トキメキ⭐︎レインボープリキュア〜現実はそう上手くはいかない〜   作:チーケー

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早くも第二話です。
アイデアが溢れてきて止まりません。




第二話 厳しい現実も支え合えばいくらかマシになるのかもしれない。

 

 やかましい目覚ましの音で目が覚める。昨日はどうやってここまで帰り着いたのかよく覚えていない。もしかすると昨日あったことは全部夢だったのではないか。そう思いもするが、まだ少し痛む足が昨日あったことは現実なのだと突きつけてくる。

 

「学校行きたくない。」

 

 昨日は色々なことが起こりすぎた。変な怪物が現れたと思ったら、小さいうさぎが喋るわ、同級生でもある上原さんがプリキュアなるものに変身して戦うし、自分自身あの雰囲気に当てられたせいか柄でもない行動取ってしまったし。そして今も脳裏にこびりついて忘れられない上原さんの無理した笑顔。その笑顔を見て咄嗟に口をついて出てしまった言葉を思い出し、恥ずかしさで顔を抑える。

 

「なんであんなこと言っちゃうかなぁ。」

 

 あの笑顔から無理をしているのは嫌でも伝わってきた。だからこそ思ってしまった。無理するくらいならやらない方がいい、自分を大事にしろと。しかし、それは同時に今後出てくるであろうトキメキを奪われた人達を見捨てろと言ってるのと同じだ。あの誰にでも優しい上原さんにとってそんなの酷な話でしかない。

 

自己嫌悪に陥って本格的に学校に行きたくなくなってきた。今日くらいは休んでしまおうか。そう思った矢先に俺のスマホが震える。見てみると学校からの緊急通知メールだった。開いて内容を確認して俺の気持ちは更に沈み込む。

 

『昨日のお掃除効率化同好会部室の爆発炎上事件において何か情報を知っている方は至急、情報を求む。情報をお持ちの方は生徒会室までいらしてください。』

 

 このことすっかり忘れてた。黙っていたとしてももしかしたら目撃されていた可能性がある以上は自分から名乗り出る方が罪はいくらか軽くなるだろう。と、言ってもやったことが大事なだけに最悪、退学になるのでは?中川会長もあの怪物は見てたわけだし、なんとかしてもらえんかな。兎にも角にもそれを話すためには学校へ行かざるを得ない。

 

「覚悟決めるか……。」

 

 やっぱり現実は厳しいなぁ。いや、厳しいの俺に対してだけな気がしてきた。

  

 

〜〜〜〜〜〜

 

 足取りも重く学校の教室前までたどり着いた俺は一度、深呼吸をする。学校行くのが嫌すぎてここまで来るのにかなりの時間を要したため現在、始業数分前といったところ。確実に教室内にいるであろう上原さんのことを考える。もしかしたらあちらは昨日のことを何も気にしてないかもしれない。いつも通りだ。実際、今まで教室で絡んだことはなかったんだ。行け、俺。

 

「………………。」

 

 いや行けよお前!いつまで扉の前でウロウロしてるつもりだよ。ヘタレにも程があるだろ!いい加減にしてくれよ。

 

「神崎、いい加減にしろ。」

 

 突如、背後でそんな声がする。恐らく神崎とかいうやつが先生に怒られでもしてるのだろう。しかし、神崎ってやつが俺以外にもいたとはビックリだな。ってそんなことより今はこの扉をなんとか開けて教室に入らなければ。俺が再び扉へ向き合っていると、急に頭に走る衝撃と先程よりも大きな声で怒る声。

 

「お前だ!神崎!!さっきから何やってるんだ!!」

 

 頭を抑えて振り向けばそこには俺のクラスの担任である美波先生が物凄い形相で立っていた。

 

「あ……いや、扉が今日はやけに重いなって」

 

「くだらないことしてないで早く入れ。もう、始業時間は過ぎてるぞ。」

 

 そう言って先生が指差す時計は始業時間を10分も過ぎた時刻を示している。俺、そんな長い間ここの前でうだうだしてたのか。すごい恥ずかしくなってきた。

 

「先生はなんでこんなに遅くなったんです?」

 

 教室へ入る前にちょっと疑問に思ったことを口に出す。先生はそれに対し、教室の扉を開きながら答える。

 

