結華のグルメ   作:勉強サボ浪

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揚げ物チェーン店のチキンカツとエビフライ

 失敗した。

 三峰結華は夜の12時にテレビを見たことを後悔していた。

 深夜の飯テロの先駆けとなったドラマは新年に劇場版をやるらしい。それなのに冬に新作を放送するテレビ局の努力には敬服しなければならない。

 ただ三峰結華は正直に言ってあまり食には興味はない。――正確に言えば空腹に対して興味がない。食事に関しても栄養や味を楽しむためで、満腹になるために食事はあまりとらない。

 だからアイドルとしてもかなり細身なのであり、飯テロに対して効果は乏しい。

 乏しいのだが……

 

「うわぁ………」

 

 画面に釘付けになっていた。

 画面に映し出されているのは「大人のお子様ランチ」。それを中年の俳優がうまそうに食べている。

 食欲が沸き上がる。毎週この番組を見ているのだが、ここまで衝動的な感情に囚われることはほとんどない。

 しかし食べれない。明日は握手会とミニライブだ。

 

「しまったなぁ……」

 

 

 翌日のミニライブは昼過ぎに終了した。プロデューサーは放クラの仕事に向かったようで結華の仕事を見届けたらとっとと出て行ってしまった。

 今回は彼の多忙さが嬉しい。彼と一緒に食事を取るとなればアイドルとしての食事を求められる。……彼はきっと気にしないだろうが、さすがにプロデューサーの目の前で高カロリーな食事はとれない。

 雑居ビルから飛び出ると駅前に行く。目指すは駅前の洋食店。昨晩のドラマとは違う店だが、いわゆる「大人のお子様ランチ」を売りにしているのが有名だ。

 人だかりを潜り抜ける。ゲームの屋外広告を無視し、ガールズバーのビラ配りを足早に逃げて――。

 

「………あー……」

 

 目的地に着いた結華の目の前には行列が並んでいた。……どうやら同じことを考えた人は大量にいるらしい。並んでも良いのだが………アンティーカの三峰結華が下手に飲食店の行列に並んだ時の影響のほうが気になる。歩いている途中に見た飲食もある程度人が並んでいたことを思い出す。

 仕方がないので帰ることにした。

 

 

 下宿先に向かう電車の中で結華は悩む。

 大人のお子様ランチはしばらく食べられないだろう。ならば今日はどうしても食べたいものを食べることにしよう。

 しばし悩む。今の私は何を食べたい? オムライス、ナポリタン、ハンバーグ?

………

……

…いや、違う。耳にこびりついたあの音は――揚げ物のサクサクとした咀嚼音。特に――エビフライ。

 

《次は**、**。降り口は――》

 

 アナウンスを聞き流しながら結華は立ち上がる。家の近くには一体、揚げ物を提供している店は――あったはずだ。

 ドアがチャイムの音とともに開く。結華は心に決めた店を狙って歩き出す。

 

 

 竹のや。日本三大牛丼チェーン店の一角、竹屋のグループ企業である。

 はっきり言ってこういう時にチェーン店はあまり良くないのかもしれない。もう少し吟味すればいい店が見つかるかもしれない。

 それであっても、結華はすぐに揚げ物を食べたかったのだ。

 席に座ると公式アプリを開く。竹屋グループの券売機は使いことで有名だがアプリだと関係ない。

 

(おっと……安いぞ……)

 

 そういえばツイスタで一部の商品を期間限定割引すると宣伝されていた気がする。少し悩んだ末に彼女はスマホ上で注文を終える。店内ディスプレイにモバイルオーダーの番号が記されていることを確認すると結華は空腹をごまかすために席を立った。

 

(学生が多いな……)

 

 電車に乗った影響か少し気だるげな体のために温かいお茶を入れながら店内を見渡すと学生グループ3つがそれぞれのテーブルを占領していた。

 近くに競技場は無いし、彼らの荷物から察するに運動部ではない。そして近くの大学――つまり結華が現在通っている大学の文化祭は来週のはずだ。

 

(登校日かな……)

 

 席に座り温かいお茶を少しずつ飲みながら考える。

チャイムが鳴り自動音声で食券の呼び出しがかかる……が、客は来ない。渡し口付近の席に座ったから店員の不思議そうな顔がよく見える。

 

「243番のお客様―?」

「あ、はい……!」

 

