「そろそろギルガメッシュが来ますね、先生。今までセイバーとサンデーとフォフォまで決まってて最後の一枠がずっと悩んでたのでありがたいです。今まで何入れてました?」
「シエテ」
「え?」
「シエテ」
「え?」
「超越150シエテ」
先生がなんだかんだやっている間に、デカグラマトンと決着をつけるまでに時間をかけすぎてしまった。
急いで決着をつけなければ、このキヴォトスは徳川家康のお城みたいになってしまう。そんな戦いも、クライマックスに近づいていた。
「あ、え……」
アインとソフとオウルは泣いている、マルクトが倒れていて別れを覚悟し、神のためにと剣を刺したのに何もないから。
玉座のようにひらけている場所には、デカグラマトンがいる。無論、ヘイローはあまりにも大きすぎるから、少なくともとんでもないものが存在するという事実は間違いない。
しかし______
自販機にデカいヘイローがくっついているのである!
「あ、えっと……」
「アリス、あの、えっと。いやまだ王女呼びの方がいいのでしょうか。いやそれよりも先生!」
「自分が知りたい!」
先生はシッテムの箱にあったフェイタルチェインゲージを押したら、そのまま儀式が無理やり解除されてしまった。巻き戻しではなく”中止”である。
「誰だ!私の降臨を解除した馬鹿者は!」
「アリスです!」
堂々と居座る王女がそこにいる。
臨戦アリスではない、いつの間にか十天衆みたいなコートを着ていて、剣を構えている可愛いアリスだ。
「昨日の夜休んでいたら怪しいお兄さんに『面白い戦闘スキルを習得してみなーい?』って誘われたので一晩頑張って覚えてきました!」
「き、貴様か!どうしてくれるんだ!あの器の体で囁き美女達をいただく計画が!」
「やーい自認草薙素子!マルクトのナメクジみたいなボディでナメクジセッ○スしたかったのバラしてやるからな!」
「あ!お姉さまの体はナメクジじゃありません!」
「黙ってなさい!家族全員シャーレに直行ツアーだ!」
ただし、デカグラマトンは自販機でも降臨した神である。むしろ人に依存しない存在になったからこそ、恐ろしくなったというべきか。
呼んできたビナーも『待ってください』と言わんばかりに、守っているだけで攻撃はしてこない。
「くそっ!どうして私降臨の儀式が中断された!小娘の剣一つで!」
「今のアリスにはロッソ・イルジオーネというパッシブがあります!これはフェイタルチェインゲージを押すと出ている予兆をすぐに解除できてしまうという素晴らしいスキルなんです!お兄さんから教えてもらいました!」
「やっぱシエテか!くそっ!無茶苦茶にしやがって!」
「これで全ての行動を無理やりキャンセルできますよ!どんなチャージをしていても、これで一発です!スキルを発動して、チャージして、放つ!」
「大体この一件はマルクトが悪いまであるからな!なんだよ予兆出してきたタイミングで解除条件がディスペル99回って!天元の33倍も要求してきてるんじゃないよ!」
「そ、それはそうだな。う、うむ。器にはちゃんと言っておこう。半分くらいでいいのではないかと」
「45回も多すぎるよ!せめて多くて6でしょ!?ヴェルサシアがそれなんだから!」
「な、そんな少ないのか!」
「少ないよ!」
自販機さんの驚愕が、ライトの青さで分かってしまう。どうみてもコミカルだが、これでも三人ほどの命はこの時点で救われている。もっともそれが、アリスによる違法FCによる強制中断のせいなので手放しでは褒められない。
どうしたものか、少女達にものを壊せと指示する大人がまともなわけはない。ただ、その相手が世界を揺るがすほどの存在であり、このまま放置していればいずれキヴォトスは終わってしまう。鋼鉄大陸が崩壊するのはいいことだが、どうやったら崩壊するのかという点では今ここで元凶を断たねばおそらく世界は滅ぶ。
皆がどうすればいいのか悩んでいるのも無理はない。
もし、これで完全顕現を許すようなことがあり、そうして自由を手にした神によって滅ぶとなれば生徒達に合わせる顔もないだろう。だが、そのシナリオの先に完全なる解決があればそれこそ雑な妨害で世界が終わることになる。
「どう、しよっか、なあ」
「先生!」
「ん……?」
