異世界予言システム。勇者に迫る死亡ルートを回避せよ!   作:黒月天星

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 注意! 今回は三人称視点です。


夜更けの予言対策会議

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 ある夜、バイマン男爵が執務室にて業務をこなしていた時の事。夜も更けてきた事だし今日はそろそろ休もうかなど考えていた頃、

 

 コンコンコン。

 

「夜分遅くに失礼します。開斗です。至急の要件があるのですが、入ってもよろしいでしょうか?」

「ああ。どうぞ」

 

 数日程前から屋敷に食客として滞在している男が、急に訪ねてきたのを不思議に思いながらも、バイマンは部屋へと招き入れる。

 

『どうも男爵様。こんな夜遅くに申し訳ございませんね。ワタクシは明日の朝にした方が良いのではと進言したのですが、開斗様がどうしてもと仰るものでして』

 

 いつものようにヒヨリが開斗の肩に留まりながら、どこか大仰に頭を下げる。

 

「まあ遠慮せず掛けたまえ。私もそろそろ休もうかと思っていた所だ。何か飲むかね?」

「酒は明日に響くので……果実水でもあればお願いします」

「構わんよ。ヒヨリ君もそれで良いかね?」

 

 『ワタクシはワインでも良いんですけどねぇ』と言うヒヨリをよそに、バイマンは三人分の果実水をグラスに注いでテーブルに置く。

 

「それにしてもカイト殿。ここ数日ライに付き合ってくれて感謝する。最近は私も村長の業務が忙しくてね。中々ライの稽古に付き合ってあげられないのだ。その分大いに助かっている」

「いえ。私がやった事など、少し技の基本を教えただけの事です」

 

 開斗はそう謙遜するが、バイマンはそれなりに評価していた。

 

 実の所、ジュードーなる武術については詳しくはない。しかしさりげなく稽古を見張っていた使用人達の所見や、自分でもちらりと遠目で見た限りでは、その技にはきちんとした骨子や理念があった。

 

(おそらく対人、それもどちらかと言えば殺傷より制圧に重きを置いた武術。ある意味貴族向けだな)

 

 武器を使わぬ徒手空拳の武術。宮廷等の武器を持てない場所では需要も多かろうと考えながら、バイマンはそのまま二、三分ほど軽い雑談を続け、

 

「さて。場も温まってきた所でそろそろ本題に入ろうか。わざわざこんな時間に部屋を訪ねてきたのだ。大切な話があってきたのだろう?」

「…………はい」

 

 果実水で軽く喉を湿らせながら、バイマンは静かに開斗に言葉を促す。普段ならペラペラと合いの手を入れるヒヨリも、大事な場面だと分かっているのか口を挟まない。そして、

 

「これから私が話す事は信じられないかもしれません。しかし、まずは最後まで聞いてほしいのです」

「分かった。どんな話であれ、最後まで聞くと誓おう」

 

 そう言ってバイマンが背筋を正すと、開斗も腹を括ったのかぽつりぽつりと話し始める。つまり、

 

「実は……このままだと近い内に、村にゴブリンの軍勢が襲撃してくる可能性があるのです」

 

 近い内に村にやってくる災厄についてだった。

 

 

 

 

「……むぅ」

 

 全ての話を聞いたバイマンは、非常に難しい顔で唸っていた。

 

「話をまとめよう。カイト殿には近い未来の自らの危険を察知するスキルがあり、それにより7日後にこの村にゴブリンが襲撃してくることを察知したと」

「はい」

「……ここまで聞いてなんだが、胡散臭い話ではあるな」

「ですが、このままだと起こる可能性の高い事実なのですっ!? どうか対策を講じていただきたく」

 

 大きく頭を下げる開斗に対し、バイマンは内心思考を巡らせていた。

 

(嘘……にしてはこの必死さは本物だ。本気で襲撃が来ると思っている。しかし、7日も先の出来事を察知するスキルなど聞いた事がない)

 

 危険を察知するスキル自体はバイマンも知っている。しかしそれは虫の知らせに近く、精々この先の道は危ないとか、何か嫌な予感がするとかその程度。それも時間にして一、二時間先ぐらいが限度。7日先など未来予知や予言の領域であり、そう簡単に信じる事は出来ない。

 

『あ~。少しよろしいでしょうか男爵様』

「何かね?」

 

 そこに、静かに成り行きを見守っていたヒヨリが口を出してくる。

 

『察するに開斗様のスキルの信憑性を疑っていらっしゃる模様。ならば、その能力で既にご子息を救っていると考えれば如何です?』

「……成程。何故カイト殿が偶然息子達の危機に駆け付けられたのか不思議であったが、このスキルによるものだと。しかしそれは自分の危険を察知する物と聞いたが?」

「はい。私もあの時は驚きました。しかし間違いなく、このスキルのおかげでライ達の所に駆け付けることが出来たのです」

 

(……やはり、嘘は言っていなさそうだな。となると)

 

 バイマンはそのまましばらく押し黙り、顎に手を当てながら考えこみ、

 

「……すまないが、やはり全てを鵜呑みにする事は出来ない。内容が内容だからな」

「……っ!? しかしバイマンさんっ!?」

「だが、実際息子達は普段ほとんど出ない筈のゴブリンの集団に襲われ、それをカイト殿が救ってくれたのも事実。よってこうしよう。明日より村人の森への立ち入りを一時的に禁じ、村に常駐している冒険者の何人かに依頼を出して調査に赴いてもらい、何か異変が見つかれば即対応する。……これでどうだろうか?」

 

 これがバイマンなりの折衷案。開斗の予言じみたスキルが本当にせよまがい物にせよ、まずは裏付けを取らねばならない。

 

(これで何か見つかれば、カイト殿は村の危険を事前に知らせた功労者と村人には広めれば良い。何もなければそれはそれで笑い話。私の胸の内に仕舞っておけば済む話だ)

 

『良かった良かった! 男爵様が動いてくださるのなら、これでひとまずは安心ですね開斗様!』

「ああ本当に。……ありがとうございますバイマンさん」

 

 断られる可能性も考えていたのだろう。開斗はどこかホッとした顔をして、バイマンに礼を言い片手を差し出した。

 

「いやいや。まだ森を調査してからの話だとも。それにその間はカイト殿とヒヨリ君にも森の立ち入りは禁じさせてもらう。すまないがそちらの調査はまた後日という事になるが許してほしい」

 

 そう言ってバイマンは開斗の手を握り返し、この夜の会談はお開きとなった。

 

 

 

 

 ゴブリンの軍勢による村の襲撃まで……あと7日。

 




 問題。子供達を助けてくれたけれどイマイチ素性の分からない自称旅の学者が、いきなり夜更けに部屋にやってきて数日後に村がゴブリンに襲撃されますと言ってきた時のバイマンの心情を述べよ。なおバイマンは領主としてもヒトとしても出来た人物であるとする。
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