先生達は決着をつけて、ちゃんとパーティーをしていた。
あれこれ時間が経ちすぎていたが、あっため直した料理は美味しく誰しもが舌鼓を打ってはとりあえず食べ続けて話をして……を繰り返している。
「先生」
「プレナパテス」
先生と、先生だったものとが、二人並んで酒を飲んでいる。
「ようやく今回の件が解決しましたね」
「ま、解決しなかったら飲めてないからね」
「しっかり飲みましょう。酒を飲んで忘れる、これもまた大切なことです」
「ああ」
互いにグラスのワインを当て、飲み干した。
「……何か、浮かない顔ですね。いいんですか?せっかく色んな人達がいるのにはしゃがなくて」
「生徒達にあんな言い草されたらどうしようか悩むもんだろ」
「ええ」
先生の顔には憂い、そして少しの不満があった。
「自分は結構、こうなりたいっていう大人の像があった。洋画の様にカッコよく皮肉を言って、カッコよく仕事を片付けて、酒を飲んでタバコを蒸すステレオタイプの男になりたかったんだ。いや、そこまではいけなくてもまあそんなふうになりたい時期があったと言った方がいいか」
そうなる為には、自分の知らない事を知ってて、自分とは全く違う人生を歩んできた仲間と肩を組んで仕事に取り組むのが一番だと思っていたと、彼は口にする。
「面白い話でさ。アリスやシュロをはじめとしたメンバーが暴れたら色んなやつがやってきてさ、夢の中で遊んでいる様な感覚になったんだ。いつか憧れた景色が、憧れたキャラクターと一緒に出来てるって感覚は確実に面白かったんだよ」
「生徒達では、そう思えなかったのですか」
「彼女達は天才だ、でも天才なだけだ。天才じゃなかったら偶々主人公に拾われたヒロインでしかない。結局精神は未熟で、フォローしてイコンにならなければただの少女達だ。無論、ゲームのキャラだったからそれが正しい形かもしれないけど」
ワインを注いで、二杯ほど飲み干す先生。20歳にもなってないのに誰も咎めないのは、問題解決の熱狂のせいだろうか。
「自分はザ・ボスやビッグボスになりたいわけじゃない。ジョン・マクレーンみたいなのになりたかった……この世界に来て、それはもう叶わないと知った時に絶望して殻に閉じこもったんだ」
一生『侵されない異性』であり『自分達の指導者である』ことを押し付けられ続けることの何が正しい……いや、楽しいのだろうか?自己のなさや憧れのなさ、何よりも自分で動くことが出来なくなった人間にとっては全てを補填されるに等しい行為なのだろう。
こう考えた先生にとっては、生徒との距離が近づく事をあまり良いものとして捉えてなかった節がある。女に言い寄られる前につまらなさが勝ってしまうから。
「プレナパテスと戦って、勝って、あなたが生き返って、色々入ってきて……漸く、漸く諦めかけてた世界が戻ってきた感じがした。自分がずっともっと少年だった頃から好きだった奴らが、ずっと隣で戦ってくれて、だから負けてられないと思って頑張った。それだけが動力源だった」
机に溶ける様に伸びる彼。
「心のどこかでは先生をやることすらうんざりしてたんだ。全て何かの設定に沿って動いているキャラクターに言い寄られたところで何も面白くない」
「先生」
「だから、自分は初めて負けた。自分を殺そうとしてくる生徒と真正面から戦える機会をあいつに与えられて……あまりにも楽しんでしまった」
血を流せば死を実感して楽しくなってしまう。何故なら、ヒーローというのは苦しんで当然だから。その苦心を乗り越えて戦い続ける者こそが、真の戦士であったからだ。
そして何より彼を楽しませてしまったのは_____
“生徒達が和解不可能な敵”になったから。
「悔しかった。あれだけ絶望的な状態で、助けられて説教されるまでも心の底から酔ったんだ。ああ、自分は自分より強い少女達の裏で偶像のままで身動き一つ許されない王ではなく、敵を倒しに行けるフィクションのヒーローになれたと!裏切られた時に、言い返しようもない悦びに包まれた事を!」
主人公になれるのは当たり前の世界だが、その主人公の種類が“自由な第三陣営っぽいカッコよさげで言い訳のないヒーロー”に変わったこと。
先生の様に“教祖っぽい特別な人間”でもなければ、“自分が感じる不都合を排除する為に自分を偽るヴィランやダークヒーローというバカ”でもない。
自分の価値観で判断し、責任を持ち、それに自然と準じるほどに後悔せず信じれる“一人の人間”としての生を持った瞬間。
彼にとっては唯一のブルーアーカイブだった。
「くそっ、自分は、自分は……!」
「先生」
肩を叩く大人が一人。
「どれだけあなたが後悔しようとも、あなたが挑んだすべては無駄になっていない。このキヴォトスにとっての先生は、イコンになる前にある大事な事を皆に知らせたのです」
「何を」
「あなたが人間であり、大人という括りだけで人を片付ける危険性を示したことです」
先生は神様でも救世主でもない。その人間が示す先は自主性を失った人類の破滅であると、プレナパテスが証明している。