「今朝、メールきてただろ。部室の爆発炎上の件。あれで職員会議が長引いてな。」

 

 あーそのことね。ほんとお騒がせしてすいません。その件は放課後にでも生徒会に報告するので何卒寛大な判断をお願いします。心の中でお辞儀をしながら先生の後に次いで教室へ入る。

 

「…………!」

 

 入ってすぐ、上原さんと目が合ってしまう。俺はすぐに目線を外すと足早に自分の席へと向かい腰を下ろす。はぁ〜今のだけでごっそり精神削られた。これ今日、持つのか……。とにかく接触を避けなければ、今日はもう上原さんの方は見るまい。そう意気込んだのも束の間、簡単にSHRを済ませた先生から無情なる一言が投下される。

 

「じゃあこの後の一限で使う資料があるから日直は一緒に来てくれるか?えーっと今日の日直は神崎と…………上原だな。二人とも頼むぞ。」

 

 は……?

 

 日直……だと。しかもなんでこんな状況の時に相手が上原さんなんだよ!せめて先生がいつものように俺の名前間違えてくれれば、それ誰だよって知らん顔できたのに今日に限って全然間違えないし。気まずすぎるよ!どんな顔してればいいんだよ!一人、頭を抱えているとぽんと肩を叩かれる。振り向けばそこには心配そうな顔を向ける上原さんの姿があった。

 

「……神崎君、行こ?」

 

「……あ、うん。」

 

 なんとかそう言って立ち上がると先生の元へ駆けていく上原さんの後ろ姿を見つめながら後に続く。やっぱり気にしてないんだろうか。俺の考えすぎだったかな。それならいいんだけど……。

   

 

〜〜〜〜〜〜

 

「じゃあ二人とも頼んだぞ。先生は後から行くから。」

 

 そう先生に言われ、俺と上原さんは二人きりで大量の資料プリントを抱えて教室まで戻ることに。まあこうなるよね。何か話した方がいいか?いや、まだ上原さんが昨日のことを気にしていないと決まったわけではない。落ち着け、俺。先走るとまた失敗するぞ。

 

「……。」

 

「……。」

 

 お互いに沈黙を貫いたまま、教室へと歩みを進める。想像以上に気まずい。早く教室着かないかな。廊下をこんなに長く感じること、そうそう無いよ。あまりの気まずさに耐えきれなくなってきた頃、横を歩いていた上原さんが徐に口を開く。

 

「……神崎君、昨日は大丈夫だった?その……足、引き摺ってたから。」

 

「……あ、うん。帰ってから処置はしたので、歩く分にも問題ないですし。」

 

「……そっか、それなら良かった。」

 

 そして再び沈黙の時が訪れる。

 

「……。」

 

「……。」

 

 これもう本当、耐えられねえ。実際、こうなってしまっているのは俺の責任な訳で、申し訳なさとか罪悪感とかで押しつぶされそうだ。もういっそのこと誰か俺を処してくれぇ!一思いにやってくれ!心の中で処されることを望んでいると、またも横から声がして現実に引き戻される。

 

「あ……あの、神崎君!私……。」

 

 そう上原さんが言いかけた瞬間、幸か不幸か一限目の始まりのチャイムが鳴り響く。

 

「……早く教室戻らないと!急ご!」

 

 そう言って彼女は教室まで勢いよく駆け出していく。今、何を言おうとしたんだろうか。しかしそれについて聞いても良いものか。そのことで頭がいっぱいになってしまった俺は教室到着が大幅に遅れ、またも先生にこっぴどく叱られるのであった。

   

 

〜〜〜〜〜〜

 

 いつもよりも長く感じた午前の授業もようやく終わりを迎え、昼を告げるチャイムの音が鳴り響く。俺は逃げるようにサッと席を立つと教室を出る。結局、上原さんが何を言いかけたのかについては聞けずじまいで、あれから上原さんとは特に会話らしい会話もなく、ただただ気まずい時間だけが流れていった。

 

 いつもの中庭のスペースへ辿り着くと既にそこには先客がおり、俺に気がつくと微笑みながら自身の隣に座るようにぽんぽんと手で促す。俺はいつも通り少し間を空けて座るといちごミルクのパックにストローを刺しながら隣の彼女に問う。

 

