トキメキ⭐︎レインボープリキュア〜現実はそう上手くはいかない〜   作:チーケー

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こんにちは。新シリーズのプリキュア、ついにアイドルモチーフらしくて楽しみですね!
と、いうことで本編どうぞ!


第三話 無表情な彼女でも心の中はたくさんのトキメキで溢れている。(前編)

 

ここは闇の狭間。

 

 何もないただ真っ暗な闇の中を一人の男が歩いていく。その格好は全身黒ずくめであり、周りの闇に紛れてしまいそうなほどである。やがて、男は足を止めるとニヤリと笑い、口を開く。

 

「おや、お二人だけですか?」

 

それに答えるのは自身の長くボサボサの青い髪をクルクルと弄っていた女性。目は虚で焦点は合っていない。

 

「あいつならさっき出て行ったわよ。散歩だって」

 

「そうですか……。それではこの話は彼が帰ってきてからにしましょうか。ホーホッホッホ」

 

 そう言って男の姿は一瞬にして闇に消えた。

 

「毎回思うけど不気味よね……ねぇあんたもそう思わない?」

 

 そう言って女は近くにいたパーカーのフードを目深に被り、寝転がりながら携帯ゲームに興じる少年へと顔を向ける。

 

「……」

 

 しかし、少年は返事をすることもなければ携帯ゲームの画面から目線を離しすらしない。

 

「全く、つまんない奴」

 

 女は呆れると再び自身の髪をクルクルと弄び始めた。

    

 

〜〜〜〜〜〜

 

 歩夢さんとの関係性を修復した次の日……。

 

 俺は休みの日にも関わらず、虹ヶ咲学園の校門前に立っていた。現在、朝の9時半。正直言ってまだ眠い。いつもならまだ夢の中にいるので当たり前なのだが。

 

「……なんでこうなるかな」

 

 俺は昨日の夜、生徒会長から届いたメッセージを睨みながらそう呟く。

 

『放課後話した件ですが、明日から早速お願いします。明日9時半に校門前で待っていてください。詳しい話はそこで』

 

 何度見ても文言が変わることはない。俺は諦めてスマホを胸ポケットにしまう。そこでちょうど前からこちらへ向かってくる女生徒に気づく。ツインテールを揺らしながら、俺の前まで来た彼女はこちらに笑いかけると言った。

 

「神崎君……だよね?覚えてるかな?ほら、私同じクラスだった」

 

 そう言われて、はっとなる。彼女は元俺のクラスメイトの高咲侑さん。歩夢さんとは幼馴染でよく一緒にいるのを見たことがある。そういえば、最近から音楽科に転科したって聞いたな。……んっ、ちょっと待て。高咲さんがなぜこんな時間に学校なんかにいる?確か彼女の所属する同好会って………。悪い予感がする。

 

「……あ、あの高咲さんはなぜこんなところに?」

 

 恐る恐るそう聞いた俺に高咲さんは変わらぬ笑顔を向けつつ話す。

 

「そりゃ、神崎君を迎えに来たに決まってるじゃん。菜々ちゃ……会長から話は聞いてるよ。今日はよろしくね」

 

 どうやら俺の悪い予感は的中したようだ。正直言って一番関わり合いになるのを避けてきた同好会が一発目とは……。会長、俺のこと知っててあえてやってる?近江先輩や歩夢さんとは不可抗力で持ってしまった関係でアイドル活動には関わってなかったからセーフとか思ってたのに。

 

「それじゃ行こっか!()()()()()()()()()()()へ。みんな待ってるよ」

 

「……は、はい」

 

 未だ笑顔のまま、部室棟へと歩き出す高咲さんに俺は足取り重く、後をついていくことしかできなかった。

 

 そもそもなぜ俺がこんなことになっているのか。話は昨日の放課後に遡る……。

    

 

〜〜〜〜〜〜

 

 歩夢さんと共に生徒会室へとやってきた俺は、扉を2回ノックする。すぐに中から「どうぞ」と言う声がして、意を決して扉を開くと生徒会長が一人、神妙な面持ちで椅子に座っていた。

 

「待ってましたよ。神崎さん……と、歩夢さん!?」

 

 予想外の人物だったのか、歩夢さんの顔を見るなり会長は驚愕の声を上げる。

 

「急にごめんね。その、私も今回の部室爆破の件で」

 

「な、なるほど、そうでしたか。二人ともとりあえず座ってください」

 

 そう、促され上原さんと共にソファへと腰を下ろす。会長も反対のソファへと腰掛けたところで早速、本題に入ってきた。

 

