TS飛行士は空を飛ぶ   作:soradayo

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67.バッドコミュニケーション

 あの後基地に戻ると、ミールとリョーヴァは満身創痍になっていた。傷一つ無いんだけど、ともかく神経をすごく消耗したらしい。

 なんだか元気だった私を見て、2人は逃げるように部屋へと去っていった。疲れてる人にまでちょっかいかけたりしないんですけど?

 

 一方の地上では、イゾルゴロドの解放は完了していた。

 総司令部(スタフカ)への攻撃が行われているとわかった時に、総攻撃を指示していたらしい。

 ……覚悟が決まっているなあ。

 

 そんな中で、私たちは地上を走っている。

 雪が積もった道を走る装甲車の後部座席にはリヒトホーフェン卿が収容されていて、私はそこに相乗りして、一緒にイゾルゴロドへ向かうことになった。

 尋問しろってことだね。

 

「待遇に問題は無さそうですか?」

 

 基地を出発してしばらく、そろそろ無言に耐えられなくなってきたので私から話しかけることにした。

 とはいえリヒトホーフェン卿は無言でも辛そうでもなかった。年の功ってやつかな。

 

「大丈夫だ。トゥハチェフスキー閣下とも面会をさせてもらったよ。……申し訳ないが、君相手でも機密情報は与えられない」

 

 余計なことを言わないように、ずっと無言だったみたいだ。

 外をじっと眺めていた卿は、私が話しかけることでようやく目を合わせてくれた。

 機密情報を聞き出すことを期待されているんだろうけど、一介のパイロットにそこまで期待しないでほしい。ともかく、私はそんな難しいことをしようとは思っていない。

 ただ話したいだけだ。まあ、気になってることだけは聞いておくけれど……。

 

「いえ……それは良いんです。ああ、なにか、喫緊の問題があれば教えて下さると助かりますが。……大量破壊兵器とか」

「大量破壊兵器? 新型爆弾のことか。開発は難航しているよ、あれでは夢のまた夢だな。理論は完成しているが、それだけだ」

 

 もしかしたら――と思ってカマをかけてみたら、卿はさらりと言ってのけた。

 

「……機密じゃないんですか?」

「誰も期待していないからな。機密指定すらされていない」

「そうなんですか、良かったです。ほかにも、私が聞きたいことはありまして――」

 

 理論が完成しているだけでも脅威ではあるけれど、夢のまた夢っていうくらいなら、資源も実験設備も足りないのだろう。

 それなら当面の心配はなさそうだ。ということで、次に聞きたいのはあの人のこと。

 

「アンナ嬢のことだろう。だが、教えられることは数少ないぞ。それでも良いのか?」

「はい、お願いします」

 

 リヒトホーフェン卿は腕を組んで、背もたれに体を預けながら言う。

 椅子が(きし)んで音が出た。

 

「端的に伝えれば、魔法を使ったクーデターを計画しているだけだ」

「クーデター……?」

「ああ。彼女が得意とする魔法は知っているだろう? 信頼を得ている相手に意思を強制する魔法だ。そのために、粉骨砕身している」

 

 なるほど……。

 理解はできる。もし祖国がずっと東に閉じ込められていたり、外国の参戦がなかったりしたら必要だっただろう。

 だけど、今となっては。

 

「それは……もう必要ないのでは?」

「私もそう思うよ。だが、アンナ嬢はなにかに急かされているかのようにその計画へと邁進している。恐らく、我々も知らない事情があるのではないかと思うが……」

 

 顎に手を当てて暫く考え込んだ卿は、私の目を見ながら言ってきた。

 

「君たちの内務部の指令ではないのかね?」

「さあ、聞いたこともないですね」

「情報が不足しているな。彼女自信の考えなのか、なにかに裏付けされた考えなのか、あるいは本物の『魔女』と接触したのかもしれないしな」

 

 あ、また物語から引用してる。

 この人、冒険者の話だったり魔女だったり、結構愉快な趣味をしているのかもしれない。見た目はかっこいいおじさんだからギャップがある。

 

「……リヒトホーフェン卿って、意外と冒険者の物語とかお好きなんですね」

「内戦が始まる前は休みの度に観劇へ赴いていたからな。気が付けば詳しくなってしまったんだ」

「お洒落な趣味をお持ちで。貴族らしいですね」

「昔は騎兵だったのだ。上官との話題作りのためでもあったよ――おや、そろそろ到着のようだな」

 

 窓の外を見てみると、いつの間にやら目的地の直ぐ側まで来ていた。

 目的地はこの街の党本部。頑丈なコンクリ製だったお陰で未だに使えるらしく、都市の解放がされたためにパルチザンと党の軍隊との間で使われるようになっているらしい。

 

「ですね。ではまた、リヒトホーフェン卿」

「ああ。武運を祈っている」

 

 リヒトホーフェン卿に挨拶をして、車を出た。

 そして、党本部に入ると玄関に2人がいた。

 

「少尉! ……じゃねえ大尉か、久しぶりだな!」

「リーリヤ少佐! ご無事でなによりです……!」

 

 リーリヤ少佐は、少し伸びた金髪を煌めかせながら笑顔で私とハイタッチを交わした。

 その時に見えた手のひらには、大きな傷跡が出来ていた。……無事、ではなかったのかもしれない。それか、撃墜された時の傷か。

 

 気づかなかったフリをしておこう。

 次はこっちだ。

 

「エカチェリーナちゃんこそ。元気そうで良かったわよ」

「ミラーナ少佐……よかったです……本当に」

 

 ミラーナ少佐の見た目はほとんど変わっていなかった。ただ、なんとなく、包容力が増している気がする……。 

 ようやく2人と出会えた感動で目を潤ませていると、ミラーナ少佐は私にハグしてくれた。

 ……あったかい。

 

 …………いやそれよりも、頼まれている事があるんだった!

