「今日から仕事始めですね〜!」
「その挨拶やめない?」
「いいじゃないですか、先生もアリスも年始からずっと動いてましたし」
シャーレの地下室。
大きめのキッチンの向こうには、縛られた何かがいる。
「何でこの私が縛られているんですか!」
不知火カヤである。
「そりゃあまあ、ヴァルキューレが押し付けてきたので拷問しろって」
「拷問ってどうすればいいか分からないですよね」
「まずは兵糧攻めでしょ」
「ケーキ作りましょうケーキ!」
「長○小隊で見た通りに作ろうよ!」
不穏な始まり方をしていた。
しかし、この二人はケーキの作り方を知らない。片方は調理実習で遊び散らかしており、もう片方はそもそも機械ゆえに自炊は滅多にしない。
だが準備はしてきている。アリスは本を開いて、作り方を口にした。
「まず砂糖と卵を入れてよくかき混ぜるそうです」
「じゃあイースターエッグ入れるか」
「いいですね」
「いいですねじゃないです!」
制止しようとしたカヤの言葉を聞かずに、二人は作業を始める。
「まずは水」
「そうですね」
「あとイースターエッグ」
水を虹色の卵をそのまま入れて、先生はアリスに聞いた。
「あと何入れる?」
「野菜 肉 肉 肉 肉 野菜 時に魚介」
「うーん了解」
水洗いもしなければぶつ切りすらしないまま野菜と肉とお箸休めの魚介を放り込む。
この時点で生ゴミ寸前だが新鮮さだけはあるのでまだマシらしい。
「オルガ、次にどうすればいい?」
「エデンの星で混ぜる」
「了解って持ってないよ」
「じゃあとりあえず気泡を全員殺すまでかき混ぜますか」
「ケーキって知ってますか?」
「カヤ、ちょっと黙ってて。今集中して作ってるから」
「それのどこか集中してるんですか!」
流石に大声で怒鳴られると邪魔なので、先生はカヤの口封じを考えた。
「神イントロずっと聴かせたらいいんじゃないかな。植物みたいに」
「それいいですね、植物もクラシック聴いたらよく育つと言いますし!」
「煽ってますか?」
「煽ってないよ。神イントロ聞かせまくってタフな子に育てるからね」
「神イントロではタフにならないんだよね」
「なにっ」
しかし、カヤには黙ってもらわないと拷問の準備が整わない。急いで目隠しと猿轡をかけて、ヘッドホンで哀believeをリピート再生してそのまま放置した。
次はアリスが一生懸命にかき混ぜる。宣言通り気泡全殺しスタイルで混ぜていった結果、行きすぎて野菜も魚も肉も破砕され分解されまくって生地になっていくではないか。ただし、色は言及しにくいものになったとする。おまけに混ぜてる間になんか爆発して紙吹雪も混ざっている。
「しゃあっ、混ぜ終わり!」
「じゃあ次の工程を見てみるね」
先生は本を見て、次の作業を話した。
「次は____小麦粉とバターを入れてかき混ぜるそう」
「バターとマーガリンの違いってアリスわかんないんですけど」
「それ先生もなんだよね」
「じゃあマーガリン入れますか」
「小麦粉ないじゃん」
「強力小麦粉ってのがありますよ」
「それ入れよう」
マーガリンと強力粉を入れて、また混ぜる。
「どれくらい混ぜればいいの?」
「そんな沢山は混ぜなくてもいいよ」
アリスはそこ4分ほど全力で混ぜる。
「One more time,One more time We're gonna celebrate,Oh Yeah,alright,don't stop the dancing」
先生が歌いながら時間を測る。
そうして4分経ったら、先生はアリスを止めた。
「アリスー!」
「はーい!」
混ぜ終わったものを型に流し込んで、アリスは先生を見る。
「では焼きの工程に入ります。どうする?どんくらい焼く?」
「ピーチ姫に倣って地獄の業火30秒でどうですか」
「いいね!」
業火以前にこの会話が地獄である。
しかし彼女らはそれを容赦無く燃え盛る炉の中へ突っ込む。まるでピザを焼くような感じだ。そして地獄の業火など大仰なことを言った割には、呑気な会話する。
「昔見た銀の匙ってアニメ思い出した。炉の中にピザ入れて焼いたシーン見て速攻ピザ買いに行ったっけ」
「いいですよねあのアニメ。2013年のアニメでしたっけ」
「え?」
「事実です」
「うわああああああああああ」
先生は膝をついて絶望した。
もう12年近くも経つとは、彼も時間を味わう側へと回ってきたことを自覚するべきだろう。
そうこう言ってるうちに50秒くらい経っていた。アリスは気づいて引き上げると、焦げ色が全てを隠すように、成功したケーキの色をしていた。なんということだろう、普通の生地より余計なものの方が多いのにしっかり肌色になっているではないか!
