百鬼夜行連合学園領地、山岳地帯にて。
「どうやら来たようだな!」
「お望み通りね」
黒色の車から、アリスと先生が出てくる。
スケバンはGT-Rの側から圧するように声をかけた。
「本当にノコノコやってくるとは思わなかったぜ〜!なあ、お前何しようとしてるのか分かってるのか?」
「脅迫文の通りでしょ?」
先生は彼女の方を見る。
届いた脅迫文には『この取引に応じ下りのタイムアタックで戦え。さもなければ、12時にシャーレに仕掛けた爆弾を起爆する』とあった。
新年早々迷惑な話であるが、相手側はそれをいろんなところに広めた。爆弾自体は既にないことは下手に増えた人手を使って確認済みだが、これに挑まずばシャーレとしての名誉は落とされることになると危惧。無論発表して構えればいいだけだが、先生は逆用しようと決意。
『相手が大手を振りすぎたせいで何処に何があるかが分かった』
警察の意地を見せたカンナの尽力があって、ヴァルキューレの特別編成部隊がこのコースの最後に。また、シャーレに居候してたメンバーをスケバンが所属してるヘルメット団たちの基地へと差し向けた。
そして先生はそれらを感知させないために囮役を引き受けることに。車では自分以外のドライバーがいない以上、一人ぐらい見届け役を連れて行くと言ってアリスを連れ出したのである。運転するのも当然免許を持っている先生だ。
「当然1on1、まあ一人ぐらい乗せても変わんねえから片思いの生徒と一緒に死のレースを走るんだな!」
「私は死なないよ」
「はっ!いっつも運転してない奴が!こんな氷道で!不慣れなスポーツカーを使って!走り切れると!?しかもウチに勝つ!?」
「まあまあ、それはレースで分かる。
アリス、乗って」
先生は、応酬を適当に切り上げて乗り込む。アリスも後部座席、先生とは対角線上のところに乗り込んだ。スケバンもつまらない顔をしながら自分の車に乗り込み、取り巻きに合図。
後ろからアリスは声をかける。
「先生、大丈夫なんですか?」
「正直どうとも。ただ、私の信仰心を重く見てるならスタートの合図で殺して来たりはしないだろう。それにGT-R、走り方によってはどうにでも取り返しがつく」
「この車はそれよりすごい……ってことですか」
「そもそも違うからどっちがすごいとはなんとも言えないかな。ただ、相手が乗ってるGT-Rはロードレース、グランツーリスモで出てくるようなレースで使用される想定で最初から作ってるんだ。だからこう言ったレースには向かないよ。直線は早いだろうけどいずれボロが出ると見ていいと思う。たとえどれだけ上手くともね」
外のスケバンたちに急かされて話は中断、二つの車が並ぶ。
「いいか!銃弾の音でスタートだ!掲げろ!」
「いいだろう」
先生はアクセルに足をかける。相手も、既に出る気満々だ。
「3!」
互いに前を見る。
「2!」
互いにアクセルを踏む。
「1!」
クラッチペダルから足が段々と離れる。
「ゴー!」
銃声が鳴ると同時に、お互いの車がスタートした。
先を取ったのはスケバンだ。先生も離れない範囲で追従する。
「先生!?」
「大丈夫」
先生という名前に反して後を追う状態が続く。
最初の左カーブが出て来た時に、当然この二両は曲がる。
スケバンの車は何の変化もないまま車体の後部を揺らして曲がるが、先生達の乗って車からは"バンバン"と銃声のようなものが聞こえた。
「わぁ!」
当然アリスは驚くが、先生は自分の持ち物なので当然落ち着いている。
「何で先生はそんなに落ち着いてるんですか!」
「落ち着いているんじゃない、落ち込んでいるんだ。これ私本当に運転下手かも」
ため息をついててもしっかりと追従。
「この車に変なの乗せてませんよね!?」
「知らない人からしたら変なのを乗せてるよ」
「何やってるんですか!」
「メーカーが載せているんだから仕方ない」
彼は落ち着いて、その銃声のような音を鳴らしながら相手に追従。
スケバンはそんな彼の運転と音に不安感を煽られた。
「銃声のようなものを出してる割に攻撃してこない。だがカーブの直後だと言うのにこっちに追いついてくるようにスピードが上がってる!」
最初は直線が割とあるコースのようだ。先生は特に考えることもなく、相手を追い続ける。この時すでに立ち上がりは先生の方が早く、相手への距離を段々と縮めていった。
「すごい……先生が追いついてる!」
「えー、これ私アクセル踏むの遅かったりするのが悪いのかな。え、普通に車の問題?」
「先生はなんで悩んでるんですか!」
