ウェルストネスホテル占拠事件   作:あーねむ 草の民

1 / 1
 まずこの小説を手にとって下さった方、ありがとうございます。
一応最初に書いておきますが、架空の事件です。モデルとなった事件は…


No.1

 『ウェルストネス国営ホテル』。アフリカ北部、マグリブと呼ばれるこの地域では最も高級であり、それなりの人物が頻繁に出入りするこのホテルでは、現在多数の民間人が滞在している。内部の中世ヨーロッパ調のエントランスには沢山の人々が行き交い、賑やかさが絶えることはない。

 

「“デビルライト”を始める」

 

『オーケー、政府のクソ共に地獄を味わわせてやろう』

 

 エントランスの端にあるドアが開き、掃除用具が積んであるカートを押した用務員が出てくる。くすんだ青の帽子を目ぶかに被り、真っ直ぐにエントランス中央に向かう。

 

「うわっ!危ないな」

 

 電話しながら歩いていた男がカートにぶつかる。悪態を吐くが用務員は全くと言っていいほど反応を示さない。気味悪く思った男はスーツの襟を正し、足早にその場を離れて行った。

 カートはやがてエントランス中央に辿り着き、止まる。不審に思った警備員が走って近づいていく。周りの人間も異変に気が付き、カートから距離をとって注目する。警備員がどこの会社製のものかもわからないコルトガバメントのコピー品を取り出し、用務員に向ける。

 

「動くな。何をしている。身分証を提示しろ!」

 

「…」

 

 用務員はカートのハンドルを掴んだまま、無言で下を向いている。周囲の民間人は誰1人としてエントランスから出ず、用務員と警備員に注目していて、中には携帯端末で撮影しているものもいた。

 

「両腕を挙げろ!5秒以内だ。さもなければ撃つ」

 

 尚も用務員は動かず、無言を貫く。この国はテロが起こることが度々あった。しかしそれは十数年前の話。今では平穏を取り戻し、北アフリカ地域での主要な観光名所として名を馳せている。

 だが、その平穏は一時的に終わる。

 

「撃つぞ!」

 

 警備員が最後の警告として、わざとらしくハンマーコックを下げる。素人同然のこの動きに反応はなく、不審者はただ立っている。

 

 閃光、衝撃。平穏は過去のものとなる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 某国国家安全保安局 テロ対策チーム 2019 7/12 10:47AM

 

「2分前にウェストネスホテルで爆発!死傷者多数、状況不明!」

 

 その叫び声で一つで静かだったオフィスがどよめく。予想打にしなかった突然の事態に、訓練を受けただけのメンバーは驚きを隠せなかった。

 

「現地の防犯カメラ映像は!?」

 

「正面モニターに出します!」

 

 オペレーターがキーボードを叩くと、部屋正面の大きなモニターに映像が映し出される。画面右上の表記から、ウェルストネスホテル正面入口だとわかる。部屋にいるオペレーター、管理官、警備員の全員がモニターを凝視する。すると、画面左から4人の男が現れて右の入口へ入っていく。男たちはAK系統のライフルを持っているように見え、屋内へ入ると同時に少し反響した銃声が聞こえてくる。

 

「襲撃です。犯行グループは最低4人」

 

 沈黙した室内にオペレーターの声が響く。このテロ対策チームが発足してから初の事案に、部屋全体に緊張感が走る。爆破とアサルトライフルによる銃撃。包丁を持った強盗とは訳が違う。

 

「緊急即応部隊は?」

 

「即応状態にある第129歩兵連隊が13分で到着します」

 

 オペレーターの報告を受けた管理官は、苦虫を噛み潰したように顔を顰める。

 

「遅すぎる。その間に敵は体勢を固めるぞ」

 

 エントランス内部を示すカメラ映像は黒黒く染まり、人質やテロリストの状態はわからない。だが、こうしている間にも着々と国家の敵が市民に銃を向けていると言うことはわかる。必要なのは即戦力。その時、オペレーターが後ろを向き、管理官に声をかける。

 

「現地で待機中のOAEディフェンス社所属コントラクターを名乗る者から連絡です。回線を開くよう要求しています」

 

 『OAEディフェンス社』。北米に本拠地を置く世界でも有数の大手PMCだ。イラクやアフガニスタンで着々と成果を挙げた彼らは、この国でもその資産を展開させている。表向きには「正規軍の訓練や治安の維持」を主な業務内容としているが、その実主体的にテロ組織の根絶を行っている。噂では社員の中にCIAやMI6のエージェントがいるとかいないとか。社員の8割はアメリカ人、残り2割はドイツ人やフランス人、日本人で構成されている。

 

「許可する。ボディカメラもセットでな」

 

「回線、開きます」

 

 その声が聞こえると、メインモニターの一部に映像が出る。回線を開いたコントラクターのボディカメラらしい。管理官は金属製の机に置かれたマイクに話しかける。

 

「感度を報告したのち、名前と所属、IDを言え」

 

 少しの間を置き、ポップノイズがなる。ガサガサとした無線特有の声が室内に響き渡る。

 

『感度良好。名前はジョージ・レイガン、OAEディフェンス所属、IDは1053AD』

 

 オペレーターがコンピューターを用いて情報照会を行う。直ぐにメインモニター上に映像を上書きするようにウィンドウが現れる。ジョージ・レイガンと名乗ったコントラクターの情報だった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ジョージ・レイガン

 

年齢:42歳

身長:182cm

体重:71kg

経歴:----大学を卒業後アメリカ陸軍へ志願。第75レンジャー連隊A大隊に所属し、その後第1特殊作戦部隊デルタ分遣隊へ。イラクとアフガニスタンで従軍の後、本国へ帰って退役。1年後にOAEディフェンス社からヘッドハンティングされ入社。

家族:なし

所属:OAEディフェンス

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

  同日 10:50AM ウェルストネスホテル前 飲食店内

 

『身元を確認した。君のコールサインはヴィクトル1-1だ。状況を報告してくれ』

 

「ヴィクトル1-1ねりょーかい。現在ホテル正面玄関から大通りを挟んで反対側にある飲食店にいる。窓から状況確認中。M4とプレートキャリアーが無ければ良いシチュエーションだった」

 

 爆発の余波で割れた窓から顔を覗かせ、道路とホテルの様子を確認する。いつもは途絶えることのない車列は影も形もなくなっており、読み手のいない新聞紙が寂しく風に運ばれていく。始まりは近い。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(必須:5文字~500文字)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。