「先生、元気にしてたか」
「あんな愉快なメンバーいて落ち込むの無理だと思う」
「今日はよろしく頼む」
アズサがそこにいます。ブルアカ界屈指のメインヒロイン。
なお、声は速水奨。
「待ってなんか声低くない?」
「声変わりの薬を山海経から貰ってきた」
「そんなもの飲んでどうするつもりなんだ」
ただここはトリニティの中でも割と治安悪い場所。
そう、アリウスの過激派残党が潜んでいる。
「あそこにいたぞ!」
「あれか裏切り者は!」
アズサにとってはすでに癒えた傷だが、それでも彼女の兵士としてのスキルは相手を挑発する方向に動いた。
「私にとってはあそこも立派な青春の場所だ。お前たちの境遇については、かつて同じ場所で育った仲として同情するが……ヒフミやハナコ、コハルのために決別するとしよう」
「ほざけ!お前一人で何ができる!」
「私はそれなりの手段がある、だからこうして声まで変えて分かりやすいように君達に忠告している。もし知っているのであれば、この場から___いや、この世から旅立って欲しいと」
過激派を名乗っていたアリウスの生徒は、その下に溶けた影のようなものが見える。
「この子達はもしや」
「エデン条約の時に消え損なった怨霊だ。これを仕留めるのは私の役目だと考えて、こうして頼んだんだ」
「なるほどな。ん?待てよ、つまり」
「この声の真意が分かったようだな、先生」
しかし相手はアズサ一人だと侮っている。
これは単純に知らなさすぎるというか、そう言った文化さえ触れる余裕がないほど追い詰められていたか自分たちの栄誉に固執していたかの二択だ。
「かかれ!あの女一人がトリック持っていてもこの人数差は埋まるまい!」
「ほう、襲いかかってくるか」
アズサは刀を持ち出した。
「破道の六十三 雷吼炮」
そして刀関係なしに彼女の手のひらから衝撃波が飛ぶ。
確実に殺すために刃物を持って襲いかかってきた奴らには効果抜群、そのまま当たって吹き飛んだ。
「うげっ!?」
「な、なんだお前は!一体どこでそんなものを!」
「シャーレにいるお兄さん達が調べて分かったマダムの遺産、と言っておこう。最もシャーレの奥深くに、マダムは幽閉されているが」
ただ、相手は激昂して襲いかかるのみ。
訳のわからないやつに出会った時は頑張って逃げるのが定石、もっと言うのであれば情報を集めるまでがセットだ。
しかし、自分たちが大変な目に遭っていると言うのにマダムに重宝された部隊がのうのうと生きているというプライドの踏み躙り方に激昂した彼女達はそれすら忘れてアズサに突っ込んでいく。ただ、適切な距離をとって雷吼炮を撃ち続ける彼女になすすべなく吹っ飛んだ。
「うがあっ!?」
「ぐ、ぐは」
周りの老朽化した建物にめり込んだり、その崩落に巻き込まれるようにして相手は崩れていく。
血肉が影で溶けるように、形が不安定になっていくのが見えた。顔も溶けていくそれはトラウマになりそうなものだが、先生もアズサも戦いに慣れ過ぎてそれに怯える事はない。
「もう一度警告しよう。この声の意味を知っているか、いや、この声に強烈な違和感を覚えるのであれば速やかに退散するといい。私もお前たちが無駄に傷つくのは本意ではない」
「ならば素直にくたばれ、我々は世界に復讐するために生まれた!」
「そうか」
口答えしてきたやつはまた吹っ飛ばし、瓦礫の山も含めた袋小路へと相手を押し込んでいく。
ただ相手もここまでくると本領で戦うしかないと判断、銃を沢山持ち出して二人に向かって撃ち続ける。
先生はシッテムの箱でガードするが、アズサは落ち着いてまた唱えた。
「縛道の八十一 断空」
すると青色のバリアが袋小路の唯一の道を防ぐように、空高く出てきた。
銃弾は弾かれ、相手のタックルでも破壊できないそれは、アズサの有利を作り出すのに便利だった。建物と瓦礫の山は上にはオーバーハングが過ぎてバリアと壁で囲まれた四方を抜け出すのには不向きであり、そもそも逃げ出そうにも先ほどの雷吼炮でノックダウンしてしまっていて使い物にならない。
