光希は、海の見える公園にいた。
いつもデートしていた、あの公園。
ああ、これは夢だ、と思った。
まずい、夢を見ている場合じゃないのに。
今まさにヴェレンディに殺されそうになっているのに。
それなのに。
隣に、凛音が座っている。
夕日に照らされて、水平線が赤く染まっていた。
「そろそろ帰る時間だね、光希」
「ああ……」
「じゃ、沖縄旅行、絶対だよ! 今受けた依頼終わったら、絶対に旅行に行こうね!」
「受けるかどうかはまだだよ、他の奴らにも聞いてからだ」
「どうせ受けるでしょ? で、それから沖縄旅行!」
「ああ、そうだな……」
凛音の笑顔が眩しい。
「えへへ、ほら、光希!」
凛音が光希に身を寄せて目を閉じた。
その頬が真っ赤に染まっているのは、夕日のせいだろうか?
その唇に自分の唇をあわせる。
柔らかくて、熱い。
魂が震えた。
この瞬間のために生きてきて、これからも生きていくんだ、と光希は思った。
しばらくして凛音が唇を離し、照れくさそうな顔で光希の顔を上目遣いで見て、
「えへへへへー」
と笑うと、彼女はきゅっと光希に抱きついてきた。
抱きしめ返す。
体温。
凛音は生きている。
光希も生きている。
みんな生きている。
「あのね、光希」
凛音が光希の耳元で囁いた。
「なんだ」
「私ね、今勉強中なの」
「何を」
「輪魂の法。知ってる?」
「まあ、少しは……」
「もしね、もしだよ、探索中に私が死ぬことがあったら……」
「何言ってるんだ、俺が死なせない」
「ふふ、ありがと。でもね、なにかの間違いでそういうことになったらさ。私、必ず輪魂の法を成功させるからさー」
「そんなことにはならないさ、絶対に凛音を死なせない」
凛音は座っている光希の足をまたいで、光希の膝の上にお尻をつき、正対して座った。
「えへへ、恋人座りー。なんか、ちょっとエッチだね、これ」
「おい、他の人が見てるぞ」
「いいじゃん、見せつけてやろうよ、私みたいな超絶美人が恋人なんだぞーって自慢してもいいんだよ? 私は光希が恋人で、いつも自慢に思ってる!」
そしてそのまま再び光希に抱きついてくる凛音。
凛音の控えめな胸が光希に押し付けられた。
柔らかさを頬に感じる。
こんなに幸福な瞬間、ほかにはない、と思った。
「あのね、合言葉、決めておこうよ」
「合言葉?」
「そう。もし私が肉体を離れて魂だけになっても――。その合言葉を言ったらそれが私だってわかるように」
「お前を死なせたりしないって言ってるだろ? 俺が守るぞ」
「えへへーありがと。でも、万が一ってこともあるからさー。ええとね、どんなのがいいかなー。ロマンチックなのがいいかな」
「たとえば?」
「星の輝きが私達を照らしているーとかさー」
「合言葉としちゃなんかゴロが悪いな」
「んー。じゃあさー。んー。山と言ったら川……」
「普通すぎるだろ」
「
「あそこ景色いいよな、まあそれでいいんじゃないか」
「競輪場……」
「まあ
「もー! ちゃんと真面目に考えてよー! 大事なやつだよー!?」
怒ったように言う凛音。
光希は凛音の背に手を回し、ぎゅっと抱き寄せて言った。
「なんでもいいよ。俺はお前を死なせない。一生守る。ずっといっしょに生きていくんだから」
「もー! ありがとだけど、万が一に備えるのも大事なんだよー!?」
「いいよ、合言葉なんて……俺はそういうの、うまいこと考えられないからさ。お前が決めてくれよ」
凛音はいったん光希から上体を離して光希を見つめる。
光希もその視線を受け止める。
凛音の瞳は深いきらめきを放っていた。
みずみずしい唇。
思わずキスをしようとする。
「ん、だめ。合言葉決めてから!」
「じゃあ早く決めてくれよ」
「んーそうだなー。私らしいのがいいなー。でもって他の人が言わなそうな……」
「なんでもいいよ」
もう一度キスをしようとするが凛音は笑ってそれをかわす。
「はやく決めてくれよ……」
「わかったよー。あ、そうだ! じゃあ、これにしよう! この言葉を聞いたら私だって思うんだよ?」
「なんだよ、早く言えよ」
凛音はいたずらっぽく笑い。
光希の顔をじっと見つめて。
そして、美しい唇をゆっくりと動かして。
管楽器のような心地よい声で。
こう言ったのだった。
なんども光希とキスをしたその唇でこう言ったのだった。
「『おけまる水産』!」