結華のグルメ   作:勉強サボ浪

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ローカルチェーンのカレーうどん

 目の前にいる極彩色の大きなトカゲはこちらを見ると大きく口をガバっと開けて甲高い鳴き声を鳴らした。

 

「うわぁ! 三峰、食べられちゃう!」

 

 結華はわざとらしい悲鳴をあげた。その様子に不満だったのか、トカゲはガクガクと首を落としながら口を閉じる。

 結華は目の前の恐竜――看板によるとバリオニクスというらしい――から目を離してカメラに視線をやった。

 

「今、三峰は名古屋の――」

 

 後ろに背を向けた瞬間、スピーカーから先ほどの甲高い鳴き声が放たれた。「うわっ!」と本心からのびっくりにカメラマンが笑う。

 

「……すみません、さっきのカットで」

 

 結華の一言にバリオニクスの首から聞こえるモーターがまるで笑い声のように鳴った。

 

 

 アンティーカ、名古屋公演に向けての宣伝映像としてどういうわけか結華は恐竜をモチーフにした遊園地のリポーターをしていた。

 なんで三峰が恐竜? まみみんが適任なんじゃないの、とプロデューサーに抗議したのだが摩美々には動物園があてがわれたらしい。コモドドラゴンが有名だから、ということだろうか。

 名古屋駅から30分程度。最寄駅からも近い緑地であり、郊外とはいえ大分都会よりの場所に自然の景色があるのは結華にとっても新鮮だ。

 展示内容もそれなりに良い。確かに内容としてはウォークスルー型で機械仕掛けの恐竜を眺めるだけだが、動きがかなり生物らしい。

 

(いや、三峰は本物の恐竜に会ったことないけど)

 

 間違いなく恐竜の筐体ゲーム直撃世代の兄なら面白がっていただろう。若干影響は受けてはいるし、実家に子供向けの恐竜図鑑が家にあるから結華にとっても結構面白いアトラクションである。

 ……ただ「肉食恐竜に襲われて大怪我を負い弱々しく鳴いて横たわるトリケラトプス」の展示に関しては「いやまぁそれが弱肉強食ってやつだけどさぁ……」という感想になったが。平日の午前だから子供なんていないけど、子供がいたら泣き出すのではないだろうか。

 ほら、この「狩りを終えて肉を食い散らかすカタノサウルス」の展示はリアルで近づくのも恐ろしい。機械仕掛けの作り物で鳴き声はスピーカー、無視できないほどの大きさの稼働音。しかし生物の息吹が聞こえるのだから不思議なものだ。

 風が吹く。身震いしてしまった。

 

「おや、三峰さん。そんなに怖かったですか?」

「――そうですね! 恐竜たちの世界は弱肉強食だというのは分かってはいるんですが……こうも目の前で見せられると食べられる方を考えちゃいます」

 

 今の、大丈夫だっただろうか。担当者はこくりと頷いて続行を求めている。単純に寒かっただけなのだが……。

 恐竜時代は意外と涼しかったと聞く。しかしこの寒さは……地球温暖化の影響でいまだに衣替えをしていなかった自身の怠慢さを恨んだ。

 

 

 今日の仕事は終わって、あとは東京に帰るだけ。現地解散だからいまから名古屋駅に戻るのが最適だろう。

 ……いや、1つだけ仕事が残っていた。地元の飲食店に立ち寄ることである。……といっても、本当にツイスタ用の写真と文面のための短い感想以外必要ない。グルメが有名な場所らしいから、とプロデューサーには言われたが少し安直すぎるのではないか。

 しかし……周囲を見渡すと緑だ。お腹も大して空いていない。名古屋駅にも食べる場所はあるだろうが、結華は少し散歩をしてみたい気分だった。

 大きく伸びをする。変装はしていない。していなくても案外バレないものであるが、最大の要因は彼女が多種多様な衣装を着たからしたところであんまり意味がないというのが真実だった。マスクをしているのはどちらかというと病気対策の面が強い。

 

(しっかし……一気に寒くなったなぁ。いや、夏が長くなりすぎた)

 

 なんというか、12月であるという意識がまだない。すでに年末のライブはひと月後に控えているというのに、そのためにいくつものレッスンをこなしたというのに。

 国道沿いに出て、思いついたようにすぐそばにあった鉄道を横切る踏切を渡った。ここまでくれば、最寄駅から結構離れている。

 しかし中心街から離れているとはいえかなり栄えている町だ。スポーツセンターにステーキショップ。中華料理店に手縫いの専門店――

 

(まずいなぁ、なんだか食欲がない)

 

 中華料理屋のデザイン性なんて無視して安さだけを喧伝する情報量の多い看板もなんだか今日はそそられない。昼食は食べていないのに……。今朝の朝食はそんなに多かったか?

