彼は非常に疲れていた。
デュエマを何度もしないといけない上に、その一つ一つが命に関わりかねないのだから精神的な疲弊があって当然ではある。
「大丈夫ですか、先生」
「大丈夫なわけあるか。もう疲れて動きたくない。でも、待ってくれるって言っても勝手に解決してくれる訳でもないんだろ」
「諦めは大事ですが、領土が隣とはいえ広さ的にはかなり広いです。お休みになった方がいいかと」
「寝たいけど寝れない」
「ですよ、ねぇ」
地下生活者の急襲は、彼に大きな負担を負わせた。
それが2回目で如実に現れたのは事実だ。ヒナそのものは願ってなかったことだが、彼女の引っ掛かっていたあんな願望を他にも食らうと考えたら気が滅入って仕方ない。
ただ、列車は快速でたまに止まる。止まる分だけ、休める。
エデン条約の調印式会場だった場所の近くの駅で、扉が開く。
「あ、先生だ」
「先生」
二人乗ってくる。
そのうち一人は、すぐにわかった。
「アベンチュリン」
「ああどうも。どうしたんだい、そんな疲れた顔してさ」
「見回りの仕事がどうにも疲れることばっかりでこのザマだ」
「ふぅん?見回りにしては、随分精神的な疲労が見えるけど?」
「気のせいじゃないのか。てか、大体なんでここにいるんだ。あっちにいるか、カンパニーの仕事やってるかの二択だと思ってたんだが」
「僕だってそうしたいところだけど、そうもいかないからね。何しろ君、面白そうなことやってるって聞いたからさ」
「お見通し、か」
アベンチュリンは笑顔で答える。
「デュエル・マスターズ、か。結構運が重要になってくるゲーム、面白いじゃないか。そんなことしてるなら僕も呼んで欲しかったよ」
「したくて回ってるんじゃない、しなきゃいけないから回ってるんだ」
「なおさら呼んでくれないと」
「呼べるか」
先生は腕で目線を隠すように被せ、だらけながら話した。
「あんなことでもさせたのは自分の責任だ、責任は取らないといけない。そしてその責任の取り方も一つじゃないと教えないといけないんだ。それは教育者である大人の義務だ、逃げれないぞ」
「それで君が倒れたら誰が助ける側に回るんだい」
「自分より使える奴は他にも」
「先生」
彼は少しだけ、真面目な顔をした。
「いいかい、君より有能な奴は確かにごまんといるかもしれない。でも、生徒たちにとって君よりも大事な人っていうのはそうそういない。それこそ家族や、人生に君より深く刺さってる人が居ない限りはね。そうだろう?」
「……」
「モモイちゃんにとってのミドリちゃんとか、人生ずっと一緒に過ごしてきたティーパーティーの三人組もそう。だけど、彼女たちにとって一緒に頑張ってきた君も同じくらいに大事にしているよ。どっちも過不足なく、ね」
「そろそろ自分も悪帝としてしばかれることを望んでいいと思ってたんだがな。彼女たちが自分達で生きて、その文明の火に魅せられて、本能のように飛び込む蛾のように」
「君が彼女たちに手を出さなければ、一生そうならないだろうね。
そう思うでしょ?」
もう一人、乗ってきたやつに目線を向けるアベンチュリン。
そんなアベンチュリンに押されて、一人の生徒がやってきた。
「先生!」
「アリス!」
ミレニアムに置いて行ったと思っていたアリスが、うしろからぴょこっと出てきた。
「はい、アリスです!」
「なんで着いてこようと思った!危ないって!」
「アリスは勇者です、勇者が率先して悪に立ち向かうのがふつーです!」
「バカ!」
「先生こそバカです!一人でなんでも解決しようとしないでください!」
「生徒を不必要に危険に巻き込むなんて大人のやることだと思うか!?」
「人を対等に扱えない不甲斐ない大人に言われたくありません!」
その一言は、彼に重く響いた。