「えっとそれでは神崎さん、呼び出したのは他でもありません。昨日の部室爆破の件について何か知ってることを教えていただけませんか?疑っているというわけではないんです。昨日のその時間にあなたにお会いしていたので何か知らないかと思いまして。本当に小さなことでもいいので」

 

 会長の口振りから察するにまだそこまで情報が出ていないようで、俺が犯人だとも判明していないらしい。ふぅと一息ついてから俺は昨日のことについてプリキュアのことは隠しつつ、話していく。途中、歩夢さんも補足などを入れてくれて怪物に襲われてしまった歩夢さんを俺が助けようとして件の掃除機を拝借して起動。爆発炎上に至ったという話で落ち着いた。うん、歩夢さんのおかげでプリキュアのことを出さずにうまくまとまった。実際、ほとんど嘘じゃないし。

 

「なるほど、そういうことでしたか」

 

 俺たちの話をメモ書きしていた会長はそう言って、顔を上げるとこちらに微笑みを向けた。

 

「話していただいてありがとうございます。そういうことであれば上にはうまく説明しておきましょう。悪いのはその怪物ですし、お二人が気に病むことはありませんよ」

 

 そう言われて、安堵から肩の力が抜けてしまう。なんとか退学は免れた。あの時のカンジネーワを会長も目撃してたおかげで信憑性が増したのだろう。良かった、良かった。今日はよく眠れそう。

 

「しかし」

 

 と、思ったのも束の間。会長は眼鏡の奥の瞳を鋭くこちらへと向ける。

 

「非常時とはいえ、部外者の部室への侵入および同好会の私物の無断持ち出し、器物損壊。こちらは無視できるものではありません。これに関しては然るべき罰が下ると思っていただければ」

 

 そう言われて俺の顔は真っ青になる。やっぱり全ての罰を免れるのは無理があるか、後は上がどう判断するか。やっぱり今日も眠れなさそう。

 

「その件で私から提案があります」

 

 そう言って会長は立ち上がり、何かしらのファイルを机の引き出しから取り出すとこちらへと開いてみせる。

 

「これは生徒会に届いた虹ヶ咲学園の部活、同好会の要望等を纏めたものなのですが、こちらを見ていただけますか」

 

 そう言って指差したページを見ると、そこにはずらりと様々な部活、同好会の名前が並んでいる。そして要望等も書かれているのだが、その内容はどの部、同好会も似たり寄ったりだった。

 

『ソフトボール部:今度の他校との練習試合でメンバーが足りないので人員が欲しい』

 

『演劇部:人員不足により、今度の発表会での手伝いをしてくれる人が欲しい』

 

『スクールアイドル同好会:今度のオープンキャンパスで使うPV撮影を手助けしてほしい』

 

 など、足りない人員を求めるような声が多数見受けられる。……で、これがさっきの件とどう繋がるのか?

 

「見ていただいたように虹ヶ咲は部活と同好会の数が多く、こういった要望が多くなると生徒会の役員だけではとても捌ききれなくて。なので、その人員として神崎さんにも手伝って頂きたく思いまして」

 

 そういえば他の役員がいないなと思っていたが、みんなそれで出払ってるわけか。で、その手伝いを俺が?

 

「この提案を飲んでいただけるのであれば、神崎さんが犯してしまった罪についてもこちらでうまく誤魔化しておきましょう。どうですか?」

 

 そう言って笑顔を向けてくる生徒会長。その顔には無言の圧力を感じる。まさか生徒会長からそんな提案が飛んでくるとは思わなかった。こんなのほとんど脅迫じゃん。断ったらどうあっても退学に追い込まれそうな気がする。

 

「……分かりました。協力します」

 

 そう答えることしか俺にはできなかった。

    

 

〜〜〜〜〜〜

 

 そして今に至る。いつの間にか部室の前に辿り着いていたようで高咲さんは足を止めると「ちょっと待っててね」と言って、『スクールアイドル同好会』と書かれたプレートのかかった部屋へと入っていった。

 しばらくして扉を少し開けてひょこっと高咲さんが顔を出す。

 

「神崎君。入っていいよ!」

 

 そう言われ、意を決して俺は虹ヶ咲学園のスクールアイドル同好会の部室へと足を踏み入れる。入った瞬間、部室内にいた女生徒たちの目線は一斉にこちらへと向く。そこにはもちろん近江先輩や歩夢さんもいるわけで。あっ歩夢さんが小さくこっちへ手を振ってる。だからそういうのは勘違いを生むから出来ればやめてもらいたい。

 

そう思っていると徐に立ち上がった近江先輩がこちらへとゆらゆらと体を揺らしながら迫ってくる。何事かと身構えていると、近江先輩はじとーっとした目をこちらに向けながら不満そうな声を漏らす。

