トキメキ⭐︎レインボープリキュア〜現実はそう上手くはいかない〜 作:チーケー
だいぶ空いてしまいましたが前回の後編になります。
天王寺さんの言葉に動けずにいると天王寺さんはゆっくりと身体を起こし、あのボードを顔に当てた。
「急にこんなこと言ってごめんなさい。……でも、今日は一人でいるのなんか心細い。璃奈ちゃんボード『しょんぼり』」
そう言ってあからさまに肩を落とす彼女。親御さんも帰ってこないらしいし、不安なんだろう。確かに体調悪くなると一人でいる時、心細くなるのはすごい分かる。こんな状態の天王寺さんを一人にしておくのも心配だし、しょうがないか。俺はその場に座り直すと天王寺さんに言う。
「わかりました。今日は天王寺さんのそばにいます。それでいいですか?」
天王寺さんは素早くボードの顔を変えるとあからさまに嬉しそうなトーンの声で言う。
「璃奈ちゃんボード『じーん』。ありがとう、嬉しい」
「それなら今日はもう休んでください。多分、疲れからくるものだと思うので栄養とってしっかり寝れば明日には良くなりますよ」
そう言って、天王寺さんを寝かせると布団をかけてからタオルを再び濡らして絞り、額にのせる。
「晩御飯、作りますけど食欲ありますか?」
「うん、お腹はすごく空いてる。お昼、あんまり食べなかったから。……神崎さん、料理できるの?」
無表情ながらも心配そうな瞳をこちらに向け、そう言う天王寺さんに恥ずかしながら答える。
「一応、一人暮らししてますので……。でも簡単なものになってしまうんですけど」
「それでもいいよ。いつも買ったものばかり食べてるから作ってくれるだけでも嬉しい」
それを聞いた俺は、聞くのは失礼かと思いつつも気になったので疑問を口にする。
「いつもって親御さんは基本、家にいないんですか?」
「うん、両親二人ともお仕事が忙しくて家にいないこと多くて。だから基本的にはいつも私一人」
「そうだったんですか。……分かりました。じゃあとりあえず何か適当に作っちゃいますね」
ちょっと気まずくなり、早口でそう言うと部屋を出た。一瞬ではあったけど無表情ながら天王寺さんは確かに寂しそうだった。その姿が
「まあ、そうだよなぁ。」
薄々、思ってはいたが、親御さんは基本いなく、天王寺さんも基本買って済ませていると言っていたし、冷蔵庫の中がすっからかんなのは何となく予想できていた。
「買い出しに行くしかないか……」
そう呟きながら俺はキッチンを後にした。
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「天王寺さん?入りますよ」
そう一言かけてから俺は天王寺さんの部屋の扉を開ける。彼女は深く被った布団からひょこっと顔だけ出してこちらを見る。
「ごめんね。買い出しにも行かせちゃって」
「全然、いいですよ。今日くらいは俺に頼ってゆっくりしてください」
そう言って持ってきたお盆を天王寺さんの前へ置く。
「いい匂い。これって炒飯?」
天王寺さんの目の前にはごく普通のよくみる炒飯が湯気を立てている。しかし、これでは面白みがない。神崎キッチン、今日は頑張っちゃいましたよ。そう思いながら、別で用意していたお椀に入ったものを炒飯へとゆっくり流し込む。天王寺さんはそれを無表情で見つめていたが、目はキラキラと輝いている。
「生姜をたっぷり使ったあんかけ炒飯です。どうぞ召し上がれ」
「……いただきます」
天王寺さんは早速、レンゲで一口掬うとそれをまじまじと見つめてから口へと入れる。熱かったようではふはふしながらもそれを飲み込むとこちらへぐるんと顔を向け、ボードを当てる。
「璃奈ちゃんボード『美味』。すごく美味しい。それに身体も凄く温まる」
「気に入ってもらえてよかったです。冷めないうちに食べちゃってください」