動きが止まって、反論することもできない。あまりに純粋なショックで、何もできなくなっていた。
アリスは続ける。
「先生は確かにすごいです!いろんな学校の問題を解決するくらいすごいです!マスコットですけど、マスコットとは思えないくらい!でも、でも!先生は私達に"一人でも活躍できるくらいになってほしい"って言いましたよね!?じゃあ、アリスたちにもちゃんと頼ってください!アリス達も、成長しているんですから!」
生徒からの、純粋な文句。そして正当的で、あまりに大人に対しての正直な想い。
先生は、静かに頷いた。
「……ごめん、アリス」
「分かったならいいんです、アリスも一緒に頑張りますから」
改めて彼は、彼女を見る。
「_______恥を偲んで頼むよ。この事件、一緒に立ち向かってくれないか。怖いなら隣にいるだけでもいい、正直戦いには巻き込みたくない、けどアリス達と一緒なら絶対に超えられると思うから。ずっと、そうだったから。
だから頼む、力を貸してくれ」
「アリスは大丈夫です!正直な先生の味方ですから!」
そして、もう一人の方を見る。
「アベンチュリンも」
「なんだい?」
「大人同士で、しかも大会社の役員に対してあんまりに幼稚な頼み方になるかもしれないけど……アベンチュリンの力も欲しい。幸運とかじゃなくて、お前の知識と賭け方、それが今回必要だ。自分とプレナパテスじゃ足りない部分を、アリスと一緒に支えて欲しい」
「随分正直だね」
しかし、アベンチュリンは笑顔で頷いた。
「そう言わなくても大丈夫だよ。僕はアリスちゃんに頼み込まれて助けに来たんだからね、シャーレにいたら助けてください!って」
「そうなのか」
当事者はふんす、と自慢げだ。
「で、聞いたらカードゲームをやっているっていうじゃないか。他の人じゃどうしようもない、一番向いてるのは僕だってなって来たんだよ。無論、大変なことになったら増援を呼ぶつもりでいるけどね」
「わざわざすまない」
「みんな君が居場所を用意して居着いているからね、誰も彼もこの街の危機を見過ごせないんだ。地下室の巨大コンピューターで犯人見つからないかってキラも探してるくらいだから」
先生の肩に手が置かれる。
「だから、遠慮なく頼ってくれ。焦ったからって急いで解決しなくていい」
「ありがとう」
素直な笑みを浮かべた先生。
「これで一致団結して立ち向かえますね!」
「そうですね、これで先生も落ち着いて対処できます。とはいえ、あとどれくらい残っているでしょうか」
改めて行動指針の確定のために、予定帳を開く。
「トリニティ、百鬼夜行、山海経だろう、そしてアビドス。今回入ってないが、もし問題があればレッドウィンターにも向かうことになる。トリニティが終われば、折り返しになるだろう。とはいえ、ヒナが落とされたってことは他の学園でもそれ相当の生徒が敵として立ち塞がるはずだ。頭脳派だとより厄介だが」
車窓の向こう側では、イギリスを彷彿とさせる建物が並びつつある。
(正直、次の敵が誰でもつらいが……ハナコが敵に回って欲しくないな)
そんなお祈りを口にせず、過ったことさえ忘れようとして首を振る。
「どうしたんだい」
「いや、なんでもない。取り敢えず次のやつを確実に乗り越えよう。正直な話、命に関わる話だ。あんまり舐めてかからないようにな。どうしても戦えなくなったら、頼る方向になると思う。それまでは自分で戦うつもりだ」
「了解です」
「わかりました!」
『次はトリニティ、トリニティです』
電車はゆっくりと速度を落とし、そして止まり、扉を開く。
「行こう」
急がなければならないと、四人は走って階段を登る。
待ち構えているのは誰か、それをすぐに知るだろう。
あとがき
あと一人の高評価で満赤です!はじないよう頑張りますのでよろしくお願いします!