キアナ達を路地裏に置いて少し距離をとる。物陰から、ちらりと確認した機甲を背に置く少女。
(鍛えかたからしてただものじゃないな――うーむ、なんだか同門の匂いがする)
なんというか、鍛え方が暗殺とかそっち向きな動きをしているのだ。
間違いなく、あの機甲が彼女の攻撃と防御の要、どうにかしたいがどう考えても拳銃の弾ごときで倒せる相手ではない。
なら、少女を撃てばいいが――。
(いつもなら、迷いなく撃つんだけど)
戦争では、少年兵と言うのもたまに現れた。薬物で洗脳されて、狂気的な顔で殺そうとしてくる姿には戦々恐々したものだ。
そう言うのを殺しまくってくると何も感じなくなるのだが。今の俺は不思議と心が抵抗していた。
「生け捕りかぁ――」
難しい、殺さずって言うのはそもそも少女を倒せばあの機甲が止まるのかと言う確証もない。下手すれば油断したところをドカンだ。
と、とりあえず手が震えてきたのでピースを取り、火をつけ吹かす。
「ふぅーー落ち着いてきたぁ――」
脳に酸素が回るのを感じつつ、戦況を見極め組み立てる。
「熱源を感知――攻撃開始」
「――熱源?」
自身が加えるたばこに目が行く。すぐ、その場を跳躍し通りに出る。
俺が隠れていた場所はしっかりビームがあたり溶解していた。
「――ターゲットではありません。攻撃中止」
「はぁーーやるか!!」
熱源であるたばこは離さず、視線で周りを確認する。一般的なビル街のど真ん中、道幅はそこそこあるな、これなら充分避けられる。
(問題は有効打か――銃弾当てるわけにはいかないしなぁ――体が拒否してるし)
ならば、聖剣の力を行使するべきだと思うがどうにも発動しない。さっきから試してはいるのだが何だろう、Wi-Fiのつながりが悪いみたいな感覚がする。どうにも、ズレが起こっているようで発動しない。
考えていても仕方がない、出来ないものはできないのだ。
「重装ウサギ19c、戦闘モードへ移行します」
「――うわぁ、人間って飛べるんだね」
飛んだ奴は見たことあるが、まさか少女と同じか少し大きいくらいの機甲が人間を浮かせるとは――圧倒的な技術差だ。と言うか物理法則が仕事をしていない。
でも悪いことばかりではない。先ほど、気づいたが落下しても俺は無傷だ、つまり『聖剣ジ・アース』による守護の効果は生きているのだ、多少の無茶は行けるくらいだがそれでも十分だ。
「なあ、名前を教えてくれない?――倒す前に名前くらい知っておきたいんだ――あ、俺はアポロね」
「――私はドープ型少女決戦兵器、重装ウサギ19cの適応者ブローニャです。その程度の兵装でブローニャに勝つことは不可能です」
目線は俺の手元の拳銃を向いている。まあ、現実的ではない戦車に拳銃で挑む奴なんていない。目線も冷ややかなまま、まるで人形みたいだ。
「抵抗を示すのであればあなたを殲滅します」
「そうか――なら、そうさせてもらうよ!!」
閃光弾をぶん投げる。炸裂と同時に、眩い光があたりを包み込む光が晴れた後、目が慣れてきたブローニャが目にしたのは――。
「逃げた?」
その場にはアポロはおらず、人の気配も感じられなかった。
(いや――感知――)
「そこですね」
熱源を感知し、そこに向かってビームを放つ。案の定、車の影からタンクのようなものを持っているアポロがあぶりだされて来た。
「はぁ――全くこういう不利な戦い多すぎてきついよ!」
たばこをふかしながら、一回転し何かタンクの蓋を開ける、そしてタンクにある液体をあたりに撒いていく。もちろん、ブローニャは当たることなく回避したが。
「ガソリン…ですか」
その匂いで、何を撒いたのか察する。しかし、アポロのその行動は悪手と言わざるを得ないなぜならブローニャはそもそも飛べる。そのため、火災が発生した場所からさっさと逃げればいいのだ。
「ふぅ――じゃあ、つけるか導火線に火をさ」
ライターで、ガソリンに火をつける瞬間まるで蛇のように火はガソリンの上を這いあたりを炎上させた。
