トキメキ⭐︎レインボープリキュア〜現実はそう上手くはいかない〜 作:チーケー
初めましての方は初めまして。
最近、プリキュアにガッツリハマった影響で、ずっとニジガク×プリキュアで書きたいと思っており、その欲求を満たすために書き始めました。
ポケライブ小説の息抜き程度に書きたいときに書きたいと思っております。
どうぞよろしくお願いします。
現実は漫画やアニメのように上手くはいかない。
むしろ厳しすぎる。
弱冠17歳にして現実を諦めかけている俺はいつものように昼になると中庭から少し外れた木陰に腰掛けると行き交う生徒達を眺めながら菓子パンを食らう。
俺が通うここ虹ヶ咲学園は自由な校風と豊富な専攻が特色で、全国から優秀な人材が集まる人気校だ。そのため、個性的な生徒も多く、こうして遠目に眺めているだけでも楽しい。
「どう、私がデザインした衣装!」
「おお、いいじゃん。」
「お掃除効率化同好会が超強力掃除機を開発したらしいよ。」
「果林さんの新しい雑誌もう見た?」
行き交う生徒達はどれも目に輝きが感じられ、将来に夢、希望を抱いているのがよく分かる。
俺も
「はぁ。」
小さくため息をつくと俺はいちごミルクを一口飲む。優しい甘さが口内に広がり、先ほどの嫌な気分を消してくれる。やはりこういう時にはいちごミルクに限る。世の中がどんなに甘くなくてもこれだけは変わらぬ甘さを俺に提供してくれる。俺の心の拠り所だ。
「ま〜た君は、やさぐれているのかね〜。」
1人、束の間の癒しに浸っていると背後から声をかけられる。このゆるゆるとした間延びした様な声の主には1人しか心当たりがない。
「そういう近江先輩もまた揶揄いに来たんですか。」
俺は振り向かずにそう答える。
「そういう言い方はひどいな〜。彼方ちゃんは君のことを先輩として心配してるのに〜。」
そう言って声の主、近江先輩こと近江彼方さんは俺の隣へと腰掛ける。ちらと横目でそちらを見ると近江先輩はウェーブのかかった茶髪のロングヘアを揺らしながら眠そうな目でこちらを見ていた。
いつものように俺は近江先輩との距離を空けて座り直す。この人の距離感、いつも近くて心臓に悪いんだよな。
「むう。」
近江先輩はあからさまに頬を膨らませるとこちらを睨んでくる。
「君はいつになったら彼方ちゃんに心を許してくれるの?もう1年もの付き合いなのに。」
およよとわざとらしく泣き真似をしてみせる近江先輩をいつものように適当にあしらう。
「はいはい。そうですね、一年後とか?」
「それだと彼方ちゃん、卒業してるじゃん!?」
「早くお昼食べないと時間なくなりますよ。」
「むぅ。……ふふ。」
不満げな声を上げたかと思うと近江先輩はすぐにクスッと小さく笑って自身の弁当を広げて食べ始める。
先程言ったように俺と近江先輩はかれこれ1年ほどお昼をこうやって共にしている。こんなやり取りも今や日常茶飯事だ。
きっかけはまだ俺が入学したてのころ、1人になれるスペースを校内中探し回り、見つけた場所が偶然にも近江先輩のお昼寝スポットだったことにある。それからことあるごとに近江先輩は俺にちょっかいをかけてくるようになった。
最初は嫌がって抵抗したりしていたのだが、結局根負けして今のような関係が続いている。全く、俺みたいな何の面白みもない男と一緒にいて何が楽しいやら。
そんなことを考えながらいちごミルクを啜っていると、また近江先輩がこちらをジーッと見ていることに気づく。
「なんです?」
「いや前々から思ってたんだけど君、いつも菓子パンといちごミルクだよね?流石に栄養偏らない?」
こちらを心配するような顔でそう言う近江先輩に俺は淡々と返す。
「現実が苦くて辛いんですよ。甘いものでも摂らないとやってられませんよ。」
