シールドが五枚、手札が五枚。
先生の手元にあるのは《
「なんだこれ、何を使って戦うデッキなんだ?」
「お困りのようですね先生。よろしければ、先行を差し上げましょうか?」
「いいのか?じゃあ遠慮なく」
先行1ターン目はドローなし。
渡されたデッキを確認することなくカッコつけてデュエルを始めてしまった以上、何をどうすればいいか分からない先生。
「俺は《
「小生のターン!ドロー!」
先行を先にくれた彼はかなりの余裕があるらしい。複数の目を嘲笑うように歪ませながら、マナをチャージした。
「《王導聖霊 アルファディオス》をマナに埋めてターンエンド!」
「天門か!?」
「その通り!」
邪悪な存在が使うにしてはひどく高貴なものを持ってきたな、と思う先生だがコデックス云々でいきがる中年にはむしろ似合っている、とも考えたらしい。
ただ、自身が持っているデッキが何をするか不明な上、もし殴るデッキだった場合は最悪負けかねない。最悪死ぬともなれば、かなりのプレッシャーがかかった。
「自分のターン!ドロー!」
先生が引いたのは《
「なんだこのカード!?」
「随分と悩んでいるようですねえ。生徒たちが即興で組んだせいで、少しばかり構築にアラが出ましたか?しかしそれを乗り越えてこそ先生、卑怯者を滅する絆でしょう?」
「ちょっと!私が頑張って組んだデッキをボロクソに言わないで!これやってる人に聞いて持ってきたんだから!」
「だそうだ」
ターンプレイヤーは悩んだ挙句、一つのカードをマナに置く。
「《邪尾の魔法陣》をマナに埋め、2マナ払って俺は《
遊戯王っぽいエフェクトで出てきたのは、場和了GO-YAMA-58。
「このカードがあれば手札以外からエレメント、つまりカードは場に出ない!俺が天門とかを踏まなきゃの話だがな……!」
「そうは問屋がおろしませんよ、先生。小生のターン!」
スピードアタッカーもなければ着地時の効果もない。そのままターンが地下生活者に移る。
「私は《ジャスミンの
三枚目のマナに選ばれたのは《サファイア・ウィズダム》。段々と緑入りの青白としての片鱗を見せてきたが、先生のデッキはどうやって勝つかがまだ定かではない。攻撃するべきか、そうじゃないのか。
モモイに聞きたいが、それでは折角尽くしてくれた礼に欠ける。その時に地下生活者が何をするか分かったものではない。
「どうしました先生!?怖気付きましたか!」
「はっ!言ってくれる!自分は、先生だ!ここでしっかりお前に勝つ!一人の男として!」
「よく言った!」
「3ターン目だ!ドロー!」
ここで倒せなければ、もしかすれば負けるかもしれない。4マナから強く動けるかどうかも分からないが、少なくとも攻撃が主体の場合ブロッカーがいると厳しくなるはずだ。
引いたのは________
《
「……あ?」
先生は、ここで一度止まってしまった。
完全にデッキを把握していないのが悪いのだが、本気で勝ち筋を見失っているようだ。
手元にあるのは《秘密結社 アウトレイジ》《伯句爵 Drache dar'Bande》《S級宇宙 アダムスキー》《ジャスミンの地版》の四枚。
伯句爵の効果にはコスト4以下のクリーチャーではないカードを1枚、自分の手札またはマナゾーンからコストを支払わずに使える。G-NEO進化をGO-YAMAで達成して擬似SA、そのまま秘密結社アウトレイジでパワードブレイカーを生かして破壊できる。しかし、全ブレイクすれば天門相手には不利なのは明白だ。
「どうしたのですか先生。小生はいくらでも待ちますよ、それこそ先生が餓死するまでね」
煽りではないが、少なくとも止まったことを怪訝に思っているようだ。それでも先生からは何かの司令のサインは見当たらないし、そもそも追ってきたプレナパテスがシッテムの箱を持っている。
先生単体が乗り込んで戦っている以上、互いに仕込みのない戦いを保証していた。