「ですから――無駄です」
煙が充満する、しかし飛べばそんなの意味がない。当然、煙は上に向くがそれでも上と下、どちらが有利なのかは火を見るよりも明らかだ。
上空で待機し、アポロが出て来るのを待つ、なぜなら普通の人間がこんな煙の中には長時間いられないからだ、出てきたところをズドンと撃ってしまえばいい。
だが、一つ懸念すべき点があった。
それは、アポロの姿が検知できないのだ、熱源を感知も今の炎上でうまくいかずどこにいるか見当もつかない。
そして、ブローニャが気づかないもう一つ懸念すべき点があるのだ。
「――さて、どうしましょうかね」
こいつは、普通の人間ではないのだ。と言っても、聖剣の加護も十分ではなく長い時間煙と火の中に居られるわけではない。
考える時間を作りたかったアポロの苦肉の策なのだ。
敵は空中に留まっている、熱源の探知はできていないだろう。できてたらもうビームが飛んできている。
ここから跳躍してもブローニャに攻撃は可能だが、跳んでいる最中に――あの、重装ウサギとやらにやられるだろう。
その時、近くのビルに視線が向かう。
「――やるか」
手榴弾を取り出し、内部から火薬を取り出す。先ほど、車からガソリンを拝借するときについでに持ってきた傘とたばこを組み合わせて簡易的な時限式のトラップを作る。
(よし、後は――)
数分後、なかなか炎の中から出てこないアポロにブローニャは痺れを切らしていた。
(すでに逃げた――。ありえません、継続的に監視はしていました)
必ずアポロはこの煙の内部にいる―――確信していた。
ならば、考えられるのは一酸化炭素中毒で倒れているか、気合で耐えているか、死んでるかそのくらいである。
死んでるか、倒れているかの場合ブローニャはすぐさま『第3律者』の確保に行くべきだ、しかしアポロは閃光弾や拳銃、やたらと兵器を持っていた。不意打ちされようものならたまったものではない。
対して、第3律者ともう一人は完全に丸腰、少し遠くに行こうがブローニャならすぐに見つけられるという自信があった。
否、その慢心がブローニャの敗北を決定づけたのだが。本来なら、さっさと逃げられればアポロに勝ち目などない。
同じ場所にとどまり続けているブローニャに対してのみアポロには勝機があるのだ。
ならば、いっそのこと無差別に攻撃したほうがいいのではないか――そう考えた時だった。
パゴンッ!
煙の中から爆発音のようなものが聞こえる。もちろん、近くの車が爆発した線もあるがだとしたら規模が小さいようにも感じる。
ならば、これはアポロがぼろを出したとたどり着く。
「終わりで――」
その瞬間、ブローニャの意識は闇に落ちた。
作戦は成功した。
時限式で陽動のために用意した簡易的な装置――それを作成した後、煙で隠れたビルの入口に滑り込んだ。
そのまま、ダッシュで上階に上る。そして、爆発のタイミングを見計らって――。
「オラッ!!」
車にあった脱出ハンマーで窓ガラスを粉砕、もちろんそんなことをすれば音で気づかれるが、爆発の音で掻き消すことはできる。
ブローニャの注意が完全に下に向かったタイミングで跳躍し、ブローニャの首にチョークスリーパーをかけ、意識を奪った――。
「て、わけなんだよ――」
「なるほど、ブローニャの完全敗北と言うわけですね――」
意識を奪った後、そのままにしておくわけにもいかないので運んでキアナ達のもとへ戻ったのだ。もちろん、縄で縛ってね、それでも相手が抵抗の意志を見せたら即刻意識を刈り取るのだが。
連れて帰ってきたことにキアナは反抗していたが、芽衣はわかってくれてキアナを説得してくれた。
「なぜ、殺さなかったんですか?」
「――まあ、殺すんだったら数倍楽だったよ。でも――なんだ、昔からなあんな目をしてる奴を放っておけないんだ」
目をつむれば思い出せる、内戦や紛争によって絶望した人たちの目、幼い時から平和を知らない少年少女――。戦争を知らないやつと平和を知らないやつとでは、こうも目から変わってくるのかと思った。
