TS飛行士は空を飛ぶ   作:soradayo

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59.十月

 私たち党の軍隊は破竹の勢いで西へと進んでいる。

 首都解放はもはや確定事項になっていて、その後の作戦の立案も始まっているらしい。まあ、噂を聞いただけでさすがにそこまでは聞かせてもらえていないけど。まだ大尉だしね。

 そして、首都の解放の日は革命記念日になった。

 どうせなら、ということでそうなった。ちょうど補給網を調整する必要もあったらしく、またもや小休止だ。

 

 元帥の想定以上に補給網が複雑になった上、物資の消費量も大量だったみたい。あの人でも想定外っていうのがあるんだなあ。

 その元帥は「大規模戦争なんて人間のやることじゃないな。二度と俺は総司令部(スタフカ)に勤めないぞ」と愚痴をこぼしていた。大変だね。

 

 思えば、開戦してからもう1年近い。去年の11月1日に戦争が始まり、東にまで押されて、ようやくここまで戻ってきた。

 たった1年だ。前世の世界大戦はどちらも5年ほどだったはずだから、比べるとよく頑張った方だと思う。

 ――だけど、その「たった1年」はあまりにも濃いものだった。戦争が長引くほどに悲劇は増えて、救えるはずの人は救えなくなる。

 来年には終わらせたい。がんばろう。

 

 西部の戦線ではようやく合衆国が橋頭堡を築いた。太平連盟はクレプスキュールの攻略を後回しにして、合衆国と提携して西方帝国本土の解放を最初に進めることになったという。

 順調ではないが、着実に進んでいる。

 

 そして、10月1日、革命記念日。

 今回の大攻勢の締めとなる首都の解放作戦が始まった。

 

 私たち特殊任務航空小隊は、シャルロットさんの親衛装甲師団と同じく後詰めとして配置されていた。兵力は十二分にあったから、奇襲や前線部隊じゃ対処できない攻撃が行われた際の保険だ。

 つい先日大衆ゲルマンのレーダーと同じようなものを試作したらしく、今はそれによって空への警戒を行っている。我が国の技術力も結構やばいね?

 私たち小隊はいつでも飛べるように地上の格納庫で飛行機に乗ったまま待機だ。暇だから、ずっと無線で話してた。

 

『そういえば、リーナって撃墜数はいくつになったの?』

『三桁はいってないと思うな。でも数えるのが面倒になっちゃったからもうわかんないや』

 

 エースになって喜んでいたのが懐かしい。今なら、エースにカウントされるくらいの相手をするのなら私一人でも十二分にできると思う。……なんというか、敵のエースたちは化け物ばかりだと思ってたけど、私もそっち側になってるね。

 

『すげえな。今回の作戦が終わったらまた昇進するんじゃねえのか?』

『まだ少佐にはなりたくないなあ……空軍に入ってから3年くらいだよ? 早くない?』

『正直、その気持ちはよくわかるぜ。俺だって中尉って気分じゃねえもん』

 

 ちなみに、今の階級は私が大尉、2人が中尉だ。……たぶんそろそろ昇進すると思うけど。

 大尉の一個上、少佐になるとお給料は跳ね上がる。責任と仕事の量も跳ね上がる。ミラーナ少佐やリーリヤ少佐のように、現場の仕事から後方の事務仕事まで全部出来ないといけない。

 ……2人とも、首都に近付いているのになんの情報も私の元に来ていない。恐らく、もう。

 

 気持ちが沈みそうになる瞬間、外から戦車の無限軌道の音がした。音の方を向くと、いくつかの重戦車が移動していた。

 

『あ、親衛装甲師団だ』

『あの人たちも暇そうだね。これなら投入したほうが早く終わるんじゃないかな』

『元帥は慎重だからな。けど俺もミールの案に賛成だぜ。背後で待ってたらラケータが降ってきそうで気が気じゃないな』

 

 首都の解放は二次被害を考慮しているのか参加兵力は少なかった。といっても油断しているわけではなく、撤退する敵部隊への攻撃に注力しているからだ。

 けど、そうなると敵もどう動くかわからない。追い詰められたネズミの力は計り知れないからね。だから、私たち総司令部直属の精鋭部隊はいつでも出撃できるように警戒状態で待機していた。

 ラケータも怖いけど、今のところはあまり使われていない。むしろいくつか鹵獲出来ているくらいだった。

 そうだ、レーダーとの相性はどうなんだろう?