 

「彼方ちゃんがあんなに言っても同好会に遊びに来なかったのに……どういう風の吹き回しなのかなぁ、神崎君?」

 

 いや、自分も来たくて来たわけではないんですよ。止むに止まれぬ事情でここにいるんです。なので許してください。

 

「いや、事情が色々ありまして。自分も正直、ここにいるの信じられてないので……」

 

 そのやり取りを不思議そうに見つめていた歩夢さんもこちらへとやって来て会話に参加してくる。

 

「彼方さん、拓君とお知り合いだったんですか?」

 

「うん、もう1年くらいはお昼を一緒に食べてるんだよ〜」

 

「まあ、成り行きですけどね」

 

「そうなんだ。…………あの、今度私もご一緒してもいいですか?」

 

 えっ?歩夢さんもお昼を一緒に?近江先輩だけならまだしも歩夢さんも来るとなると注目を集めそうで困るな。でも、断るのも申し訳ないよな。

 

「彼方ちゃんは全然いいよ〜。神崎君もいいよね?」

 

「……ま、まあ、はい。そうですね。歩夢さんがいいなら」

 

「ありがとう、拓君!」

 

 そう言うと、歩夢さんは目を輝かせて俺の手を取る。だからそういうのはやめてね。その様子を見ていた近江先輩はこちらへ笑顔を向けている。

 

「よかった、よかった。昨日の件、ちゃんと話せたんだね〜」

 

 と、3人でそんなやり取りを繰り広げていると、ベージュ色の髪をした小柄な子がこちらを睨みながらボソッと言う。

 

「あの、3人で盛り上がってるところ悪いんですけど、後にしてもらっていいですかね。みんな、置いてけぼりなんですけど」

 

 そう言われて、周りを見ると他の部員である皆さんが、苦笑いを浮かべてこちらを見ていた。な、なんかすいませんでした。

 

「ごめんね。彼方ちゃんが話し始めちゃったから」

 

 そう言って、近江先輩と歩夢さんは俺から離れていった。

 っていうかこれは俺から名乗る流れか?そうだよね。皆さん、黙ってこちらをじーっと見てるし。

 

「えーっと……手伝い?で来ました。普通科2年の神崎拓人です。今日はよろしくお願いします」

 

 そう言うと、先ほどのベージュ色の髪の子がこちらへずいっとやってくると満面の笑顔を向けてくる。

 

「スクールアイドル同好会()()の普通科1年の中須かすみです。かすみんって呼んでくださいね!」

 

 先ほどの低い声とは違い、きゃぴきゃぴした声でそう言う彼女。なんか部長の部分をいやに強調してたけども、そうかこの人が部長なのか。てっきり高咲さんあたりが部長なのかと。未だポーズを取ったままこちらを凝視し続ける中須さんを始めとして他の面々も次々に自己紹介を始める。

 

「国際交流学科1年の桜坂しずくです。今日はよろしくお願いします」

 

 赤いリボンが特徴的なポニテの子がこちらへと綺麗なお辞儀をしてみせる。1年生とは思えないくらいしっかりしてるな。未だに自己主張を続けてるどこかの中須さんとは大違いだなぁ。

 

「情報処理学科1年、天王寺璃奈。よろしく。璃奈ちゃんボード『にっこりん』」

 

 中須さんに対して失礼なことを考えていると、笑顔の顔文字が描かれたスケッチブックを手にしたピンク髪の子がそう名乗る。はて、璃奈ちゃんボードとは一体……。ちょっと聞きたいことが多すぎる。

 

「同じく情報処理学科2年の宮下愛だよ!今日から()()()さんよろしくね、()()()んだけに!」

 

 金髪のギャルっぽい見た目の方がそう名乗ってきたことで俺の警戒レベルが急激に上がる。この人、俺が1番苦手とするタイプだ。会う人皆、友達って思ってる陽キャギャルってところか。いきなりあだ名呼びは心臓に悪すぎる。あまり近寄らないようにしとこ。ダジャレに関しては即興にしては上手いと思います。……てか、歩夢さんが言ってた愛さんってこの人か。

 

「エマ・ヴェルデです!国際交流学科の3年生だよ、よろしくね!」

 

 そう言って赤毛の三つ編み女子がこちらへ微笑む。名前からして外国からの留学生とかかな。何がとは言わないけど立派なものをお持ちだ。て、いうかなんかその身から癒しのオーラをひしひしと感じて、初対面なのにすごい落ち着く。

 

「ライフデザイン学科3年の朝香果林よ。よろしくね、拓人君」

 