「今日はずいぶんと来るの早いんですね。」

 

「ちょっと聞きたいことがあったからね〜。」

 

 そう言いながら手作りらしい自身の弁当を食べ進める近江先輩。昨日、トキメキを奪われ、苦しんでいたあの表情は窺い知れず、いつも通りらしい様子に少しホッとしながらいちごミルクを体内にチャージする。うん、昨日も思ったけど全然満たされない。いつもなら大抵の嫌なことはこれで忘れられるのだが、今は心に何か突っかかって取れない状態が続いている。

 

「やっぱり歩夢ちゃんと何かあった?」

 

「ブフッ!!」

 

 隣から突然、図星を突かれ勢いよく吹き出してしまう。

 

「おっとっと。大丈夫〜?」

 

 そう言いながらいつの間にか距離を詰めてきていた先輩は俺の背中を優しくさすってくれる。呼吸が落ち着いた頃、先輩は改めてこちらを向いて話し出す。

 

「今日の朝練で歩夢ちゃんの様子がちょっとおかしくてね〜。昨日、君と歩夢ちゃんが一緒にいたから何かあったのかな〜って思ったんだけど。」

 

 そういえば、昨日の一部始終を先輩は見てたんだもんな。こうなってくるとこの人に隠し事は難しい。俺は観念して昨日あったこと、今日あったことをプリキュアのことなどは隠しつつ、かいつまんで話す。先輩は時々、相槌を打ちながら真剣に俺の話に耳を傾けていた。そして全部話終わると、先輩はなるほどと言ってからこちらにニコリと微笑むと子供をあやすかのように優しく俺の頭を撫でる。

 

「君は本当に不器用だよね〜。」

 

「あ、あの先輩?なぜ頭を……。」

 

 そう言うが、先輩は気にせずに撫で続けながら言葉を続ける。正直恥ずかしいのだが、話を聞いてもらっている手前、無下にすることもできない。俺は黙ってそれを受け入れることにする。

 

「歩夢ちゃんのこと、本当に心配してるんだね~。」

 

それはそうだ。確かに昨日まで交流らしい交流はほとんどなかったが、昨日の一件だけで上原さんの優しさはすごく伝わってきた。だからこそ自分を大切にしてほしい、上原さんはスクールアイドルもやってるわけだし何かあれば悲しむ人たちが大勢出るはずだ。それは目の前の近江先輩だって例外ではない。

 

「でも、正直言うと上原さんの想いも尊重したいんです。彼女がやりたいと言ってるなら俺みたいな他人がとやかく言えることじゃありませんし。」

 

しかし、それはそれで上原さんには大変な重荷となることが分かりきっている。毎回あんな戦いを繰り返しながら、学校にアイドル活動に、なんてどこかで無理が出るに決まっている。

 

「俺は一体、どうするべきなんでしょうか?」

 

 そう言って頭を抱えると、先輩は俺の頭を撫でるのをやめて空を見上げながら言った。

 

「覚えてる?彼方ちゃんと遥ちゃんが揉めた時のこと。」

 

「ええ、覚えてますけど。」

 

 少し前だっただろうか、先輩が妹さんと揉めて落ち込んでいた時があった。最終的に先輩はスクールアイドルらしくライブで妹さんへ自身の想いを表現してお互いに話し合うことで和解にまで至ったと聞く。あの時も柄にもなく、なんか言った覚えがあるけどなんて言ったっけかな。全然思い出せない。

 

「あの時、二人とも似たもの姉妹なんだからお互いに支え合えばって言ってくれたよね。」

 

ああ、なんとなくそんなことを言った記憶がある。実際、先輩も妹さんもお互いに想い合ってるのは伝わってきたから大変な時に助け合えばいいのではと思ったんだよな。…………あれ?なんか今の状況に似てる気がする。そう思って先輩の方を見るとこちらをニコニコと見つめていた。

 

「お、その顔は気づいた?」

 

「はい、なんとなくですけど胸に閊えてたものは取れた気がします。ですが……。」

 

俺が上原さんに話すべきこと、やるべきことは分かった。だが、具体的に俺には何ができる?ここ数年、現実を諦めて生きてきた俺なんかが上原さんを支えることなんてできるのか。俺がそれを言い淀んでいると何事か、先輩は弁当に入っていた卵焼きを1つ箸で摘み上げるとそれをこちらへと向けてくる。そして顔を少し赤らめながら言う。

