【タクティカル祓魔師】ゾンビ・エルフ・ハロウィンナイト 作:Apilman
10月31日に日付が変わった頃、全国で境界対策課の祓魔師が展開していた。
境界対策課の縁起・
「うん、わかってるよ。なんせ全国どこでも
境界対策課オペレーターと通信を終えると同時に神無は、一度息を整えた。陰陽寮時代から生きる大縁起はこの程度の存在に負ける気は更々なかった。
…今回は別の理由もあるが。
「誰もこちらには目を向けない。なら…もういいよね?」
独り言した彼女が剣を振るう。カウンターの向こうからこちらを伺っていた
『愚ッ偽ぃi…』
「ありがとう、ボクのためにわざわざ来てくれて」
麗しいかんばせと凶悪な中級種の目が合う。紅玉と下劣な緑が交差する。
瞬間、眼前の
『従ゥsY亞さ魔…何z』
「食べる前の挨拶を忘れちゃいけない。いただきます」
細枝の言葉は最後まで続かなかった。神無の口が小さく開いたかと思うと、
樹皮がメキメキと嫌な音を立てながら千切れていく。よく焼けた皮を喰むような咀嚼音と
神無は舌先を軽く指で撫で、緊急避難結界を敷いてやった。振り乱れた髪の下に見える耳は長く伸びていた。
「後処理の必要がないのは楽だね。君は必ず助けるから安心しておくれ」
神無は古い縁起だ。平安最高の陰陽師として名高い安倍晴明が師・賀茂保憲の下で修行に励んでいた頃から人間と親しみ、彼らの信頼を勝ち取った長命の界異だ。クラシカル祓魔師が術を唱えるのを支える時代から、タクティカル祓魔師と肩を並べる時代まで長く共にある。
───彼女の、
2000年近い生の半分以上を現世で過ごしたアウラは、その正体が
寄生界異の影響は外見だけにとどまらず、アウラは
「ああ満足だ。本当はまだ食べたいけれどボクが時間をかけたら境界対策課の皆が心配してしまう。ボクだけのハロウィンパーティにくれぐれも来ないでおくれよ」
普段は食えない
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『黒髪、肉脂の如き肌、赤い目。…不届き者め、始祖を裏切るのか』
中級種と低級種が群れようが神無の敵ではない。つまみ食いで腹を満たしながら2階を制圧し、3階へと上がってきた神無を待ち受けていたのはひときわ立派な体格を持つ1体の
艶めく銀の長髪と草汁で染めたらしいマントをたなびかせ、長槍を持って堂々と立つ姿は一歩も進ませまいとする強い気迫を感じさせた。黒い眼窩で暗く輝く緑色の目が神無を強く睨みつける。若枝は素知らぬ顔で返事した。
「なんのことかさっぱりだ」
「
「おっと、カマかけか。キミ、流暢に喋るね…おまけに賢いみたいだ」
「抜かせ。舌が樹液臭いぞ」
両者が武器を構えた。神無も、槍の
縁起は片割れの切先を向けつつ切り掛かる好機を狙い、
来ないのか?
そちらこそ。
睨み合う視線が交差して互いを図り合う。
どちらが来るか、こちらから仕掛けるか?いやまだだ。
『殺rRrス!!!』
均衡は破れた。神無の背後に1体の
ギギギッ…ガァン!
咆哮と共に袈裟斬りにせんと槍を振るうと、神無はもう片方の双剣で受け止めた。しかしどうにも姿勢が悪い、低級種と槍の
シュッズドン!!!
バギバギバキ…ゴッッ!
即座に受け流すことを決めると槍を床ヘ誘導し、突き刺さったままのもう片方を低級種の体から力づくで引き抜いた。膂力が弱いとはいえ、集中すれば低級種に負けはしない。断末魔の叫びと共に壁へと蹴り倒された低級種は祓滅され、患者衣の女が力なく伏した。今そんなものに気を向ける余裕はない。
下から三日月を描く槍を紙一重で躱しつつ、返す上段で切り結ぶ。周囲の穢れをかき集めて若枝の細腕を強化しどうにか鍔迫り合っているが……
一蹴!並の中級種よりも強い力で剣を弾いた
体の中で寄生界異が餌を与えられて全力で動いているのを感じながら、若枝は
「くっ…やるじゃないか」
「ああ。だが我のことを見誤ったな」
槍の
「従者…!?なぜ」
バジュッッ!
