先生の目線の先には、一人の少女がいた。
刺々しくも偉大なその光輪はひび割れて、赤く染まっては地獄の様相。そうでなくても羽さえ大きく、そして服装はドレスの時以上に大きく、そして麗しく仕上がっていた。黒く。
「____先生」
「聞こえてる」
二人の間には、大きなテーブル。そしてデッキ。
「相手はお前になるだろうと、自分はわかっていた。自分と敵対する理由があるのはヒナしかいない」
「私の気持ちに気づいているの?」
「いや全く」
「じゃあそんな口を効かないで」
彼女は、相手を睨む。
「先生?私はね、ずっと先生に助けられた。先生だって私を頼ってくれた。とっても、とっても嬉しかった。でも_____なんで、先生はずっと私のそばに居てくれないの?」
「自分は一人しかいない。そしてこの都市を有るべき方向へと補助することが役目だ。一人のためだけに、存在することはできない。それが先生としての責務であり、超法規的機関のあり方だ。天秤を歪ませることは許されないんだよ」
先生も、相手を睨む。
キヴォトスではあり得ない話だ、生徒と先生が真っ向から対立することは。それも、非常時ではなく日常の中で。生徒と先生の意見がかなり食い違い、そのまま関係の悪化にまでつながるとはそうないことだ。
だが、ここは絆などでは繋がっていない。ゆえに対立もする。
女らしい問答さえも煩わしいと思った先生は、そのままヒナに促した。
「______今道は違えた、歪ませられたのなら仕方ない。丁度ここには、先生が一人で戦えるだけのルールがある。そのルールは今、お前の目の前にある。
来い、自分は持てるだけの力を使って自分の理念を貫く。守られてばかりでは、政治家としての役目も全う出来ないからな」
「……わかった。今ここで先生を倒して、必ず私の元に連れ帰る」
お互いにシールドを5枚置き、手札を5枚引く。
先生の手札には闘争類拳嘩目 ステゴロ・カイザー/お清めシャラップが2枚に、燃える革命 ドギラゴン、蒼き王道 ドギラゴン
ヒナの手札は邪尾の魔法陣、魔令嬢バロメアレディ、邪心臓の魔法陣、悪夢神バロム・ナイトメア、そして邪爪の魔法陣。
先行後行を指し示す針はヒナを指した。
「デュエル!」
先行はヒナ。
「私のターン」
先行ドローなし。
「私は邪尾の魔法陣をマナに埋めてターンエンド」
「自分のターン!」
先生が引いたのはボルシャック・ガラワルド。
「ドギラゴン超をマナに入れてターンエンド」
「私のターン」
2ターン目。
ヒナがドローしたのは混沌の獅子デスライガー/カオスチャージャー。
「邪爪の魔法陣をマナに入れてターンエンド!」
先生のターン。
引いたのは光牙忍ハヤブサマル。
「燃える革命 ドギラゴンをマナに埋めてターンエンド」
動くのは3ターン目からだろう。
「私のターン!」
引いたのは悪夢神バロム・ナイトメア。
「私はバロム・ナイトメアをマナにチャージし、3マナ支払って《カオスチャージャー》を発動!山札上から4枚確認して、デーモン・コマンドを二体まで回収、残りを好きな順番で墓地に埋める!」
山札上4枚。
引いたのは魔令嬢バロメアレディ、邪心臓の魔法陣、悪夢神バロム・ナイトメア、修羅の死神フミシュナ/「この先は修羅の道ぞ」の4枚。
「私はフミシュナとバロメアレディを手札に加え、残りを山札の下に戻す。その上でチャージャー呪文のカオスチャージャーはマナゾーンに行く!」
一気に盤面が進んだようだ。
「どう、先生。段々と死が迫ってる気分は」
「その程度で勝ったと思うな。自分はまだ何もしてはない」
先生は煽りを一切気にすることはない。
「ターンエンドよ」
「自分のターン!」
引いたのは光鎧龍ホーリーグレイス。
(残りがシールドトリガーに埋まっていてくれると助かるがな)
「自分はホーリーグレイスをマナに埋め3マナタップ、《お清めシャラップ》を発動!山札上一枚をマナゾーンに置き、いずれかのプレイヤーの墓地を指定した上でそのカードを該当プレイヤーの山札に戻しシャッフルする。まあ、どっちも墓地0だから意味はないがな」
山札上は時の法皇 ミラダンテXII。
「ついてないな」
そう溢すが、バロムは早々にやってくるわけではない。
「ターンエンドだ」
「私のターン」
ヒナが引いたカードは邪爪の魔法陣。
「私はバロム・ナイトメア2枚目をマナに入れ、3マナ払って《邪心臓の魔法陣》を発動!手札から一枚捨て、3枚ドローしてから、もう一枚捨てる!」
タマシードが場に出る。
このタマシードというカード群は、それそのものは進化クリーチャーの進化元になる置物のようなもの。
「私は手札の邪爪の魔法陣を捨てて3ドロー!」
引いたのは邪爪の魔法陣2枚と、邪尾の魔法陣。
「私は今引いた邪爪の魔法陣を捨てる!」
2枚、ヒナは墓地に捨てた。
(次、バロメアレディでマナに回収できれば一気に勝利が近づく!)