彼女はそれにこくりと頷くとその後は言葉を発することなく夢中で食べ進めていた。そんな彼女をぼーっと眺めながら思う。やっぱりこうやって人に喜んでもらえるのはいいな。だからこそ困っている人を見ると結局は手助けしちゃうんだよね。
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「ごちそうさまでした」
食べ終えると丁寧に手を合わせる天王寺さん。だいぶ元気になったのか顔色も随分いい。明日には良くなっているだろう。すると彼女は布団で口元まで隠すとこちらに言う。
「本当にありがとう。今日のこと、すごく感謝してる。……迷惑かけた分、何か私にできることない?」
「別に気にしないでください。俺が好きでやったことなので」
「……でも、それだと私が納得できない」
真剣な眼差しでこちらをじっと見つめる彼女。これは何を言っても引いてくれなさそうだ。しかし、特にこれといってやってほしいこともないし。
「……それじゃあ何か考えておきますね」
そう濁して話を終わらせると俺は足早に部屋を出ていくのだった。
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【side 璃奈】
喉の渇きで目を覚ました私は起き上がると近くに置いていたペットボトルを手にするとそれを一口飲む。そして、ベッドの脇で自身の腕を枕に寝息を立てる彼を見つめる。
神崎拓人さん。
急遽、同好会の撮影の助っ人にやってきた彼。最初はしずくちゃんに見せてもらった新聞の写真のイメージから怖い人なのかなと思ってた。
でもいざ会ってみるとそんなことなくて私に似て表情の変化はあまりないもののとても優しい人だと分かった。初対面にも関わらず、私の我儘を聞き入れて家に泊まって看病までしてくれた。
でも何よりも嬉しかったのは私の表情の変化に気づいてくれたこと。同好会のみんなでも未だ見極めるのが難しい私の表情をあんなにも早く見抜いてみせた。
「……本当に嬉しかった」
気づけば私の心には今まで感じたことのない『ポカポカ』したものが渦巻いている。それは彼を見ているとより一層強くなって私の身体を巡る。
「……こんな気持ちは初めて」
気づけば私は彼に触れたい欲求に駆られ、彼の前髪にそっと手を伸ばしていた。しかし、寸前でそれは叶わず私の手は横から何者かの手に掴まれる。何事かとそちらを見れば見たことのない男の人が不気味な笑みを浮かべて私のことを見ていた。
「いけまへんな。そういった感情を待つのはやめてもらいまひょか」
その男の形相に私は動けなくなる。一体この人は何者?どうやってここに?いろんな疑問が脳内を巡ってぐるぐると回る。その間に男は何やらポーズを取ると私に向かって声を上げる。
「ほな、
その瞬間、男の手から真っ黒のオーラのようなものが飛び出し私を包んでいく。
(神崎……さん……)
私は声を上げて救いを求めることもできず、暗い闇へと意識を手放した。
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俺は遠くから微かに聞こえる怒号のようなもので目を覚ます。天王寺さんの看病をしている最中、眠り込んでしまったようで辺りはすっかり暗く、部屋も真っ暗だ。天王寺さんは大丈夫だろうか、そう思い、部屋の電気をつけて俺は驚愕する。
「…天王寺さん?」
そこには空っぽのベッドがあるだけだった。天王寺さんの姿が跡形もなく消え去っている。俺は慌てて家中を探し回る。だが、天王寺さんの姿が見つかることはなかった。
こんな夜中に出かけたのか?そう思ったが、近くには天王寺さんのスマホが転がっていることからそれはないと断言する。天王寺さんはマンションのロックをこのスマホで解除していた。ならばそのスマホを置いて外に出るなど考えられない。じゃあどこに?