銃弾が弾かれる音と、相手自身がぶつかる音が響くが一切壊れない。
「くそっこんなのでどうしようって言うんだ!見捨てられた我々よりもいい思いをして、それを消えるまで見せつけるのか!」
「シャーレにアリウスの存在が露見した時点で、トリニティも慎重に扱わざるを得ない事象になった。実際学園祭ではアリウス分校として参加するほどには社会には入ってきているんだ」
「そんなのはまやかしだ!いずれ、あの学園は消しにくる!」
「それはどう言う根拠で?」
「ベアトリーチェと同じく神秘に関係していた資料や力は誰しもが欲している!」
愚者は経験に学ぶ、つまりトリニティの人間全てがベアトリーチェのような悪辣極まりない女のようなものだと考えているらしい。
流石に呆れたアズサは、右手を掲げる。
「潰さないように蟻を踏むのは、力の加減が難しいんだ」
「何を」
「何もみないで詠唱できるかは怪しいが、やってみることにしよう」
彼女は、ゆっくりと唱え始める。
「滲み出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器」
紫色の光が、彼女の手に集まる。
「湧き上がり・否定し・痺れ・瞬き 眠りを妨げる」
その黒い光が今度は渦となって、周辺の光を奪わんとするレベルになった。
「爬行する鉄の王女 絶えず自壊する泥の人形」
もはや闇となったそれは亡霊の相手さえ構わぬほどの混沌である。
「結合せよ 反発せよ 地に満ち己の無力を知れ」
相手は断空と瓦礫で身動きが取れないままに、黒い光が周辺へと向かう。
「おい、待ってくれ!何をする気だ!」
「くそ、出せ、出せよっ!」
アズサは、相手の言葉にどう思うこともなく、唱えた。
「破道の九十」
最後の一言を、力強く。
「黒棺」
その時だ。
一瞬で黒く染まった立方体が、彼女達の囲まれた建物ごとを飲み込んだ。
悲鳴は一切聞こえない、聞こえるはずもない。
この立方体はいわば可視化された超重力、とらわれたらまず助からないようなものだ。
これをしっかり唱え切った上で使ったからには、食らった人間がどうなるかなんて一目瞭然。いくらキヴォトス人でも、星の重力には逆らえない。
「____」
ただ、それを見つめるアズサは。
少しだけ悲しい顔をしていた。
棺が開く頃には、建物ごと消失。
「嘘でしょ……本当に黒棺をやってのけるなんて」
先生は唖然としている中で、アズサは解除薬を摂取。
声が下の可愛いボイスに戻ると、先生に近寄った。
「付き合ってくれてありがとう」
「いや、ほぼ見てただけだから。しかし一体どうしてあれが出来たんだ」
「言ったはずだ、マダムの残してものから作り上げたものだって。ただ、もうすでに使えそうにないな」
アズサが取り出したのは、何かしらのペンダント。
間違いなくやばい代物であったのだが、先生が見た瞬間には塵となって風に乗り消えていった。
「そんなもの_____」
「危ないものだが、それでも彼女達をずっとここに縛り付けておくよりかはいいと思ったんだ。たださっきも言った通り、あれは本当に私の決別だ。他の生徒に関わってほしくなかったんだ」
「それは気にしないさ、アズサ」
先生は笑顔で、彼女に言う。
「子供同士でも隠したいことだってある、だけど大人を頼ってくれたことはとても嬉しい。平和な世界でさえ大人が信用されないこともあるから、そうじゃなかったことが、少なくともアズサにとって頼れる人間であることがとっても嬉しかったよ」
「そうか。付き合ってくれてありがとう、先生」
「どういたしまして。じゃ、戻ろっか」
「シャーレに行きたいんだが、いいか?」
「もちろん」
そうして二人は、シャーレへ向かって移動を始めた。
清々しく晴れ始めたこの空は、とても美しいものである。
二人を照らす陽光は、しっかりとやるべきことをした二人を祝福しているようだった。