【タクティカル祓魔師】ゾンビ・エルフ・ハロウィンナイト   作:Apilman

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ハロウィンに間に合わせようとしましたがダメだったので前編を投稿します。
次回はどうぞお待ちください。

また、作中では他の創作者様の穢耳(エルフ)が登場予定です。各話の後書きにてクレジットを表記します。


前編

「気づけば10回目のハロウィンだ、めでたいね」

 

冷風が肌を刺し始める10月30日。定期カウンセリングの冒頭、境対所属禁域調査員・飯島慎一はそう言った。カウンセラーの藤沢は唐突な言葉にさほど驚かないまま今日の面談を続けた。

 

「おめでとうございます。明日は何か予定でも?」

「ここの知己とパーティを開く予定だ。許可はもう降りてる」

 

君らのボスのお墨付きだよ、と提示されたクリアファイルには確かに判子と中身が書かれていた。藤沢は目配せし、互いに頷いたのを確認すると中身を開く。

 

使用申請

対象:界共研食堂

期間:10月31日 10:00〜13:00

目的:ハロウィンパーティ開催

備考:界共研所属穢耳・境界対策課所属縁起穢耳を招待予定。当日参加自由。飲食物の持ち込み可。

 

署名   チャ・チャカッシ・ポーヒグ

承認者  ███████」

 

「やる気だな、ポーヒグ」

「いいだろ?誰でも歓迎だ」

 

ケラケラと笑う飯島の内側から声がする。

 

内側だ。そう、喉ではない。彼の声帯ではなく、腹の底から確かに笑い声がするのだ。常人ならば恐怖するような人ならざる存在の証拠を、藤沢はいつものことと流した。彼にとっては見慣れたことなのだ。

 

「わかった、時間を作って行くとしよう。しかしこれは…昼にやるのか?」

「しょーがねーだろ、夜は他のグループが予約してたんだ」

 

飯島慎一…本名はチャ・チャカッシ・ポーヒグ。境界対策課に身売りして生き延びることを選んだ人型界異・穢耳(エルフ)達の中の一体。

そんな人間に味方する穢耳(エルフ)達の管理とメンタルチェックを任されているのが界異共存研究室の祓魔師・藤沢九郎が所属する対穢耳(エルフ)友好模索研究チームなのだ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「…というわけで明日の昼は彼らのパーティーに出席する。ポーヒグ君は境対職員の籍を持っているが、知らないやつからすれば何を企んでいるのかと勘違いされるから説明役が必要だ」

「確かに夜は食堂でうちらのパーティあるもんね〜。しゃ〜ないしゃ〜ない」

 

穢耳(エルフ)友好模索研究チームの居室で、藤沢は同僚の女に今日のインタビューについて話していた。

楡沢(にれさわ)夜澄(やすみ)祓魔師は対穢耳(エルフ)友好模索研究チームの研究者だ。元々民間の界異学者だった彼女は身分保障・給料・充実した研究資料などの理由から境界対策課に就職し、界異共存研究室に席を得ることになった。軽そうな口調から仕事ぶりを心配されることもあるが、これでも人工式神を突発で組み上げられるくらいにはやり手の祓魔師だ。

 

「そんじゃ、今日の聴取はどんなんだった?」

「ああ…それがな…」

 

楡沢が急かす中、藤沢はそろそろ話す内容ないんだよね、から始まったポーヒグの供述を語った。

 

無理もないことだ。境界対策課にポーヒグが就職してもうすぐ1年経つが、頻繁に穢耳(エルフ)の文化や習性について聴取したため、ここ最近はほとんど薄い内容だった。

先月の内容は彼が知る限りの穢耳(エルフ)のファッショントレンドだったが、中身はないに等しかったのをよく思い出せる*1

 

「今回は彼が知る神話について聞き取ることができた」

「へ〜、神話。穢耳(エルフ)語では上級種のエビデンスない歴史のことだっけ?」

穢耳(エルフ)歴元年から8000年は始祖が認めた上級種が承認したから歴史、その上級種が死んで以降は全て神話だな」

「ひゅう、逆ゥ〜!」

 

指を差してケラケラ笑う楡沢に目を合わせ、軽く肩をすくめた男は研究者のデスクに紙を投げ渡して内容を読み始めた。楡沢もクスクス笑いながら書類を手に取る。

 

 

『昔、ある上級種が始祖に願って死者を成らせて復活させる力を得た。その上級種はたちまち穢耳達から大人気になったが、死者はもう一度死ぬことを嫌って上級種の枝に居座り続けた。やがて死者は腐り始め、上級種の体もそれに巻き込まれて病毒に侵された。上級種は始祖に力を返そうとしたが、スカスカになった体は自重に耐えきれずに崩壊し、生きたまま死んだ。始祖は残念がり、二度と死者を蘇らせる能力を与えなかった。』*2

 

 

「こっちにも似たような神話ってなかったっけ?多分死者蘇生のタブーについて示唆してるんだと思うけど」

「それがそうでもないらしい。ポーヒグはこれを偶然会った従者…上級種に聞いたそうだ。その時…」

「その時?」

「…アホらしい話だがその上級種は『ちょっとした笑い話』としてこれを話したんだと。どういう暗喩なんだか」

 

語り合えた藤沢は手元のファイルを机に置いた。楡沢は黙り込んで考える。

 

(穢耳(エルフ)の文化は人間に近いようだが、命の軽さは人間のそれよりもっとひどい。階級が一つ下がれば死亡率は一桁増えるという話を聞き取ったほどだ。ここまで命のハードルが崩れているのに死者蘇生に制限があるのだろうか?)