ヒナのマナには5枚。バロメアレディは墓地のカードを2枚までマナに置ける。そうすれば次のターンで一気に8マナに到達する。
「ターンエンド!」
段々と終わりが近づいてきてることが分かってきた先生は少し焦る。
だが、止まれない。
「自分のターン!」
引いたのは2枚目のホーリーグレイス。
(死期が近づいている、か)
それでも諦めないのが彼だ。
「今引いたホーリーグレイスをマナに置き、3マナタップして2枚目のお清めシャラップを発動!山札から1枚をマナに置き、ヒナの墓地にある邪爪の魔法陣2枚を山札に戻した上でシャッフルさせる!」
「な」
山札からはボルシャック・サイバーエクスがマナゾーンへと行く。
墓地のカードが山札に戻り、シャッフルされた。
(まだ、まだ少しだけ遠くなっただけのこと。慌てる時間じゃない)
「先生はこのままターンエンドだ!」
「私のターン!」
引いたのは悪魔龍 ダークマスターズ。
(流石にここからは少しずつ邪魔しないといけない)
「私は邪爪の魔法陣をマナゾーンに入れて、4マナを払って《修羅の死神フミシュナ》を召喚!」
ヒナの場にモンスターが。
「フミシュナの効果発動!私は先生の手札を見ないで一枚選び、それを捨てさせる!」
先生の手札は3枚。
「私は1番左のカードを選択!」
捨てられたのはボルシャック・ガラワルド。
「フミシュナを倒してのドローは無くなったか」
素直に戦法を口に出しながらも、感情が動かない。
動くほどのものでもない、というのが正しい。
「先生」
「なんだ」
「どうしてそんなに余裕そうなの?」
「このゲームのライフ代わりはカードだ。手札がなくなったところで焦る理由はない」
「あと2枚しかないのに?」
「人生と同じだ、運というものがある」
先生は動じない。
それが彼女を苛立たせるが、その感情をいつものように押し殺してヒナは処理する。
「_____フミシュナの効果で各ターンに1度、手札を捨てさせた時にドローできる」
引いたのは聖魔連結王 ドルファディロム。
「ターンエンド」
「では自分のターンだ」
先生はドローする。
(ようやくマトモに暴れられそうなカードが来たか)
その手に来たのは蒼き守護神 ドギラゴン
「マナチャージをスキップ、5マナ払って《龍装者 バルチュリス》を召喚!」
彼の場にも、ようやくクリーチャーが召喚される。
「バルチュリスで攻撃!そして_____」
先生はカードを掲げて叫ぶ。
「革命チェンジ!現れろ、《蒼き守護神 ドギラゴン閃》!」
革命チェンジの効果は、攻撃時特定の条件を満たしたクリーチャーが入れば、手札とその場のモンスターを入れ替えて攻撃が可能というもの。
「ファイナル革命を使用する!自分は山札上4枚を確認し、その中から多色クリーチャーを合計6コスト以下になるように場に出す!」
先生は4枚めくる。
が。
出てきたのはバルチュリス2枚、
「何それ、信じられないくらい酷い」
「……ま、こういう時もある、か」
4枚全てをデッキの下に入れ、先生はそのままトリプルブレイクを決行。
「シールドは左から3枚だ」
ヒナのシールドが破られる。
混沌の獅子デスライガー/カオスチャージャーが2枚、悪夢神バロム・ナイトメアが1枚。
「素直に受けた、か」
ヒナの場にあるフミシュナはブロッカーがあるが、どうやらブロックしたくなかったようだ。素直に3枚、手札に加える。
「シールドトリガーはないようだな。ドギラゴン閃の効果によって、エンドフェイズに多色クリーチャー全てアンタップしてターンエンド」
先生はずっと変わらない。
まるで自分は永遠の主人公で、ずっと変わらないと信じているが故の驕りに見えた。
それでも気にしないように、ヒナはドローする。
「私のターン!」
ドローしたのは死神信徒バーロウ・ビリーバー。
「私は邪尾の魔法陣をマナゾーンに入れる、その際このカードはアンタップする。そして7マナ払って、出てこい《悪魔龍 ダークマスターズ》!」
また、ヒナのフィールドにモンスターが現れる。
「このカードは登場時、相手の手札を3枚捨てさせる」