 

「はい、神崎君。あ〜ん。」

 

 ん?なんでこうなった?脈絡がなさすぎる……。先輩は一体何を考えてるんだ。ていうか、ここは中庭の端っことはいえ人通りもそれなりに多く普通に恥ずかしいというか、そもそもこういうのは恋人とかがやるようなもので俺たちみたいなただの先輩後輩の関係でやるようなことでは……。それにこれ間接キスにもなっちゃうんですが!?と、頭の中が思考でぐるぐるして訳が分からなくなる。

 

「ほらほら遠慮せずに召し上がれ〜。あ〜ん。」

 

 え〜本当にやらないとダメですか?そう思いつつもこのままでは話が進まない。俺は覚悟を決めて目の前の卵焼きにかぶりついた。口に入れた瞬間、ふわふわ、じゅわっとした食感にほんのりと優しい甘みが口内に広がる。美味すぎる。今まで食べてきたどの卵焼きよりも美味い。味付けも俺好みの甘さで言うことなしだ。先輩が料理上手というのは何度か聞いてたけどこれほどとは思わなかった。

 

「ど、どう?君、甘いもの好きだからそれに合わせて味付けを調整したんだけど……。」

 

「……はい。めちゃくちゃ美味しいです。」

 

「本当!良かったぁ〜。」

 

 ニコニコと満面の笑みで喜ぶ近江先輩。どうやら間接キスになってしまっていることには気づいていないようだ。それならそれは俺の心の中に留めておくとしよう。

 

「で、なぜ急に?」

 

「自分なんかが歩夢ちゃんにできることなんてない、とか考えてたでしょ?そんなことないよ。少なくとも彼方ちゃんはあの時の君の言葉に救われたよ。だからたとえ小さいことでも君に出来ることは必ずあるよ。……それと卵焼きは頑張れっていう気持ちを込めた彼方ちゃんからの精一杯のエール。これは二人の問題だし、彼方ちゃんにはこれくらいしかできないから……。」

 

 全部、お見通しってことだな。本当、この先輩には敵わない。ここまでされてしまっては俺も腹を括るしかないだろう。

 

「……ありがとうございます先輩。おかげで大分、元気も出ました。まずは上原さんと改めて話をします。」

 

「うんうん。力になってあげられたようで良かったよ~。」

 

そう言うと先輩は先程から近くなっていた距離をさらに詰め、体を密着させてくる。

 

「あ、あの先輩、近くないですか?人目もありますし離れていただけると嬉しいんですが……。」

 

本当にこの人の距離の詰め方バグってて心臓に悪い。そういえば距離感近くなったのもあの一件からだったな。ともかくこの状況はまずいよ。先輩は仮にもアイドル活動をやってる身。変な噂でも立って活動に支障が出てほしくないし、今のこの状況、先輩のファンなんかに見られたら即吊るしあげられて処刑コースまっしぐらだよ。

 

「話を聞いてあげた彼方ちゃんにはご褒美があってもいいと思うのです。だからもう少しだけ~。」

 

いやいやこれがご褒美にはならなくない!?見られたりすれば、俺は処されるし、先輩の今後の活動も危うくなるし、どっちにもデメリットしかないじゃん!

 

「それなら今度、お礼として何かしますんでそれで許してはもらえないでしょうか。」

 

咄嗟にそう言いつつ、先輩から距離を取る。先輩は不服そうに頬を膨らませながらも渋々答える。

 

「むぅ。しょうがない、それで手を打ってあげる。」

 

「ふぅ、良かった。それで何かあります?」

 

 先輩はうーんと少し考えたかと思うとニヤリと笑う。次の瞬間、先輩は一気に俺との距離を詰めると耳元に顔を寄せてくる。先輩の髪から漂うシャンプーのいい香り、すぐ耳元で感じる先輩の吐息に心臓がバクバクと高鳴る。

 

「今度、君のお膝枕でお昼寝させて。」

 

 そう、耳元で囁くと彼女は俺から離れてイタズラっぽい笑みを浮かべた。

 

「約束だよ。ふふっ。」

 

 やっぱりこの先輩には一生、敵う気がしない。

    

