プレナパテスは列車に揺られてる。
電車の中の生徒は何も変わらない、変わるはずもない。
まだ騒ぎは始まってもいないのだろう、当たり前の話だが今モモイが倒れただけで状況確認中、自体が動きすぎるなんてことはありうるはずがなかった。
「_____」
先生はゲヘナに向かった。
電車に飛び乗る直前に駅員さんに聞いて知ったことを信じて、そのまま電車に飛び乗った彼は若干の不安に駆られている。
(大人のような冷静さはないことは知ってましたがここまで勢い任せとは!無事で居てください、一人では)
「おい」
声をかける少女が一人。
「ん?」
「プレナパテス、か?」
「そうですが____ああ、もしかしてマコトさん?」
隣にやってきたのは羽沼マコト。ゲヘナのトップだ。
「一体電車で何やっているんです」
「それはこちらのセリフだ。貴様は基本先生と一緒に行動するんじゃなかったのか。侵略者はその枷を甘んじて受けると聞いたが」
「元よりそのつもりですが、その監督の人間が私をほっぽり出してゲヘナへ向かった」
相手こそ何故電車に乗っている、なんて聞く暇もない。
「なんだと?逃げ出した、というわけではないんだな」
「何も持たずに逃げ出したところで意味はないのです。それよりも」
プレナパテスは困ったまま、マコトに対して今起こっていることを話す。
デュエマをしていたら先生の相手が負けた際に倒れたこと、その直後に地下生活者を名乗る元ゲマトリアが復活して出張先に同様のギミックを仕掛けたこと。
そして、地下生活者に関する情報を彼女に話した。
正直な話信じてもらえるとは思っていないものの、それでも今起こってることは事実であり、そのせいで先生が飛び出したのもいずれ理解できる事実のため彼は臆せず伝えた。
ただ、その話を聞いた方はそれを否定しなかった。
むしろ重い当たりがあるような仕草さえしている。
「何か?」
「いや、少しだけ不気味なことが起こっているんだ。関係なければいいがと思うが、場合によっては避けられない出来事の引き金になりそうでな」
「一体ゲヘナに何が?」
「三日前から空崎ヒナの失踪している」
「_____は?」
ヒナが三日前に失踪した。
そんな報告はシャーレに来ていなかった。
「最初はただ体調を崩したと思っていたし、もしくは単なる休暇をとっているものだと思った。事実彼女は働き詰めだ、そういうこともありうると思ってな。私も最初は邪魔者がいないと喜んだものだが、よく考えれば変な話だ。毛嫌いするので風紀の人間に直接聞けてはいないが、それ以外の関係者に話を聞いても誰もヒナの行方を知らない。電話を切って休息ならありうる話だが、それでも三日目経って何もないというのはおかしい。一回どこかで戦い続けているとも考えたが、ホルスと対峙できる少女が、雑魚に手間取るはずもないからな」
雑魚の数が多すぎても一日で倒して戻ってくるだけの実力がある、というのは知っている。それ以上の脅威なら先生か、他の風紀委員を連れて行くという用心深さもある。なのに一人で立ち向かって消える、というのは考えられない。
不意打ちを喰らった可能性もあると考えられるが、そう言ったものを喰らうような警戒心のなさはヒナにはない。
しかし失踪をしているのは事実。
「その地下生活者とやらの能力が健在というなら、おそらく空崎ヒナもやられたか」
「とはいえ、その誘惑があったとしても振り切って先生に力を貸したはずです。それこそ、先生に心酔しているほどに。誘惑を振り切るだけの心の強さがあるはず」
「_____善性で、キヴォトスを生き抜いた人間の言い草だな」
見下すような発言ではないが、それに近いような言い方でマコトは相手に予測を伝えた。
「確かに先生を信頼している、という一点ではそちらの言う通りだ。だが、信頼という言葉は決して綺麗な言葉だけで保てるものではない。その中には信仰もあるだろうし、ねじ曲がった愛、極度の不安だってあるだろう。それが異性であるなら尚更だ。唆すだけの牙城がある」
「ですが世の中は変動しています。デカグラマトンの騒動だって大きくなる以上、その感情にさえ振り向く暇もないはずで」
「だからこそ、拠り所を求めるはずだ」
彼女は、全く動じずに話した。
プレナパテスは目の前の少女が、現実という名前の最悪を平然と口にしていることに驚いているが、話自体は納得できるもの。
「お前は高潔だった……高潔でありすぎたが故に、少女たちはお前を奪おうとしていたことに気づかずに、その憎悪と欲望の余波を使ったやつにやられた。そんな人間にはわかるはずもない、か」
「大人としての役目を果たした、いや、果たそうと命を全部使った。私は後悔はしていません。ずっと、何かに縋るよりも、命一つで理想を樹立させれるならそれこそ自分の人生としてこれ以上なくふさわしい生き方だったと、今でも思っています」
「そういう言い方ができる、そして証明した時点はもう穢れることも、それを理解できることもないだろう。お前にとっての正直はそれだからな」
「人をまるで王子様みたいに言うのは気に食わないですね」
「故にお前が必要だ」
マコトはまっすぐ彼を見る。
「あの男は恐らく、今回の事件だって軽々と超えるだろう。だが、そこには仲間という概念は無いに等しい。この世界の先生とはそう言うものだ、主人公であり続けられるが故に、頼ると言う発想があったも一緒に戦うという考えはないに等しいからな」
「私の時も、ですか」
「有能な人間、そうでなくても必要な人間をとっとと集めて攻略する。そんな人間だった」
「______」
「だが今は違う、それで解決できる状態じゃない。地下生活者なる者が何を企んでいるかは知る由はないが、あの男のカリスマだけで乗り越えられない。あの男は憎悪と敵意で自分を動かし続けるだけの悪鬼に等しい、そこに社会的な大義があるだけで今悪ではないと言われてるだけだ。その男を助けられるのはお前しかいない」
彼女は真面目に話した。
「同じ立場にいた唯一の人間にして、善意を持っている人間だ。今のキヴォトスは理念の共有によって運営されていない、極めて危険な状態。あの男を英雄の座から引き摺り下ろさなければ、このキヴォトスはいずれ滅ぶ。英雄譚は、終わりがあってこそそう呼べる。社会には絶対になり得ない」
プレナパテスは、マコトの発言を聞いて頷く。
「では、その男に冷や水ぶっかけて落ち着かせる。その上で敵対するであろう生徒を説得させて、混乱をおさめろ、そう言うことですか」
「……理解できる人間は大好きだ」
二人は笑う。
だが、そんな朗らかな時間も続かない。
《次はゲヘナ、次はゲヘナ。お出口は右側です》
列車はブレーキを掛けて止まり、扉は開かれる。
「一緒に来てくれますか」
「勿論だ」
列車を降りた二人に、飛んでくる生徒。
「議長にプレナパテスだ!大変なんだよ!」
「なんです?」
「風紀委員長と先生が今出会ったんだけど、なんかかなり険悪で______!」
「思った通りですね。自分達が確認しますから、ゲヘナには近寄らないようにアナウンスしてください」
「え、しかし」
「この男の言う通りにしろ。どの道、先生とあれが険悪になるなんて碌なことではないからな」
「は、はい!」
生徒は急いで放送機器がある場所へと向かい、二人はカードをタッチして急いで階段を駆け上がる。
今度の壁は空崎ヒナであることは分かったが、周辺の状態がわからない。
ただ、互いに先生の無事を祈りながらゲヘナへと急いだ。