アリスはどうやらすごい技術を手に入れたようだ。
「皆さーん!アリスが倒しにきましたー!」
そんな恐怖の声が聞こえた。
今までの彼女の暴走によって、当初よりもかなり兵が減り、兵器の減少も相まって今はかなり兵力的に厳しい状態となっている。
今回のヘルメット団基地の壊滅については、出来る限り基地を潰して人があまりいない場所へと追い払うことである程度の平穏をもたらそうとする先生の判断。無論、悪いことをしたならその分はちゃんと返してもらわないとならない。
本来はヴァルキューレが摘発すべき案件であるが、そのヴァルキューレ自体もあまり機能していない。公務員が歩合制になろうものなら、楽するのが当然。既存法律に違反しない、そう言う生活をしていた人間の気の緩みを待つという悪辣なものへと変化するのは妥当だった。
仮に志高い人間が居たとしても、文明というものはそれに殉ずる数で決まる。組織という社会でもそれは変わらないと言っていいだろう。
つまり、危険であり失敗のリスクが高い存在は放置するに限る。悪事に生まれ、悪事が人生である人間はそう言った糧にならない。名誉になろうとも、名誉だけでは食えない。それを得るまでに必要な鍛錬と、その実力を保つだけの努力が必要となるのだから。
これらは絶対に無駄にならない、実績は上げなくとも下地が整えばあとは実る時期を待つだけだ。しかし、それができないのが人間だ。こと公務員においては、発展する産業ではなく安定という不変であるべき部分の担当。ずっと進化していく道理はないと割り切るものも多かった。
組織体質は個人による改革では変わらない。先生もそれを変えるだけの努力をできる立場でもなく、異性であり大人であり、それを狙うというならば殊更ヴァルキューレは検挙の蛆どころか共食いまで初めてしまうだろう。
そこまで理解していた先生は、シャーレの分野としてこの問題を解決することにした。
さて、ここまで無駄話をしたのだが、それでも状況は動かない。ただ時々
「みなさーん」
そういうアリスの声が、まだ直りきっておらず廃墟に等しい基地にこだまするだけだ。
不良達は、話せるだけの理性はとっくに削り取られている。セリフとして切り取ることもできない嗚咽、それもまたこだました。
先生は、アリスがどういうことをしているのか知っている。ゆえに、何も言わずに足音を出す。
学生は基本ローファーを履いていて、それは先生も一緒だ。歩き方さえ気をつければ、先生の足音が出たところでそれがアリスのものであるかどうかの判別はつかない。
「くそっ何がどうなってるんだよ!頭がおかしくなりそうだ!」
「仕方ない!みんな、手分けして探すぞ!」
「探すぞってったってどうやって!?」
「知らない!知らない!」
「皆さーん」
「ヒッ」
不良達は怯えているが、まとまっているだけではただ埒が開かない。
不可思議は、現実であると認識できる場所を広めるのが吉。暗いところ、はっきりしないところに幽霊は湧きやすいのだから。
「よ、よし!四班に分かれるぞ!」
そう言ったまとめ役の指示によって、四つの班に分かれて探索を開始した。
自分たちがいたところだ。そう言って三つの班は周辺調査、安全だとわかってる場所は四つめの班が待機して見張る感じになる。
それでも鳴り止まない足音とアリスの声。
精神崩壊寸前の彼女達には、まだその姿は現れない。無論、これからどれだけ探索しようとも出会うことはない。
_____そして、その正体が明かされる時がやってきた。
一人の少女が、壁の方を見る。
「な、なんだこれ」
そこにはあるミレニアムの生徒の壁画があった。
「ひっ!」
「落ち着け、誰かが勝手に書いただけかもしれないだろ!」
それで誤魔化せるものでもない。
何故なら、道路などのスプレーのような落書きでもなく本当に壁画らしい絵だったからだ。古代文明のイラストセンスと言ってもいい。
それらを不良が好むかと言われれば否であり、さっきから続いていた現象をさらに恐ろしくする要素にもなった。