 そう言って、青みがかった黒髪をウルフカットにした方がこちらへとウインクをしてくる。俺はそれに対してスッと目を逸らす。いや、宮下さんといい、距離感がおかしい人多くない?これが普通なの?だとしたら俺には耐えられんよ。もう少し時間を下さい。

 

「普通科2年の優木せつ菜といいます!よろしくお願いしますね!」

 

 そう言われてそちらを向くと驚きを隠せなくなる。そこにいたのは見た目こそ違うが、昨日も話をした生徒会長ご本人だ。確かに普通の人ならこれくらいの変装で騙されるだろうが、日頃から人間観察を趣味としている俺の目は誤魔化せない。でも、こうやって俺に対しても隠してるということはあまり触れられたくないことなんだろうな。条件はあれど昨日の件のことに感謝してるし、ここは黙っておこう。……あれ、1発目がスクールアイドル同好会だったのってそういうこと?職権濫用じゃない?

 

「そして、改めて私が音楽科2年、スクールアイドル同好会のマネージャーをやってる高咲侑です!よろしくね!」

 

 そして最後に改めてこちらへ自己紹介をする高咲さん。これで、近江先輩と歩夢さんを除く全ての方の自己紹介が済む。いやね、前々から思ってはいたんだけどこの学園、女子のレベル高すぎるよね。この同好会だけでもスクールアイドルやってるだけあってか、可愛い系や美人系など様々な美少女揃いである。ほんと、俺なんかがここにいていいんですかね。明日あたり皆さんのファンとかに刺されたりしないかな。

 

「……どうぞよろしくお願いします」

 

 そんな心配を心に抱えながらもそう一言搾り出したところで高咲さんが手をパンと叩いて言う。

 

「よし、自己紹介も済んだし早速始めようか!時間もあまりないし」

 

 その言葉で各々、慌ただしく動き出す。さて、俺は何したらいいんだろうな。

     

 

〜〜〜〜〜〜

 

 高咲さんの話によれば、今度あるオープンキャンパスで流す予定のPV撮影をするとのことでその補佐をして欲しいとのことだった。てっきり()()()みたいに練習を見てアドバイスが欲しいとか言われるんじゃないかと内心ヒヤヒヤしていたため正直、助かった。そういうことならしっかりとお手伝いさせて頂きます。

 

 そう意気込んで指示された機材を持ちつつ、部室を出ていく皆さんの後に続こうとしたところである人物に目が止まる。ピンク髪の小柄な少女、確か天王寺さんだっけ。見るからに重そうな機材を一生懸命に持ち上げようとしているが、全くと言っていいほど持ち上がっていない。

 

「……天王寺さん?自分、持ちますよ」

 

 近くまで行ってそうぼそっと呟くと彼女は明らかに驚いたようにビクンッと肩を振るわせ、周りをキョロキョロし始める。しまった、また驚かせちゃった。影が薄いのも考えものだな。しばらくキョロキョロしていた彼女はやがて俺と目が合うと「あ。」と言ってこちらへと身体を向ける。

 

「いたんだ。急に声がして驚いた。璃奈ちゃんボード『びっくり』」

 

「驚かせてすいません。どうも自分、影が薄いみたいで」

 

 そう言うと持っていたボードを下げ、目だけ出して何か言いたそうにこちらをじーっと見つめる彼女。やがて目線を外すと呟くように言う。

 

「…そんなことないと思う。少なくともこの学園であなたのこと知ってる人は多い」

 

 は?ドウイウコト?俺、表立って色々した覚えはないし、クラスでもあんなだし、存在を知られる要素皆無だと思うんだけどな。天王寺さんが言った言葉に首を傾げていると高咲さんがこちらへと呼びかけてきて現実へ戻される。

 

「璃奈ちゃん、神崎くん!行くよ!!」

 

「あっはい。とりあえずそれは持ちますよ」

 

 そう言って天王寺さんが持ち上げようとしていた機材を持ち上げて後悔。あ、意外に重かった。片手だときついかも。でも、持つと言った手前、後には引けない。腕をプルプルさせながらなんとか高咲さんの後を追って、部室を出た。

 

「……ありがとう」

 

 その際、天王寺さんが何か言ったように思えたが、持つのに必死になっていた俺の耳には届かなかった。

 

     

 

〜〜〜〜〜〜

 

 その後、今回のPV撮影の脚本兼監督を務めていた桜坂さんや高咲さんの指示に従いつつ撮影はつつがなく進み、いつの間にかお昼の時間になっていた。

 

「じゃあ、お昼休憩にしよっか。続きは午後からにしよう!」

 