アリスのツッコミが入る。
先生はレースのことそっちのけで、運転しながら彼女にある機能のことを話した。
「アリス、この車にはアンチラグシステム……またの名をミスファイアリングシステムってのが入ってる」
「ミスファイアリングシステム?」
一部の車に搭載されている機能。
簡単に言えば、エンジンにはタービンという回転してコンプレッサーという空気を送る機械を動かし続けるための装置がある。それらは当然エンジンの稼働に直結するため、アクセルから足を離すと当然加速しなくなるためそれらの部品がペースは落ちることになる。
レースにおいてはドリフトなど曲がる際にまさかアクセルを踏んだまま曲がれないスピードで突っ込むバカはそうそう居ない。基本はブレーキ等を使い速度を下げ、ハンドル操作で曲がる。
すると、前述の通りアクセルを踏み込んでいない以上当然タービンの回転は下がるのだが……ミスファイアリングシステムという装置はエンジン内で未燃焼ガスを燃焼させるための点火プラグの点火タイミングをずらし、エキゾーストマニホールドという未燃焼ガスが纏まって通るパイプのようなものの中でタービン直前の場所で未燃焼ガスを点火してエネルギーを供給し、アクセルから足を話した時に起きるタービンの回転数低下を防ぐため、この状態でアクセルを踏むとすぐに加速できるという代物だ。
当然、点火が遅れると無駄に燃焼ガスが爆発するだけで終わる。その際に車のマフラーからバンバンと銃声のような音で鳴る。
「一応加速や効果が出てる以上作動してるとは思うけど、これ単純に供給量を多過ぎたのか点火プラグ変えるべきなのかちょっと悩むね」
「今は勝負に集中してください」
「それもそうだ」
雪道を二つの影が走り抜ける。
直線は当然相手の方が早い。ロードレース用の車なのだからここで遅かったら意味はない。
だが両者はほぼほぼ至近距離を保っていた。
「な、何だこいつ!頭おかしくなりそうだ!ついてこれる理屈が分からねえ!」
スケバンの恐怖の声は当然その後ろには聞こえてない。聞こえていたら、先生は笑ったことだろう。
そしてその先生、コースを走ってあることに気づいた。
「そろそろチェックポイントか」
「チェックポイント?」
「___あ」
ゲームやってる感覚でついチェックポイントと口走った。
「チェックポイントって何ですか?」
「ああ、これ……秋名か!」
思えば、先生はスピードをあまり落としてない。
最初こそ先行させたのはどんなコースかある程度知るためであり、抜いた後にペースを落として標識等を確認し走り切るつもりだった。ならばくっつき続けるというのはあまり良くない。そんな距離で相手の動きを見てから動くでは事故りかねないからだ。
しかし、そう考えてた本人はまるで慣れているかのように走ってる。頭の中では戦略が組み上がってるのに、それを投げ捨てても問題ないというほどに体が追いついていってる。それはこのコースが秋名のコースを再現したものであったから。
無論ゲーム筐体と実際の車は同じではない、しかしこれを支えるのが今二人が乗ってる車である。
「このランエボVI T.M.Eはああいう子を狩るために用意したんだ。その図体と下手くそな制御で逃げ切れるかな!?」
有名な五連ヘアピンに差し掛かる直前のコーナーに、両者は来た。
「ここで勝負を決めるよ!アリス!」
「はい!」
両者ほぼひっついたまま。当然先に曲がり始めたのはスケバンである。
「当然私が先を取って曲がり切る!たとえこのコースを知ってようが、普段運転しない奴に負けるはずが」
そう調子に乗った時だ。
スケバンの乗ったGT-Rは遠心力に引っ張られ大きく膨らんで、ドリフトとは言い難い挙動をする。減速したので幸いなことに事故にはならなかったが、当然制御のためにアクセルを強く踏むことはできない。死ぬかもしれないような事故が過ぎると、基本誰であれ死が過ぎる。たとえそれが物理耐久に優れた世界の人間であってもだ。
「わぁ!」
先生も少しスピードを落として曲がる。
だが、先生の方はスピードが乗りすぎててもあまり問題はない。相手のように膨らまないような策を取って来てある。
当たり前の話スタッドレスタイヤを履いているのでスリップの可能性は減っているが、何よりこの時のために後ろにアリスを乗せていた。
彼女の名誉のために先に行っておくと、別に彼女が太ったとかの罵倒ではない。そもそも機械なのだから、人間と比べて重くて当たり前。それを後ろに乗せることで重心を安定させるという先生の策だ。車両の後ろを振りづらくなる上、そこにアンチラグシステムというターボラグ解消のための機構があれば、アニメのようなドライビングテクニックをわざわざ真似しなくても安定した立ち上がりができる。
