結華のグルメ   作:勉強サボ浪

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パラ三峰の服、絶対カレーうどん食えないよな。
そう思いながら海鮮丼の話です。

ゆるふわ系の文章を最近書いてないせいで、難産でした。


駅の海鮮丼屋

 電車は遅れていた。なにやら人身事故らしい。ただ東京は5分待てば次の電車が来るような場所である。だから大した問題ではなかった。

 

(便利すぎる、というのも何だかなぁ……。不便な福島に戻りたいって訳じゃないし、余裕をもって行動はしてるけど、慣れちゃぁマズいよね……)

 

 仕事場の最寄り駅はコンビニとスーパー、いくつかの飲食店が並ぶ。結華の実家の最寄り駅なんかよりかはかなり大きいのだが、不便に感じてしまうのは便利慣れしすぎたのだろうと結論付けた。

 バスに乗り換えだが、あと15分ぐらい待つようだ。暇つぶしがてら、少し廻ってみよう。

 

(あ――この店)

 

 確か福島にもあったはずだ。価格をかなり海鮮ドンブリの店。こんな場所にあるのに1000円未満で海鮮丼を食べれるのは外から見ても簡素な店内の装飾にある。一度ぐらい行ってみたかったのだが、高校の近くにあった店はいつの間にか消えていた。

 行きたいのはやまやまだが……これからアイドルの仕事で、しかも15分程度待ち時間ではとても無理だ。

 近くのスーパーに行ってみる。見たことのない店名だが、チェーン店なのだろうか? 駅と同じ建物ということもあり小さい店内を廻るとその匂いに思わず探りを入れてしまう。

 匂いの元は鮮魚コーナーだ。海鮮のにおいがどうも彼女の腹に訴えかける。

 

(まぁ最近、生魚なんて食べないけどさぁ……!)

 

 一人暮らしで生魚は食べる機会はない。値段もあるが、食中毒が常に頭によぎる。

 やはり欲がたまっているのだろうか。日本人の生魚欲が――

 

(いや! さすがに仕事終わりじゃないと……今はまずい……)

 

 腕時計を見るとそろそろバスの時間だ。バス停に向かわなければ。

 

 

 今日は水族館でのイベントのMC。都内の水族館らしく、イルカショーみたいなものはないが様々なふれあいコーナーや企画展示を行っている場所だ。

 はっきり言って、コンディションを整えていない結華のせいである。今の彼女には水槽で優雅に泳ぐ魚の群れが魚の切り身に見えている。

 幸いにせよ、今回のイベントの主役は魚などの水棲生物ではなくコスプレイヤーである。最近は水族館でコスプレをするというのが流行しているらしい。

 なぜこの仕事をプロデューサーを取ってきたのかは不明だが……まぁ、これをサブカル系のファッションイベントだと捉えるとあながち間違っていないのではないか。……こういうイベントで本人が登場していいのかはともかく。

 今日の衣装はシンフォニックスチーム。アマチュアが再現できるギリギリのライン、というオーダーらしかった。

 間接照明が焚かれた場所で少し高くなった場所に立つと一般参加者のコスがよく見える。アイドルの衣装もちらほら。283の衣装も見かけるが、さすがに大手プロダクションの一般販売されていないジャージはコンプラが頭によぎった。

 

「三峰ちゃんのその衣装って、アンティーカのみんなで作ったものって聞いたんですけど……」

「まさか。私たちは衣装さんが作ってくれたこの子を少しだけ手を加えただけですよ」

 

 若干、気が張る。周囲はクリエイターばかりで、下手な発言は問題になることが予測できる雰囲気だ。

 

(これ、なんかあんまり歓迎されていない雰囲気だな……)

 

 正直言って、衣装を作ったわけじゃない。なのにアイドルであるという理由で注目されているというのが気に食わない、という視線をひしひしと感じる。

 今日はあんまりおもしろい仕事にはなりそうにないな、と一瞬思ってしまった。

 

 

 スマホの写真フォルダを眺める。何人かがアンティーカのコスをしてたから一緒に撮ってもらったのだ。

 楽しい仕事――とは言いにくい環境だったが、久しぶりにきちんとファンと交流できたし専門外の分野と関われたのは良い経験と言える。

 だが……今日はとことん針の筵だった。MCや話し方に問題があったか、今になって気になってしまう。おかげでかなり気を張ってしまった。

 つまるところ……

 

