アリスと先生は百鬼夜行の走行エリアに来ていた。
前に対決した秋名再現エリアでの走行を数回にわたって繰り返している、車はいろいろあって試乗する形になっているがやはり先生に合うのはランエボらしい。
「やっぱりハイパワーターボプラス4WDがいいな、乗ってて安心感はある」
「4WDってなんですか?」
「タイヤ全てが駆動輪になってるってことだよ。つまり、エンジンのパワーが全部の車両に伝わるってことだね」
「つまり走りとしては力強いってことですか。エンジンのパワーが高くても適応できるから」
「そうだね。まあ、曲がりづらかったりブレーキが効きづらかったりはするからすべてにおいて二輪駆動より優れてるってことはないかな」
再現コースを走る二人。
今先生が乗っているのはランサーエボリューションVII GT-A。ランサーエボリューション史上初のAT、つまりオートマである。
そもそもなんで今こんなことをしているのかというと、エンジニア部の依頼で車の方もかっこよく機能性がある車を作るために先生が持っている知識によって"広く手に入るスポーツカー"という分野に手をつけようとした。その手始めとして先生の記憶通りのスポーツカーを再現する形で作成したので、そのテストだ。
この前のスケバンのGT-Rは状態が良かったものがキヴォトスの外から流れてきたものであり、できうる限りの補修を済ませたものだった。先生のやつも大まかは流れ着いたものだが、それをエンジニア部のメンバーと一緒に再現できる限りの機能を載せた。
そんな奴らの戦いが、このキヴォトスでは半ばいける伝説のように囁かれてた。
「それで、ならばレースでもたくさん勃興させてスケバンとかをそっち方面に流してしまおうって算段になったんですね」
「成功するかは分からないけどね。あと、空力特性を損なわないデザインのまま防弾性能を上げるのが苦労しているんだってさ」
ATなので扱いやすさは段違い、その上でランサーエボリューションによくあるミスファイアリングシステム搭載。これがあれば大売れ間違いなしだろう、まあ三菱がキヴォトスに来たらライセンス販売も無しでと怒られそうなものだが。名称や形状はある程度変えて販売するのかもしれない。
「しかしこの車いいですね」
「やっぱりラリーならエボだよな、イニD読んでもやっぱこういうハイパワーマシンの方がしっくりくる」
「言ってること板金の人と変わりませんよ」
「ハイパワープラス4WD、この条件にあらずんば車にあらずとはよく言ったものだよ」
雪道が続く中で、アリスは思い出したかのように先生に聞いた。
「そういえば先生、スロットル制御方式っていうのは思い出したんですか?」
「ああ」
先生は説明する。
「ターボチャージャーからエンジンへの道中にはスロットルバルブってものがあってね、基本車って足をアクセルペダルから離すとそのバルブが閉じるんだけど、それをあえて開けることによってエンジンに空気を供給して燃やすことによってそのままエキマニからターボチャージャーに未燃焼エネルギーが来てターボラグを解消するっていう仕組みだったんだ」
ただ、そのスロットルバルブの制御が難しい。電子式のやつをエンジニア部が作っても良かったのだが、揃いも揃って早く走りが見たいと騒いだ結果『いっそエキマニに空気を送りつけたほうが早いね』となり先生のエボVIにあるミスファイアリングシステムはバイパス方式を採用することになった。
「と、そろそろ着くね」
走っているうちに、ゴール地点に辿り着く。脇の道にランエボを止めて、二人は降りた。
ウタハたちはあれこれ話し合ってる最中だが、それよりも気になるものが一つ。
「あれは?」
「事故車ですね」
車は何かの宅配車のようだが、どうやらそれに乗っている生徒がかなり狼狽えてるようだ。
「バッテリーが上がったかなんかか?」
「見てみましょう」
二人は近寄った。
「助けてー!」
「どうしましたか?」
アリスが近寄ると、百鬼夜行の生徒が出てきた。
「助けてください!急に!急に動かなくなっちゃって!」
「泣かないでください、アリスたちがなんとかしますから!」
「あーこれ完全に上がってるね」
先生は乗ってきたランエボを宅配車に寄せて、荷物を取り出す。
「ん?先生、何を?」
「ジャンプスターター今回持ってきてなかったけど一応のためケーブルは持ってきた、ジャンピングスタートをしようと思うんだけど」
「アリスに任せてもらっていいですか」
「何かするの?」
「見ててください」
アリスは自分の鞄から何かを取り出した、それは切断トーチのようなものである、というかほぼそれだ。
「切断トーチなんて使っても意味ないよアリス」
「決めつけるのはまだ早いですよ!これはリペアキットです、FPSゲーマーなら見たことあるものを作りました!」
「BF風修理は無理だと思うよ先生は」
しかし彼女はそれを聞くことはなく。リペアキットを宅配車に使った。
明らかに熱で切断されそうなものではあるが、車はそれを浴びても平然としている上になんだか車の方も新品に近くなっているような気がする。
先生は困惑しているが、アリスは彼に構うことなくトーチを使ってから生徒の方に聞く。
「エンジンかけてみてもらっていいですか!」
「は、はい」
生徒は車に乗って、エンジンをかける。
すると軽快な音と共にかかった。
「わー!ありがとうございますー!」
「ああそうだ、あとこれもついでにどうぞ」
「まってそもそもそんな雑に車治ることにびっくりだよ、ここBFじゃないんだよ?」
「ウィードキラーです!」
アリスが次に取り出したのは除草剤。
車に除草剤とはビッ○モーターを思い出しそうな組み合わせだが、彼女はそんなことを思い出すこともなくエンジンの前にあるタンクの方にそれを吹き込んだ。
すると車の方はトーチを使った時よりも直っていて、輝きを取り戻しているではないか!
「待って待ってここリサカンじゃないんだよ?」
「わーい!ありがとうございますアリスさーん!」
「えっへん!」
誇らしげなアリス、引いてる先生。
生徒はこれで仕事に戻れると喜びながら、先生とアリスに菓子を渡して挨拶してから車に乗って去っていった。
「アリス、あの車って飛んだりする?」
「除草剤を入れれるスペースがあったので多分飛べるんじゃないでしょうか」
見送っていても、上に飛び始める気配はない。
「まあでも飛ばないならいいよ、ただアリス……そのトーチってどういう仕組みなの?」
「これは確か、前にミカさんと一緒に戦った時に一件であちこち調べていたら手に入りました。アリスもこれで回復します、機械なので」
「そういやアリスって機械だったね」
「先生?」
「だって有機的な生き方してるから忘れちゃうって、オムニックみたいな見た目でもない限りほぼ人間だよ。機械であっても人間だけど」
アリスがため息をつく。
「先生にとっての人間ってなんですか?」
「うーん、どうだろ。そこの区別はないかな。強いて言えば、自由意志を持ち出来ないことを悟った時から人間かもしれない。それを超える科学や知識っていうのが墓という歴史になって、未来の誰かに繋がっていくから」
「なら、アリスは人間ですか?」
「こんなに色々試してる勇者が人間じゃないわけないでしょ」
「そうですか」
彼女は少しだけ、微笑んだ。用事がある方を見ると、エンジニア部のメンバーが手を振っている。
「行きましょう、先生!」
「そうだな」
手を繋いで、なんて事はしないで二人は子供のように走り出す。
雪道ができるくらいの積雪、はしゃぐのに全力な先生達を雪の結晶は祝福していた。