 なんとなく病院のある交差点を左に。小学校の体育の喧騒が、なんだかうらやましい。

 ノスタルジー、というものだろうか。あまりにも早くなった時間の流れに体が慣れていないのだろう。時刻はそろそろ14時を回ろうとしているというのに、体は明日のためのエネルギーを欲していない。

 一度も歩んだこともないこの場所に、どうして自分は安寧を感じているのだろうか。

 大きな交差点を右に。おいしそうな和菓子屋があったが空腹も感じず、甘味も欲していない結華には興味がない。

 こんなところに神社がある。しかも結構広い駐車場があって大きな鳥居だ。立ち寄る理由もないけどお参りしてみよう。

 2つの鳥居を抜けるとそれなりに広い砂利道である。かなり最近に整備されたらしく建物が新しく本堂へ向かうための短い階段のそばに電子案内の看板さえある。適当にタップしてみるとなにやら案内が表示された。英語も記載されていることから外国人観光向けか?

 

(近くに熱田神宮もあるのに、ここまで大事に整備されてるってことは結構有名なところなのかなぁ……。神学も日本神話もゲームの知識しかないけど)

 

 短い階段を上るとダルマが大量に敷き詰められていた。驚きつつも吊られたダルマの絵馬を見ると厄払いの文字が。この神社はダルマと厄払いが有名……なのか?

 財布を開けて十円玉と五円玉を1枚ずつ取り出す。賽銭箱に放って二礼二拍手一礼。祈ることなんて考えてなかったので、なんとなく厄払いを祈ってみる。

 さてどうしたものか。結華は手を下ろしながら考える。これから近くの駅に行って……。

 ――いや、今日は寒い。そして自分を空っぽにして歩いてきたから自覚はないが、遊園地からここまで結構歩いてきた。

 

(ノスタルジー、しゅうりょー。ようやく私は、お腹が空いてきた……)

 

………

……

 

 厄払いを祈ったら神様が空腹をくれた。食べて英気を養えということか。

 ご飯処を探しに行こう。

 

 

 鳥居をくぐって道路に戻る。先ほどの交差点まで戻ってもいいが、正直食べるような場所があるとは思えなかった。駅周辺なら何かあるかもしれないが、なんとなく山側に向かったほうがいいんじゃないかと思い左へ。

 

(失敗だったかなぁ)

 

 見渡す限り、家、家、家、あれはコンビニ。車の通りは多いものの住宅街で食べる所が見当たらない。

 かなり広い墓地の脇を通り抜けながら彼女は脇道にそれようかと悩んでいたところだった。ふと視界がすっきりと広がる。ショッピングモールの駐車場だ。結華の地元にもこのぐらいの大きさのものがあった。

 

(あの大きさなら飲食店ぐらいあるかな……)

 

 道路を横断してそのショッピングモールに入る。フロアマップには建物の大きさに見合った店の一覧が並んでおり、フードコートもある。

 さてさて何の店があるのか? とんかつ屋はパス。思いっきり新宿ってあるし。愛知で有名なラーメン屋もあるが、一度食べたことがある。

 

(若――なんて読むんだっけこれ?)