「どうやって、どうやって!」
彼は考える。
《秘密結社 アウトレイジ》はバトルゾーンの自分クリーチャー1体にそのターン中パワー+1000000する。これはどこかで使うことを想定しないと、まず入れないカードだから使うに違いない。
《伯句爵 Drache dar'Bande》はパワードブレイカー持ちで、攻撃時にコスト4以下のクリーチャー以外のカードを一枚使うことができる。アタックするときの細工が必要なのだろう。
《ジャスミンの地版》は出した時に1ブーストするタマシードだ。GO-YAMAがあったためにこれを出したが、少なくともその時点で改めて出そうという考えは起きない。
《S級宇宙 アダムスキー》はよく使われていたというLO用のカードだ。シールド一枚につき4枚相手のデッキから墓地に送る効果だが、一体しか場にいない。伯句爵の上に載っけるのだろうが、彼のパワードブレイカーは乗らないため、アウトレイジを使ってもパワーが+1000000されたダブルブレイカーが出るだけだ。
(どうやったらこいつらで勝てるんだ!?全く、こればっかりはモモイらしいけどあとで渡すときにこういうデッキだよ!っていうのを言ってくれって……いや確認しない方が悪いけどさ。困った、でもこれじゃどうやって……)
悩んでいる先生を、煽ることなく見守っている地下生活者。
そのうちに、悩んでいた男はあるものに目が入った。
「ん?」
前のターン、自分が置いたGO-YAMAだ。
よく見てみると、超魂
『超魂X(これがクリーチャーの下にあれば、そのクリーチャーにも以下の能力を与える)このクリーチャーにカードが3枚以上含まれていれば、このクリーチャーのパワーを+6000し、「パワード・ブレイカー」を与える。(「パワード・ブレイカー」を持つクリーチャーは、そのパワー6000ごとにシールドをさらに1つブレイクする)』
______ここで、全てを理解した。
そして確信した。
「俺の、勝ちだ!」
「アハハハハハ!」
「な、なんだ!?」
「遅かったな地下生活者!お前が先行でオニカマスすら握ってなかったのが運の尽きだ!今ここで、このターンで!お前を地獄に叩き落とす!」
勢いよく、先生は勝ちを宣言してマナにカードを入れた。
「自分は《ジャスミンの地版》をマナに入れ、水と光と木で《伯句爵 Drache dar'Bande》をGO-YAMAの上に載せて進化する!」
ギターを持ったドラゴンみたいな存在が出てきた。
「そのまま《伯句爵 Drache dar'Bande》で攻撃時、能力の発動と侵略宣言!出てこい!《S級宇宙 アダムスキー》!」
伯句爵の上にUFOのような侵略者が乗ってきて、そのまま攻撃に向かう。
「伯句爵の効果によって、手札またはマナゾーンからコスト4以下の、クリーチャー以外のカードを使用することができる!ここで手札から《秘密結社 アウトレイジ》を発動!このターン、アダムスキーの攻撃力は1013000になる!」
「しかし、ダブルブレイクのままで結局4枚のカードが墓地に行くだけだ!小生の傷には」
「よく見てみろ」
アダムスキーのステータスは、パワードブレイカーになっている。
「ここで一番下の《
「あ……!」
「1013000/6000、168枚のシールドを破るが_____その代わりにアダムスキーの効果でその二倍のカードが墓地に行く!」
地下生活者の残りカードは27枚。26枚が墓地に行く。
「ああ、そうか。セットで数えきれない場合は処理が止まるんだったっけ?」
ただ、もう遅い。
デュエマは遊戯王とは違い、0枚になった時点でゲームオーバーだ。この時点で、相手に勝ち目はない。
地下生活者のシールドは破られず、彼は敗れる。
「こ、こんなバカな!バカな話があるか!」
