トリニティにやってきた先生一行は、そのまま駅のホームを駆け上がっては校庭へと急ぐ。
何しろ、ここに来るまでには色々あったのだ。それも、生徒達が闇堕ちして挑んでくるほどの。
この学園だってミレニアムやゲヘナのように誰かが待ち構えているのだろう、もしかしたら来るのが遅れた分、すでに誰かが戦っているのやもしれない。
「大変です!」
一般お嬢様の乱入によって、何も起こっててくれないといいという願いは消え去ることになった。そこまではいいが、慌てようが著しい。
「どうした?」
「先生!ラインハルト様が、ラインハルト様が!」
「あぁ!?」
この世界には、アリスがメチャクチャしすぎて色んな奴らが混じってきている。
ブラックバレルを使用する際、ウトナピシュテムと偽って掘り当てたブリュンヒルトに入ってた可哀想な皇帝がラインハルト・フォン・ローエングラムだ。
その皇帝の身に何かがあったらしい。
「分かった、すぐに行く!」
先生達はそのお嬢様の言を受け、急ぐスピードを上げた。全員そこそこ動けるのか、誰一人として遅れもせずにトリニティの校庭へとたどり着いた。
デュエマをするためのテーブルが二つ、そして血の匂い。
「ラインハルト!」
そして、当のローエングラム侯ラインハルトはどうなっているか。
「……」
彼らがやってきたのと同じタイミングで、彼は後ろに倒れる。その姿は異様に華麗であったのだが、何しろ色が下劣極まりない。
急いで近寄りアリスがキャッチ、先生達も遅れて彼に近寄った。
「ラインハルトさん!」
「……卿、か。すまない、余は負けてしまったようだ。存外、カードゲームとやらは運に強く左右されるものだな」
「勝手に始めるなんて!確かに情報共有が遅れたのは自分のせいだが、なんてったって戦う!お前は賓客だ、そんなことをしなくても」
「ここは戦乙女の園、ヴァルハラだ。余にとってはそうではないがな……お前は大神オーディンと同等の責を負わされているが、その責務をただ一人に任せるような社会など特権社会と腐敗を生むだけだ。余は専制主義の皇帝となったが、全てが、余の一存や技量で成り立っているわけではなかった」
「だからと言って!」
「卿には多少の借りがある。もっとも、それが増えたがな」
彼が指さす方には、敵になった生徒がいた。薄紅色の髪を靡かせ、ただ鳥を愛でる淑女の姿。ボディラインさえ、一切妥協のない黒のドレスによってエロティシズムがありながらも品のあるその姿。
「ハナコか!」
「……ロイエンタールの面影を彼女に見た。あの時から一度も面と向かって彼と話せなかったことの代償を払おうとして_____」
かつての戦友、部下、そして最後に敵となった男の名前を呟くラインハルトは、その目を先生に向けている。
「どうも、上手くいかないことばかりだな……だが、悪くない。俺は、漸く謝れる。そう、だろう」
彼は提げていたロケットに手をかけ開こうとするが、誰かの手がそこに重なる。
先生だ。
「やめよう、その名前を口にするにはまだ早い」
「先生」
「それに負けたからといって死ぬわけじゃない。少なくとも間に合った以上は、死にはしない。もう少し、自分のヴァルハラに滞在してもらう。だけど気絶する前に一つだけ、言わせてもらおう」
「なんだ」
ラインハルトの顔を見て、しっかりと、彼は口にした。
「食い止めてくれてありがとう。ここから先は自分らで必ず解決するよ」
「……ならば、俺が起きるまでに解決しろ。約束だ」
「____ああ!」
先生は相手の手を握り、それを最後に金髪の儒子は気絶した。血を流してはいたが、話している間にアリスとプレナパテスが処置をしていたようで、死には至らない。
立って、勇者に敬礼した彼は相手の方を向いた。
「待たせた」
「いいえ、待っていませんよ。みんなと待ってましたから」
彼女のそばにある鳥達は可愛らしい姿をしていた。
鳥は鳥だが、翼は白と黒、制服も着ているが、その姿は全てに見覚えがある。
「____まさか」
「気づいちゃいました?」
その鳥達は紛うこともなき『補習授業部』の生徒達が、鳥になった姿。
「どうしてそんなことをした!」
「貴方を否定するためです」
冷たい声が響く。
「先生は、みんなのために働きました。それに粗があったわけではないでしょう。そして、今貴方の隣にいる皇帝も賭博者のことも、私は恨みはしません。ですが、私は納得できません。みんな、貴方によって出来上がったシナリオかどうか______永遠に答えが出ない問題に頭を悩ませてた時、あの人の誘いがありました」
口元は歪んで笑みは溢れ、指先に泊まったコハルらしい鳥を見て愛でる彼女。その鳥には、目の前にある慈愛という悪意を感じることはない。
「面白い、と思ってしまったのです。求められたからではありません、あの人ももう一度貴方と戦いたいと思い、包み隠さず話しました。あの人は、先生ともう一度戦う代わりに、私達が全員負けるまで一切動けないようにし、その制御権を託してまで貴方に挑みたいと言ったのです」
「そうまでして自分は駒じゃないと証明したいと?」
「私達は力を持っているのでしょう、しかしその力の使い方は先生が決めていたりします。重要な場面では特に。ならば、私はそれを知りたい。どんな運命が貴方を守っているか、私はどこまで貴方を殺せるか」
その言葉に一切の偽りもない。腕に止まった、セイアの面影があるシマエナガも先生を捉えていた。
生徒に試すような態度を取られるのは先生としてはどうでもよかったが、当然この先生はそういったものが好きではない。支配者たり得るわけではなく、ただ何かの正義のために争い続けたい性格。才能はともかく、気概はラインハルトと変わらなかった。
「貴方の喉にナイフが何ミリ入るか、貴方の声が出なくなるまで刺せたら、私はどこまで才能を使っているのか。ずっと知りたい、私はどうして才媛だったのか。トリニティを保たせるための舞台装置としての価値を持たないのか、それとも本当に私は世界を揺るがす力を持っているのか。貴方に働く運命や強制力は、どのくらい傷つければ壊せるか。プレナパテスになっても構わない、それが私の意味だったのですから」
彼女は、笑うことすらやめてひたすら敵になった相手を見やりデッキに手を置く。
「貴方の死を看取るときは、私の胸の内で抱きしめてあげます」
「ふふ、ははは____」
笑い声がこだまする。
「……俺は嬉しいよ。ハナコ!」
先生は、その言葉を聞いて嬉しそうな声を上げた。
「ああ、これだ。メロがる奴らしかいない世界より、こんな世界の方が生きてる実感がする!託されて戦うのは気持ちがいい、敵がいるのは最高!平和になりすぎたなら別の段階で、今までの味方とやり合う!一切手を抜かないまま!幸せな世界に連れてこられたものだな、嬉しいよ!」
彼もデッキに手に置いて、叫ぶ。
「やろう!ハナコ!お前の本気を見られるのが、お前の敵である瞬間なのは至上の喜びだ!これで勝てばお前は俺以上、早めの卒業というわけだ……」
もう止まることなし、彼はデッキから五枚シールドを出し、同じ数ドローした。嬉々とする先生に少しばかり怪訝な顔をするハナコだが、先生が綺麗事で回避しようとせず自分を受け止めようとしたその人間を本気で愛せると感じて愛おしく思った。
故に同じ行動をし、二人は構える。
「こい、ハナコ!」
「行きますよ!」
お互いは、よくないことでも本気でぶつかれる友情を見出した。
その宣言が、このフィールドに響く。
「デュエル!」