だからこそ、頼っている人間をしっかりと見て、会話し、共に歩むことを是とするべきだと生徒達は先生と相対することで学んだと、プレナパテスは言う。
「地下生活者の意図を踏まえても、生徒達も恐らくは自分達が彼の下でしか生きられない存在だったのかと疑うことで協力した。しかしそれは、あなたがいろいろな大人や他人に頼って仕事をしている姿を見せて初めて“先生だけを盲信する事が正しいのかどうか”と言う疑問を生んだ」
その疑問がいつしか”先生を慕う理由“へと変わっていって、そこに納得できる理由が見つからなかった、あるいは見つけてもそれが社会を敵に回すだろう事を理解した上で敵になった。
「先生は確かに孤独な戦いを強いられた。だけど一切逃げなかったから、今度は一人の人間として見つめざるを得なくなった。負けた生徒は最後まで直視できなかったか、直視してもなお抗って負けた。しかし彼女達にとっては”健全な自立心を持ち自分の全てをぶつけてもなお立っていられる真の大人“を見ることになった」
デュエマというゲームの中で、どっちも細工をせず、運と考えの戦いで何とかして勝っていくのを続けた先生には相応しいエンディング。
生徒達は”自己の強化“と”真に強い人間“を見た。プレナパテスの世界では考えられなかった事だ。先生が綺麗事で諌めることはないが、逆に排斥を考えずに同じ土台で勝つ事にこだわった。
「あなたは真正面から挑み勝った。生徒達にあった壁を破って、その壁に一切の想いを載せなかった人間だからこそ彼女達と向き合い、本当に信ずるべきものを見せた。私は、それで十分だと思います」
「プレナパテス……でも自分は」
「そう思う心すら、生徒達にとっての自分を見つける原動力になったのです。今回の件は流石に被害者的な側面も強いのでフォローは必要ですが、それ以外に思い煩うことは一切ありません」
プレナパテスが先生のグラスにワインを注ぎ、暑く茹ってくる時期だからと氷を雑に突っ込んで、グラスを掲げる。
「あなたが先生として若すぎた。だが、その若さが新たなキヴォトスを作った。今ここにいるデュランダルさんとか、キラさんとか関係なく、”先生“だったからこそ……だから、もう後悔するのはやめましょう」
「そっか、そうだな……そう、だね」
いつも通りの口調が戻ってきて、二人は微笑み合う。
「さあ、飲み直して気分を良くしましょう」
「うん」
アリスとシュロはケーキを取り合って何かゲームをしていて、他の大人組は肉を突きながら雑談をしている。
他にもやってきた生徒達、流石に敵対していた生徒が体調不良もあるので休んでいるが、ゲーム部のメンバーも残りのジュースをかけてトランプ中。
グラスがぶつかって、ワインに流されている氷がメロディーを作った。
「乾杯」
《後書き》
どうも、らんかんです。
特別幕間、漸く終わらせました。書き始めた時期から1年くらい経っているでしょうか、遅くなって申し訳ありません。次回からは通常通り単発式に戻ります。
デュエマを題材にするのは難しく、盤面を作る暇すらなかった事。デッキが新しかったりしてかなり短く終わってしまったりなどとかく苦労した場面が散見されたと思います。場面が想像しづらかったら申し開きもない。
今回のストーリーに関しては、完全にこのキヴォトスでの長期ストーリーを作りたかったからです。段々と他作品キャラに出番を奪われているのでストレス溜まってるだろう生徒の出番を出して敵にする、その為に明確なダメージなどがわかりやすいデュエマを選択したりしました。先生も先生としての話し方が剥がれて、一人の男として立ち向かわせる事で何を考えて生徒達と接していたのか分かりやすくし、その上で生徒達との関係性に新たな風が生まれる事を期待しました。
先生かなり乱暴な自由主義者だったけれども、自分が世界にいるからこそ敵にもなれる生徒達にその在り方すら肯定して戦う事でもっと生徒ではなく人間として強くなれる!元からそうだった生徒には持つ欲望をぶつけて折り合いをつける為に戦う!の様に短いながらもカラッとしていて、後味悪くならない様に頑張ったつもりです。この作品は曇らせが主軸ではないので、決着があってこそ作品になると思ってます。
改めて申し上げますが、更新遅れて本当にごめんなさい。仕事が忙しかったのもありますが、忙しくない時は揃って別の作品を書いてたりしてたので尚更遅れました。試合展開どうしよっかな、でずっと止まってましたし。他作品も良かったら見ていってください、と言っても主力作品のシャーレ前交番はこれうだうだ考えてる間にもう終わりましたけど……いやほんとに、今度からキャパオーバーしないように注意します。
楽しんでいただけたなら、良ければ高評価とか感想をください。ちなみに高評価を貰えたら、満赤になります。通知欄が太るのは、私の細やかな人生の喜び。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。まだまだこの作品はネタがあるだけ続きますので、引き続き応援よろしくお願いします。
らんかんでした。