異世界予言システム。勇者に迫る死亡ルートを回避せよ!   作:黒月天星

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燃え滓の男、ライに柔道を手ほどきする

 

 バイマンさんの屋敷。その屋内訓練場にて。

 

「やああああっ!」

「勢いは良し。でも、それだけじゃいけない」

「ぐえええっ!?」

 

 俺は向かってくるライをひらりと躱し、隙を突いて床に引き倒していた。

 

『さっすが開斗様。子供にも容赦ないですね! 手を抜くとかしないんです?』

「訓練だからね。こうして頼まれた以上手は抜かない。それに、本人が手を抜かれたがっていない。そうだろう?」

 

 ヒヨリが横から囃し立てる中、ライは抑え込まれながらもまるで闘志を絶やしていなかった。

 

「はいっ! もう一本お願いしますオジサンっ! ……いえ、カイト先生っ!」

「……俺は先生なんて大層な物じゃないよ。オジサンで充分さ」

 

 何故こんな事になったか、それは三日前。俺がこの村を見て回った日に遡る。

 

 

 

 

「オジサンっ! 頼みがあるんだ。オレを鍛えてほしいっ!」

 

 突如として部屋にやってきたライにこう告げられ、俺は目を丸くする。

 

「鍛えてほしい? 俺はただの学者だよ。何か適当な知識を披露しろならまだしも、そういった事は不得手なんだが」

「でもさっきヒヨリが言ってたぜ。オジサンは遠い東の国のケンドーとジュードーって技の達人で、本来ならワタクシの援護がなくたってゴブリンの五体や十体軽く一捻りだったって」

 

 ヒヨリめ余計な事を。村を見て回りながら誇張して色々吹き込んだな。そう思って見るとヒヨリは素知らぬ顔でピーピー口笛を吹こうとしていた。吹けていなかったが。

 

「オレ、今よりもっと強くなりたいんだ。もう……あんな思いはしたくないから。なあ頼むよ! 実際あそこでゴブリンを抑え込んでいたのがその技なんだろ? あれを教えてくれよっ!」

 

 ライは一瞬だけ顔を俯かせると、すぐに気を取り直してキッと顔を挙げる。

 

 どうやらこの前の戦いが、ライの中では暗い影を落としていたようだ。見知らぬ余所者の俺に教えを請いたいと思うくらいには。

 

「……はぁ。分かった。俺に教えられる事などたかが知れているが、手解きくらいはしよう」

「ホントかっ! じゃあ早速」

「待った。もうすぐ昼食だろう? それに今日は俺に村を案内してくれるという話じゃなかったかい?」

「おっといけねっ! そうだった」

 

 喜び勇んで俺を連れて行こうとするライを嗜めながら、俺はくすくすと笑うヒヨリにとりあえずデコピンを食らわせた。

 

 

 

 

 という事が有り、こうして俺は暇を見てライにちょっとした訓練を付ける事になった。なお、あくまで教えるのは柔道のみだ。剣道はライが既にバイマンさんから剣を習っている事から見送った。下手に教えて妙な癖が付いたらそれこそマズい。

 

 また、事の次第は初日にバイマンさんに報告済みだ。息子さんが勝手に言い出した事なので、父親としては止めに入るかと思ったのだが、

 

「ほう。遠い東の国発祥のジュードーなる武術の訓練…………良いだろう。ただし、ある程度の基礎が出来るまでは屋敷の訓練場でのみ行う事。そして必ず家の者が誰か立ち会う事。この二点さえ守るなら、多少の怪我も訓練には付き物と大目に見よう」

 

 との事である。二点とももっともなので断る理由はないが、怪我もOKとはご子息にどんな厳しい訓練をさせる想定なのか。

 

 ただ訓練と言っても、俺に教えられる事はそう多くない。まず初日は基本の受け身の練習を主に、適当な人形を用意してもらって少しだけ投げ技を実演してみせた。

 

 最初は受け身の練習ばかりで不満そうなライだったが、一度投げ技を見せるとどうやったのかと目の色を変える。本人よりも大きい人形を投げる様はさぞ奇妙に映ったのだろう。

 

 それで「これを練習で受けても怪我をしない為に受け身を練習するんだ」と言うと、ライはすっかりやる気になって黙々と受け身に励んだ。

 

 二日目も受け身の練習。ただしずっと同じ練習だけでは飽きも来るので、時折非常にゆっくりとライに技を掛け、身体のどこを押したらどう体勢が崩れるのかを体感させる。ライはどう踏ん張ってもいつの間にか床に転ばされていて面白いと笑っていた。

 

 そして三日目。つまりは現在。

 

「兄さん! 頑張って!」

「おう!」

 

 今回の立会人である……と言うより基本毎回立ち会っているヒヨリの前で、ライはすぐに床から立ち上がって身構える。

 

 今日は少しだけ実戦的な稽古。と言ってもやる事は単純。ライは俺の服を掴めば勝ちで、俺はそれを阻みつつライに技を掛けるという物だ。ちなみに今の所俺の全勝である。

 

「よろしい。ではもう一本だ。どこからでもかかっておいで」

「よっし。行っくぞぉっ!」

 

 俺が軽く膝を曲げて構えると、ライはまた勢い良く突っ込んできた。しかしいくら勢いが有ろうが、真正面からでは対処しろと言っているようなもの。俺はゆらりと腕を上げ、

 

「……今だっ!」

「むっ!?」

 

 ライが直前で横っ飛びした事で腕が空振る。フェイントか。流石にまっすぐばかりでは厳しいと考えたか。

 

 そしてそのままさらに方向転換して俺の服を掴もうとするライだったが、

 

 スッ。

 

「もらっ……あれっ!?」

 

 お返しとばかりに、今度はライの手が空を切る。

 

 なんてことはない。ただ半歩左足を引き、右足を軸に身体を捩る。いわゆる柔道の捌きをしただけだ。そしてライの伸び切った腕を掴み、その勢いのままさらに身体ごと回転を加えれば、

 

「これマズ……あだっ!?」

 

 俗に言う一本背負いの形となり、ライを床に投げ飛ばした。

 




 下手に手を抜いて教えると、教えられた側が後々苦労する事になりますからね。開斗も真剣に教えています。
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