 高咲さんの一声でお昼休憩と相成り、皆さんはここ中庭で集まって昼食をとるようである。俺はそこから少し離れた木陰へと陣取るといつも通りいちごミルクを啜りながら目を瞑り、疲れを癒す。

 

 どれくらい経っただろうか。いつの間にか眠っていたようで目を開くと隣から物凄い視線を感じる。恐る恐る見てみると隣には物凄い真剣な顔つきでこちらをじーっと見つめる桜坂さんの姿があった。流石に気になり、声をかける。

 

「…えっと、桜坂さん?何か用ですか?」

 

 それに対し、桜坂さんは少し興奮気味に答える。

 

「あっすいません!まさか生で『ニジガクの一匹狼』を見れると思ってなくて!しゃ、写真撮らせてもらってもいいですか?」

 

 俺は桜坂さんの言葉のほとんどを理解できず、しばしフリーズ。『ニジガクの一匹狼』?なんそれ?そして、なんで俺の写真なんかを?

 

「……えっと。色々、聞きたいんですけどまず『ニジガクの一匹狼』っていうのは一体?」

 

「あれ?神崎先輩、ご存知じゃないんですか!?てっきり本人承諾済みでやってるものだと思ったんですけど。これです、新聞部が定期的に出してる校内新聞のコーナーの一つ」

 

 そう言って、桜坂さんは生徒手帳から小さく折り畳まれた新聞の切り抜きをこちらへと見せてくる。見てみるとそこには『今日のニジガクの一匹狼』と書かれたコーナーに俺がいちごミルクを飲んで黄昏るような横顔を収めた写真が数枚載っている。

 

「な、なんだこれは…」

 

 一人、驚愕しているといつの間にか俺の周りにはスクールアイドル同好会のメンバーたちが集まってきていた。

 

「ありゃ〜。やっぱり神崎君、知らなかったんだね。君がこういうの承諾するとは思ってなかったから変だなとは思ってたんだよね〜」

 

「近江先輩、それなら教えてくださいよ!!」

 

「いや〜。このコーナー、君と知り合う前からやってたし。言うタイミング逃しちゃったんだよね〜」

 

 近江先輩と知り合う前だと…。そうなると俺が入学した当初から俺、隠し撮りされてそれを学園内に晒され続けてたの…?嘘だろおい!肖像権の侵害だ!弁護士を呼んでくれ!!

 

「でもそのコーナー結構人気あるよね〜。愛さんの友達も毎回楽しみにしてるって言ってたよ」

 

 宮下さんや。それは俺にとってはフォローにならない。俺のこんな姿を学園中に見られるなんて拷問に等しい。恥ずかしすぎる。来週からまた学校行きたくなくなっちゃうよ。

 

「私、生徒会長に聞いたことがありますが、神崎さん自身が承諾しているので問題はないと新聞部の部長さんが言っていたそうですよ」

 

 そう言うのは優木さんもとい生徒会長の中川さん。あくまでも自分が生徒会長だとは名乗らない気らしい。ていうか、それどこ情報!?承諾した覚え、微塵もないんだけど……。今度、新聞部を問い詰めてやる。

 

 そう決意しながら新聞の切り抜きを桜坂さんに返すと、桜坂さんは目を潤ませて上目遣いでこちらを見ていた。

 

「あの、それで写真撮ったらダメですか?い、一枚でいいんです!誰にも見せませんから!」

 

 正直、なんでそんなに必死になって俺の写真が欲しいのか、理解に苦しむけどそんな顔してお願いするのは上原さんといい、ずるいよ。

 

「…じゃあ一枚だけなら」

 

 そう言うと彼女はぱぁっと嬉しそうな表情を見せるとスマホを構える。

 

「…神崎先輩、チョロくないですか?」

 

「ふふっ本当ね、かすみちゃんに負けず劣らず。でもだいぶイメージ変わったわ。もっととっつきにくい人かと思ってたから」

 

「そうですね、かすみんも怖い人だと思ってました。……ちょっ果林先輩!?かすみん、チョロくないですけど!?」

 

 なんて談笑をしている中須さんと朝香さんの言葉をスルーしつつ、俺は桜坂さんに向き合う。

 

「この写真みたいに黄昏てる感じでお願いします!あっいちごミルクを飲みながらで」

 

 そう言って指示に従いつつ、いつも通りな感じにポーズを取るとシャッター音がして桜坂さんは満足そうに笑みを溢すとこちらへとお辞儀をした。

 

「ありがとうございます!」

 

 まあ、喜んでもらえたなら良かったです、はい。ていうか、さっきの天王寺さんの言葉ってそういうことだったんだな。俺の知らないところで俺の存在が一人歩きしてるって考えてみるとちょっと怖いな。変な噂流れてそう。

 

 そう思いながら、天王寺さんの方をちらと見る。変わらず無表情で皆さんと談笑をしている彼女。……俺の気のせいかな。一瞬、ちょっとだけ顔つきが変わったような?