そんな思考に耽っているとまた遠くの方から怒号のようなものが耳に響いてくる。近くで工事でもやってると思って気にしていなかったが、これどっかで聞いた覚えがある。そう思い、全神経を耳に集中させる。
「カンジネーワ!」
微かにだがはっきりと聞こえたその声に嫌な予感が脳裏をよぎり、俺は天王寺さんのスマホを持って勢いよく部屋を飛び出す。天王寺さんとは無関係であってほしい。そう思いながら声のする方へと駆け出したところで俺のスマホに着信が入る。走りながら確認すると歩夢さんからだった。
「もしもし」
『あっ拓君!……ごめんね、こんな時間に。……起こしちゃったかな?』
彼女も走っているのだろうか、時々電話口から荒い呼吸が聞こえてくる。
「いえ、大丈夫です。カンジネーワですよね?今、俺も向かってます」
『えっそうなの!?私もさっきやっと家を抜け出してきて向かってるところ』
「分かりました。そちらで合流しましょう」
そう言って電話を終えると俺は一層、足に力を込めた。
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辿り着いたのは天王寺さんのマンションからほど近い公園だった。そこにいつものデカい怪物の姿を捉える。近くまで来るとその傍らには見知らぬ背の高い男、そして黒い檻のようなものに囚われた状態の天王寺さんの姿があった。
「……天王寺さん!」
「ん?なんや?プリキュアじゃないやんけ。一般人はお呼びやない。しっしっ」
そう言って男は不機嫌そうに俺を睨みつけてくる。カンジネーワを出せるってことはこいつもダークネスゲートとかいう組織の仲間か。
「ダークネスゲートってのは何が目的でこんなことするんですか?」
そう言うと男はあからさまに驚いたような表情をしたかと思うとニヤリと不敵に笑い、口を開く。
「なんや、ただの一般人ってわけじゃなさそうやな。まあええ、教えたるわ。ダークネスゲート、それを率いる俺たちのボス、マインドダーク様の目的は感情のない永遠に続く暗闇で世界を満たすことや。」
「…感情のない世界」
「そうや、感情があるから人は弱なる。特にこの娘の持っとった『人を想うトキメキ』、こんなものあったらロクな目にあわへん。無駄なだけや。むしろ感謝してほしいくらいや」
恐らくだが、天王寺さんはスクールアイドル同好会の方たちへの想いのトキメキを奪われた。それを無駄だと……。俺の中で何かが弾けた。気づいた時には俺は男に向かって殴りかかっていた。
それを男は軽々ひょいと避けると宙に浮く。そして傍のカンジネーワへ指示を出すとカンジネーワのコンセントのような尻尾が俺の方目掛けて飛んできてあっという間に俺は拘束された。
「ほらほら、さっき言ったばかりやで。感情を持ってるばかりに冷静な判断ができなかったんや。ついでにお前のトキメキも闇に染めたろか」
そう言って身動きの取れなくなった俺へ男は掌を向ける。もうダメか、そう思ったが男はそのままなぜか動かない。
「……どういうことや?」
そう一言呟くと不思議そうに倒れ伏す俺を見つめてくる。
「拓君!」
「ぐっ!?」
そこへすでに変身を済ませた歩夢さんことキュアステラが男へ強力なキックをかます。しかし、男はそれを腕でガードすると振り払う。
「やっとお出ましやな、プリキュア!さあ、カンジネーワやったりや!」
「カンジネーワ!!」
男はまたニヤリと不敵な笑みを浮かべるとステラへ攻撃するようにカンジネーワを指示する。
「璃奈ちゃんは絶対に助ける!拓君はピカリーさんと安全なところにいて!」
ステラはそう言うとカンジネーワへと突っ込んでいった。俺はその間にピカリーに拘束を解いてもらう。
「間一髪でしたね。危うく拓さんのトキメキまで奪われるところでした」
そう言われて俺は少し頭に疑問を浮かべる。そういえばあの時、あいつ不思議そうな顔してたよな。あれ、何だったんだろ。そう思いながら俺はいつものようにカンジネーワの観察を始める。今回は頭がテレビのモニターのようになったネコ型のカンジネーワ。どことなく天王寺さんを感じるようなフォルムだ。注意すべきはさっきもやられた尻尾だ。
「ステラ、コンセントの尻尾に注意してください!」
そうステラへ向かって叫ぶとステラはこちらをチラと見てからこくりと頷く。そしてカンジネーワの足を目掛けて強力なキックをお見舞い。その威力にカンジネーワは思わず転倒してしまう。
「ほぅ。聞いてた通りなかなかやるようやな。カンジネーワ、捕まえてまえ!」
男がそう言うと先ほどのようにコンセントの尻尾が急に伸び、ステラへと巻きついていく。
「うわっ!気をつけてたのに!」
「ははは!これで終いや!」