そう言うやつらを救いたくて、戦ったり――何とか、双方生きれる落としどころを探して、説得して時には革命が起こったりもした。
どうしても、聖剣の力があっても平和は作れなかった。平和を取り戻すことと、平和を作る事じゃ難易度が圧倒的に違うことがよくわかった。
「甘いですね――ブローニャはあなた達を殺そうとしたんですよ」
「――ああ、甘い、甘いんだよ。だけれど、甘さがない世界に希望はないんだ、殺そうしたから――こっちも殺すなんてまかり通ったらいけないんだ」
憎しみの連鎖、それを断ち切るのは難しい。だって、個人間ですらやってやり返されるその繰り返しなんだから――だけれど、諦められないんだ。
「――だからこそ言う、俺達を助けてくれ」
「正気ですか?」
「正気だ」
頭を下げる。と言うのも、ここら辺はゾンビだけではなく崩壊獣と呼ばれる――まあ、要するにでかい怪物がうろうろしているのだ。はっきり言って、俺が持っている兵器じゃ焼け石に水なのだ。だからこそ、ここの脱出のためにブローニャの助けが欲しい。
「もし、それでも芽衣のことを狙うなら――意識を刈り取って俺が運ぶ――けれど、ブローニャが俺達を助けてくれるなら――うーむ、対価ないな――うん、うれしい」
「うれ、しい――それだけですか?」
「ああ、ブローニャには全くメリットがない何なら断ってもブローニャの命は守るよ」
我ながら取引でもなんでもない押しつけだ。然も、相手完全有利の――でも、俺はブローニャをそこまでひどい奴だと思えない。
最初から、本気で殺すのであれば彼女の火力なら校舎ごと吹っ飛ばした方がいいし、重装ウサギで逃げ回りながら奇襲をかけ続ければいつかは俺達は負けていた。
なのに、わざわざ俺との闘いに乗った。――悪い奴だとは思えない。
「ブローニャは――わかりません。どうすればいいのか――どうして、アポロは二人のために戦うんですか――一人で逃げることも可能なはずです」
「――うん。そうだね、そうなんだけど――なあ――うん、戦う理由――かあ。」
少し、考えた後なぜ俺は逃げなかったんだという結論にたどり着く――自分でも意味が分からないのだ。
「わからない――自分がなぜ逃げなかったのかそれは俺にもわからないんだ」
「――なぜ?」
「きっと、理解も言葉にもできないそんな理由があるんだ。心の中から湧き出て来るようなそんな理由が」
結局は自分の為なんだ逃げないのは、わかっている。それによって、結果的に周りが救われているだけで――。
でも、自分の胸の内からあふれ出る何かが俺を動かした。
「心の――中。ブローニャは、アポロに助けられて胸が熱くなりました――これが、その理由なのでしょうか」
「――かもね。後は、その熱をどこに向けるかじゃない?」
理由は心の中にある。なんだか、ブローニャの目が少し光ったような気がした。
「わかりました。ブローニャは脱出を手伝います」
「ッ!本当に!?我ながら、結構ヘンテコ取引を持ち掛けたと思ってるんだけど――」
後ろの暗闇から「はぁ」という落ち着いたため息が聞こえる。どうやら、俺に何かあれば助けに行けるよう待ってくれていたらしい。
それでは、ブローニャが仲間になったということで縄をほどく。
(――暖かい)
アポロの手が縄をほどくために己の体に触れるたびに心に熱がこもっていった。
「――アポロ、ブローニャと手をつないでくれますか」
「うん?いいけど――」
手をつなぐ、急にどうしたのかと聞こうと思ったが繋いだ瞬間の少女の目には光が宿っていた、それを見て野暮と考えた俺はキアナと芽衣を呼んで長空市脱出を目標に進むのだった。
小話
アポロはそれっぽいことをブローニャに言っていますが、彼はもとの世界で戦争の元凶である宗教団体を潰すために一日で214人を手にかけています。え?なんで覚えてるって?殺したやつの顔一人一人を覚えてるからです。そして、仲間が殺された時は激高して、国を滅ぼしたりもしていました。