(おなか、空いた……)

 

………

……

…何か食べよう。

 

 控室を出て従業員用ゲートへ向かう。途中何人かのスタッフと会釈をしながらスマホを叩く。現在時刻は18時。昼は市販のパンで済ませたからか、今になって胃が文句を出している。

 どこの店に向かうにはすでに決まっている。問題はいかに早くたどり着けるか。バスの行先に注意しながら乗り込んだ。

 バスに揺られて行きがけに見かけた海鮮丼屋へ。今の結華の思考にはこの場所以外考えられなかった。

 店内には学生らしき男がスマホを見ている。こびりついた酢飯のにおいが鼻につく。それを確認した後、券売機へ。

 

(安っす……)

 

 海鮮バラ丼が550円。しかもたくさん種類がある。一番高い期間限定とかいうものでも750円。安すぎる。

 しかしどうしたものか。マグロの切り身がたっぷり乗ったマグロ丼、イカの刺身にサーモンと光物が乗った三色丼、シラスとアボカドが乗ったしらす丼……。価格もかなり抑えてあるからどれを選んでも良い。

 しかし今の結華は生魚は食べたいが、なんの魚を食べたいのかまでは考えていなかった。イカも好きだ。サーモンも大好物である。シラスも捨てがたい。

 でも今は、とりあえずマグロを食べたい……!

 

(じゃあ海鮮バラネギトロ……だね)

 

 一番安い550円のもので良いのか、とよぎったが今一番欲しいものが一番安かっただけである。慣れない手つきで食券を購入する。

 しかし、狭い。丸椅子に座ったが混雑すると出口の近くにある受け取りカウンターに近づけなくなるのではないか。

 据え付けられたテレビは画質の悪い宣伝映像が繰り返し流されているようで、はっきり言って退屈である。テーブルの上にある地方紙でも読もうか――

 

「14番のお客様―」

「え、あっ、はい……!」

 

 早い。調理とかはせずにきっと厨房では盛り付けるだけなんだろう。カウンターでスーパーの海鮮丼のようなパックを受け取って元の席に戻る。

 

(何というか、場末の居酒屋みたいな……。漫画のサイバーパンク世界の庶民寿司屋みたいな……)

 

 酢飯のにおいがこびりつき、ろくに清掃されていないのかかなり汚れている場所はディストピアのアトモスフィアを感じる。

 ふたを開けるとぶつきりの青魚、卵焼き、キュウリ、そしてネギトロ。様々な色が散りばめられて、とても美味しそうだ。

 付属の醤油とかけてワサビを半分。これが三峰結華のベストだ。

 まずは一口。

 

(あぁ、そうそう――生魚というのはこういう味だった)

 

 生魚なんて食べるのは何ヶ月ぶりだろうか。……まぁテレビのロケとかで食レポとかで食べる機会自体はあったのだが、あれはなんだか食べた気がしなくてあんまり好きじゃない。

 米と魚のうまみに醤油の塩分が調和された海鮮のうまみを三峰結華の口に広がる。ところどころちりばめられた青ネギの青さときゅうりの食感が場を引き立てる。

 お、ワサビだ。まだら模様に撒かれたワサビは食べる部分によってさまざまな味の変化を楽しむことができてとても楽しい。

 なによりも、ネタが新鮮だ。マグロの赤身の味と青魚の脂が混ざり合って、下のご飯がとても愛おしく感じる。

 いま自分が日本で生きていることを強く感じている。フライに焼き、鍋などいろんな魚料理は食べてきたが、やはり生魚を安全に食べられるこの環境がとても素晴らしい。

 

(あーもう終わっちゃった)

 

 一瞬だった。やはり生魚と白米、そして醤油の魅力は理性をも溶かす。魅了された自分は、きっとまたいつかこのうまさを思い出してどこかの店で貪るのだろう。

 

 

 店を出ると夜の空気が結華の体を冷ます。

 明日は大学の授業がある。長丁場だから弁当を用意しなければならない。家の冷蔵庫に何があったかなぁ。梅のふりかけとキャベツとニンジン、冷凍した魚とほうれん草……。

 棚の中にしまってあるであろう調味料を思い出しながら結華は駅のホームへ向かう階段を登って行く。

 

 




次の更新は未定です。

多分カレーうどんの話書きます
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