「わーい!」
「掛けるか、洗剤」
「そうですね」
そろそろ落ち着いて作業をする頃。と言っても、洗剤を掛けるだけである。
洗剤を直で掛けると見た目が地味なので、先生は一度洗剤をボウルに出してから泡立ててから盛り付ける。
「よし!できました!」
「食わせるぞ!」
匂いは最悪だが、見た目は立派なケーキが出来上がった。アリスはケーキを持っていき、先生はヘッドホンと目隠しと猿轡を、カヤから外した。
「まったくもーなんですか!」
「完成しました!」
「完成しないで欲しかった……」
カヤは辟易した顔を見せる。
「匂い酷いし何よりこれ食っていいんですか!?」
「食わせるのが目的だから」
「拷問って知ってますか?」
「細かいことはよく分かんないからとりあえず痛めつけてから話をしよう」
「まず先に聞くんですよ!」
しかしもう作ってしまったものはどうしようもない。
アリスはケーキを切り取ってからそのままカヤの口に入れた。
「もごもご、ふごふぉ」
「食べるんですよ!」
「がゔぉぼぼぼがは」
彼女は口に含んだものを噛んでから、そのまま飲み込んだ。
「美味しいですよね?」
「いや全然美味しくないです」
「なんて酷いこと言うんだ」
「見た目と食感はケーキなんですけど味が最悪すぎるんですよね。まだ洗剤なければキッシュとして受け入れられたんですけど洗剤のせいでこれは生ゴミです」
「驚いたねえ嬢ちゃん、奇しくも同じ思いだ」
「あなた食べてないでしょ!」
カヤの反抗も虚しく一口目を投入。
彼女は顔が青ざめてないのでまだ大丈夫だろう。
「これで美味しいって言いますよね!」
「どうやったらこれが美味しく思えるんですか?不味いに決まってるじゃないですか」
「言わないでしょそんな事ッ、言わないよねェッ!」
「こんなゴミみたいなケーキ食えるわけないでしょう!」
「まだ食うかい?」
「食べません!」
アリスが三口目を突っ込もうとした瞬間に、扉が開く音がした。
「お疲れ様です」
「お疲れ様でーす!」
カンナとキリノが笑顔で入ってきた。
「あ、お疲れ様〜」
「ありがとうございます先生、拷問を引き受けて頂いて」
「いや気にする事ないよ。しかし、そういえば拷問の割に質問の内容を聞いてなかったな」
「いや別に構いませんよ。あくまでこれはアピールです」
「アピール?」
「凶悪犯罪者に対しての罰ゲームを与えることで、市民の溜飲を下げようと言う政治パフォーマンスの一環ですよ。私も彼女も引き受け辛い内容でしたが、先生に汚れ役をさせてしまい申し訳なく思っています」
「気にしなくていいよ。まあ、後で美味しいもの食わせてあげて」
そんな会話を、椅子に縛り付けられながら割り入って抗議するカヤ。
「洗剤ケーキ食わせたの本当に許しませんからね!」
「いやーほんとにごめんね。今度美味しいもの差し入れするから!」
「約束ですよ!」
これで仕事は終わった。
あとは引き継ぎますからとカンナの言葉に従って、先生とアリスは外に出た。
「お疲れ様です、先生」
「お疲れ様〜。なんか食いにいく?」
「サイゼリヤ行って食べましょうか」
「いいね」
ふたりは、レストランに向けて歩き出す。
今日の天気は、白く輝く雪である。