 

ペン先が上下に頷き、しばしの沈黙が部屋に流れる。藤沢が何か聞こうとして、真剣な祓魔師の面持ちを見てやめるのを何度か繰り返した。

ふと何かを閃いた女が顔を上げ、喜んだ声がそれを破った。

 

「意外と言葉の通りだったりして?」

「なに?」

 

藤沢はとうとう抑えきれずに聞き返した。

 

「言葉通り、これはちょっとした笑い話なんだよ。彼らが長生きで神話と歴史が逆転してることを思い出してごらん」

「…あれは職場の失敗談を語るようなものだと?」

「お、わかりやすい例え。それ私も使お」

 

この方向で攻めるなら、と楡沢はホワイトボードまで歩いて行くと黒ペンでいくつも仮説を書き連ねた。こういう発想や連想では研究職でない藤沢も負けていない。彼らは1時間程度の議論を通して3つの最終仮説に至った。

 

「一つ、これの元ネタは穢耳(エルフ)上級種の失敗談。多分コピーを作る能力とかが作りすぎて動けなくなったとかだね。

二つ、この話は後世に伝えるものではなく誰かがそれを盗み聞いたもの。上級種は穢耳(エルフ)文化じゃ最高の立場にいるのに、登場するヤツは名前すら出ないから歴史とかじゃなくて作り話だと思う。

三つ、本人…本人?穢耳(エルフ)的には本樹の方がいいかな。本樹はこれを問題視してないこと。じゃなきゃ口封じされてるはずだよね?

…ま、こんなとこかな」

 

最近研究しがいのあるネタ少ないなー、と一人ごちる楡沢の机に湯気を放つ容器が置かれた。藤沢が持ってきたインスタントヌードルだ。時刻は21時半、ちょうど腹が空く時間。

 

「お、期間限定シーフードチーズカレー。趣味がいいね〜」

「まだやることはある。穢耳(エルフ)歴700年から8000年までに行われていた中級種基礎教育について……」

「藤沢さん!楡沢さん!た、大変です!」

 

夜の予定を立てていた二人の部屋へ駆け込んできたのは界共研の新人だった。彼は息を荒げてぱくぱくと口を動かしている。研修のため境界異常研究保護棟に配属されていたのを藤沢は知っていた。

 

「落ち着いて深呼吸をするんだ。…よし、どうした?何があった」

「はいっ、その…エ、穢耳(エルフ)が…穢耳(エルフ)が増えて…」

「何?」

「ちょっとどういうこと?まさか接ぎ根*3ができてたってわけじゃないでしょうね?」

 

慌てふためく人間たちに向けて走り寄ってきたのは昼のカウンセリング相手だった。ポーヒグとしての彼は3人の顔を見ると膝から崩れ落ちた。肉の顔は真っ青で血が通っている様子はない。事実、肉体の中に潜む穢耳(エルフ)は人間を模倣する余裕を完全に失っていた。

 

「悪夢だと思いたかったが君達がここまで鮮明ってことは現実なんだな?!」

「だから何があったんだ、教えてくれ!」

「『偽始祖』だ!『偽始祖』が出やがった!俺たちみんな死んじまう!助けてくれ祓魔師、頼む!!」

「…なんだって?」

 

突如飛び出した言葉に困惑する藤沢、恐れて震える新人祓魔師、頭を抱えて喚くポーヒグ。混沌とした居室の前で聴取内容にそんなんいたような気がするな、と楡沢は考えていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

『10月30日22時、インタビューを開始します。強大な穢耳さん、てめえの名前を教えてくれよ』

『あのさ、それもうちょっとどうにかならなかったの?』

 

鋼板を打ちつけ、頑強な結界が張り巡らされた調査室。界異共存研究室が保有する「界異へのインタビュー」のための部屋である。真ん中に置かれた机には2脚の椅子が向かい合っており、藤沢は片方の椅子に座って穢耳(エルフ)と対面していた。

 

『何がでしょうか?言ってみろやおい』

『その言葉遣いだよ。どこで穢耳(エルフ)語を勉強したか知らないけど丁寧なのか喧嘩売ってるのかわからないんだよね』

 

簀巻きにされた穢耳(エルフ)が呆れたような口調で言った。他の穢耳(エルフ)にはない黄色い目がじとっと藤沢を睨む。たったそれだけで彼は生きた心地がしなかった。

 