ヘリコプターの音がして、一人の少女が降りてくる。
「手前様に面白いものを!ほら!」
「何って刀じゃないか。いや待ってシュロ、これ」
「地蔵御魂です」
「神の鍵か!」
いつぞやかアリスがシャーレに持ってきたもの*1が、ここに来た。
侵蝕の律者の権能は、有機物無機物を問わずに制御下におけるもの。その一部によって作られた刀ならば、おそらくは鋼鉄大陸を止めれるかもしれない。
「あ、それはアリスが持ってきたものです!」
「なるほど、ありがとうシュロ。これだったらなんとかなりそうだ……アリス!ケイ!」
「なんでしょう!?」
「二人は浮いててくれ!多分地面に触れてないほうがいい!」
鞘を払い、刀身を地面に突き立てる先生。
(使えるやつをここに呼び寄せるまでには時間が掛かりすぎるし、そもそも一欠片なら問題はないはずだ。しかし、陰陽師を思い出すな。帝のために都を竜に見立てて血栓を破壊する、みたいなアレ)
刀がゆっくりと入っていくにつれて、世界が揺れていく感覚。
「な、何をするつもりだ先生!」
「あっと、えっと、とりあえず捕虜ってのは生きてないと意味ないからそれをするための行動だ。少し痛くても文句を言うなよ!」
その刀身を振るうのは先生、当然刺されて侵蝕するものの優先権も先生に移る。
「なんて命令出せばいいんだ?えっと、とりあえずゆっくり自壊しろ!」
「わぁ!?な、なんか揺れてきてる!」
「私たちの家が……」
「よし、お前らの家を破壊したのは後で謝るからあとはここから脱出だ!文句ないな個人名のデカグラマトン!」
「あば、あばば、あばばばばばばば」
揺れと同じように、ライトが安定しなくなって点滅している自販機。三姉妹とマルクトは特に影響がないが、おそらくアリスがFCゲージで中断したせいで機械的な接続に重大な不良を起こしたからだろう。
大きな輸送ヘリが地面に着地して、操縦しているヒマリが声をかける。
「先生!早く乗ってください!そんなに時間が残ってないです!」
「だろうと思った!他のメンバーは!?」
「全員乗せてます!だから早く!」
「分かった!」
刀を引き抜き、鞘に収めてから一斉退避を開始する。
マルクトはアイン・ソフ・オウルに運ばれる形で搭乗、ヘリ後部の入り口から自販機マトンを生徒パワーで運んで収納。他のメンバーも乗り遅れることなく、そのまま乗り込んで離陸。
鋼鉄大陸はキヴォトスの都市を模っていた大きな場所であったが、侵蝕されてはそのまま崩れていく。錆びて忘れ去られた廃墟のようだ。
「流石にこれだけの力があると、こうも攻略が簡単になるものですね。知っていましたか?この子達は、本来だったら死ぬ運命だったらしいですよ」
「三姉妹が?」
「ええ。儀式による神の完全顕現、その巻き戻しで命を落とすと」
「それはさぞ美しい物語になっただろうな」
機内の中で水筒の紅茶を飲む先生。
「でもいいじゃないか、これで。自分達は勢いのまま生きて、その勢いでの失敗がどっかに活きる。すでに曲がったものは仕方ないけど、その曲がったものをどう活かすかもまた大人の見せ所だよ」
「ね、ねえ、お姉様ってちゃんと戻るの……?」
「安心してください、帰ったらちゃんと剣を引っこ抜いてから修理しますよ。だからそのままでお願いします」
「はい……」
「人間だけの世界でも戦争を何回もやってるけど、時代が進めば色々生まれた。その価値が絶対者を貶めた、それだけのことさ」
「そう言うもん、ですかね」
「まあ、ちゃんとした話し合いはしないといけないからね。神様と、真正面から」
そこだけは気掛かりなものだが、少なくとも先生は嫌な気はしなかった。
対話こそが何より力。それを証明するには力ではなく言葉、これが一番スマートで、確実な照明の仕方。
その方向にシフトしたら、大人が全力で争い悩む見せ場。
大人らしいカッコ付けの手前、先生は密かに神との対話を楽しみにしていた。
あっけなく陥落してしまった鋼鉄大陸は、歪んだキヴォトスの犠牲の象徴。
それとは引き換えに、このキヴォトスの試練は”力や物語などの英雄性に頼ったバカでも分かる神殺し”では超えれなくなった。
だが、この先生には多分超えられるだろう。
膝を突き合わせることの重要さは『今、すぐに!』から人格を持った存在を切り離す最高の手段なのだから。