しかも幸いなことに、対戦相手が車幅が大きくこういったラリーレースに向いてない車種であることもあり、スリップを防ぐで精一杯だったのもあって_____
先生とアリスの乗るランエボはそのまま相手を抜いていった。
「やりました先生!」
「こういうことだね」
既に勝利したと宣言するように、銃声のような爆発音を鳴らして再現されたコースを先生達は下る。
再現された五連ヘアピンも余裕があるからこそ速度を落とし堅実に曲がって、ミスをしないことを心掛けることで差を開く。
「よし、抜けた!」
______ここからはいうまでもないだろう。
先生とアリスは駆け抜けてゴール。事前に打ち合わせしていたカンナの率いる部隊は当然、そのランエボはスルー。その4分後にやってきたGT-Rは、ヴァルキューレお手製の暴走車両絶対殺すスパイクトラップにとって走行不可能になって止められた。
「確保ー!」
「さっさと捕まえろ!レッカーも回せ!」
「くそ!くそ!あの男がいけないんだ!なんで、何であんなことが!」
「もう少しだけ勉強するんだね」
スケバンはパトカーに入れられて連れて行かれた。
今回の件はこれにて終了、先生はカンナに声をかける。
「手伝ってくれてありがとうカンナ」
「こちらこそ……しかし先生、その車は?」
スケバンに屈辱を与えた車を見る彼女。
「これ?三菱・ランサーエボリューションVI T.M.Eだよ」
「あ〜、思い出しました。トミマキですか?」
「カンナすごいね!?キヴォトスでその単語聞くとは思わなかった」
「アビドス校区での捜査で訪れた古びた車屋の雑誌に載ってたので、それで軽く見たんです」
先生は驚いた顔を見せるが、カンナは気にすることなく質問を浴びせた。
「しかし、一体どうやってこれを?」
「アビドスに住んでいるガラクタ売りの少女が居てね、その子から廃車になってたのを貰って頑張って修復して塗装したんだ。トミマキだけど黒いのはそれが理由。
いやーしかし苦労したよ、特にALSの再現がね」
「アンチラグシステム?データがどこかに残ってたりは」
「残念ながらなかったんだよ。だから、開発部の子達に頼んで作ってもらった」
三人は、今回の立役者であるランエボに近寄って見る。
「しかし先生はすごいですね。車の機構も把握しているとは」
「いやあそれが、ほぼ覚えてないんだよね」
そもそも、彼がその仕組みを知ったのはイニシャルDであり、おまけにキヴォトスに来る前はずっとホヨバ漬けな上調べたこともないので酷い情報しかなかった。
「私が出したヒントは"なんか爆発音みたいなのが聞こえて、加速がしやすくなるみたいな?"ってことしか言ってないね」
「それでよく再現できましたね!?ウタハさん達絶対頭抱えましたよ!」
「アリスの言うとおりだいぶ困らせちゃってね」
先生は頭を掻いて誤魔化すように説明を続ける。
「結果自体は見ての通り成功したんだ。
エンジニア部のヒビキが考案した結果ターボチャージャーの吸気側からエキゾーストマニホールドへ空気を供給して未燃焼ガスを燃焼させてその勢いでタービンの回転数低下を防ぐバイパス方式で再現が可能になってそれを採用。それを搭載することで、砂に埋もれてたこれも様々な手によって復活したってわけ。まあ、しばらく運転することもなかったから運転は見るに耐えないものになってただろうけど」
「先生らしいですね、結果的にいいところに着地できるの」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
さて、そろそろ警察の邪魔になるのでお暇しよう。先生はアリスに、今度は助手席に乗ってもらうように頼んでからカンナに挨拶する。
「じゃ、一回先生は戻るよ」
「わかりました。お気をつけて」
先生も乗り込んで、ランエボは走り出す。
真冬だし、年初めだし、しかしそれでも悪に勝ち安寧を守った先生の良いスタートダッシュを見せつけることに成功。この勢いが、何となく今年の勢いがどのようなものか表していた。
多分、大吉。
《与太話》
この5000文字を書くのに一月二日は犠牲になりました。おまけにしっかりと把握できてるかは怪しいです。車の用語よくわかんねえ!
なのでこの話を見た皆様の中で車に詳しい人がいたら感想で訂正等あったらよろしくお願いします。