「どうした地下生活者!真面目なゲームを挑んできたのは褒めてやるが、勝ちは自分に回ったようだな!」
「くそ、クソがあああああああーっ!」
「さあ、引け!お前のターンだ!」
「くそ、くそぉぉぉぉぉぉーッ!」
地下生活者は、デッキに手を置いてサレンダーすることなくドローした。
最後までやり切るという名目の元に生徒たちと契約を結び、誰もがそれに反しなかった。
ゲーム盤から一切逃げず、自分の負けを認めて最後の一枚を、自分の存在が消えかねない契約の終わりを_______
”正直”に告げたのであった。
「……デッキが0枚になった瞬間に、ライブラリアウトでお前の負けだ。地下生活者」
「これが、本気の戦いか……大したものだ。だが、小生にはなかったものだ。初めて満たされ、消えることができる」
デッキを回収すればテーブルも消えて、倒れ伏す地下生活者だけが残る。
先生は彼を抱え、仰向けにさせて覗いた。
「どうしてこんなことを?」
「この世界に色々な異物が流れ込んできてから、小生の運命とPCの設定を見てしまった。卑怯者ゆえの死に様であり、オタクどもの鬱憤ばらしと英雄ごっこの糧であったことに、恥も外聞もなく苛立って復讐したいと考えた。その足がかりでしかない」
「の、割には生徒たちもちゃんと同調したな」
「彼女たちは彼女たちで、貴様に苛立ちを覚えていた。異物のせいが全てではないが、本来の”先生”とはあまりに違い、冷静に全てを処理しようとする様に隠しきれない不安と恐怖を見せていた。完璧な政治家と呼ばれるものほど、恐ろしいものはないだろう」
淡々と話す地下生活者は、黒い砂となりつつある。
「小生はここまで真面目になった時、己の運命はもう越えられないと悟っていた。だが、小生と契約を結んでくれた生徒たちは先生への試練のために励ましてくれたこともあった。彼女達は『変わろうと足掻けば全部でなくても変われるはずだ』と。貴様の綺麗事が実をつけたな」
「そうでもないさ。自分だって19歳で何も変われずにいる。その結果が、今回の事件だった」
咳をし、血を吐き、衰弱する彼の目は何を思うか気色悪さのないままに先生を見ている。
「はぁー……小生は、この戦いを生み、待ち、最後の一戦に全てを託した。これで、何か変われただろうか。運命とやらに抗えると、信じて戦うのも悪くはなかったが、生徒たちはせめて何か得られただろうか」
「多分、生き返ってまで執念を燃やして、ゲームに勝とうとするお前は運命を超えた。自分は結局こうだったと他責しないで生徒と共謀して俺と戦った……のは悲しかったが、よく考えてみれば今回は何も細工なしに戦ったじゃないか。シッテムの箱は持っていないし、お前は精神に干渉しなかった。いや、ホシノに関してはちょっとアレだったが……最終決戦は普通に戦ったじゃないか」
先生は、笑顔で相手を称えた。
「だから、お前はもう地下生活者という域を超えてしまったただの男だ。大人のな。だから自分は、こうして苦労した……それだけで大金星だ。先生としての不甲斐なさを見せつけてしまったのも含めて、この戦い以外の全てに負けた」
目を伏せ、もうしゃべれないほどに砂となる地下生活者に彼は言葉を贈る。
「だから、何も煩わないままに往生しろ。ここからは、お前が作った隙さえちゃんと塞いで行く地道で大切な作業をし続けるから。お前には学ばされたのを、無駄にはしない」
「あ、ああ……小生は……」
「この戦いにおいては”最高の敵”だった」
「あ……」
全て砂となり、アビドスの風に吹かれて消えていった。
見送るように立って、そのまま空を見ている先生。
誰一人としてしばらく彼に話しかけようとはせず、敬礼もなく、ただ敵を見送っている。
この世界だからこその敵になれた彼を、少しばかり気にかけるように。
______騒動そのものは、ここで終幕した。
生徒達は元に戻り、普通に過ごしている。
残すのは。
彼の独白のみ。