「先生……人の苗字間違えるとはどういうことかわかってんだろうなぁ!?」
「キキョウ!」
キキョウはテラー化していた。
腕にはスマホのようなものがくっついており、PPを表すゲージと体力20と表記されたゲージがある。
「百鬼夜行近くのカードショップじゃインフェルニティは取り扱ってなかったからシャドバで黄泉の底へ叩き落としてやる!」
「随分と現実的かつ悲しい理由出てきたな。しかしこのデュエルディスクもどき……アニシャドでソリッドビジョン開発とかあったんだろうか」
「ごちゃごちゃ言ってねえで早く始めようじゃねえか!アーッヒャヒャヒャッ!」
彼女はかなりはっちゃけてしまっている。
とりあえずこの勝負を受け、なんとかしてキキョウと分かりあうしかない!
「その勝負受けて立つ!」
「デュエルだぁ!」
そうしてバトルは始まった。お互いの手札は見えない。
シャドウバースは初手3枚のマリガンあり。先生は2枚引き直し、キキョウは1枚引き直した。
「先行はこちらが貰う____アーハッハッハッハ!私は手札のカードを公開!」
「いきなりか!」
宙に浮くカードの一枚が公開される。
「私は《絢爛のセクシーヴァンパイア》の効果発動!デュエル中に一度、このカードがデッキから墓地へ加わる時に復讐状態でないなら公開でき、
「はぁ!?」
先生は怯む。本来ヴァンパイアの体力は半分の10以下でなければ発動しないが、体力関係なく永続的に復讐状態に入るのは前代未聞だ。
「そうか、先生って割と新しい時に始めたのでチラ見せ逆ギレババアのこと知らないんですね」
「えっあのカードそんな名前で呼ばれてるんですか?」
先生の戦いを見守るため、プレナパテスとアリスもついてきていた。
「そうです。ヴァンパイアは強力なカードをもらいやすい立場にありますが、その中でもかなり壊れているのがあのカード。復讐状態になれば強化されるカードも多いため、あのカードはかなり重宝されるようです」
「そんな……先生!」
もっとも彼はそんな心配に返事する余裕はない。
キキョウはかなりはっちゃけながら、先生に話しかける。
「たっぷり味わっていけ、私のハンドレスコンボを!私は手札より《眷属の召喚》を発動!このカードはお互いのリーダーに一点ずつ与え、さらにお互いの場に《フォレストバット》を召喚する!」
互いにダメージが飛んできて受け、その上で互いの場にフォレストバットが召喚される。
「さらに私は手札より《ルームサービスデビル》をアクセラレート!」
1ターン目、本来はそこまで動けないはずなのにキキョウは走り続ける。
「この効果は相手の場にモンスターがいる時に発動可能だ。手札を一枚捨て、相手モンスターに4ダメージ、そして相手リーダーに2ダメージだ!」
先生の場のフォレストバットが破壊され、彼自身にもダメージが飛ぶ!
「ぬおっ!?」
「ひひひはははっ!さあ苦しめ!ここからが絶望の時間だ!ターンエンド!」
キキョウの手札はなんとゼロ!鬼柳と名字を間違われたのを嫌がらせするために、用意できる範囲で頑張ったのだろう。彼女の苦労を褒めたい。
プレナパテスは何を狙っているかは理解したものの、理論値で動いているせいで恐ろしく口に出せないようだ。
「くっ、私のターン!」
先生は諦めずドローした。
後攻は初手2枚ドローできるものの、ただ、彼は動けない。
そもそも先生の選択したクラスはドラゴンであり、あまり素早く動くタイプではない。そして早めに展開したりしていく武装ドラゴンでもないため、かなり困窮している。
「私は動けない、ターンエンド」
「アーヒャヒャヒャ!どうした先生、随分としおらしいじゃないか!このまま痛ぶられたいってかぁ!?私のターン!ドロー!」
この時、キキョウは高笑いして動き始めた。
「この瞬間、デッキに存在する《デモンズグリード・パラセリゼ》の効果発動!このモンスターは
「はぁ!?」
「現れろ!」
デッキから、一体のフォロワーが飛んできた。
「パラセリゼの効果発動!このモンスターが場に出た時、相手に2ダメージを与え、こちらは2回復する。そしてその上で、追加でドローする!」
「まじか!うわああああっ!?」
先生はまたもダメージを食らった。
「えっ、そんな、そんなカードが許されていいんですか!?」
「シャドバってそんなもんです。しかし……これはまずい」
それでもキキョウの勢いは止まらない。
「そして私は手札から《月下の跳躍》を発動!このカードの効果は場のモンスターの攻撃力を2上げ、手札がこのカードを含めず2枚以下なら疾走を得る!」
「疾走って?」
「スピードアタッカーです!」
「ええ!?」
アリスはとても驚いて、先生を見る。
キキョウの場には生き残っている1/1のフォレストバットとバフを受け5/3になったパラセリゼが居る。
「この二体のモンスターで、プレイヤーにダイレクトアタック!」
二つのフォロワーは先生に対して直接攻撃をした。
「うわああああああああああああああああああっ!」
