ともだちといっしょに   作:全智一皆

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序章「しろいおともだち」

■  ■

 くねくねと、くねくねと。白い何かが踊っていた。

 

 それは、真夏の暑い日の事だった。家族と共に、母親の実家に帰って来ていた時の事だった。

 少年は、親も連れずに一人で田んぼを歩いていた。

 おじいちゃんとおばあちゃんが作ってくれた美味しい昼飯を食べてお腹を満たしたはいいものの、しかしやはり田舎。何もする事がない。

 少年はまだ子供だった。ので、現代電子機器なんて便利なものはまだ持たせてもらえていなかった。

 そんな少年にとっては、退屈というのは非常に鬱陶しいものだった。特にする事もない、遊べるものもない。公園だって近場にはない。なーんにも、やる事なんてなかったのだ。

 そんな事だから、少年は退屈を紛らわす為に一人で田んぼを歩いていた。

 家でぼーっとしているよりも、せめて何処かを歩いていれば、田んぼを歩いていれば、何か生き物を見付けられるかもしれないと思ったから。

 そうやって、一人で歩いている時の事だ。田んぼの少し遠くに―――白い何かが見えたのだ。

 

「んー……あれ、なんだろ?」

 

 少年はぐーっ、と顔を顰める様に目を凝らしながら見ようとするが、しっかりとそれを見る事は出来なかった。

 だが、それがくねくねと動いている事は遠くからでも理解出来た。

 くねくね、くねくねと。それは明らかに人に出来るものではない動きで、くねくねと揺れていた。

 まるで液体の様で、まるで気体が意思を持ったかの様に。形という形もなく、型という型もなく、それはくねくねと揺れ続けていた。

 まだ幼い少年には、それが踊っている様に見えたのだろう。

 

「あははっ、おもしろーい!」

 

 少年は見様見真似で、その白い何かの動きを真似る様に動いた。くねくね、くねくね、と。

 踊った事なんて殆どないし、そもそも人間である少年が、明らかに人間とは思えない様な動きをするソレの真似など出来よう筈もない。

 だが、少年はそれが面白かった。楽しかった。そう感じたのだ、だから自分が出来る様にアレンジして、ぎこちないながらも踊ってみせた。

 

『――――――』

 

 白い何かは、そんな少年を見てさらにくねくねと動き出した。

 まるで、喜ぶ様に。くねくねと。

 まるで、友達が出来たかの様に。くねくねと。

 子供だからと言うべきか、或いは少年の感性が故と言うべきか、少年は偶然にもそれを『喜んでいる』と感じる事が出来た。

 嬉しいから、喜んでいるから、さっきよりも動きが激しくなったのだ―――と。少年は、ある意味で大人よりも賢かった。

 

「はやーい! あはは、すごいすごーい!」

 

 少年ははしゃいだ。それはもう、玩具をプレゼントされた時の様に大きくはしゃいだ。

 くねくね、くねくね、と、少年もそれに連なる様に踊っていた。そんな時、ふと少年に影が差した。

 

「んー?」

 

 真夏の田舎、晴れ渡る空で雲なんか一つもないこの天晴れな天気には少年も少しばかり参ってしまっていた。

 のだが、まるで大きな雲が太陽を隠したみたいな影が、少年を隠したのだ。

 ほんのりと冷たく、涼しくなった。だが、雲が太陽を隠したと言うには些か影の大きさが小さいというか、人の形をしている様にも見えた。

 少年が気になって後ろを振り返ると、そこには少年より少しばかり大きな女性が立っていた。

 白い着物を着た女が―――人形のようなものを引きずっていた。

 

「―――私の顔は」

「こんにちはっ!」

「みに……あ、うん。こんにちは」

 

 大きな声で元気よく放たれた挨拶に、女はつい続きの言葉を言うのを止めて挨拶を返す。

 少年は女の顔を見ながら、笑顔で挨拶をした。

 目が吊り上がり、口は耳元まで裂けている、明らか化け物と言う他にない顔面を直視しながら、笑っていた。

 

「おねーちゃんも、おさんぽしてるの?」

「……えぇ、まぁ、そんな所。貴方は、さっきから何をしているの? ずっとくねくねとしているけれど」

「おどってるの! ほら、あそこでおどってるでしょ? あれのまねしてるの!」

(……この子、ちょっとオカシイのかしら)

 

 女は、ソレを知っていた。

 『くねくね』―――そう呼ばれる怪異。ソレを直視した者の精神を狂わせるという、ただ目にするだけで人としての終わりを確定させる怪異。

 少年の反応から察するに、少年はくねくねを直視している訳ではないのだろう。だがそれでも、アレを見て楽しそうだと感じているその感性は、女にとっても異常だと言う他なかった。

 

 だが―――

 

「……ねぇ、僕」

「んー?」

「私は―――醜いか?」

 

 だから何だ、と言う話。

 女もまた、その『怪異』だった。

 子供を見付けては肉塊になるまで引き摺り回す、残忍性と凶暴性を有した恐ろしい怪異だった。

 少年は何もしていない。だが、子供というだけでソレの対象だ。単純に、子供であるが故というそれだけの事なのだ。

 運が悪かった―――そう言う他にない。

 

 けれど。

 けれども。

 だけれども。

 この少年は、そんな我々の予想を大きく裏切った。

 

「―――おねーちゃん、おめめがきれいだね!」

 

 その言葉が、少年の運命を大きく変える事になった。

 『くねくね』と『ひきこさん』―――この二匹の怪異との出会いが、滅三川スグルという少年のターニングポイントであった。

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