TS飛行士は空を飛ぶ   作:soradayo

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終戦
78.世界戦争


 世界戦争(せかいせんそう)は、1891年8月1日から1893年4月12日にかけて、連合国とフォルクス・ゲルマニカ間で行われた国家間の大規模戦争である。

 

 

 朝から元帥に呼び出されていた。

 特殊任務航空小隊は全員格納庫で準備するように、前日のうちから命令もされていた。

 滑走路を見ると、空挺軍の輸送機がずらりと並んでいる。

 今日から始まるのだろう。

 

「問題だ少佐」

「はあ」

「我々が攻勢を停止している間、大衆ゲルマンはラケータや飛行爆弾による攻撃を行わなかった。なぜだ?」

 

 ちょっと緊張しながら元帥のもとへと向かうと、元帥はなぞなぞだか問題だかよくわからないような質問を投げかけてきた。

 とはいえ、その内容はみんな不思議に思っていることだった。攻撃が無いのは良いんだけど、皆無なのは不気味なのだ。

 なぜか? と問われれば、理由はいくつか思い当たる。その中でも最もありそうなものを答えることにした。

 

「そうですね。まずは工場が停止しているとか、資源不足を疑います」

「正しい。だが、どちらも水準は大幅に下がっているが、全く攻撃を行わないほどではない」

 

 残念、間違いだった。

 じゃあ、二番目にありそうなこと。戦力の温存かな。

 

「なら……。我々の戦力の集中を待って、そこを叩くつもりで温存している、とか」

「そういうことだ。内戦の時に構築された防衛網がゲルマニカの地には張り巡らされている。地上部隊がそこで足止めされているところを――」

 

 そういえば、昔に大衆ゲルマンへ行った際にも、地上には内戦の時の防衛設備はたくさん残されていた。

 ちょっと補修をすれば、いつでも現役に戻すことはできるのだろう。そして、それを使えば私たちの進軍速度は大幅に遅くなる。

 先鋒が止まれば、後ろもどんどん止まっていき、前にも後ろにも行けない状況になったところで――

 

「ぼーん、ですか」

「さあ、どうすれば良いと思う?」

 

 私の考えは大当たりだった。

 だけど、ご褒美はまだ貰えない。もっと考えろと言う。

 

「まだ続けるんですか? 私の階級以上の人が考えることですよね?」

「くく、良いから考えてみろ」

 

 どうすれば良いかなんて言われてもね。戦術とか戦略は門外漢なんだ。元帥の教えを頭に叩き込まれたお陰でちょっとは考えることはできても、素人同然なんだから。

 要塞化した陣地を突破する方法は、ほぼ一つしかない。

 砲撃と爆撃によって、地面を耕す。最も効率的で効果的な方法だった。だけど、懸念点はある。

 

「うーん……。市街地も要塞にしますよね絶対に。じゃあ砲撃とか爆撃で破壊するのは人道に反しますし……」

「うむ。人民からの支持は大切だ」

 

 そういうことだ。

 ピンポイント爆撃ができるようになればあるいは、というレベルなので、この時代の技術で一般市民に大きな犠牲を出さずに要塞化された都市を攻略するのはほぼ不可能。

 だけど、そうした都市を無視していくのも難しい。鉄道とか道路の要衝だったりするからね。

 とすれば……。まあ、無いだろうけど、可能性として。

 

「……ここで休戦するとか?」

「大衆ゲルマンが再び力を付けて二度目の大戦争だな」

 

 そりゃそうよね。

 第二次世界大戦ルートになっちゃう。

 

 ……他にもいろいろと考えを巡らせてみる。

 だけど、どれもこれも不可能だったりちょっと現実性がなかったりする。お手上げだ。

 

「……無理じゃないですか? どうするんですかこれ?」

「空挺軍だ」

「え?」

 

 空挺軍……?

 確かに彼らは強い。機動力があって、士気もあって、実戦経験も豊富で、装甲部隊として展開することも可能だ。

 だけど、それだけで勝てるはずもない。

 ……うん、私じゃよくわからないね。元帥の言葉を聞こう。

 

「まず、首都上空の制空権を奪取する。その後、我々の空挺軍と合衆国の海兵隊、太平連盟の陸戦隊により海上と空中から奇襲だ。首を狩る」

 

 どれほどに華麗で、どれほどに壮麗な大作戦を披露してくれるのかとちょっとワクワクしていると、元帥の口から出たのはそんな作戦だ。

 めちゃくちゃ泥臭いし、今までやって来ていない分凄い奇襲になるだろうし、成功すれば凄いだろう。

 だけどこれは……。

 

「……無理じゃないですか!?」

「いや、可能だ。敵の予備兵力はごく僅か。空軍も陸軍も前線に張り付いている。首都の防衛は――」

 

 頭の中では不可能だと思ってしまうけれど、目の前で不敵に笑う、確実に歴史に名を残すであろう男を見ていると、そうは思わなくなってくる。

 トゥハチェフスキー元帥は、私の目を見据えて言う。

 

