【完結】迷宮、地下十五階にて。   作:羽黒楓

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第36話 女子小学生の裸をいじる

 由羽愛(ゆうあ)が身体を洗っている音が聞こえる。

 光希はそれに背を向け、敵の襲来に備えている。

 ミシェルも反対の側で同じことをしているはずだ。

 

:250V〈まあミシェルのときはからかえてたけど〉

:五苓散〈さすがに女子小学生の裸をいじるのは違うよな〉

:レモンモンモンモン〈今日はみんな何食べた?〉

:aripa〈おれ餃子〉

:冷凍焼きおにぎり〈いま晩酌しながらこれ見てる。あては回鍋肉〉

:きジムナ〈冷凍宅配弁当。チリハンバーグだったわ〉

 

 そういえば音声読み上げオンにしていたのだった、リスナーが良識ある奴らばかりで助かる。

 

 身体を洗い終わったのか、由羽愛(ゆうあ)が呟く。

 

「やっぱりドライヤー欲しくなりますね……」

 

 由羽愛(ゆうあ)もミシェルも髪が長い。

 ミシェルもタオルで水分を拭き取っただけで、銀色の濡れ髪だ。

 

 ジァイアントポイズントードのツバは髪の毛までドロドロに汚したから洗髪も必要だったのだ。

 

由羽愛(ゆうあ)、着替え終わったか?」

「あ、まだです。もう少し待ってください……。もう少し拭いてから……」

 

 その時だった。

 ミシェルの鋭い声が飛んだ。

 

「敵だぞ! こっちだ、鳥のモンスターだ!」

 

 光希は柄を握りしめてミシェルの方を振り向く。

 視界の端にまだなにも身につけていない由羽愛(ゆうあ)の姿が見える。

 由羽愛(ゆうあ)は突然振り向いた光希に驚いて、ビクッとして全裸の自分の身体をタオルで隠す。

 悪いが、命がかかっている。

 光希はその横を柄を握ったまま、 

 

由羽愛(ゆうあ)、敵だ! 服着たらこっちに来い!」

 

 と言って走り抜ける。

 

 だが。

 

 まだ小学生の由羽愛(ゆうあ)はまたもや光希の予想を超えた動きを見せた。

 

「あたしも戦います!」

 

 そう言って全裸のまま、傍らにおいてあった自分のセラフィムソードを引っ掴むと光希の後ろを付いてきたのだ。

 

「…………!?」

 

 光希はどうすべきか一瞬迷ったが、最深層のモンスターを相手にするのである。

 ほんの一瞬の遅れが命取りになりえる。

 

 服を着ているかどうかは些末な問題に思えた。

 幸い、配信のカメラはオフにしてあるし、光希自身は小学生女子の裸を見たところでどうとも思わない(たち)だったので、そのまま戦闘に突入することにした。

 戦力は一人でも多いほうがいい。

 

 天井の高いダンジョンの通路。

 

 まず見えたのは、ミシェルの白い尻だった。

 彼女は水浴びをしたときのままの、一糸まとわぬ姿でそこにいた。

 

「なんで裸なんだよ!」

「下着の替えを忘れただけさ、マスター。薄いからすぐ乾くと思って干してある……それより、見ろ……」

 

 ミシェルが指し示した先。

 

 そこにいたのは。

 

 一羽の、美しいコウノトリだった。

 気高い雰囲気を持ったそれは、白い羽を閉じて床の上にこちらを向いて立っていた。

 

 だが。美しいのはその姿だけであった。

 そのコウノトリは口を開くと、鼓膜を破るかと思うような不愉快なしわがれ声で話し始めたのだ。

 

「人間……。それに、ワーラビットか……。魔女の霊もいるな……。珍しい組み合わせだが。ひれ伏せ。汝らは地獄の伯爵の前にいるのだぞ」

 

 付いてきていたツバキが少し驚いた口調で言った。

 

「ハルファス! こんな高位悪魔様とお会いできるとは光栄だねえ!」

 

 そしてツバキは裸のままの由羽愛(ゆうあ)にピタリと寄り添うようにして、

 

「強敵だ、由羽愛(ゆうあ)、私の言う通りに動きなよ?」

 

:ミーシア〈ハルファスってなんだ?〉

:エージ〈17世紀の魔導書(グリモワール)、レメゲトンの第一書、ゴエティアに記述のある悪魔だ。今まで実在が確認されたことはなかったんだが……〉

:♰momotaro♰〈本物か?〉

:支釣込足〈ツバキがそういうならそうなんだろう〉

 

 光希は刀身のない剣の柄を握ったまま一歩前に出た。

 

「伯爵……ってことはハルファス閣下か。はっきり言って俺たちの目的はなるべく平和にこのダンジョンを抜けることだ。あなたと敵対する理由は特にない。知らずに失礼を働いたのなら謝る。悪魔に忠誠を誓うことはできないが、俺たちも神の忠実なしもべの戦士というわけでもない。お互いに不干渉でいかないか?」

 

「ここのダンジョンは居心地が良さそうだ……我が居城とする……。我が城は血……特に、処女の血で彩りたい……。そこの女とウサギを置いていけばお前はどこかに行っても良いぞ?」

 

 そこで光希は一息つく。

 少し考えをめぐらして、言った。

 

「こいつらはついさっき、俺が犯した。もう処女じゃない。俺の性奴隷さ、だから裸にさせてる。こんなところに裸の処女がいるわけないじゃないか」

 

:ルクレくん〈そうだそうだ〉

:フレーシェ〈どう考えてもおかしいやろ、裸の処女がダンジョン歩いているとか〉

:コンタクトケース〈いん乱ウサギと変態女子小学生だぞ〉

:闇の執行者〈こんな女食っても精液の味がするだけだぞよせよせ〉

 

 タブレットはストラップを通して光希が肩から斜めがけにしている。

 

「ほう……不思議な板だな、それは……。しかも、そこの板が喋っているのではない……。独立した人間の魂があって、それが板に喋らせている……いや……? これは……? それを繰り返しているうちにその板自体にも……?」

 

「ふん、この板は俺の友達さ。それより、向こうにヴェレンディという女の死霊遣いがいる。しかも、このダンジョンの女王気取りでな。やつはまだ処女な上に強大な魔力を持っている。そっちのが閣下の好みに合うんじゃないのか?」

 

 ヴェレンディが処女かどうかなんてもちろん光希は知らない。はったりである。

 

「ははは、必死だな、哀れな人間よ。処女かどうかなんて魂の色でわかる。私には見えるのだ。陰なる茎を受け入れたことのない魂はすぐに分かるぞ。その子どもも、ウサギも、魔女もそしてお前自身も処女と呼べる……。男の肉は美味くないが、居城を彩る絵の具としてはその血が足しになるだろう……」

 

「もう一度お願いするぜ、閣下。戦えば俺達はそれなりに強い。お互いに不干渉でいこうぜ」

 

「お前は牛に不干渉を頼まれたら肉を食うのを諦めるのか? 私は地獄の伯爵である。人間ごときが私と交渉できると思うな!」

 

 ハルファスが大きく口を開けた。

 同時にミシェルと由羽愛(ゆうあ)が駆け出し、光希は柄を握って叫んだ。

 

具現せよ、わが魂の刃(Embody the blade of my soul)!!!!!」

 

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