「踊れ先生!死のダンスを!」
先生の体力は減っている。
1ターン目で3ダメージ、このターンで8ダメージ出して残り9。
「さあもっとワクワクさせてくれよ!」
「くそっ……なんとしてでも勝たないと!先生のターンだ、ドロー!」
先生のターンに移った。
もし軽い処理札が来れば、2枚引いて1枚しか使っていないのでパラセリゼは次のターン飛んで来ないので余裕ができる。が______
そんな都合のいい札は来ない。ビッグマナが傾向的に強いドラゴンでは、素早く伸ばして叩き潰すデッキが主流。先生も、そのタイプのデッキだった。
「仕方ない。私は手札からアミュレット《アズヴォルト》をプレイ!」
彼の場にはアミュレットというカードが出てきた。
「八獄カードを一枚、ランダムにデッキから一枚手札に加える。カウントダウン2を進める効果もあるが、条件を満たしてないのでスキップだ_____」
「チッ、しけてるな」
「ターンエンドだ」
キキョウは先生が抗ってこないのを退屈に思っている様子。
「私のターン、ドロー!」
手札は2枚。
「私は《棘の吸血鬼》を召喚!」
彼女の場にフォロワーが登場。
「このカードは召喚時、手札を捨てて一枚ドローする!」
彼女の手札一枚が捨てられて、もう一枚ドロー。
「チッ、使えないか。まあいい、次のターンにでも出してやれば文句はあるまい。私はもう一度、この二体でダイレクトアタック!」
「ぬあああああああ!」
先生は痛めつけられ続ける。
残り体力がまた6減らされて、3になってしまった。
「先生!」
「まずいです!」
彼は膝をついたが、すぐに立ち上がる。
「まだ負けてない!ドロー!」
先生にターンが回ってきた。
アズヴォルトのカウントダウンが2から1になる。
「こちらは《倒壊の襲撃者》をプレイ!」
先生の場にフォロワーが出る。
「このフォロワーは直前に八獄タイプのカードをプレイしていた場合突進を持つ、そしてPPの最大値を1増やす!」
PPは4になった。5にもなれば、先生も真っ当な動きができるようになるだろう。
「そして倒壊の襲撃者で、パラセリゼを攻撃!」
フォロワー同士のバトル。
倒壊の襲撃者のステータスは3/2、パラセリゼは現段階で5/3。体力的には相打ちとなった。
「やりました!」
「流石先生!」
観客の二人は喜ぶ。
「いい気になるなよ……まだ進化はないが、次の2点で残り1、そして次のターンのドローは棘の吸血鬼の効果で+1、次のターンで確実に葬ってやる」
キキョウは苛立ちを覚えた声でドローした。
「___く、ふふ。アハハハハハ!」
彼女は大爆笑する。
「終わりだ先生!」
「なにっ!?」
「私は手札から《自由を駆ける漢・スカル》を召喚!」
キキョウの場にまたもフォロワー。しかし、なぜかスタッツも上がって疾走もついている。
「なっ」
「このモンスターの効果を教えてやる!このモンスターは召喚時、このターン2枚以上手札に加わった渇望状態であればステータスをそれぞれ2加え、復讐状態であれば疾走を獲得する!」
「つまり4/3の疾走!」
万事休す。
「これで終わりだ!スカルでダイレクトアタック!」
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああーッ!」
_______先生は、キキョウに負けた。
シャドバは流石に詳しくなかった先生は、生徒にボロ負けしたのである。
「先生……!」
心配そうに見つめるアリスを遮るように、キキョウは急に黙って先生へと駆け寄り抱き上げた。
割とボロボロになっていた先生に、彼女は声をかける。
「……大丈夫?」
「____う、ああ」
微妙な返事だが、急激に苦しみ始めたりはしてないことを考えると骨は折れてたりしないらしい。
なら大丈夫だろう、とキキョウは先生に話しかけ続ける。
「こういう目に遭いたくなかったら、今度から人の名前を間違わないように心がけて。私でも流石に気にするわ」
「頑張って対策して善処します______」
「よろしい。じゃ、ベッドまで連れていくから」
彼女は先生を抱えて、シャーレの仮眠室へ連れて行ったのである。
プレナパテスとアリスは顔を見合わせた。
「あのまま放置して大丈夫なんですか……?」
「まあ、ここはあ○まん世界ではないのでうまぴょい(隠語)することもないでしょう。それに、瀕死の状態で手を出すとも考えられないですし」
「そういうのまで言及するのはどうかと思いますけど……」
しかし、今のを見てアリスは一つの疑問が浮かんだ。
「あの、すごく聞きにくいことなんですけど」
「なんですか?アリス」
「もしかしてあんなふうにしてプレナパテスのシャーレは滅亡したんですか?」
質問された方は黙った。
違うなら違うとはっきり言ってしまえばいいのだが、それでも沈黙を貫き通す。
アリスは不安になりながらも、その沈黙の意味は分からずとも重さを感じてこれ以上は追及しないことにした。
冬の昼、雲は輝いている。