 

〜〜〜〜〜〜

 

「それじゃあ今日はこれで終わり〜。あっそうそう朝言った部室爆発の件について何か知ってたら生徒会室まで報告に行くように。以上、解散!!」

 

 午後の授業もあっという間に過ぎ、早くも放課後に突入。生徒会室へは行かなければいけないとしてまずは上原さんだな。そう思いながら徐に席を立つとクラスメイトと談笑をしている上原さんを横目に教室を出ると教室脇の壁際に待機。あっ話しかけられないとかじゃないからな。お話ししてるのに俺の都合で切り上げさせるのは申し訳ないと思っての配慮だから。そこんとこ勘違いしないように。

 

「何してんのあれ?」

 

「知るかよ!行こいこ。」

 

教室を出ていくクラスメイトに怪訝そうな視線を向けられながらも俺は上原さんが出てくるのをじっと待ち続けた。数十分経った頃だろうか、目的の人物がようやく教室から出てくる。

 

「……神崎君。」

 

「あれ?私、お邪魔な感じ?……それなら私はこれで!じゃね〜歩夢ちゃん!」

 

「あ、うん。バイバイ。」

 

 この場のただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、一緒に出てきた上原さんの友達は足早にこの場を去っていった。正直、ありがたい。他の人にはなかなか聞かせられない話だし。

 

「……えっとちょっと話があって。時間とか大丈夫ですか?」

 

「う、うん。今日は同好会の方は自主練の日だから大丈夫。それに私も話したかったし。」

 

 と、いうことで俺たちは話をするため人気のない場所へ移動することに。そうしてやってきたのは学園の屋上。上原さん曰くスクールアイドル同好会や演劇部などが練習場所として使うこともあるらしいが、そもそも屋上自体が広いので気にならないとのことでここまでやってきた。屋上へ出る扉を少し開いて辺りを見回す。どうやら今は誰もいないようだ。誰か来る前にさっさと話を済ませてしまおう。

 

 屋上の陰になったところへ移動するとそこで改めて上原さんと向き合う。俺は一度深呼吸をして心を落ち着けると意を決して口を開く。

 

「まずは、昨日はごめんなさい。いつもはあんなに思ったことを口にすることってないんですけど、昨日はなんか感情が昂ってしまって。」

 

「ううん、気にしてないよ。神崎君が私のことを心配して言ってくれたのは伝わったから。」

 

 上原さんは俺の真意に気づいていたらしい。すると、彼女も一度深呼吸をすると俺の方を真っ直ぐに見て言葉を紡ぐ。

 

「私、昨日はああ言ったけど本心ではとっても怖いし、不安だったの。これからもプリキュアとしてやっていけるのか、アイドル活動とか学校のことを両立してやっていけるのかな、とか。でも、やっぱりほっとけない!私は今後も戦うつもり!」

 

 やっぱり上原さんは無理して笑顔を向けていたんだ。それに上原さんならそれでも戦うことを選ぶことは分かっていた。それを改めて上原さんの口から聞けただけでも話した甲斐がある、というもの。だが、本題はここからだ。

 

「上原さんの気持ちは分かりました。そこで俺から提案というかお願いがあるんです。」

 

「お願い?」

 

 不思議そうな顔をして首を傾げる上原さん。俺は彼女の目をしっかり見据えて口を開く。

 

「はい。上原さん、俺」

 

「み〜つけたぁ。」

 

 俺の渾身の一世一代のセリフは肝心なところで謎の声にかき消された。誰だよ!こんな時に。良いところだったのに!邪魔した不届き輩を糾弾してやろうと声のした方を向くと、そこには青みがかったボサボサの髪を腰あたりまで垂らした不気味な女性がこちらを見てニタリと笑みを浮かべていた。うわぁ、なんかヤバそうな人に絡まれた。てか、制服でもないし、教師の中にあんな人いた記憶ないし、不審者確定演出じゃん。その女性は上原さんの方をジーッと品定めするように見ている。

 

「あなたがプリキュアよね〜。ふ〜ん。そんなに強そうには見えないけど。」

 

 今なんて!?聞き違いでなければこの人、プリキュアって。じゃあ昨日の怪物とかに何か関係が?そう思っていると上原さんの持っていたスクールバッグからあのうさぎが飛び出してくる。