 

「みんな、そろそろ午後の撮影始めよっか!」

 

「「はーい!!」」

 

 高咲さんの一声で再び撮影に戻っていく皆さん。俺は先ほど感じた天王寺さんの違和感が頭から離れなかった。ちょっと注意深く見といた方がいいかも。

 

     

 

〜〜〜〜〜〜

 

 午後の撮影が始まって早数時間、天王寺さんの様子を逐一、遠目から見ていた俺は先ほどの違和感が気のせいではなかったことを知る。俺が見ていた時だけでも4、5回顔つきの変化が見られた。とは言ってもそう大きな変化ではないため、周りの皆さんはそんなことには気づいていないようだ。もしかしたら本当に気のせいかもしれない。でも万が一ということもあるし、声だけかけておこう。

 

 そうして、撮影の合間の小休憩に入ったところで天王寺さんの近くへ行くとなるべく皆さんには気づかれないように声をかける。

 

「……天王寺さん、ちょっといいですか?」

 

「?」

 

 天王寺さんは首を傾げつつもトテトテと可愛らしくこちらへと向かってくる。

 

「……どうしたの?」

 

「あ〜えっと。お節介だったら申し訳ないんですが、体調悪かったりしませんか?悪いようだったら無理せず休むのが賢明だと思うんですけど…」

 

 天王寺さんは相変わらず無表情でこちらを見つめている。しかし、やがてどこから取り出したのか、あのスケッチブックを顔に当てると言った。

 

「璃奈ちゃんボード『びっくり』。確かに朝からちょっと体調良くない。……なんで分かったの?」

 

「えっと……さっきから何回か顔つきが変わる瞬間があったので、ずっと無表情なのって皆さんに体調悪いのを悟られないためなんじゃないかと思いまして……」

 

 そう言うと天王寺さんは相変わらず無表情ではあるものの明らかに驚いたような様子でこちらをじーっと見つめている。やがてぽつりぽつりと小声ながら話し出す。

 

「……無表情なのは普段から。私、感情を表情に出すのが苦手で……。だからこれ使ってる。これなら私の感情をみんなに知ってもらえるから」

 

 ずっと気になっていた璃奈ちゃんボード。まさかそう言う理由だったとは。ん?と、いうことは普段から無表情の天王寺さんの細かい変化に気づいたってこと?我ながら末恐ろしい観察眼してんな。

 

「……初対面でこんなにも早く私の表情の細かい変化に気づいたのはあなたが初めて……。同好会のみんなでもまだ完璧には理解できてない。今日もみんな気づいてなかったし。……だからあなた、すごい。璃奈ちゃんボード『感激』」

 

 そう言って、ボードを顔に当てる天王寺さん。声のトーンから喜んでいるのが分かる。

 

「あ〜でも体調悪いなら無理しないで下さいね?撮影ももう終盤ですし。それだけ言いたかったので」

 

「……うん。後少しだし、大丈夫」

 

 それならこれ以上は何も言うまい。俺は皆さんのところへ戻ろうと天王寺さんに背を向ける。

 

「……待って」

 

「ん?」

 

呼び止められたので振り返るとそこにはボードで顔を隠しつつこちらをじーっと見つめる天王寺さんがいた。そして、少し間が空いてから言う。

 

「その……心配してくれてありがとう……」

 

それだけ言って彼女は顔をボードで隠しながらそそくさと俺の横を通り過ぎると高咲さんのところへと戻っていく。そんな彼女の後ろ姿を見ながらふと思う。俺も少しは変われてるのかね、少なくとも()()()よりは。

 

 そんなことを考えながら皆さんのところへ戻ると高咲さんが話しかけてくる。

 

「璃奈ちゃんと何話してたの?」

 

 俺は一瞬、悩みつつも天王寺さんの万が一を考え、皆さんの耳にも入れておくべきだと思い、口を開く。

 

「天王寺さん、朝から体調が少し良くないみたいで。本人は大丈夫だと言ってるんですけど皆さんで気にかけてあげてください」

 

 そう言うが早いか、宮下さんが天王寺さんの元へと勢いよく駆け寄ると慌てるように言う。

 

「りなりー!!顔真っ赤だよ!!休んだ方がいいって!」

 

「……愛さん、大丈夫。これは、その、そういうのじゃないから。だからあまり見ないで欲しい……」

 