「っぐ……」
人間を知った気取った
剣の片割れを取り落とさずに距離を取れたのは僥倖と言えるだろう。ねじり折られた枝のようにぶらりと垂れ下がる腕を見ながら神無は全てを理解した。
「なるほど。あの目はゴマカシだったわけだ」
「少し違うな…もっとある」
槍の
その姿に、神無は思わず狼狽した。境対のブリーフィングで上級種が現世へ侵攻してきているとは聞いていたが、それでもなお驚かざるを得なかったのだ。
「馬鹿な。キミは、キミは…」
「我が名はギスレンデル・アポカロストラ・ブラウーイャク!偉大なる始祖によって【
老木───ブラウーイャクが槍を回して鋒をたじろぐ若木へ向ける。
ギスレンデル・アポカロストラ・ブラウーイャク…
神無…もといアウラはそこで覚悟を決めた。久しぶりに
「フフフ、ハハハハハ!光栄だよ勇樹、まさかキミを食べられる日が来るなんて!」
「どうだか。先に顎が落ちるのではないか?」
「いいや、落ちないよ。ギスレンデルがギスレンデルを狩るはずがない」
「…何?」
縁起として使用できる力、その限界を超える。大昔に賀茂保憲がかけた力を制御する術は、1000年の時を経て形だけに成り果てていた。
それでも自由に暴力を使わなかったのは人間という存在がアウラにとって都合が良かったからだ。始祖の経典には載っていない
今ここに人間はいない。だから存分に力を振るえる。
「改めて名乗ろう、ボクはギスレンデル・アポカロストラ・アウラ。
「な…何だと!?ありえん…我の接ぎ根の枝が、このような…このような…ッ!?」
今度は名を聞いたブラウーイャクが動揺する番だった。隙を突き返したアウラは千切れかけた右腕を振りかぶり、握っていた剣を勢いよく投げつけた。
老木は咄嗟に躱したが、その行動は明らかに遅れていた。肩口に突き刺さる剣が左腕の動きを止めている。大きな負傷だが、ブラウーイャクは引き抜くよりも戦闘継続を選んだ。
「ハハハハハ!これで平等だ!なかなか悪くないだろう?」
「貴様…」
勢いに乗るアウラの手は止まらない。ボロボロの右手を強引に動かし、遠心力で引き千切りながら拳骨を投げつけた。穢れを拳に偏らせることで実現した凶悪なスローイングパンチは反撃の嚆矢となったのだ。
使い物にならなくなった腕が肩口の剣を掠め、苦痛に顔を歪めるブラウーイャクへアウラが突貫する。槍の間合有利も十全に振り回せない状況下では意味がない。壁際に追い込まれゆく老木は明確に不利だった。
「ほらほらほら!ここまで追い込まれてるんだからさ!いい加減負けを認めたらどうだいゴセンゾサマ!」
「チィっ…!!」
壁をぶち壊しながら暴れるアウラの勢いに対し、ブラウーイャクが取れる手段は槍を捨てて左腕を構えることだった。
アウラはかつて、過去の
若枝はその中の記述をふと思い出した。かつてブラウーイャクが始祖と手合わせした時、始祖の玉体にヒビを入れたのは左腕の貫手だったという。その神秘が今ここに再現されようとしているのだ。
だからどうした?とアウラは剣を大きく振りかぶって、それは明らかに隙だったがそんなものどうでもいい、今ここで奴を斬り殺すことの方が重要……
…
…
「!!!!!!」
ズギャン!!!!ヂッッッッ!!!!!
それはまさに紙一重の差だった。敵を喰らえと叫ぶアウラの思考が急速に冷め、咄嗟に体中の穢れを掻き集めて回避行動へ全力を費やしていた。
あらん限りの力を込めて右へ逃げるアウラ、その頬を歴史に残る貫手が掠めた。無様に転げるようだったが、横っ跳びに近いダッシュは廊下の端から端まで間合いを確保するのに役立った。
いくら
「始祖より賜りし力から逃れたか、裏切り者め」
「はっ…ハハハ…残念だったね。キミの力は調べたことがあるからもうわかってる…『心を昂らせる』、だろう?」
「さて我の名が残ったことを喜ぶべきか、あるいはこれが生まれたことを恥じるべきか」
何をしてくるか予想がつかない…これこそが忌火という明確な弱点が存在する
ブラウーイャクの特性は『心を昂らせる』こと。強制的に激しい興奮状態にすることで、相手の思考を単純かつ後先顧みない状態へと変えてしまうことができるのだ。興奮状態の相手は普段出すことができない潜在能力を引き出すことができるが、それを活かす技も考える脳もないまま老木に討ち取られることになるのだ。
今際の際でそれを思い出したアウラは逸る気持ちを押し殺して回避し、必殺の一撃を重傷に抑えてみせた。
「我の力を解き明かしたとて不利なのは貴様の方だ。分かっているか?」
「フフ、試してみるかい?」
今すぐ前進しろ、殺せ、とにかく殺せと叫ぶ思考を必死で宥めすかしながら神無は残る左手を振るった。槍を捨てた老木は残る右手を握りしめ、若枝の頭を破壊せんと縦横無尽に隙を狙う。
ブンッ!ゴッ、ガギッ!!
