「ねえ、知ってますか先生。アグネス・ギーベンラートと鏡流は同じ声なんですよ」
「______なんて?」
「もう一度言います。アグネスと鏡流は同じ声です」
「多分一番聞きたくなかった事実だな。いやだ!師匠とあれが一緒の声なんて!」
「クソ女はフレイで慣れたでしょ!」
いきなりとんでもない話から始まったが、現在アリスは大苦戦中。
いっそのことゲームで安全に決着をつけようとした不良たちはそう先生たちに提案。シャーレ側としてもいくらキヴォトスとはいえ怪我人を容認するようなやり方は良くないと乗ることにした。が______
「くっ!何でロビカスがピッチャーなんですか!」
「あら。女の子がそういう言い方をしてはいけません」
「ならその変な投げ方やめてください!」
「そしたらつまらないでしょう?大丈夫です。アリスさんなら私の球を打てるようになりますよ」
「うぎーっ!」
アリスは50回中40回のホームランを打てという不良側の条件が全く達成できずにいた。
ピッチャーの女性はドレスを着ていて、耳の後ろから羽が生えている綺麗な方だった。胸は大きい。
その女性が消えるボールや左右に揺れるボール、おまけにホワイトボールというバウンドするような軌道で投げてくるボールを放ってくることでアリスはホームランを全く打てずにいた。おまけに球速があまりに早く、プロ並みの速度で放ってくる。
ただ位置を合わせてホームランをするだけなのに、悉く投げられるボールと噛み合わずにストライクを連発。
「大丈夫ですかアリスさん。少し休憩挟んでも大丈夫ですよ」
「いえ!休みません!アリスは機械なのでそっちの方を疲れさせます!」
「うふふ。デッドヒートレースですね」
「ロビンさんの口からそんな言葉が出るなんて」
「何か歌いましょうか?」
「くっ……!」
アリスが悔しがっているが、やはり相手は少し手加減をしようとしている。急に歌い始めたロビンさん。
「さーかせーたあーかいといきをーさーかづーきにー」
「何でcrosswise?」
「知りたいか!」
何故だか得意げになっている不良が先生に自慢しようとしてくる。
「ロビンさんはこの街に来てからいろんな音楽を聴いているんだ!ボーカロイドも聴いているぞ!」
「そりゃいいことだけどcrosswiseよりかは優先して聴かせるべき曲はあったと思うよ?」
「何があるんだよ」
「Unwelcome Schoolだよ!なんであれで歓迎しないの!」
「だってこのキヴォトスでUnwelcome School流れたのそんなにないよ。何だったら今これで書かれてる範囲では一回も流れてないよ。でもcrosswiseは二回流れた」
「なんか、あったじゃん……もっとこう。別の曲。それこそカズサ達が頑張ってくれたし、DJサオリもいるんだよ?」
「西川貴教を布教したかった。これ書いてる人も今東離劍遊紀見て聆牙が人型になって大発狂してるから」
「恐怖ゲージ溜まりそう」
不良と話しているうちに、黙々と打っていたアリスはついに39本目を打った。残り1本だがこれさえ打てば勝てる。
「いきます」
「どんとこい!です!」
その一球が放たれた。
左右に揺れるボールだが打てる。そう思ったアリスは、勢いよくバットを振った。
……だが、言っておく。現実である。
投げる方は常軌を逸したボールを投げてくる上、人よりも早く正確に打てるAI。それに挟まれたバットなど、考えればわかるが地獄そのもの。
おまけに付け加えておくと、もうかれこれ2-3時間はやっている。初手こそ緊張感に包まれていたが、それも勢いを無くして雑談をするほどの緩みっぷりだ。
そうなるまでの時間酷使された木のバットは_____
バキ。
球を跳ね返そうとしたが触れた段階で折れた。無論、勢いよく当たったと言うことは当然跳ね返る。跳ね返るが、どうやらコントロールは出来なかったようだ。
破壊された影響でどうやら力が思ったように跳ね返らず、ロビンの足元へ転がってくる。
「おもいーがーしゅんをかーけーぬーけてー、ぐれんーのーひーをえーがーくー♫」
「アリスのバットに一撃を入れないでください!」
「あらあら、ごめんなさい。まさか壊れるほどの力で投げてたとは思いもしませんでした……」
「さっすがロビンの姉御だぜ!」
アリス、まさかの敗北である。
バットの代わりになるものはなく、光の剣はまだ故障から治っていない。
「やっぱこうするべきだった。早めにゲームと称して仕掛ければ、いかに仕掛けがあろうとこっちが勝てるんだからなあ!まあ、今回はそんなイカサマしてないけど。外注で頼みますよってやったくらいだから」
「確かにピッチャー頼んだだけでバットに仕込まれたとかはなかったな。細かいレギュレーションも無かったし、何ならあれだけ振って当てても無事だった。くそっ、今回ばかりは相手の方が正しいか!」
「でも困ったことがあるんだよな」
「なんだ?」
そう、ここで不良は困った顔をする。
「わりと正直にやってきたがそっちが負けた時のペナルティ決めてなかったな……いやまあ、アリスちゃんの身柄を貰うとかしてもあまり意味ないし、武器とかをよこせって言っても良かったんだがどれも微妙なんだよな。根本的に自由にするには先生を頂いていくぜってカッコよく言えればよかったんだが……それするとキヴォトス終わっちゃうからな」
「賢すぎない?」
「仮に先生攫ったとしてうちらじゃあの悪魔止めれないから」
「ヒナのこと?」
「だって武力足りないんだもん。数で攻めれてれば良いんだけど、戦略と統率力がないまま数で押し切ろうとすると戦略のあるなしで結構必要な兵数は変わってくる。そうは思わないか?」
「ああ、うん。君が頭脳になればギリギリ足りるかなって感じ」
アリスはしょぼくれて、プレナパテスに抱きついている。ピッチャーロビンも慰めるように近づいた。
「大丈夫。いつか、私の球を全部打てるぐらいには強くなりますよ」
「うわーん!」
そんな光景を微笑ましく思いつつも、先生は不良と話を続ける。
「かの魔術師だって言ってたぞ。必勝の策は相手より6倍の兵を集めて戦うことですって。ここにマイナス戦略ってなったら2条は必要、相手より36倍の兵力がないと無理」
「いやあずいぶんインテリだね。だからゲームで勝ったらベアトリーチェ派の居場所を教えてやるって言ってたんだ。事実これで勝ったから、ウチの考えは間違ってなかったんだろうよ」
「だが勝つと思っていなかったのもあったのか、自分たちの勝利でなんか貰おうと言っておくのを忘れていたわけだ」
「さっきも言ったが武器を貰ったところで一人にしか行き渡らない以上はあまり意味はないしウチらは多分それの取り合いで騒ぎを起こす。先生は下手に誘拐できない、アリスの身柄は奪ってもあまり意味はない。ウチらに取っては。そうなると思いつかなかったんだが……まあ」
不良は、悔しがって泣きついたままのアリスを見た。
「逆に良かったのかもしれないな」
「なんで?」
「代打だから純粋勝負とはならなかったが、まあイカサマはせずに勝っただけでも上々だ。あの小娘が悔しがる姿を見れたし、ならそれで汚辱を濯いだという事で。ベアトリーチェ派が何処にいるのかも教えてやる」
「いいのかい?あくまで自分たちの仲間だろう?」
「一枚岩じゃないからな。いっそ、高潔という幻想と負かしたという実績で混沌ではない誇り方をするのも悪くない」
そう言って不良は笑った。
外は明るいが、どうやら雪が降ってきている。もう少しすれば、雪遊びが出来そうだった。