「ま〜たそんなこと言って。現実にも楽しいことはいっぱいあるよ?ほら前から言ってるじゃん、彼方ちゃん達のライブ観にきなよ〜。きっと君もそういう考えは持てなくなるよ。」
近江先輩はここ虹ヶ咲学園で活動をしているスクールアイドル同好会のメンバーの1人だ。近江先輩の申し出には実際、興味がないわけではない。あの日、
しかし、その申し出に俺が応じることはない。
「あんなにキラキラ輝く人達のステージ見たら俺との現実の格の差見せつけられて死にたくなるんでやめときます。」
本心は隠して、そう言い訳がましい言葉を並べたてて俺は立ち上がると足早にその場を後にした。
〜〜〜〜〜〜
近江先輩と別れて少し散歩でもして教室に戻ろうと考えた俺は校内を当てもなくぶらつく。
しばらくぶらぶらしてそろそろ教室に戻ろうかと思っていると近くの物陰からひそひそと何やら言い合うような声が聞こえてくる。
「だから私には無理だよぉ。」
「そんなことないです。あなたは選ばれし戦士なのだ。」
「そうは言っても私、アイドル活動とかもやってて忙しいし……。」
「頼みます!アイドル活動の傍でちょちょいとやってくれればいい!」
「じゃあ同好会のメンバーに、せめて侑ちゃんには相談させて。」
「それはダメです!今話したことは他言無用!たとえ家族であっても話してはダメです!」
「ええ〜。」
「さあ覚悟を決めましょう!この世界の命運は君の手にかかっているのです!」
なんかすごい話を聞いてしまった気がする。どうやら物陰にいるであろう女生徒に世界の命運が握られてるらしい。最近観た魔法少女アニメに似た展開だな。あんなアニメみたいな展開がこの先で繰り広げられてるのか…。
いや、ここ現実だよ。
大方、どっかのオタクがイヤホンつけ忘れてアニメでも流してんだろ。はぁ、ちょっとワクワクした俺の馬鹿。帰ろ帰ろ。そう我に帰ると、踵を返して教室へと戻る。
「ん?」
ふと足元を見るとキラキラと輝くピンク色の宝石のようなものが落ちていた。ひょいと拾い上げてまじまじとそれを見る。
「玩具、にしては結構、精巧に出来てんな。まさか本物?まあとりあえず落とし物として届けておくか。」
そう思い、宝石のようなものをポケットに仕舞い込むと教室へ向かう足を早めた。
〜〜〜〜〜〜
「それじゃあ今日はこれまで、解散!」
午後の授業もあっという間に過ぎ、SHRも担任のその一言で終わり、クラス内の生徒達は思い思いに散り始める。友達と談笑する者、部活へ向かう者、遊びに行く者、実に様々だ。
俺もさっさと帰ろうかと立ち上がってからポケットの異物感に気づく。そういえばと思いつつ、ポケットに手を突っ込んでそれを取り出す。
「そういや拾ったのすっかり忘れてた。面倒だが、届けに行きますか…。」
せっかく帰る気満々だったのに。げんなりしながらも俺は静かに教室を出る。
ここ虹ヶ咲学園では基本的に落とし物の管理は生徒会の仕事のため、とりあえず生徒会室を目指すことに決める。に、してもこの学校広すぎるよな。学科の多さから教室の数はかなり多く、迷子になる新入生が多いと聞くのも納得の広さだ。
生徒会室へと続く廊下を歩きながらそんなことを思っていると前方から見慣れた女生徒が歩いてくるのが見えた。眼鏡をかけ、髪を三つ編みおさげにした彼女の名は中川菜々。ここ虹ヶ咲学園の生徒会長を務めている人だ。目的の人物があちらからやってきてくれるとは実に好都合。さっさと用事を済ませて帰りますかぁ。ちょうどすれ違う瞬間に俺は声をかける。
「あの……中川会長。」
「……へ?あっはい!」
予想以上にびっくりさせてしまったらしい。ごめんなさいね、影が薄くて。俺レベルになると普通に過ごしてても気配を消せるみたいでな。この間なんか、コンビニで順番待ちしてたら普通に順番抜かされるわ、目の前にいるのに店員さんに気づかれないとかあって大変だった。自分で言ってて泣きたくなってきたわ。