 

「ダークネスゲート!ついに姿を現しましたね!」

 

「あら、誰かと思えばあの時のうさぎちゃんじゃない。……なるほど、それでプリキュアが。」

 

 どうやらあの女性とうさぎは知った顔らしい。俺と上原さんは全然話が見えず、それを見ていることしかできない。

 

「まあいいわ。プリキュアを倒し、マインドダーク様の望む世界を創るのが私たちの役目。えーっと……。」

 

 そう言ったかと思うと女性は辺りを見回し始める。そして、いつの間に屋上に来ていたのか、一人の女生徒へと目を向ける。ギターを抱えていることから軽音部の人だろうか。夢中になって演奏をしていてこっちには全く気づいていないようだ。

 

「ふふ。いい()()()()み〜つけたぁ。」

 

 そう言ってニヤリと笑うと、その女生徒へ自身の掌を向ける。

 

()()()()よ何も感じない闇へ堕ちなさい。」

 

 その瞬間、掌から真っ黒いオーラが放出されて女生徒の体を包み込む。そして、その場に倒れ込んだ彼女の胸の辺りから真っ黒に染まった宝石が飛び出し、一気に形を変えていく。

 

「カンジネーワ!!」

 

 昨日と同じ怪物がまたも俺たちの前に姿を現した。と、いっても姿形は昨日とは全く違う。奪われたのが、軽音部女子のトキメキだったためか、その姿はギターそのものだ。

 

「歩夢さん!出番だ!」

 

「う、うん!」

 

 怒涛の展開についていけてなかったのか、うさぎの言葉に上原さんはワンテンポ遅れて返事をすると昨日のように変身体制に入る。

 

「トキメキチャージ!」

 

 そして物凄い光に包まれて、変身が完了する。

 

「ときめくあなたの1番星!キュアステラ!!」

 

「あなたのトキメキ取り戻してみせる!」

 

 おお、昨日はなかったセリフが追加されてる。上原さんのアドリブだろうか。ってそんなこと考えてる場合じゃない。邪魔にならないように離れてないと。

 

「さあ、カンジネーワ!やっちゃいなさい。」

 

 「カンジネーワ!!」

 

「うぅ……。」

 

 怪物、いやあの人がカンジネーワとか言ってるから今後、それで統一しよ。と、カンジネーワが自身の弦を掻き鳴らすと爆音と共に物凄い衝撃波がステラを襲い、吹き飛ばされる。結構離れたつもりだが、ここにいてもビリビリと肌に衝撃を感じる。また厄介な能力だ……。何か対抗する術はないか、そう思い、カンジネーワをよく観察する。

 

「えいっ!」

 

 立ち上がったステラが負けじとカンジネーワへと迫り強力なパンチをお見舞いする。しかし、すぐさま反撃が飛んでくる。

 

 「カンジネーワ!!」

 

「うっ!」

 

 またも衝撃波で吹き飛ばされてしまうステラ。まずい、このままだとジリ貧だ。何か、何かないか。……あれってまさか。ギター型のカンジネーワの尻の辺りからコードのようなものが伸びているのに気づく。エレキギターは基本、アンプに繋いで使うものだ。だとすると、あのコードを抜くなり、切るなりしてしまえば、衝撃波は出せなくなるのでは?どっちみちこれ以外に他の案を思いつかない以上、やるしかない!

 

 俺はバッグを漁り、筆箱からハサミを取り出す。問題はあいつに近づかないといけないということ。ならば、ステラに協力してもらうしかない。俺は近くに浮かんでいたうさぎに声をかける。

 

「ピカリーさん……と言いましたっけ?ステラに伝えてください。奴の気を引いてほしい、と。」

 

「えっ!神崎さん、何をする気ですか?」

 

「頼みます。」

 

 それだけ言って駆け出す。同時にピカリーさんもステラの方へ飛び出し、俺の伝言を伝えてくれたようで、ステラは気を引くための行動を始める。

 

「おーい、こっちこっち!」

 

「カンジネーワ?」

 

 ステラのおかげでカンジネーワの意識は完全にステラの方へ向いている。これならいける。そう思ったのも束の間、あと少しというところで行く手を阻まれる。

 

「な〜にしようとしてるかお姉さんにも教えてくれな〜い?」

 