 

『そういえば、ラケータもあの新型レーダーに映るのかな? どうなのミール?』

『なんでぼく? まあ知ってるけどさ。映るらしいよ』

『おお、すげえな!』

『早すぎて映ったところで猶予は十秒くらいしかないらしいけどね』

『……覚悟だけはできそうだな』

 

 まあ、そう甘い話もないか。残念だけど、一番の脅威は相変わらずみたいだ。

 

『けど、一つだけの場合の話だよ。もっと量産されれば、複雑な防空網――それこそ、捕捉したラケータを撃墜させるような対空システムの構築も出来るんじゃないかな』

『だとしたら良いんだけどよ……いやそれより、そんなものが必要ない世界を作る方が良いか』

 

 兵器は使われるんじゃなくて、眺めて「かっこいいな」って感想を持てる世界が一番すばらしい。

 軍隊の必要のない世界っていうのもロマンがあるけどね。けど、完璧に無くすことは出来ないだろう。抑止力の元の均衡が一番現実的だ。

 なによりもまず平和にならないとだね。平和が一番だ。

 

『そうだね。はあ、早く平和にならないかなあ』

『平和になったら何やりたい? 俺は――』

 

 リョーヴァが夢を語ろうとしたとき、無線から特徴的なノイズが聞こえた。通信が入る時のノイズだった。

 

『特殊任務航空小隊、仕事だ』

 

 元帥だった。

 前線でなにか問題でも起きたのかな。私たちが出るなんて、よっぽど面倒なことが起きてしまったみたいだ。

 

『おっと。本当に出番が来るなんてな』

『んね。こちら特殊任務航空小隊。元帥、どうかしましたか?』

 

 コックピット越しに両隣の2人にアイコンタクトを行って、機体を滑走路へとアプローチした。

 徐々にエンジンの回転数が上がり、操る愛機は勇猛に嘶き始める。

 

『目視で確認したが、レーダーに補足されない航空機がこちらに向かっている。偵察を頼む、撃墜も許可する』

 

 偵察を頼むとは言うけれど、撃墜を許可しているっていうことはそういうことだ。

 私たちに期待されているのは撃墜。

 

 それにしても、レーダーに捕捉されないなんて。ステルス機が登場するのはまだ早いし、木材を多用して作った戦闘機かなにかかもしれないね。

 ……これは希望的観測だけど。あの大衆ゲルマンが、いまさらそんな機体を投入するとは思えない。最悪の事態を想定するべきだろう。

 

『敵の新型ですか?』

『恐らくな』

 

 元帥は忙しいみたいで、私のその質問に答えると無線を切り替えてしまった。総司令部からの通信はもう入らなくなった。

 ため息を吐きながら、やり取りを聞いていた2人に話しかけた。

 

『だってさ』

『新型ってことはエースか。……最悪だな、誰に当たるか』

『西に行っているはずなんだけどね。もしかして、ぼくたちの知らないエースがまだいるのかな?』

 

 リヒトホーフェン卿か、ハンナさんか、エリカか。

 はたまたそれ以外の化け物がいるのか。

 ……あるいは。

 

『誰だろうと、新型を任せられるくらいだから。強敵であるのは間違いないよ――行く途中でしっかり戦術の確認も行っておこう』

『ああ、そうだな』

『うん。二度とリーナを堕とさせないよ』

 

 

 

 

 

 

 そして飛ぶこと10分ほど、例の新型が目撃された場所までやって来た。

 

『レーダーに映らないなんてな。もしかしたら目視でも見えないんじゃねえのか?』

『そんなのがあったら逆転負けだね。どう、リーナ。なにか見える?』

 

 地平線の端から端まで一周回って確認してみても、敵影らしきものは見えなかった。

 この辺りの地上部隊も既に移動しているようで、周辺に存在する部隊は私たちくらいだ。奇襲にはぴったりの場所ではあるけど、平らな土地が広がっているからそれも難しいだろう。

 

『うーん……音もしないね。誤情報だったのかな?』

『元帥が確認したんだろ。それは無いと思うぜ。もうちょっと探してみよう』

『こういう時、3人だとちょっと足りないね。あと2人くらいほしいよ』

 

 目が痛くなるくらいに目を凝らしてみても、遠くの鳥を何羽か見つけられたくらいで飛行機の姿は見えない。

 目を擦ってコックピットの背もたれに身体を預けながら、ミールの言葉に答えた。

 

『5人だと中途半端で編隊が組みにくくなるよ。――ん?』

 

 その時、少し遠くに変な形の物が見えた。

 まさかUFO? そういえばパイロットはよく遭遇するなんて聞くよね……。

 

『どうしたの、リーナ?』

『えっと……8時の方向。なんか見えない?』

『見え……るな。なんだあれ? 飛行機か? なんかの破片じゃねえのか?』

『確認しに行こう。近付くよ』

 

 謎の物体の正体を探るために機体を動かすと、遠くに見えた変なものも私たちの方へと向きを変えた。

 

『動いたな』

『動いてるね。ちょっと無線で話しかけてみるよ。もし敵でも見られてる以上奇襲の効果もないしね』

 

 ミールがそう言って、無線の出力を最大にした。

 

《こちら特殊任務航空小隊。敵か味方か、それだけでも教えてくれると助かるな。返事がなかったら堕とすよ》

 

 正面から来るのは聞き慣れないエンジン音、そして、見慣れない機影。

 近付くと、徐々にその機影ははっきりと見えてきた。

 平べったいブーメランのような機体が、真っ直ぐこちらに飛んできていた――全翼機だ!

 

《来ましたか》

 

 それに加えてラジオから聞こえたのは、戦場では絶対に聞きたくない声だった。

 

《お久しぶりです。レフ、ミロスラフ。それに――エカチェリーナ》

 

 新型機にはエースが乗っている、その予想は大当たりだった。

 ただ――会いたくなかった人が来ただけだ。

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