会長はわたわたしながらもこちらへと体を向けると眼鏡の奥からキリッとした瞳を覗かせ、話し出す。
「確か、普通科2年の神崎拓人さんでしたよね。何か御用でしょうか?」
おお、近江先輩から聞いてはいたが、本当に全校生徒の名前覚えてるんだな。俺なんかの名前まで覚えてるとか普通にすごい。俺の担任なんか未だに名前間違えるぞ。
「ああ、えっと…………中庭でこんなもの拾いまして。落とし物かなと。」
そう言ってポケットに入れていた宝石のようなものを取り出して見せる。
「ふむ。高価そうなものですね。わざわざありがとうございます。それはこちらでお預かりいたします。」
そう言って会長が俺から宝石を受け取ろうとした瞬間のことであった。
「カンジネーワ!」
外から凄まじい轟音と唸り声のようなものが響いてきた。えっ何?他校の不良とかが攻めてきちゃった?いや、いつの時代だよ。時代錯誤も甚だしすぎるだろ。じゃあ科学部が怪しい実験で爆発事故でも起こしたか?いや、アニメの見過ぎだろ。てか最近じゃアニメでもそんなベタ展開なかなかやらんわ。
と、1人で脳内会議を繰り広げていたが、会長の言葉で現実へと引き戻される。
「な、なんですかあれは?」
そう言う会長が目線を向ける先に俺も目を向ける。窓の外の中庭、そこにはよく特撮とかで観るようなでっかい怪物が唸り声を上げていた。
「カンジネーワ!!」
いや現実に戻って来てないし。思いっきり非現実じゃん。まだ俺、意識の世界から抜け出せてなかった。よーし戻るとするか。1度目を閉じて深呼吸。そして目を開ければそこにはいつもの風景が…。
「カンジネーワ!!」
うん。ドウイウコト?頭の処理が追いつかずクラクラしてきた。1人、状況を飲み込めずにいると目の前の会長は慣れたように行動を始めた。
「私は生徒に避難指示を出してきます!神崎さんもここを離れてください!」
それだけ言うと会長は駆け出して行ってしまった。
「…………ハッ!考えても分からない物には関わるべきじゃない。会長の言葉に甘んじて俺も逃げよ。」
会長の言葉で我に帰り、大分冷静になってきた俺も会長の指示通り、ここの離脱を決める。
しかし、その時持っていた宝石が謎の輝きを放ち出し、俺をそのままどこかへと引っ張っていく。宝石を放そうとも試みたが、手が宝石に吸い付いているのか、どうやっても離れない。
「えっ待って。どこ連れてく気だよ。ちょっ離して。誰か〜〜〜。」
俺の悲痛な叫びは誰に届くこともなく、静かな廊下に木霊するだけだった。
〜〜〜〜〜〜
宝石に引っ張られ、俺が辿り着いたのはなんと先程の怪物が暴れまくる中庭。嘘だろ。現実厳しいとは思ってたけど、この仕打ちはあまりにもひどすぎるだろ。何?俺、あの時死ぬはずだったのに結局死ななかったから別のところで死ぬように収束してんの?俺の人生、厳しすぎるだろ。
「カンジネーワ!!」
こちらに気づいたらしく怪物が唸り声を上げる。そして、こちらへと右腕を振り上げる。ああ、さよなら。来世はもっといい人生になりますように。俺は死を覚悟した。
突如、眩い光に包まれ、視界が白に染まる。何事かと見やれば先ほどまで持っていた宝石が俺を守るように輝きを放っている。その光で怪物も怯んだようで、動けずにいる。その隙を逃さず、俺は怪物から距離を取る。
「これはトキメキジュエルの輝き!あなたが拾っていたのですか!」
どこかで聞いたような声にびっくりして振り返ると、マスコットサイズくらいの大きさのうさぎが目の前に浮かんでいた。さっきから何なのこれ。非現実が多過ぎて情報過多なんですけど。助けて、ドラえもん。あっあれも非現実か。
「ピカリーさん、トキメキジュエル、見つかったの?」