ガシャァァン!
隻腕の
何度も神無の樹皮に拳が擦り、時折引き剥がされた。突っ走りそうになっては攻撃が直撃して狩衣が破壊され、見る影もない。
(ああ、大事にしてきた巫女服なのになあ!)
一方のブラウーイャクも激しい斬撃を避けられていなかった。長い銀髪は散切りにされ、豊かなヒゲ根も顎の一部ごと切り落とされている。
貫手が上手く決まらなかったのは痛恨の極みだった。恐ろしく切れ味のいい双剣を受け止め続け、さらに負傷し続ける老木の消耗は如何ともし難い。
(我には分かる、あの双剣も始祖から賜った武器だ。そうでなければどうして我がここまで疲れ果てよう)
長く五分も斬り合い殴り合い蹴り合い、もう一度距離を取った両樹は互いにひどく疲弊していた。ボロボロになった樹皮を見ながら神無は老木に問いかけた。
「まだ続けるのかい?これ以上はボクも本気を出さざるを得ないよ」
「フン、いつまでその自制が持つものか」
ブラウーイャクはもう一度槍を持っていた。疲弊し、右手だけしかないとはいえ今の裏切り者相手には十分…そういうことだろう。
老木の言葉は間違っていない。実際、神無の精神は戦闘の最中何度も昂りに乗せられそうになっては自制を続けていた。明らかな隙を見せてはすぐにそれを塞ぐ様はある種滑稽だっただろう。10分も持つまい、とブラウーイャクは判断した。
「持つさ。あと3分で全てが終わるからね」
「肉脂らしい戯言を───」
ゴオオオッッッ!!!
『───ッ!?ぐあぁぁぁああぁぁぁあッッッ!!』
青天の霹靂、思わず
「境界対策課だ!大人しくしろ!」
「この辺りのお仲間はみんないなくなったぞ!観念しろ!」
「神無、大丈夫か?」
階段を駆け上る大人数の足音。彼らは一様に同じ服を纏い、黒い刀や銃のような道具を持っている。またある者は指先に輝く加護を持ち、またある者は持ち手のついた筒から白く輝く炎を噴き出している。
そう、祓魔師だ。別の場所で作戦に当たっていた彼らが大挙して踏み込んできたのだ。先頭に立つ祓魔師が持つ忌火放射器『紅蓮』は
「おかげでだいぶ助かった、来ると信じてよかったよ」
『〜〜〜〜〜〜ッッッ、のッッ……肉脂がぁぁぁぁッッ!!!!』
「推定四号級、過剰に興奮させる能力あり。ボクじゃ抑えるのに手一杯だった。ごめんね、後は任せたよ」
貫手で裂かれた右半分を覆いながら神無は祓魔師の間へと逃げ込み、あたかも戦いながら調べたとでも言うようにブラウーイャクの詳細を伝えた。
長い耳ごと吹き飛ばされているために、彼らは眼前の縁起が
神無にとっての勝ちはどんな手を使ってでも界異を祓滅することだ。ではブラウーイャクにとっては?
答えは老木すらも知らない。多くの樹を現世へと召喚した大いなる始祖の意思は誰にもわからないのだ。
退くことができるか否か。
『あるべき戦場を見誤ったね、ゴセンゾサマ。じゃあさよなら』
『貴様!貴様ァァッッ!!』
「来るぞ…構えろ!」
「紅蓮の充電は十分か?」
「燃やせ燃やせ!
裏切り者の逃走、外道に堕ちた末裔への怒り、逃げられることへの悔しさ、忌まわしき火の苦痛、肉脂ごときに追い込まれた状況……あらゆる原因が重なってブラウーイャクの頭は真っ白になった。
さながら自分の能力にかけられた肉脂のように暴れ狂った老木の末路は炭すら残らない祓滅であった。
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病院の外では既に境界対策課の車両が到着して被害者の保護を行っていた。神無が張った緊急保護結界のおかげもあってか犠牲者はごくわずかで済んだ。
新たな狩衣と耳当てをもらった神無は祓魔師の治療を受けながら一人言した。
「
一口でもいいから食べたかった、と悔やむ姿を見ながら背後の祓魔師は笑った。
「神無さん、そんなに落ち込まないでください。タクティカル祓魔師は協調と団結の賜物ですよ」
「…ああ、うん。そうだね」
ブラウーイャクは良い従者です。██に忠実な、使いやすく果敢な枝ですから。
───『始祖』、穢耳歴史書【大文明戦争記Ⅲ】より引用。
○登場
神無/ギスレンデル・アポカロストラ・アウラ 風船グミ様作
ギスレンデル・アポカロストラ・ブラウーイャク Apilman作