『じゃあ聞かせてもらうぜ雑草野郎、貴方様は上級種にあらせられますか?』

『わざとだろ?君絶対わざとだよな?…はあ、質問には是で返させてもらう』

 

銀が混じったグリーンゴールドのショートヘアがため息と共に振られた首についていった。金色の髪を持つ穢耳(エルフ)……すなわち眼前のこれが極めて強い個体、穢耳(エルフ)の上級種であることを示していた。折れたツノの痕が残る敗残兵のようなそれは、次の質問をしようとした藤沢より先に口を開いた。

 

『何が言いたいかはなんとなくわかるよ肉脂。なぜ私がここにいるのか、君たちが知る偽始祖()穢耳(エルフ)歴8000年、大叛逆事件の主犯として始祖に討伐されて死んだはずだ…だろう?』

『全くその通りだ。どういうこったてめえ殺すぞコラ』

「…言葉を変えないか?話に集中できない」

 

偽始祖は言語を流暢な日本語に切り替えた。穢耳(エルフ)が憑依先の人間から知識を吸収することは知られていたが、1時間もしないうちにここまで理解できるものか。

藤沢は未知を解明した喜びと、それを上回る恐ろしさで背筋を震わせた。

偽始祖はフフ、と首を傾げて嗤った。

 

「答えはわからない。私はあの時穴の空いた葉っぱ*4と殴り合って、最後はあの小ぶりな果実がなる花*5の小手先の手招きに呑まれたはずだ」

「こちらで記録している歴史ではそうなっています」

「だろうね。中級種から私のことも聞いているのかい?」

 

質問に藤沢は首肯した。

 

「ええ。穢耳(エルフ)歴8000年の大叛逆では始祖に対して反旗を翻し、争いの果てに穢耳(エルフ)の総数を4割にまで減らしたと…」

「なんだそれは、捏造だ!そんなに穢耳(エルフ)を減らすのは私じゃなくてヴェニデアスの捩れ幹*6の方に決まってる!」

 

荒ぶる偽始祖を取り押さえるのは十重二十重に巻きつけられた分厚い簀巻きとその下の注連鋼縄、忌み火で焼入れされた高加護含有霊鋼製拘束祭具、そして神祇官7人がかりの拘束術式だった。

偽始祖が抗議の意を示しながらガタガタ椅子が揺らすたびに術式が強く輝き、枷がきしむ。表に出さないように極力注意したが、藤沢は内心気が気でなかった。

 

「…まあいい。とにかく私がここにいる…つまり甦らされたってことは、あの弱芽まみれの枝*7が気合い入れて動き出したってことなんじゃないか?」

「…つまり、どういうことでしょう」

「婉曲な言い回しを知らない?…いや、こういう場で明確な言葉を引き出さないといけないんだったか。構わないよ肉脂」

 

偽始祖は言葉を直して同じことを言った。

 

「あのクソ野郎がこっちの世界征服に本腰入れ始めたってこと。ハロウィン…死者が行き来する日を利用して現世へかつての従者どもを送り込んできたんだろうね」

「……!」

 

祓魔師の顔が驚愕に開かれる。扉の奥から微かに聞こえる足音が俄かに増えたのを聞きながら、偽始祖は薄ら笑みを浮かべた。

 

「ま、頑張りなよ肉脂。私は君たちならあの雑草の手下を倒せると信じることにするから」

 

 

「それに穢耳(エルフ)最強はいまここにいるんだからね。外の奴らは私と比べたら脅威じゃない」

「…無力化されて捕まってますね」

「本当にね!なんでだろうね!そろそろ離せよ肉脂!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
ちなみに彼のお気に入りは海面藻グリーンのボタン付きジャケットだった。楡沢は穢耳(エルフ)ちゃんってあんまり色の趣味よくないね、と語っている。

*2
人間語訳済み。

*3
穢耳(エルフ)が繁殖のために使用するもの。穢耳(エルフ)の体の一部分を折って地面に埋め、魔術を使うことで一定時間ごとに穢耳(エルフ)が生えてくるようになるという。

*4
穢耳(エルフ)語。訳語は「狂人」「頭がおかしい」「████」と同義。

*5
穢耳(エルフ)語。訳語は「臆病者」「卑劣漢」「下衆」など。

*6
穢耳(エルフ)語。訳語は「ひねくれ者」「嘘つき」。

*7
穢耳(エルフ)語。訳語は「いくじなし」「うどの大木」など。




同族に居場所を聞いたらビビられるし、肉脂は同族に味方してよく効く拘束具をつけてくるし…チンタラしすぎて対策練られてるじゃねえかあのボケカス!
───『偽始祖』

○登場人物、組織、界異
識別名【パパラッチ】(飯島慎一/チャ・チャカッシ・ポーヒグ)
https://w.atwiki.jp/nandayo/pages/239.html
界異共存研究所(界共研)
https://w.atwiki.jp/nandayo/pages/122.html
穢耳(エルフ)
https://w.atwiki.jp/nandayo/pages/231.html
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