そう言いながら息を切らしてこちらへと駆け寄ってくる女生徒。赤毛のハーフアップに右サイドをお団子で纏めており、実にセットに時間がかかりそうな髪型だ。息を落ち着かせるとこちらを不思議そうに見てくる彼女。正直言うと、この人には見覚えがあった。
「あれ?神崎くんだっけ?どうしてここに?」
そう言われて思い出す。彼女の名は上原歩夢。俺とは同クラスで近江先輩と同様にスクールアイドル同好会に所属している。彼女とは交流らしい交流はした覚えがなかったが、名前を覚えられてるとは思わなかった。やだ、惚れちゃう。
「この方がトキメキジュエルを拾ってくれていたんだ。これであの怪物に対抗することができる!さあトキメキを取り戻すのです!」
「そうだったんだ!神崎君、ありがとう!」
急に彼女に手を取られ、そう言われる。いやいや近い近い、すごいいい匂いする。それに手、急なボディタッチは恋愛不慣れな男たちの勘違いを生んだ挙句、死地に送り込んでしまうという悪しき行為なので今後はお控えください。俺だったから惚れるだけで済んだものを。いや惚れちゃうのかよ。てか何回、惚れるつもりだ。
「あっ……いや…どういたしまして。」
はい、きょどりましたね。最近の女性との関わりは近江先輩くらいしかいないためどう話していいのか分からん。あっさっきの中川会長とのやり取りは別な。事務連絡みたいな会話だったし、報連相くらいはちゃんとできないと、ヨシ!そんなことよりあの宝石、上原さんのだったのか。トキメキがなんとか言ってたけどなんのことだろ。そう思いながらも宝石を上原さんに渡す。
俺から宝石を受け取った上原さんは怪物の方へと歩み寄っていく。
「神崎君、これからここで起こることは秘密でお願い!」
えっどうするの?あの宝石に何か特殊な力が?いやそんなアニメみたいな展開……と言いたいところだが、さっきからアニメみたいな展開が続いているためもう何も言うまい。もう何が起きても俺は動じないぞ。
「あなたはこちらへ。巻き込まれたら大変ですよ。」
そう言ううさぎに誘導されて離れた茂みに身を隠す。そこに見知った人を見つけてびっくり仰天。
「近江先輩?」
昼に会った時のような元気さは感じられず、青白い顔をしてぐったりと横たわり、度々苦しそうに呻き声を上げている。
「彼女の知り合いですか。彼女はトキメキを奪われてしまったのです。」
「トキメキ?」
「はい。そしてそのトキメキを取り戻すには伝説の戦士、
そう言ってうさぎは上原さんの方を指差す。見れば上原さんは怪物を前に右腕を掲げている。
何をするんだ、変身とかしちゃうのかなと、興味津々に見つめていると彼女は先ほどの宝石を右腕につけていたバンドに装着して、叫ぶ。
「トキメキチャージ!」
すると宝石は先程とは比べ物にならないくらい眩い輝きを放ち、上原さんを包み込む。うわあ凄い光。いや、光強過ぎない?目、開けてらんないんだけど。信じられないくらいに強い光に目を瞑る。
「変身中は一瞬、全裸になってしまうからこれくらいの光がないと見えちゃうのですよ。」
あーなるほどね…………。いやこいつサラッとエグいこと言いやがった。ってことは今、上原さんは…………。消え去れ、煩悩。えーっと円周率は3.1415926535897…………。などと湧いてくる煩悩を消しているうちに光が弱くなってきたことに気づき、そっと目を開ける。
「ときめくあなたの1番星!キュアステラ!!」
ピンクを基調とした衣装を身に纏い、腰ほどまで伸びた髪を揺らす上原さんの姿がそこにあった。おお、本当に変身してる。ちょっと感動。アニメで見るような変身を間近で見られるとは思わなかった。でも、本当に戦えるのか?印象では見た目が変わったくらいだし、遠目に上原さんの足が震えているのが分かる。普段、大人しい印象しかない上原さんにはやはり荷が重いのでは?