もはや発狂して目を逸らす者も出てきて、その結果取りまとめ役が気にするなと言ってその壁画は無視されることに。
……音もなく、その壁画は実体となって現れた。
皆がその壁画から目を逸らした一瞬のタイミング。
カンテラのかたん、という音と共に爆炎が弾けて目を逸らしていた指示役の生徒を焼いた。
「あっづ!?あ、あぁ……!」
急に人が焼かれて、その悲鳴に不良たちは振り向く。
壁画は溶け落ちて、インクのように散らばった液体がそのまま人の形を成していた。それで作られたカンテラの威力は高く、何度も炎を出しては同じ人間を焼いた。
もう言葉でもない叫びが何度もこだまして、その恐怖に晒された者達はそのまま脱走。燃えている少女はそのまま近くにあった水桶に突っ込むが、真冬の水桶など地獄に等しく、また燃やされているのに突っ込んだ冷水の温度に身体の方がついていけずに気絶することに。
それでも、誰もがその部屋に帰ってくることはなかった。
「ななにがあったんだよ!?」
「壁画が動いてドンを焼いちまったんだよ!」
「そんなことあるか!?」
そう他の班に合流した者たちも、ただならぬ叫びと燃える景色が向こう側に見えたのが目に飛び込むと言われたことの事実が、全ての恐怖と生存欲を刺激して脱兎の如く逃げ出した。
「わ、わ、あああああーっ!」
「いやだああああーっ!」
その悲鳴が、この基地の最期となった。
もはやその部屋には形崩れた液体の少女を模ったものが一つ、大火傷をした上で気絶した少女が一人残されたまま。
その部屋に、足音を立てて入ってきたのは_____
アリスだ。
「終わりましたね」
反対の扉からは先生も入ってくる。
「終わったね」
二人は顔を見合わせた。
アリスが持ってきた大きめの水筒が開かれると、少女の形をした液体は一滴残らず水筒の中へと保存される。
「しかしまあ、これだけホラー展開になったはいいけど……一応これ勇者の真似なんだよね?」
「はい!神々のトライフォース2のリンクの真似だったんですけど……壁画になるのは流石に無茶だったので開発部の方にお願いしたらこれが出来上がりました」
壁画になったり人型になったりするこの液体。
開発部が開発した自律移動可能なナノマシン入りの磁性流体だ。磁性の特性制御もできるようで、それによって道具を作り出して、コイルを作ってその熱を暴走させて炎を作っていたらしい。
「これを上手いこと利用するとあんな感じでアリスの移動する壁画が作れたりします。ナノマシンの方は結構一個に相当な性能を詰め込んだそうなので通信も可能で、ああやって相手を怯えさせながらも侵入させることができるんです。どうでしょう?」
「これって他の道具を作って出したりは可能なの?」
「アイスロッドとかは無理ですけど、一部再現はできたりしますよ。弓とか虫取り網とか」
「なるほどなあ……」
先生は頷くと、彼女は一つ質問した。
「今回のこの装備ってどうですか?」
「あー、普通にいいと思うけどあまり乱用はしないで欲しいかな。まだキルプロセスないっぽいし、カウンターが出来てから大っぴらに見せる方針で行こう」
「わかりました」
話し終えると先生は、気絶している不良を抱える。
「大丈夫ですか?」
「力が強くて頭がよくても所詮は少女、さして重くはないさ。何十キロも移動するってわけでもないから」
「さ、アリス。行こうか」
「はいっ!」
二人は雪多く降る場所を歩き続ける。
街の光は、甘く温かく輝き、見るものを誘惑した。
《お知らせ》
12月の30日。晦日に、特別幕間として今までいただいた感想と共に先生たちが今までの話を振り返る話を出します!
その際、今まで頂いた感想をお名前を伏せた状態でご紹介させていただきたいと思っております。
もしいつもご覧いただいてる方、今まででコメントを頂いた方に私のコメントは紹介しないで〜!という人がいたらお知らせください。コメント出してもいいですよ〜!って方はそのままで結構ですが、もしよろしければ質問等をいただけると幸いです。
感想・質問募集期間は12月25日までです!よろしくお願いします!