 しまった。この人の存在を忘れてた。強引に突破しようにも目の前の彼女は絶対に通すまい、といったようにギラギラに目を光らせ、ニタニタと不気味な笑みを浮かべて俺の進行を妨げる。

 

 ここまでなのか。やっぱり俺には彼女を支えるなんてことできるはずなかったのか。そう、俺が諦めかけた時だった。

 

「神崎さんの邪魔はさせません!!」

 

「んなっ!?」

 

 ピカリーさんがすごい勢いで飛んできて、女性の顔面へと張り付く。その状態のまま、こちらへ顔だけ向けると必死になりながら叫ぶ。

 

「昨日、神崎さんに言われたことをずっと考えてました。僕、故郷を壊滅させられて助けてもらえるのが普通だと思ってしまってました。でも、それではダメだと気づいたんです。歩夢さんに神崎さんはこんなにも自身の危険を顧みず、戦ってくれている。それなら僕も戦わなければ、助けてもらってる身である以上、お二人が困っている時に全力でサポートさせていただく。それが僕に今できることだから!お二人の邪魔はさせません!!」

 

 そうか、ピカリーさんも彼なりに色々と思うところがあったのだろう。彼の決死の覚悟は無駄にしない。必ず成功させる!動きの止まった彼女の間をすり抜けカンジネーワを射程圏内に収める。いっけえぇぇぇぇぇ!!俺は決死のヘッドスライディングをかましてカンジネーワの懐へ潜り込み、伸びたコードを切断する。

 

 「カンジネーワ!?」

 

 声があからさまに小さくなっている。読み通りだったようだ。ミッションコンプリート!!直ちに離脱致します。後は任せたステラ!俺は目線だけをステラへ送ると、それだけで理解したようでステラはこくりと頷き、掌をカンジネーワへと向ける。

 

「プリキュア!ステラストリーム!!」

 

 昨日のように掌からピンク色に輝く星が大量に放たれ、カンジネーワを包み込んでいく。

 

「トキメイタ〜。」

 

 闇のオーラは完全に消え去り、後には黄色い宝石が残るだけだった。

 

「あ〜!?いつの間に〜!!う〜、覚えてなさ〜い!!」

 

 彼女はそう言ってピカリーさんをこっちへ放ると、黒い煙に包まれて姿を消した。俺は飛んできたピカリーさんを空中でキャッチ。目を回しており、完全にのびてしまっている。

 

 俺は黄色い宝石を手にし、すぐに軽音部女子の元へ持っていく。幸いにも近くまで来ると宝石は自ら彼女の胸へと吸い込まれていった。昨日みたいに胸元に持っていかないと戻らない感じじゃなくて良かった。危うくセクハラ案件で別の罪を抱えて生徒会室へ行くとこだった。

 ともあれ一件落着。今日もなかなかしんどかった。そんなことを思いながら、ヘッドスライディングをした際にぶつけたおでこをさすっていると、変身を解いた上原さんがこちらに向かってきていた。

 

「神崎君、ありがとう!」

 

「いや、自分ができることをやったまでですので。」

 

 そう言うと上原さんはニコッとほほ笑んだかと思うと、ずいっと距離を詰めてくる。ギョッとしながら後退りをするが、すぐにその間を詰めてくる。

 

「やっぱり神崎君がいると私、すごく安心できる。」

 

「そ、そうですか?」

 

「うん。神崎君とだったらこれからもやっていけそうなのになぁ。」

 

 そう言ってあからさまに表情を暗くする上原さん。恐らく、俺に迷惑はかけられないと思っているのだろう。さっき言いかけて結局言えなかった言葉。言うならここしかない。

 

「さっき言いかけたことなんですけど、俺、見た通り普通の男子生徒ですし、上原さんの力になれるようなことは少ないと思います。ですが、俺は上原さんの負担を少しでも軽減したい。上原さんが困った時にはいつでも力になります。だから上原さんが抱えるであろう重荷を一緒に背負わせてくれませんか?」

 

 そう言うと、上原さんは心底驚いたように目を見開いてこっちを見る。

 

「えっ、で、でも!いいの?絶対に色々、迷惑かけちゃうだろうし。」

 