そう思いつつ、改めて怪物の姿をまじまじと観察する。縞々模様の枕だろうか?それに手足が生えたくらいの簡易的な姿。ん?あの枕どこかで見覚えが……。そうだ、あれ近江先輩がよく持ち歩いてた枕だ。さっき近江先輩はトキメキを奪われたって言ってたけど、何か関係が?
「あの怪物の姿が近江先輩の私物に似てるんだけどなにか関係が?」
「あの怪物は奪われたトキメキを闇に染めることで生まれるものなのです。つまりその者のトキメキに関係がある姿へと変化する。」
そう言いながら、近江先輩の方をチラと見てからうさぎは続ける。
「今回に関しては、彼女の『お昼寝が好き』というトキメキから生まれたものだからあのような姿になったのでしょう……。まあ心配は無用でしょう。プリキュアとなれば常人の数十倍ものパワーが出ます。あれくらいの怪物、イチコロですよ。」
なるほどな。でもこれなら上原さんでも勝機見えてきた。大きくなったところで所詮は枕。プリキュアとやらになったことでパワーも出てるらしいし、やったれ上原さん。
そう思っていたのだが、非現実を浴び過ぎたためか、俺はこの時すっかり忘れていた。
ここはどんなに非現実が起ころうとも。
結局、
「カンジネーワ!!」
怪物の右腕が勢いよく上原さんことキュアステラへと振り下ろされる。
「よっと!……わわわわ!?」
それをジャンプして身軽に躱したステラだったが、その勢いのまま空の彼方へ吹っ飛んでいった。おお〜あっという間に見えなくなった。
「まだ変身してばかりで力加減が調整できていないのだ!ちょっと行ってきます!」
そう言うとうさぎは上原さんの元へと飛んでいく。
「いやあああああ。」
「プリキュアになった君になら大丈夫です!この高さでも落ちて怪我をする心配はありません!」
「そ、そうはいっても〜!!」
しばらくして悲鳴を上げながらステラが落ちてくる。そしてそのままヒップドロップするような形で怪物の脳天へ着地。
「カンジネーワ!?」
流石の怪物もその場に倒れ伏し、動かなくなる。うん、かなり強烈な一撃だったもんな。ステラ自身は特に狙っていたわけではないらしく、「ああ!ごめんね!」とか言いながらわたわたしている。敵にも優しさを忘れない、いいと思います。
「……カンジネーワ!!」
やがて怪物はゆっくりと起き上がると怒っているのか黒いオーラを体に纏いながら雄叫びを上げる。そして徐に口を開くと、紫色の霧のようなものを吐き出す。それを至近距離で受けたステラの身体が突如としてフラつき出す。まさか毒?そう思っていると、怪物の拳がステラにクリーンヒットし、こちらへ吹っ飛んでくる。
「!!」
そのまま俺を巻き込んで数十メートル吹っ飛ばされる。
「…うう。」
「大丈夫ですか?上原さん、いやステラさん」
その問いかけに彼女はゆっくりと体を起こし、目を擦りながら言う。
「ご、ごめんね、神崎君。怪我してない?」
こんな状況でも他人の心配とか、どこまでこの人は優しいんだ。俺は先ほどの衝撃で擦りむいた足を咄嗟に隠してから言う。
「俺は問題ないです。一体、何が?」
「あの紫の霧に触れた途端、急に眠気が襲ってきて。」
なるほど。相手はあの近江先輩の眠ることへのトキメキから生まれた怪物。能力もそれに準ずるってことか。でも厄介だぞ、触れただけでアウトなんて近づけもしないじゃないか。何か方法はないか、考えを巡らせるもそう簡単にいい方法なんて思いつくわけがない。そうこうしているうちに怪物はこちらへと向かってこようとしている。それに対抗するように未だフラフラする足でステラは立ち上がる。
「神崎君は隠れてて。」
笑顔でそう言う彼女。無理をしているのは俺でも分かる。だってその表情はあの日見た
「神崎君?」
「……無謀すぎます。一度、体制を立て直してからでも遅くないはずです。」