「陸軍の最精鋭の機甲師団、それと、空軍の最精鋭のリヒトホーフェン隊――その残存が担っている」

 

 ……なるほどね。

 それを伝えたかったんだろう。

 

「救ってこい。空挺軍(おれのところ)にはパイロットは丁重に扱えと指示を出している。まかり間違っても、()()を合衆国などには引き渡すなよ」

 

 『同志』。

 今この場所で、その言葉が指す人は一人しか居ない。アンナさんだ。

 私にだけ、特別な任務だ。アンナさんの救出。絶対に失敗は出来ない。

 

「それと、一つだけ伝えておくぞ」

 

 元帥は指を一本立てながらそう言った。

 

「はい」

「決闘を許可する。君の判断で、好きなように決着を着けると良い」

 

 ――びっくりした。

 まさかあの元帥がそんなことを許可してくるなんて。

 

「ふ、私を主人公にした物語でも書くつもりですか? 最終決戦で一騎討ちなんて」

「それも悪くないな。タイトルは『飛行士は空を飛ぶ』なんていうのはどうだ?」

「直接的すぎますね。私なら、『私の心は奪われた』にしますよ」

 

 だけど、許可されたならやってやろう。

 正直、私にも欲が芽生えてきていたから。

 

「くく、ともかく、好きなように戦ってくれ。後先は考えなくて良い。最後だからな。ただ、約束だ」

「なんですか?」

「死ぬなよ」

「当然ですよ。バッドエンドは嫌いですから」

 

 そして、元帥から作戦の詳細な内容を教えてもらい、必要な情報が記された書類等を受け取った。

 まずは空挺軍の輸送機の護衛から始まる。

 

 

 

 

 

 

「次が最後の戦いになります。無謀な作戦で、初手で勝負を決めるつもりらしいです」

 

 格納庫に向かって、小隊員たちの前で元帥の作戦を手短に説明した。

 私でもびっくりしたんだから、みんなもびっくりしていた。当然だね。

 

「……信じられないわね」

「なんだ、元帥はついに狂っちまったのか? 激務だからな……同情するぜ」

 

 ミラーナ中佐は口に手を当てて上品に驚いて、リーリヤ中佐は肩を竦めて半笑いしていた。

 

「……ぼくも初めて聞いたよその作戦。元帥って博打打ちだったんだね」

「オクチャブリスカヤが攻撃された時みたいだ。あの人は今と同じように部下たちに無理言ったんだろうな」

 

 ミールもリョーヴァも同じように驚いていた。

 普段の元帥の作戦からかけ離れているんだから無理もない。

 

「特殊任務航空小隊でもそう考えますか。じゃあ元帥に伝えておきましょうか」

 

 だから、私はそう言ってみる。

 そうすると喰らいついてくるのが我が小隊員の愛らしいところで――

 

「待て待て少佐。アタシらは一言も言ってねえぞ――無理なんて」

「そうね。スカスカの防空網を突破して、首都周辺の制空権を奪うだけ? 徹夜で評議会共和国を横断するよりよっぽど楽じゃない」

「そうだぜリーナ。今まで何回予想を覆してきたよ?」

「ここまでやって来たのに今更怖がるものもないよね」

 

 全員、やる気に満ち溢れた返事をしてくれた。

 

「ふふっ。……期待通りの返事をありがとうございます! さて、皆さん。覚悟は良いですか? 正真正銘、最後の戦いになります」

 

 一人ひとりと目を合わせる。

 

 リョーヴァ。

 銀色の髪、猫の獣人。生意気な男の子だったのが、気が付けば立派な頼れる戦友になっていた。

 

 ミール。

 赤っぽい茶髪、背の高い人。彼はほとんど変わっていない。ずっと優しく、冷静で、私たちの兄貴分だ。ちょっと地上攻撃への執着がひどいけど。

 

 ミラーナ中佐。

 桃色の髪、淫魔(サキュバス)の獣人。ずっと私の頼れる上官で、いつも私の身を案じてくれている。面と向かって言うのは恥ずかしいけど、お姉ちゃんみたいなものだと思ってる。

 

 リーリヤ中佐。

 金髪、目付きも素行も悪い人。だけど、戦闘でも日常でも頼れば絶対に味方になってくれるし、軽い言葉とは裏腹に身内のことをすごく大事に思っている。どんな話も軽く流してくれるからいろんな相談もしやすかった。

 

 みんな、大事な仲間だ。

 この戦争を戦い抜いた、無二の戦友たち。

 良い顔をしていた。悲壮感は全く無い。あるのは明るい未来への希望と期待だ。

 

「それじゃあ――戦争を終わらせましょう!」

 

 戦争が始まってから一年半ちょっと。1893年4月12日早朝。

 最後の作戦が始まる。




今回から最終回まで毎日更新に戻ります
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