 

 そういえば果穂ちゃんが夏に宣伝大使してた店だな、とようやく結華は思いだした。あの元気な声は何度もリピートしたくなるものだ。

 カレーうどん……意外とありではないか。この寒さには相応しい。

 

 

 カレーのにおいをたどって店内に入ると店には結華以外に客はいなかった。……よくよく時間を確認してみるとランチ営業終了の時間がかなり迫っていた。……まずい時間に来てしまったかもしれない、と思ったが店員がやってきて「いらっしゃいませ」と言ってきた。

 

「あの……まだ大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ」

「ありがとうございます!」

 

 何とかなったらしい。カウンターに座るとメニューを開く。大丈夫、とは言ってくれたが早めに出なければ。

 なるほど、味噌煮込みうどんもあるしかつ鍋なんてものもあった。しかし、名古屋に来たのだ。ここでの最適解は……

 

「すみません。カレーうどんをごはんセットで」

「はい。わかりました」

 

 近くにいた店員にそう告げると彼はお辞儀をして厨房へ向かった。……もしかして自分待ちだったのだろうか。

 味噌カツも土手煮も以前来た時に食べたことがある。どちらもみそ味だというのにあんまり味がしつこくない印象で結構好みだったが、今回はスルーで。女子大学生の胃はそこまで大きくない。

 カレーのにおいがやってくる。この暴力的な匂いにはなぜかすべての意識が持っていかれる。どうして日本人の遺伝子にカレーという因子が入り込む隙があるというのだ。

 ……そういえばカレーうどんなんて意識して食べようと思ったことがなかった。あれは大体余ったカレールーの処理方法の1つであり、おいしくはあるがローカルフードとして持ち上げられる程ではないと結華は思っているのだが……果たして。

 

「お待たせしました。カレーうどん、ごはんセットです」

 

 店員がお盆を置いた。ありがとうございます、と他の客がいないぶん数割増しに礼儀正しく結華が礼を言う。

 カレーうどんが入った丼にはなみなみにカレールーが注がれており、明らかに麵の量と見合っていない。ごはんセットは最適なチョイス。

 

(うどんの締めをご飯にするなんて、なんだかよく分からないけど……いただきます)

 

 最初の一口はスプーンでルーのみを戴こう。思ったよりも粘度の低いそれを啜ると驚いた。

 優しい口当たりだ。しかし辛さもきちんと主張している。単体だけでもきちんとおいしいのはきっと裏に出汁が使われているからだ。

 これは明らかに日本の料理である。様々な尖った香辛料たちが日本人向けにきちんと主張せずに1つの料理を作り上げている。うれしいことだ。

 うどんを食べると、もちもちとした白い麺が絡みついたルーを纏ってやって来た。しかしこれはカレーではないのだ。何処かから香るお出汁とカレーの調和がうどんの優しい甘さと歯応えを強調してくれるのだ。

 カレーはえらい。カレーは何にでも合うが、すべてをカレー1色に染め上げずにほかの食材の別の顔を見せてくれるのだ。

 しかも具材はネギとカマボコだけと来たものだ。カレーのドロドロにめげずにネギはしゃきしゃきで、カマボコの練り物の味は全く隠れていない。

 うどんをすする。紙エプロンをつけているとはいえ、できるだけ汁が飛ばないようにできるだけ丁寧に。ときおり挟まれるネギの香りが清涼感を生んで心地よい。

 それらを繰り返していると器の中に入った白いうどんが無くなってしまった。しかし丼の中にあるカレーはなみなみと残っている。結華は遠慮なしに茶碗に入った白米を丼に入れた。

 

(少し行儀は悪いけど……まぁ、いいか)

 

 レンゲにカレー……と言っていいのか分からないそれを掬って口に運ぶ。かなりカレーライスに近い値だが、和風だしの香りのおかげで少し違う。

 締めでさえも美味なそれに結華は舌鼓を打った。

 

 

 ショッピングセンターを出ると外は夕焼けの色を僅かに含み始めていた。冬の3月はこんなにも日に入りが早かったか、と認識のずれに結華はすこし笑ってしまった。

 次に来るのはアンティーカのミュージカルの時。今度はみんなと来るのだからちゃんとどんな名古屋めしを食べるか計画を立てよう。結華はそう思って,、帰るために駅がある方角へ向かって歩き始めた。

 




パラコレ三峰カレーうどん食えそうにないよなぁ

そういやワイたいして名古屋に観光してないよなぁ

栄養失調三峰の口直し作品書いてないよなぁ

名古屋アンティーカスタンプラリーの参加店に**屋あるやんけ!

じゃ、書くかぁ

書いた

気づく人は気づくと思いますが、結構思想が入っています
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