しかし、彼女がその言葉に応じることはなかった。こちらへ振り向き、真っ直ぐな瞳でこう言ったのだ。
「ごめんね、その提案には乗れない。今、私がやらなきゃダメなの。時間が経つとトキメキを奪われた人がどうなっちゃうか、分かる?」
俺は力なく首を振る。
「時間が経ちすぎるとトキメキを奪われた人の一切の
そう言って、彼女は掴んでいた俺の手を優しく振り払い、駆け出していく。
なんで現実ってのはいつもこうなんだ。
上原さんが戦わなければ、近江先輩が感情を無くす。
上原さんが今戦えば、近江先輩は助かるかもしれないが、上原さんがどうなるかは今の状況から明らか。
最悪、2人とも助からないなんてことも……。
八方塞がりだ。どうにもならない。
でも、
「……千歌さん、俺にもできるでしょうか。」
そう呟いた言葉は遠くの怪物の声にかき消される。俺は立ち上がると思いっきり頬を叩く。やってやる。できるかどうかじゃない。やりたいかどうかだ。それに上原さん、近江先輩、あの2人の苦しむ姿をこれ以上見たくない。俺はある場所へと駆け出した。
〜〜〜〜〜〜
俺はある物を持って中庭へと戻る。中庭では相変わらず、紫の霧を纏った怪物がステラへと連続攻撃を仕掛けている。ステラは近づくことができず、避けながら逃げ回ることしかできないようだ。これがどこまで使えるか、やってみるしかない。
「おお、無事だったか。敵に手が出せなくて困っていたのだ。しかし一体どこへ……。ん、これは何だ?」
ちょうどいいタイミングでうさぎがこっちへと飛んでくる。よし、全力で抗ってやる。
「ちょっと手伝ってください。」
そう言って持っていた巨大ホースをウサギに渡す。
「ぬお、こ、こんなに重いものを僕に持たせるとは何事ですか!?」
「少しの間、お願いします。」
そう言ってからステラにも声をかける。
「今からちょっとでも隙を作ります。その後は任せました。」
「えっ神崎君?」
それだけ言うと俺は駆け出し、急いでお掃除効率化同好会の部室へ戻る。俺が持ってきたのはこの同好会が最近開発したという超強力掃除機のホースだ。幸い、先ほど中川会長が避難勧告をしたことで部室棟の部室は鍵も開けっぱなしだったため簡単に持ち出すことができた。同好会の人には後で謝るとして俺は部室にある本機のスイッチに手をかける。実際どれほどの威力かは分からんが、せめてあの霧を吸い込んでくれれば一瞬でも隙が作れる。頼むぞ、よろしくお願いしまーす!
「うおおおお、助けてくださーい!!」
中庭へ戻るとちょうど起動し始めたところでうさぎが暴れるホースに振り回されていた。急いでホースの口を掴んで脇に固定し、怪物へ向ける。
「カンジネーワ!?」
想像以上の威力で周りを吸い込む掃除機。あっという間に霧を吸い込み、怪物をも動けなくしてしまう。すげえな、これ。でも掃除に使うような代物ではない気がする。とにかく今がチャンスだ。俺はステラへとこくりと頷くとステラも頷き返し、拳を構えた。
「えーいっ!!」
ステラ渾身の右ストレートが怪物に決まり、大きく吹っ飛ばされた。おお、あの巨体があんなに飛ぶなんてすごい威力。
「い、今だステラ!ひ、必殺技で浄化するんだ!!」
俺の肩に必死に掴まりながら、そう叫ぶうさぎ。それに反応するようにステラの腕のバンドが煌めき出す。
「うん、やってみる!」
そう言ってステラは怪物へ近付くと両方の掌を向けて叫ぶ。
「プリキュア!ステラストリーム!!」
掌からピンク色に輝く星が大量に放たれ、怪物を包み込んでいく。
「トキメイタ〜。」
光が晴れ、怪物が消えるとそこには紫色の宝石が浮かんでいるだけだった。恐らくはあの宝石が近江先輩のトキメキなんだろうな。そう思っていると持っていたホースが凄まじい勢いで震え出す。えっ何?これやばい感じ?突如として大きな爆発音が響き渡る。見ればお掃除効率化同好会の部室から煙が上がっていた。……………………お掃除効率化同好会の人達、ごめんなさい。
