アビドスに辿り着いた先生達。
「せんせーい!」
「マリーンズのホシノ!」
ホシノ・マリーンズが一斉に湧き出てきて、手を引いていく。
「大変だよぉ!」
そう言って説明しないホシノ・マリーンが連れてきたグラウンド。
「な……」
「ハハハハッ!どうだ、見たか!小生はついに貴様に勝った……それで満足すると思ったか!」
校庭には操られておかしくなったホシノが縛られていて、反対側に縛られたユメがいて、その上で監視していた他の生徒がいた。
ただ、一番衝撃的だったのは。
黒服がテーブルの横で血まみれで倒れていたことだ。
「あ、おい!黒服!大丈夫か!」
急いで走り、仰向けにして肩を揺する先生。
「ラインハルトに続いてお前は洒落にならない!起きろ、おい!お前には色々説明義務がある!」
「先生!」
「てめえ!」
先生よりも一人の生きた19歳としての側面が強く出たのだろう、荒っぽい口調のまま声のした方向を見る。
「ようやく来たな、先生!小生を引っ張り出すまでの協力網を敷いたのはさすがだが、待ちくたびれたぞ!」
「あんな挑発を送っといてよく言う!何が目的だ!」
「小生はもう一度決着を付けに来た!」
指を差し、吠える地下生活者。彼には怒りよりもゲームへの熱狂が勝っている。
「策士策に溺れるとはよく言ったものだが、決着は
「先に爆破テロしておいて何を言うんだ!自分が気持ちよくなれないからって人に当たりやがって!」
言い合いをしているが解決しない。
「生徒に手を出したことも含めて言い逃れできると思っているのか!死ぬようなデュエルをさせておいて、お前はまだ!」
「小生は逃げも隠れもしない!ここで刺し違えてでもお前を倒して実力と全ての運で確実に殺す!その為の契約と楔だ!あいにく、貴様が来るまでに剥がれてしまったがな!それに、生徒達は生徒達で貴様に挑むべく小生と契約を結んだ!その意味が分かるか!」
地下生活者の目は歪み、声が響く。
先生はその意味をとっくに理解していて、叫び返した。
「納得できなかったからだろう!?」
その言葉は正しかったのか、間違ってはいても何かの本質を突いていたのか。
グラウンドは静まり返った。
「知っているさ、シャーレにはとんでもない奴らが来ていること。そいつらに頼って仕事をしていたこと。それをみんながよく思っていなかったこと。だが、俺はそれでいいと思っていた」
生徒達に負担をかけさせ続けることは論外でもあるが、自分以外に頼れる大人がいないという最後の砦状態であることが精神にいいはずもなかった。なぜかこの世界にはいろんな大人、いや、キャラクターがたくさんいる事で表面上かどうかはともかく頼れる人間を増やし続けていることに成功していた。
実際それを理解していたアリスやシュロなどは活用していたのだが、全員が全員そうではない。自分が結局信頼できる大人だと考える生徒がいることは理解していた。
「俺は先生だし、生徒から逃げたこともない。だけど自立性は大事だと思ったし、自分しか選択肢のない状態なんて強制力でしかないと思ったから彼女達が自分を選んだのは単なる変化の拒絶だと思っていた。まだ甘えるしかない少女達だと、呆れもしたさ」
だが、彼女達には当然自由意志がある。制度や法律はそれを規制しなかったし、先生もそんなことはしなかった。だけれども成長というものに一定の形があると信じていた先生は、あることを見落としていた。
どれだけ画面や次元の向こうからキャラクターや力がやってきても、彼女達は『その上で先生を選んだ』のだと。
「俺はバカだった。彼女達が考えるにはまだ甘い少女達だと思ってみくびっていたが、様々な苦難を乗り越えた後の平穏で必死に考えた結果俺が一番信頼できると考えていたんだよ。今だから気づいたんだ、彼女達は自立した上で、生徒と先生ではなく大人になって付き合い方を変えてもやっていけるほどの信頼を置いてたってことを」
自分はそれを成長していないと、そして性的な依存を含めた未完成な感情のそれだと腐して対立してしまった。
「なのに俺は今までずっと、ずっと!平和の維持だの助けるだのの英雄の大義名分で戦ってきた!それに今気づいたなんて嘘だ、お前と戦った時もプレナパテスとの対峙も全部”人間の大人のカッコつけ”と冷静であることが存在価値だと思い込んで戦ってきた!お前がこんなことを仕組んでくれなきゃ気付けなかった!」
「先生……」
「俺は、俺は!」
先生の叫びがこだまする。
テーブルを叩き、涙も出ないままに後悔し続けた向こうからも怒号が飛んでくる!
