがおおよそそのくらいの距離だった。

 飛行機の時速で考えると、そこまで大きな距離ではない。毎日の飛行はその倍以上は飛んでいると思う。

 だけど、元帥の作戦は奇襲性も大きく優位を作る要因になっていた。夜間のうちに大軍を動かして、準備が完了したら一気に攻撃を行う。

 レーダーでわかるのは飛行機だけではあるものの、空軍は装甲師団と並ぶ攻撃の主力だった。……こんな遠くまで見ることの出来るレーダーなんて、大きな障害だ。

 

「なにか対処法は思い付くか?」

 

 対処法はあるものの、時代と技術が追いついていない。

 確か、空からレーダーを壊すには、レーダー波を傍受してそこに攻撃を加える必要があるはずだ。それか、衛星写真や航空写真で場所を特定してミサイルを撃つとか。ともかく、今は無理なものばかりだった。

 

「……対処法は、あまり。ですが敵さんには発展の余地がありそうですね」

「ほう、聞かせてくれ」

「あくまで予想ですが……レーダーで誘導する飛行爆弾とか」

「可能性は少なくないな。そのような物が生まれたら、戦争の形態自体が変わってしまいそうだ」

「早期終戦が鍵ですね」

「ああ、そうだな……奴らが次に何を開発するのか。嫌な予感がするぞ……」

 

 元帥は不穏な事を言いながら、懐からタバコを取り出して吸い始めた。

 供給品の安タバコの匂いは得意じゃないから、私は管制室を出た。

 

 『戦争のための国家』は伊達じゃない。全てを軍事へと割いている彼らの技術力は驚異的だ。

 早く戦争を終わらせないと、取り返しのつかない事は必ずに訪れる。

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