 しばらく二人の押し問答が続いたが、見た目に反して元気な姿を見せる天王寺さんに根負けし、宮下さんが折れる形で本日最後のシーン撮影へと移っていった。

  

     

 

〜〜〜〜〜〜

 

 その後、天王寺さんの体調が悪化することもなく撮影は進み、本日の活動は終了となった。俺は機材を一通り片付け終えると同好会部室の椅子へと腰掛け、帰り支度を進める皆さんをぼーっと眺めていた。

 

「今日はありがとね!神崎君!ほんと、助かったよ!」

 

 そう言って高咲さんがこちらへとやってくる。聞けば予定していたスケジュールよりも大幅に進んだようでだいぶ余裕ができたらしい。貢献できたなら良かったかな。

 

「……それでちょっと相談なんだけど、神崎君、正式にうちに入る気あったりしない?みんなも君が入るなら大歓迎だって言ってるんだけど」

 

 どうやら今回の手伝いで随分と皆さんに気に入られたようだ。大したことしてないと思うんだけどな。そう思いながら、俺は躊躇なく答える。

 

「申し訳ありませんが、お断りさせて頂きます。諸事情で生徒会との契約でこの同好会以外にも手伝う予定がありまして」

 

 実際、先ほど中川会長名義のメッセで来週の部・同好会派遣の予定が送られてきていた。これだけ忙しいとなるとこの同好会だけに構ってもいられないだろう。

 

「そっか。それならしょうがないね。……でも、いつでも遊びに来てよ。君が来てくれたらみんな、喜ぶと思うよ。……しずくちゃんとか特に」

 

 そう言って苦笑いを浮かべる高咲さん。確かに写真の撮影を許した後から何かと桜坂さんはこちらに話しかけてきていた。俺のどこを気に入ったのかはよくわからないけど。そんなことを考えていると件の人物がこちらへと歩み寄ってきていた。

 

「神崎先輩!今日はお世話になりました。お先に失礼します!……またお会いしましょう!」

 

「……あ、はい。こちらこそ」

 

 桜坂さんはニコッとこちらに微笑むと中須さんと共に部室を出て行った。またって言ってたけど今後、会う機会あるかな?まあ同じ学園にいるんだし、会う可能性はあるのか。

 

「まあ、いい子だから仲良くしてあげてよ」

 

「そうですね」

 

 すると、今度は歩夢さんがこちらへと駆け寄ってきた。

 

「神崎君!また来週!お昼一緒に食べようね」

 

 そういえばそんな約束した気がする。美少女二人と優雅にランチ……。俺には似合わな過ぎる光景だ。正直、遠慮したいのだが。

 

「はい。また来週」

 

 そう一言、絞り出すのが精一杯だった。俺には断れねえよ。歩夢さんの泣き顔はもう見たくない。来週のお昼は覚悟を決めて挑むとしよう。

 

「侑ちゃん、行こ!」

 

「うん!じゃあ神崎君、本当に今日はありがとね!」

 

 そう言って歩夢さんと高咲さんも部室から出て行った。

 

 静まり返る室内。気づけば他のメンバーも既に帰っていたようで部室内には俺一人。今日一日を振り返ってみると少しばかり懐かしい気分になってくる。場所、人が変われど、スクールアイドルの本質は変わらないのかもしれない。……だからこそ俺が深く関わるべきじゃない。そんなことを考えていると不意に肩を叩かれる。

 

「ひゃんっ!!」

 

 俺しかいないと思っていたのもあり、変な声を出してしまった。恐る恐る振り向いてみると宮下さんが申し訳なさそうに立っていた。

 

「ごめんごめん、驚かせちゃった?」

 

「い、いえ。ちょっとビックリしただけです」

 

 正直、心臓止まるかと思った。こういうビックリ系に俺は極端に弱い。だから急にお化けが飛び出してくる系のホラー映画とかマジ無理。お化け屋敷も無論。

 

 「たっくん、お疲れ!いやぁ今日は助かったよ、ありがとね」

 

「……それはどうも。少なからずお役に立てたなら良かったです」

 

 そう言うと宮下さんはちょっと真剣な顔つきになると俺に向き合う。

 

「それで、ちょっとお願いがあってさ。たっくん、この後はなんか用事ある?」

 

「いえ、このまま真っ直ぐ帰るだけですけど」

 

 その言葉に宮下さんは分かりやすく笑顔を見せたと思ったら手を顔の前で合わせて頭を下げる。

 

「お願い!りなりーが家に帰るの付き添ってあげてくれないかな?」

 

「天王寺さんの付き添い?」

 