「ふざけるなよ!」
地下生活者さえ、そう叫んだ。
「どれだけ後悔しようが小生には関係ないことだ!小生には小生の後悔があって、それが正々堂々とカードで殴り合うことで往生しようというのだ!そのために貴様を呼んだが、いつまで後悔している!」
「うるせえ!」
「大人同士であーでもないこーでもないと言いながら戦う事でしか、お互いの後悔を晴らせないというのであればぶつかるしかないのだ!そう観念したからこそ、少女達に交渉してこの場まで用意させた!全ては貴様を後悔させ、全力で残らないほどの衝突をするために!」
彼も自分に憤りを感じずにはいられなかった。
先生に負けて殺された後、一度蘇ってはベアトリーチェと不良にあの世送りにされた。しかし、その時に感じたのだ。
ゲームというのはどう転ぶかわからないからこそ全力で選び勝ち取るものだと。それを自分は狡賢くやろうとして、全ての本質を知らないまま終わってしまっている。カードゲームをして感じたのは、その手札をうまく扱い切ることこそが勝ちへの執着を生きる気力と技術に昇華できるということ。
「少女達は伝えたいこと、内心見下していたかはともかく全てにおいてまともに頼らない貴様に痛い目を見せるためにだけわざわざ小生の後悔に付き合ってくれた。小生は彼女達の不満や本心を、先生は彼女達の信じる心と希望を持ってぶつからないといけないのだ!その重みこそがゲームの勝ち負けや超越者ぶることでの優越感ではなく、ゲームを支配しようとする勢いと執念を生み、それこそが戦いの本質なのだと!」
地下生活者の方にシールドが展開されて、手札も出てきた。
「小生と貴様で決着をつけよう!小生は渇望した最高の戦いのために、貴様は貴様の本心と大事なもののために!」
彼の声は怒りと覇気に満ち、そして彼以外を見ていない。
後悔にありながらも隣に立ち、かつての姿などない地下生活者の熱すぎる視線に先生は用意されていたデッキを手に取る。
「そう、だな」
先生は立ち上がる。
「お前の封印が解かれたってことは、封印を渡した奴らは全員気絶か戦闘不可ということだ。ホシノはみんなが止めたし、コクリコは不良が、ミモリはキラが止めてくれたんだ。他の三人は俺がな。じゃあ、決着をつけねえと」
「先生!」
「……モモイ?」
後ろから声を出して走ってくる生徒がいる。
「せんせー!これー!」
デッキを投げ渡す彼女につられて、キャッチするが先生は驚いたままだ。
「モモイ……!怪我は大丈夫なのか、というか動いてもいいのか!?」
「だいじょーぶ!ミドリやケイやユズが面倒見てくれたからなんでもないよー!」
元気な彼女は、そのまま地下生活者を指差す。
「だから先生、私たちのことは気にせずじゃんじゃん戦って!そして勝利して喜んでるところを見せてよ!」
「……ああ」
「そして地下生活者!」
「なんでしょう?」
なんで自分も呼ばれてるんだ、と思いながらも彼も返事する。
「ズル以外はなんでも受け入れるから私たちの不満をちゃんと表現するように戦って!」
「要約すれば全力で戦えってことですね。詩的表現は慣れてないんですか?」
「うっさい!」
二人の男を激励する彼女は、腕を下ろして二人を見る。
もう、飾る言葉も伝えることもない。
「らしいな。わかった、やろう!」
「最初からそのつもりだ!早く小生と戦え!」
「ああ!」
同時に叫び、最後の狼煙を上げる。
戦いの火蓋は、カードに切って落とされた。
「「デュエル!」」