身動きの取れなくなったステラへとカンジネーワの拳が振り下ろされる。しかし、ステラはそれを両手で受け止めると大きく振り払う。
「えーいっ!」
それによって体勢の崩れたカンジネーワを見逃さず、ステラは自身の身体に巻きついていた尻尾を解いてから持つとそのまま大きく振り回す。
「それっ!!」
そして空中へ向かってカンジネーワを大きく飛ばすと完全に逃げ場のなくなったカンジネーワへと狙いを定める。
「プリキュア!ステラストリーム!!」
そしていつものように必殺技でカンジネーワを浄化していく。ステラも随分と戦闘に慣れてきたようだ。流れるような攻撃に思わず息を呑んでしまった。
「トキメイタ〜」
闇のオーラが晴れていき、後には天王寺さんのものであろう白い宝石が残った。
「ふん、今回はこの辺にしといたるわ。俺はダークネスゲート幹部、ニクイネン!よう、覚えときや!!」
そう言うと、ニクイネンと名乗った男は黒い煙に紛れて消えていった。
〜〜〜〜〜〜
天王寺さんに白い宝石を戻すとピカリーがすでに変身を解いた歩夢さんに向かって言った。
「随分と闘うのに慣れてきたみたいですね、歩夢さん」
「えへへ。私もいつまでも拓君に頼ってるわけにもいかないからね!強くならなきゃ!」
そう言って笑う歩夢さん。彼女は本当に強いな。こんな状況で普通だったら弱気になりそうなものなのに。そう思っていると歩夢さんはこちらへ顔を向けると言う。
「あっ!で、でも拓君のことが必要ないわけじゃないからね!拓君には本当に困った時に助けてほしいというか……」
「分かってます。いつでも必要な時には頼ってください」
そう言うと歩夢さんはぱぁっと喜びに満ちた顔をすると俺の手を取ってぶんぶんと振る。
「うん!頼りにしてるね!!」
うん、歩夢さんのこれにももう慣れ…………るわけがないんだよなぁ。手汗大丈夫かなと、思いつつ俺はピカリーに声をかける。
「ピカリーさん、聞きたいことがあって」
「ん?なんです?拓さん」
不思議そうに首を傾げながら俺の元へとやってくるピカリー。そんな彼へ俺は意を決して話し出す。
「さっきの奴が言ってました。目的は人々の感情を消すことだとかなんとかって。奴ら、ダークネスゲートのこと、ピカリーさんなら詳しく知ってますよね?知ってるなら色々教えて欲しいんです」
そう言いながらピカリーへと真剣な顔を向ける。それを横で聞いていた歩夢さんも真剣な顔つきになると同じようにピカリーへと視線を向けていた。
しばらく押し黙っていたピカリーだったが、やがて大きく息を吐くと答えた。
「いずれは話さなければならないことですからね。分かりました。僕の知ってること、全部話します。でも、今日はもう遅いですし、明日以降で構いませんか?」
そう言うピカリーに俺はこくりと頷くとスマホの時計を確認する。もう3時を回っており、急に眠気が込み上げてきた。これは早く帰って寝た方がいい。そう思いつつ、天王寺さんを連れていくためその方へと振り向いて俺は固まる。
「…………拓さん?」
そこにはいつも通り無表情の顔を向ける天王寺さんの姿があった。一体、いつ目を覚ました?さっきのこと聞かれてないよね。てか、ピカリー隠さないと!!そう思った矢先だった。
「拓さん、固まってどうしまし………………た!?」
完全にピカリーを天王寺さんに見られた。天王寺さんはピカリーをじっと見て動かない。俺たちもしばらく動くことができなかった。
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闇の狭間。
「ホーッホッホッホ。ニクイネンさんもやられたようですな」
全身を黒に染めた男が怪しく高笑いをあげる。
「今回はただの様子見や!負けたわけやあらへん!!」
「ふふ。相変わらず負けず嫌いね〜」
声を荒げて激昂するニクイネンを青髪の女が煽るように笑う。
「そんなんじゃないわ!!あんただってプリキュアでもない一般人と妖精ごときにうまくやられたんやろ!」
「あれはちょっと油断しただけよ!!」
睨み合う二人を横目にため息を吐き、パーカーを目深に被った男が小さく声をあげる。
「…………なんか話あんでしょ。早く済ませない?」
「おお、そうでした。皆さんにマインドダーク様からお話があるそうです」
そう、黒スーツの男が言うと先ほどまで騒いでいた二人もおとなしくなる。そこへ突如として黒い霧が辺りを渦巻き始め、一つの大きな影を作り出す。その影は目を怪しく赤く光らせると片言で話し出す。
「テミジカニスマセヨウ。オマエタチニタノミタイコトガアル」
「ボス直々に何や?」
そう言ったニクイネンには少しも反応せず影は言葉を続ける。
「オトコヲツレテコイ。」
「男?それって誰のことよ?」
「オマエタチモヨクシッテイルオトコ。…………