「りなりーのこと、心配で今日は私が家まで送ってあげようかと思ってたんだけど、さっき家から『お店の手伝いして欲しいから早く帰ってきてくれ』って連絡きちゃってさ。他のみんなも用事あるみたいだし。たっくん、頼む!!」

 

 天王寺さんのこと、そこまで気にかけてるのか。正直、近寄りがたい人だなと思ってて申し訳ない。あんた良い人すぎるよ!宮下さん。

 

「分かりました。自分も心配はしてたので引き受けます」

 

「ありがと〜!!うち、もんじゃ焼きのお店やってるんだ!今度来てよ!!サービスするからさ!」

 

「機会があれば是非」

 

「うんうん。それじゃ私、そろそろ行かないと!お願いね!りなりーもお大事に!」

 

 そう言うと足早に部室を出て行った。嵐のような人だ。それに宮下さんがそう言ったことで気づいたが、部室の奥にあるソファには天王寺さんがちょこんと座っていた。

 

 俺は立ち上がると天王寺さんの前まで行く。

 

「と、いうことで俺が付き添います。歩けますか?」

 

 その言葉に天王寺さんは小さく頷くと立ち上がり、ドヤ顔のボードを顔に当て言った。

 

「……問題ない。璃奈ちゃんボード『ドヤァ』」

 

 俺が思ってた以上に元気そうで何よりだ。

  

     

 

〜〜〜〜〜〜

 

 部室の戸締りをしてから天王寺さんの家へと向かう。道中、特にこれといった会話もなく、気づけば天王寺さんの住むマンションの前に着いていた。さて、ここで解散かなと思っていると天王寺さんが一言。

 

「……良かったらお茶だけでも飲んでいって欲しい。今日のお礼に」

 

 そう言われ、厚意を無下にするわけにもいかないので大人しく招かれることに。そうして、天王寺さんが玄関の扉を開けて中へ入った……と思ったら急に天王寺さんは足をふらつかせるとこちらへと倒れ込んできた。

 

「えっ……天王寺さん?大丈夫ですか?」

 

 そう聞くが返事はない。よく見れば目は虚で顔もどこか赤い気がする。

 

「……ちょっと失礼しますね」

 

 まさかと思いながら、そっとおでこに手をやるとかなり熱くなっているのがすぐに分かった。恐らくだが、家に帰ってきた安心などで肩の力が抜けてどっと疲れが出たのかもしれない。と、とりあえず寝かせないと!

 

 そう思い、天王寺さんを抱えて家の中へ。幸い、彼女の部屋はすぐに見つかり、無礼を承知で入ると彼女をベッドへ優しく下ろす。ひとまずはこれでいいか。しかし、天王寺さんは荒い呼吸を繰り返しており、かなり苦しそうだ。

 人の家を物色するのは気が引けるのだが、緊急事態だからと頭に言い聞かせ、見つけてきたタオルと氷水を準備すると濡らしたタオルをよく絞って天王寺さんの額にそっと置く。

 すると、天王寺さんは「冷たくて気持ちいい……」とぽつりと言った。先程よりも幾分顔色も良くなったようで一安心。後は、帰ってくるであろう天王寺さんの親御さんに任せればいいかな……。

 

「それじゃ、俺はこの辺で。安静にして下さいね」

 

 そう言いながら立ちあがろうとすると彼女はその小さな手で俺の服の裾を掴む。薄目ながらも何かを訴えるようにこちらをじーっと見つめてくる。

 

「……えーっと、天王寺さん?」

 

「…………いてほしい」

 

 それはか細く消えるような声で、何と言ったのか正確に聞き取れず、俺は再びしゃがみ込むと天王寺さんに目線を合わせる。

 

「……今日、両親二人とも帰ってこないから……できればそばにいてほしい」

 

「え?」

 

 俺はその言葉にしばらくフリーズしてしまった。

   

     

 

〜〜〜〜〜〜

 

 辺りも暗くなり始めた時間帯。璃奈の住むマンションの前に人影が一つ。

 黒のスーツに身を染めた背の高い男はマンションを見上げると機嫌悪そうに舌打ちを一つした。

 

「ほんまにこの世界はどこもかしこもトキメキで溢れとる。反吐が出るで。特にここのは特別キラキラしてるなぁ……。何も感じひん闇に染めてあげまひょか」

 

 そう言って、男はニヤリと笑うと夜の闇に紛れて消えた。

 




今回はプリキュア要素皆無の日常回で申し訳ない。
書きたいこと多すぎて、なかなか纏まらない。
次回(後編)はしっかりプリキュア回なのでお楽しみに!
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