「…………プリキュアかぁ。面白くなりそうだね。」
〜〜〜〜〜〜
騒動の後、怪物との戦闘によって壊れたものや荒らされたものは何事もなかったように元に戻った。どんな魔法だよ。それなら部室の爆発もなかったことにしてくれても良くない?現在、お掃除効率化同好会の部室は未だ黒煙が立ち上っており、原型をとどめていない。どう言い訳したもんかと思っていると、変身を解除した上原さんが紫色の宝石を握り締めてこっちへ向かってきた。
「神崎君!大丈夫?」
「……あっうん。俺はなんとも。お叱りは受けるかもしれませんが……。」
遠い目をしながらそう呟くと、上原さんは慌てた様子で言う。
「神崎君は悪くないよ!私を手助けしてくれただけでしょ?だから私も一緒に怒られるよ。」
ホント、この人は優しいよな。優しすぎて逆に怪しく見えてしまう。まあこの人に限ってそんなことはないだろうけど……。上原さんの申し出は嬉しいが、これは俺が勝手にやって起こしてしまったことだし、上原さんには関係ないことだ。
「大丈夫です。俺が勝手にやったことなんで、上原さんは気にしなくていいですよ…………いってえ。」
急な足の痛みに何事かと見れば、先ほど擦りむいたところから血がとめどなく溢れてきていた。
「神崎君!それ、早く手当しないと!」
「このくらい大丈夫です。そんなことより近江先輩にトキメキを戻してあげてください。」
「……で、でも。う、うん、そうだね。」
上原さんが持っていた宝石を近江先輩の胸元に当てるとみるみるうちに吸い込まれていき、近江先輩の顔つきは穏やかな寝顔へと戻った。
「ブラボー!!やはり選ばれし戦士!!これからもよろしく頼むよ、歩夢さん!」
後ろから妙にハイテンションな声がして少しイラッときてしまう。気づいた時には奴の耳を掴んでいた。
「何がブラボーですか。上原さんがどんな思いで戦ったと思ってるんですか。更にはこれからもよろしく頼む?ふざけるのもいい加減にしてください。これ以上、上原さんに負担を増やす気ですか。今回だって実際どうなるか分からなかったんですよ。」
淡々と湧き上がってきて止められなくなった思いをぶちまける。うさぎは何も言わず、こっちを見つめている。この状況に答えたのは上原さんだった。
「やめてあげて、神崎君。その子、ピカリーさんの住んでるところも酷い目に遭ったみたいで、私も最初は渋ってたんだけど、今回で彼方さんがあんな目にあったから私、覚悟を決めたの……。これからも戦うつもり。私は大丈夫だから!」
上原さんはそう言ってまた無理した笑顔でこちらに笑いかけた。それを見て、言いたくもない言葉がどんどん溢れてきてしまう。俺はうさぎを上原さんに押し付けながら顔は背けて言う。
「上原さんも上原さんですよ。そんな自分のことは犠牲にしてみんなに優しくなんて、そんなのいつか限界がくる。自分のこと、もっと大事にしてあげてください。」
自分でもビックリするくらいの大声が出てしまった。上原さんはどんな顔をしてるだろうか。怖くてそちらを見ることはできない。いい感情を抱いていないことは確かだろう。こんなに感情を抑えきれなくなったのは久しぶりかもしれない。
「ふぁ〜。……ん?あれ、歩夢ちゃんに……神崎君?どうしたの怖い顔して?」
徐に起き上がり、そう言う近江先輩に少しだけ感謝した。このままここにいればこれ以上、何を言い出すか分からなかったから。
「俺はこれで失礼します。」
辺りはすっかり夕暮れに染まっている。俺は痛む足を引き摺りながらその場を後にするのだった。全くこんなのいちごミルクくらいじゃ癒やせやしないな。
今のところ、スクールアイドル同好会のメンバーは全員出る予定として、プリキュアになるメンバーは4〜5人を考えています。
誤字・脱字報告、感想等あればよろしくお願いします。