【完結】迷宮、地下十五階にて。   作:羽黒楓

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第40話 あたしの身体、あげます

「んーそりゃ、私みたいに幽霊になりたいってことかい? よせよせ、いいもんじゃないよ、魔力の出力がめちゃくちゃ落ちるし」

 

 ツバキがおどけてそう言うが、由羽愛(ゆうあ)はかぶりを振って答える。

 

「いいえ。そうじゃないんです……。私は、消えたいの。この世から。お姉さん、あたし、別にあたしの身体をお姉さんにあげたっていい。凛音さんにあげてもいい。でもなるべく誰かの役にたって、それから消えたい……」

 

「ははは! なるほど、光希、君たちが命を賭して助けに来た女の子はなんと自殺志願者だったよ。ふふふ、私は魔女になってでも長生きしたかったから、その気持ちはわからんけどね」

 

「あたし、『入れ物(コンテナオブソウル)』になってもいい。お姉さん、本当にあたしがお姉さんの入れ物になれるなら、お姉さん、あたしの身体をあげます」

 

「おいおいやめとけ、その魔女に冗談は通じないかもしれないぞ」

 

 光希の言葉にも由羽愛(ゆうあ)は引かない。

 カメラはこちらを映していない、お尻を振っているミシェルを捉えている。

 それをちらりと見ると由羽愛(ゆうあ)は硬い表情で言う。

 

「『入れ物(コンテナオブソウル)』の話を聞いたとき、あたし、思っちゃったんです。ああ、あたし、ぴったりじゃん、って。うまくいえないけど、誰かの魂が入るためにあたしが生まれてきたんだって」

 

 由羽愛(ゆうあ)は続けて言う。

 

「あたしのお父さんとお母さん、若い頃は探索者だったんです。それこそ、SSS級の探索者になって有名になりたかったって。でも、なれなかった。多分、才能がなかったんです。それなのに、生まれてきたあたしにはこの副唇の才能があって、剣のセンスもそこそこあった……」

 

 とその時、突然ツバキが大きな声で言った。

 

「よく気づいた! 素晴らしい、十歳の理解力じゃないね。偉いよ。私も言っただろ、親というのは子どもからの無償の愛に育てられて初めて親になるんだ。それまではただのオスとメスさ。あのね、探索者なんていつ死んでもおかしくない職業だ。恐怖遺伝子がバグっているか、死にたいやつしかならない職業だ」

 

 それを聞いて、光希も心の中で頷いた。

 そう、光希自身、いつ死んでもいいと思いながら探索者をやってきたのだ。

 大切な人――凛音に出会うまで、ほとんど自殺に近い気持ちでダンジョンに潜ってきた。

 それを考えると――。

 

「まあ確かに、由羽愛(ゆうあ)の両親はなにを考えていたんだろうな。ダンジョンの探索者だなんて、愛娘(まなむすめ)には絶対なってほしくない職業だ」

 

 光希の言葉に由羽愛(ゆうあ)は少し震える声で答える。

 

「だから、あたしは愛娘(まなむすめ)じゃないんだと思います……うまく言えないけど……」

 

 霊体のツバキがふわっと由羽愛(ゆうあ)の隣に降り立ち、その小さな肩を抱いた。

 ツバキだって華奢な体型をしているから、まるで子ども同士が肩を組んでいるみたいに見えた。

 

「よし、私が言語化してあげよう。由羽愛(ゆうあ)、君の両親は君を愛してなんかいない」

 

 その言葉に、由羽愛(ゆうあ)は俯いて唇を噛んだ。

 

「だってそうだろう、いつ死んでもおかしくないダンジョン探索なんてものを、三歳の子どもにさせるか普通? だから、由羽愛(ゆうあ)、君がさっき言ってたのは正解だ、君は『入れ物(コンテナオブソウル)』だ」

 

「『入れ物(コンテナオブソウル)』……」

 

「そう両親の、二度目の人生のね。君の両親が愛しているのは自分自身だ。子どもである君を使って、人生をやりなおそうとしている。満たされなかった自分の人生の欲望を君というキャラクターを操作して満たそうとしてる。君はゲームのキャラクター、操作しているのが両親ってわけだ。だから、君はさっき、自分で自分を入れ物がぴったりっていったんだ。愛情を注がれるはずの君の人生にはなにも注がれなかった。ただ、その身体を使って両親がゲームをしてるだけさ。すごいね、そういうことに気づくのは普通、大人になってからだよ。君の年齢でそれに気づくとは、由羽愛(ゆうあ)、君はやはり天才だ」

 

「えへへ、ありがとうございます。お姉さん、ヴェレンディを倒せたら、そのあとあたしの身体、あげます。だって、生きるのって、楽しくない。生きるのが楽しい人があたしの身体を必要なら、あげます」

 

 

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