「お互い様ですよ。支え合いましょう。上原さんが困った時は俺が助けます。だからもし俺が困った時は上原さんが助けてくれませんか?」

 

 それを聞いた上原さんの目からは大量の涙が零れ落ちてきた。えっ!おい、誰だよ!上原さんを泣かせた不届き輩は!?はい、俺ですね。すいません、切腹でもなんでもします。

 

「ご、ごめんね。同好会のみんなにも侑ちゃんにも相談できなくて……私、一人でずっと抱え込んでたからそう言ってくれたのが本当に嬉しくて。」

 

 俺はポケットからハンカチを取り出し、そっと彼女に渡す。彼女はそれを受け取ると目元を拭いながらしばらく肩を震わせていた。

 

    

 

〜〜〜〜〜〜

 

 涙が収まると上原さんはハンカチを返しながら言った。

 

「本当にいいのかな?頼っちゃっても。」

 

「はい。俺がしたいと思ったことなんでどんどん頼ってください。……まあ、それに応えられるかどうかは分かりませんが。」

 

「うん。じゃあ改めてこれからよろしく。……拓君。」

 

 あれ?今のは俺の聞き違い?名前でしかも愛称みたいな形で呼ばれた気がするんですけど……。冗談……だよね。そう頭の中で問答していると上原さんが不安そうにこちらへ顔を近づける。

 

「ごめん、嫌だった?仲良くなるなら下の名前で呼び合うのがいいって愛ちゃんに聞いたことあって。拓人君だとちょっと言いづらいかなと思って拓君って呼んだんだけど。い、嫌だったら神崎君に戻すけど……。」

 

 愛ちゃん、というのがどなたかは存じませんが、いや、正確には聞いたことはあるけど誰だったかまで思い出せない。ここまで上原さんが頑張ってくれたんだ。無下にはできない。

 

「だ、大丈夫ですよ。その呼び方で。自分も改めてよろしくお願いします。上原さん。」

 

 そうなるべく失礼のないように畏まって言ったつもりだが、上原さんは不服そうにこちらにジトーっとした目線を向けていらっしゃる。

 

「私のことも名前で呼んで欲しいな……。」

 

 それはずるいよ、上原さん。彼女はこの虹ヶ咲学園でも屈指の美人さんだろう。そんな方に上目遣いでそんなことを言われてしまっては落ちる男はまずいない。はぁ、腹を括ろうか。

 

「これからよろしく。…………歩夢……さん。」

 

 なんとか絞り出すように出した言葉はか細いながらも彼女にしっかり届いたようで、彼女は満面の笑顔をこちらへ向けてくる。それはあの時の無理したものではない、彼女の心からの笑顔だと分かった。

 

「ふふ。うん、よろしくね!拓君。」

 

 その笑顔に見惚れていると、突然の校内放送が聞こえてきて現実へと戻される。

 

『普通科2年、神崎拓人さん。至急、生徒会室までお越しください。』

 

 やべっ!すっかりあのこと、忘れてた。ていうかピンポイントで俺が呼び出し受けてるってことは目撃情報かなんかから俺が犯人だとバレたのか?だとすると早く行かないとまずい。ここまでよろしくとか言っておいて、退学になんてなったらシャレにならん。

 

「ごめん、俺、すぐ行かないと!」

 

そう言って飛び出して行こうとすると、歩夢さんに腕を掴まれる。えっ何?は、早く行かないといけないんだけど!

 

「昨日の部室のことだよね?私も行くよ!さっき拓君、言ったよね?支え合い、だよ。」

 

ああ、歩夢さんが来てくれるだけでめちゃくちゃ助かる。こんなにも頼りになる人、他にいない!鬼に金棒だ!いや、俺は全然鬼の器じゃないわ。虫けらに金棒とかだな。いや、金棒、持てねえ!押しつぶされるわ。まあ俺と歩夢さんにそれだけの差があるってことか。なんてくだらないこと考えてる場合じゃない。

 

「じゃあ、お願いします。」

 

「うん、もちろん!」

 

そうして二人して生徒会室へと向かって走り出すのだった。しかし、俺はこの時知る由もない。

 この出来事がこの先、俺の灰色だった日常が色付いていくほんの少しのきっかけに過ぎないということに。

 




次回で同好会メンバーは全員登場予定ですのでお楽しみに!

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