 名残惜しさに何とか打ち勝って、私は身体を剥がした。

 

「むぐ……ちょっと待ってください」

「ん?」

「どうかしたのかしら?」

 

 ちょっと荒ぶってしまった髪を整えてから、私は話し始めた。

 

「実は元帥から言伝を預かっていまして……お二人とお話をしたいとのことで」

「元帥だって? すっげえお偉いさんじゃねえか、そんな人とも知り合いになっちまったのかよ大尉」

「というか、直属の部下になってます」

「大出世ね。もしかしたらもうすぐ少佐になっちゃうんじゃないかしら?」

「だとしたら敬語使われなくなっちまうな。ああ、悲しいぜ」

 

 私が昇進したら少佐たちと同じ階級だ。

 ……初めて会った時の私は准尉だった。もっと遠くの人、少し未来の自分を重ねて見ていたのに、あまり変わらないままに少佐になってしまいそうだった。

 戦争っていうのは嫌だね。この功績だって、何かを殺したり壊した結果のモノだ。活躍の結果だから否定はしないけど、個人的にはあんまり嬉しくない。

 

「ふふ、そうね。諸々了解よエカチェリーナちゃん大尉。リーリャ、まずは元帥のところに向かいましょうか」

「そうだな。じゃあな大尉、また後でな。――そうだ、パルチザンの指導者が大尉のこと心待ちにしてるぜ。早く行ってこい」

 

 少佐たちと別れる前に、リーリヤ少佐から伝えられる。

 

「え? どうして?」

「秘密だ。んじゃまたな」

 

 詳しく話を聞こうとする前に、それだけ言って少佐たちは行ってしまった。

 ……ていうか場所もわかんないんだけど。そこらの人に聞いてみよう。

 

 それにしてもパルチザンのリーダーか。

 強面の人だろうなあ。……しっかりしてかないと。

 

 

 

 

 

 

 ガラスに映った姿を見ながら身だしなみを整えているところをお偉いさんに見られたり、私のファン(らしい)に話しかけられたりしたけれど、なんとか無事にパルチザンの指導者の人がいる部屋に辿り着いた。

 特別待遇というわけでもない。普通の執務室だった。

 ふう、と息を吐いて扉をノックする。

 空戦の時より緊張するな。会議とか合衆国の時もそうだったけど、どうにも裏方のあれこれは慣れない。

 

「失礼します。特殊任務航空小隊所属、エカチェ――」

 

 軍で暮らしてると、きびきびした動作が身体に染み付いてしまう。

 けど、パルチザンっていうのは元は民間人だ。あんまり荒っぽくならないように、なるべくゆっくりとした動作を心がける。

 扉を開けて、一歩踏み出して、顔を上げて。

 そこに居たのは――

 

「…………ノーラ?」

 

 エレオノーラ・オシポヴナ・スハーヤ。私の大親友だ。

 『生きていた!』という喜びよりも『どうしてここに?』という困惑が勝ってしまう。

 ……リーダー? ノーラが? そんなタイプじゃなかったよね?

 

「リーナちゃん!?」

「えっ……部屋、間違えた? 私、パルチザンの指導者の人と面会しなくちゃなんだけど……」

 

 私の(システム)は想定外の出来事によりフリーズしてしまった。

 ノーラは少しだけ大人っぽくなっていた。……なんか、大人の女性の雰囲気が少しだけ出てきている。

 

「合ってるよ! 失礼だなあ……人を見かけで判断しちゃいけませんっ」

「…………ノーラが!?」

 

 あのノーラが!?

 いつも穏やかで、春みたいな優しさで、時々優柔不断で、私に影響されて工科大学に行くような突飛さを持つ変人――リーダーっぽくはない。少なくとも。

 だけど、事実としてリーダーをやっているようだった。……すごいね。

 

「そうだよ。それに、クリスティーナさんもミハイルさんも。私たち3人で作り上げたんだよ」

「お母さんもミハイルおじさんも生きてるのっ……!?」

「うん。解放のゴタゴタのせいでちょっと今は忙しいけどね。夕方になったら戻ってくると思うよ」

 

 お母さんも、ミハイルおじさんも。

 私が疎開に誘った人は、みんな生きていた。

 

 ……みんな、生きていた!

 

 涙が出そうになったけど、堪えて私は言葉を発した。

 まずは目の前の事だ!

 

「っていうかそれより……! ノーラ、よかったよ……生きてて!」

「リーナちゃんこそ! 元気そうで良かった!」

「堕とされたし捕まったし尋問も受けたけどね!」

 

 私の冗談を受けて、ノーラの笑顔が凍った。

 やってしまった。

 

 つい軍隊の感覚でジョークを言ってしまった。

 軍人というものは自虐ネタが大好きなのだ。

 特に命の危険関連。

 

「は、はは……。うん、えっと、戻ってこれて良かった、で合ってる……?」

 

 バッドコミュニケーション。

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