 驚いたように1人の男子高校生が券売機のほうからやって来た。状況を見るに友人が注文を終える前に商品が届いたらしい。「はや……」という高校生のつぶやきが聞こえた。

 さて結華が頼んだのは揚げ物だ。時間はきっと先ほどの高校生が頼んだ牛丼よりもかかるだろう。スマホを広げてネット小説を読み始める。

 何度か自動音声が鳴った。小説は恋人同士でもない男女が熱いベーゼを交わしておりまさに佳境だ。……別に18禁の官能小説を読んでいるわけではないし、そういう目的で読んでいる訳でもないので興奮は全くしないが。

 チャイムが鳴り響く。

 

《モバイル8番のお客様》

 

 来た来た。

 すぐ近くの受け取り口で商品を受け取り、盆をテーブルの上に置いた。

 結華が頼んだのは――タルタルチキンカツ定食とエビフライの単品。ご飯はさすがに自重して少なめにした。

 ……しまった。エビフライにタルタルソースがついていた。タルタルとタルタルで被ってしまった。素のチキンカツ定食にしておけば出費が……いや、エビフライについているタルタルのみでチキンカツも賄えるとは思えないな。

 なんだか貧乏くさいこと考えたなぁ……と思いながらも結華はまずは味噌汁に手を付けた。このチェーン店は無料で味噌汁がついてくる。昔はそのありがたみが分からなかったが今ではわかる。

 

「ふぅ……」

 

 あぁ、味噌汁に入っているわかめはこんなにもおいしいものだったのか。一人暮らしだと海藻なんて買わないため、外食の味噌汁を飲むたびに似たようなことを思うのだ。

 味噌の味も良い。安物のインスタントは特有の塩辛さがあるが、この味噌汁にはそれがない。

……わかめと小さいあげの簡単な味噌汁だが、やはり日本人にはこれのうまさやありがたみがDNAに刻まれているのだろう。

 次に盛られたキャベツを口に運ぶ。……まぁ、なんてことはない普通のキャベツだ。結華も時折コンビニで割引になったそれを食べる。ドレッシングは………やめておこう。

 さて……

 タルタルソースがかかったチキンカツ。特にこだわりはないまま左端の一切れを食べた。

 

(あぁ……この店のタルタルはこんな味なのか)

 

 酸味が強い、結華好みのタルタルだ。隠し味のバジルが味を引き締めてくれる。思わず白米も口に運ぶと多幸感が沸き上がる。

 どうしてこんなにも白米と合うのだろう。カツの断面を見ると肉汁が見えた。基本タンパクな鶏肉にここまでの脂を纏わせるとは……企業努力が透けて見える。

 カツをご飯と共に食べる。タルタルの酸味とご飯の甘味を鶏肉がまとめ上げる。柔らかい白米とザクザクとした衣が好対照でひどく嬉しい。

 そして口に残った脂を味噌汁で流し込むのだ。

 

(たまらない……久しぶりの揚げ物をチェーンにするのは気が引けたけど……正解だった)

 

 三峰結華はアイドルである。明らかな高カロリーかつ油分を含んだ揚げ物を頻繁に食べられない。――だからこそ、久しぶりのフライがとても甘美だ。

 しかし忘れてはいけない。今日この店に来た理由は――エビフライ。

 まずはそのまま、何もつけずに食べる。ザクザクとした衣にエビの味。どうしてエビフライというものはこんなにも心の底から愉しさを覚えるのだろうか。付けられたタルタルをつけて食べると味わいが変わってこれまたおいしい。

 タルタルチキンカツとご飯を共に食べ、時折キャベツを食べて味噌汁を飲む。そしてカツが全部なくなった時にはご飯はすべて無くなっていた。エビフライを尻尾を残してすべて食べた後に味噌汁を飲むと盆の上にあった皿には何もなかった。

 

「……ごちそうさまでした」

 

 久しぶりのフライはとても美味だった。

 

 

 ――立ち上がり、食器を返そうとしたときに偶然隣のテーブルに座っている人の料理を見て驚愕した。

 

(豚汁……!?)

 

 味噌汁が無料でついてくる店でわざわざ豚汁を頼むとは……よっぽど豚汁を飲みたかったのだろうか。

 

 

 店を出ると大きなため息をつく。

 今日はフライを食べてとても満足だが………しかし、オムライスも久々に食べてみたいなぁ。こがたんにおねだりしてみようかな。

 そんなことを思いながら結華はアイドルの日常へと戻る道を歩き始めた。

 




孤独のグルメを出先のホテルで見ていた時にシャニマスの無料10連で三峰が出てきたときの記念です。
ちなみに今開催されている限定三峰はまだ出ていません。

台風が接近しているみたいなので、出かけずに過ごしましょう。カツを食べたくなったから、という理由で外に出ないようにしましょう。
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