「これでおさらば、だな」
先生は残り2枚の手札、ハヤブサマルとバルチュリスを墓地に捨てた。
「これで自分の手札はゼロ、というわけだ」
だが彼はまだ余裕を崩す気配がない。
「_____先生!」
「なんだ」
フミシュナの効果で捨てさせた時にドローする効果を使い邪尾の魔法陣を引いたあと、それでも余裕を崩さない先生にそろそろ痺れを切らしたヒナが、叫んで彼に問う。
「このゲームが平等なら、私に追い詰められて、手札が一枚もないのになんでそんな平然としてられるの!?誰によって仕組まれて、誰がこんなことしてるのか、分かっているんでしょう!?」
「分からないはずはないだろう。自分は先生だ」
「じゃあ、どうして!」
「お前が破られたシールドは、当然自分にもある。それも5枚だ。これ全部がただのカードってわけはないはずだ」
いつもの口調ではなく、いつもの"先生"ではなく、既に本来のあるべき姿のままの先生はそのまま話し続ける。
「遊戯王と違って、勝機というのはあるほうさ。ま、それがどれだけか捲ってみないと分かりやしない。一枚も入ってない可能性もあれば、残り2枚が入ってる可能性だってある。それが悪夢を突っ切るだけの力になるなら、賭けてみるには十分だ」
「それはアベンチュリンのモノマネ?」
「_____かもな」
彼は笑うが、直後にヒナは机を叩き叫ぶ。
「ふざけないで!」
それが彼女の悲鳴だった。
「先生はキヴォトスを救う天才かもしれない!救世主かもしれない!でも、それが出来る人間なんて今山ほどいる!それこそ色んな世界から、先生を超えるだけの力を持った人だって沢山いる!なら、もう先生はあそこから去って私の元へ来てっ!」
「あれはただの助っ人だ。責任者は自分だ、その責務から逃げる気はない」
「私を救ってくれる人は貴方しかいないの!誰かに褒めて欲しかった、貴方は褒めてくれた!誰かに頼って欲しかった、貴方は頼ってくれた!小鳥遊ホシノという仲間も作ってくれた!貴方は他の子達にもそんな希望を与えてきた!でも、それでも世界は変わらない!」
彼女の嘆き。
永遠に混乱を続けているキヴォトスという社会、先生が活躍すればするほど浮き彫りになる神秘に関わるものたちの策略、彼は段々と社会の中心に縛られ、殺されようと呑まれていく。
先生に関わっているからこそ、彼はそこまで大層な人間でないことも知っている。シッテムの箱という最低保証に、大人という力だけで今までこの世界で生きていたことを知っていた。
「ならもう、もう、私は誰の力を借りてでも先生を______」
彼女の憎悪は燃え盛る。
「貴方をずっと、私の世界に閉じ込める!」
地下生活者の能力は、そう彼女を歪ませた。
特定の思想や考えを肥大化させる能力は、「先生が欲しい」という欲望と「先生がいないと怖い」という不安を煽っている。
だが、その考えが膨れ上がるにつれ、彼は見えなくなっていく。
彼はその理想像の人間ではないからだ。
「_____そうか」
そう答える彼とは、真反対の思想であることに違いない。
物語は苦難があっても挫けず、進むべきだ、その結果がなんであったとしても歩んだ事実を嘲笑うことなく胸に刻み、自分も進んでその物語を描く血にならなければならないと。そう思って生きてきた彼にとっては、ずっと誰かの庇護下にいることなどできない。
それが例え"自分に都合がいい異性"であったとしても。
例え自分の事を慕い、自分のために全てを捧げてくれる運命の人に出会ったとて、彼が好きな物語はそれで終わらなかったのだから。
「先生」
「すまないヒナ、その要望には応えられそうにない」
先生は、こう答えた。
「どうしても、ダメなのね」
「ああ」
お互いに静かに答え、目を見る。
相手のことを愛おしく思っていても、絶望した世界に曇り続ける光のない瞳。
相手を圧制者のように疎ましく、また恐怖を覚えても一切曇らない瞳。
「先生!」
「大丈夫ですか!」
そんな二人の勝負を見届けるように、新たな人間がやってきた。
現在の状況
先生→手札0、マナ6、シールド5
ヒナ→手札8、マナ7、シールド2