シャーレの先生は不死身な兵隊サン 作:富士見の山崎
喇叭
我々は望む、七つの嘆きを。
「突撃ぃぃぃぃ!!!!」
「天皇陛下っ!ばんざあああぁぁぁぁあああいぃ!!!」
古代ジェリコの戦の如く突撃喇叭が響き、日本兵達が米軍陣地へと駆け出して行く。
我々は覚えている、ジェリコの古則を。
しかし、国を護る鉄の意志はあれど城壁を崩す様な神秘などない。
ズダダダダンッ!!!
「ぐがぅっ!?」
「がっ!・・・いてぇ・・・クソがッ。」
非常なブローニング機関銃の射撃音が鳴る度に日本兵の死体が積み上がり、三八式歩兵銃の発砲音が響く度に米兵が倒れ行く。
「いてぇ・・・いてぇよぉ・・・。」
「おっかぁ!おっとぉ!」
無様な両軍の兵隊が、至極単純な恐怖と痛みに泣き叫ぶ。
静かな闇は、赤黒い血に染められていく。
ザザッ!ドスッ!
一人の日本兵が米軍の簡易的な陣地に飛び込み、転がる。
その日本兵はあちこち負傷しており、眼だけが異様にギラギラ光っているという『落武者』の様な風貌であった。
流石の米兵もこれには足がすくんだ様で、一瞬の隙が生じてしまう。
ズタタタタタッ!
「!?」
日本兵の持っていた機関短銃が炸裂し、至近距離で受けた米兵がざくろの様に弾け飛ぶ。
ダンッ!
ダンッ!
斃れた米兵の奥からまた別の兵が日本兵へ向けて射撃する。
その殆どは正確に日本兵へと命中し、その血肉を抉り取る。
しかし、
何発弾を受けても斃れない。
血が滝の様に流れても瞳は光ったまま。
自身の肉が飛び散っても銃は固く握って離さない。
その姿は、
まさに、
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
タタンッ
タタンッタタンッ
車輪と
心地いいリズムを刻みながら自分の乗る列車は進んでいた。
いつどこで列車に乗ったのだろうか。
よくよく見てみれば車内は自分の知る
車窓には遠く太陽が地平線から白い光を放っている。
夢心地で全く自分が見ている光景に思えない。
ここは、
何処だろうか。
「・・・私のミスでした。」
誰だ
「私の選択、そしてそれによって招かれたこの全ての状況。」
君は、誰だ
「結局、この結果にたどり着いて初めて、貴方の方が正しかった事を悟るだなんて・・・・・・。」
答えてくれ・・・
「今更図々しいですが、お願いします。」
何を
「きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません。」
・・・、
「何も思い出せなくても、おそらく貴方は同じ状況で、同じ選択をされるでしょうから・・・。」
どういうことだ・・・
「ですから、大事なのは経験ではなく、選択。」
・・・、
「貴方にしか出来ない選択の数々。」
そんな事ない。俺の代わりなんて幾らでも居る。
「責任を負う者について、話したことがありましたね。」
責任・・・か・・・
「あの時は私には分かりませんでしたが・・・今なら理解出来ます。」
「大人としての、責任と義務。その延長線上にあった、貴方の選択。」
そんな選択、出来たら誰も失わなかった。
「それが意味する心延えも」
やめてくれ
「ですから、先生。」
俺は先生なんかじゃない
「私が信じられる、貴方になら、」
・・・やめろ
「このねじれて歪んだ終着点とは、また別の結果を・・・。」
「そこへ繋がる選択肢は・・・きっと見つかるはずです。
だから先生・・・・・どうか・・・・・・・
きみは、
いったい・・・
「・・・い・・・・先生、起きてください。」
先程と違う、声。
呼びかけてくる。
「先生!!」
目を開ける。
鉛の如く重かった瞼は思いの外簡単に開き、雲の様に曖昧だった意識はパッとはっきりしてしまった。
「・・・・・?」
知らない部屋。やたらと小綺麗である。
知らない女性。美人である。
いやそれはそうとして、俺は何故こんな所に居るのか。
寝こける前には確実に米軍の捕虜収容所に居た筈だ。
オマケに女性も少し変だ。頭の上に十字教の聖人みたいな『わっか』が浮かんでいて、耳がとんがっている。
まだ夢を見ているのか。
「少々待っていて下さいと言いましたのに、お疲れだったみたいですね。」
何のことだろうか。
「夢でも見られていた様ですね。ちゃんと目を覚まして、集中してください。
「貴女は・・・?」
女性を傷つけないように、しかし警戒は解かず問う。
「・・・再度状況を説明させて頂きますね。私は
「学園・・・都市・・・?」
知らない単語、知らない女性・・・七神。謎が増えるだけである。
「そしてあなたはおそらく、私たちがここに呼び出した先生・・・の様ですが。」
「・・・また、先生・・・・。」
「・・・・ああ。推測系でお話したのは、私も先生がここに来た経緯を詳しく知らないからです。」
そんなもの、こっちが聞きたい。
「・・・・混乱されてますよね。分かります。こんな状況になってしまったこと、遺憾に思います。でも今は取り敢えず、私に付いてきてください。」
「・・・・。」
「どうしても、先生にやって頂かなくてはいけない事があります。」
「それは、どうしても自分じゃないと駄目な様な事なのですか?」
「・・・・・学園都市の命運をかけた、貴方にしかできない事・・・・という事にしておきましょう。」
言うが早いが彼女は進みだした。
これでは付いて行くしか選択肢はないだろう。
・・・
・・・・・
・・・・・・
「『キヴォトス』へようこそ。先生。」
硝子張りの昇降機には、自分が元居た場所のそれより遥かに進化した美しい街並みが広がっていた。
硝子の多く使われた高いビル、コンクリート製と思えるが無骨さを感じさせない建物。
全てが日本や米国のそれとは一線を画していた。
「キヴォトスは数千の学園が集まってできている巨大な学園都市です。」
「数千・・・だと?」
そんな街も都市も聞いたことがない。
この昇降機といい、ビルといい、此処はいったい・・・何だ・・・?
「そしてこれから先生が働く所でもあります。」
「・・・は?」
「きっと先生がいらっしゃった所とは色々な事が違っていて、最初は慣れるのに苦労するかもしれませんが・・・・。」
「待ってください・・・いや、待て。俺が先生というだけでも可笑しいのに此処で働くだと?俺は軍人はおろか敗軍の長だぞ?誰が俺に先生など・・・。」
「連邦生徒会長です。連邦生徒会長が貴女をお選びになりました。」
また新しい単語だ。脳ミソが付いて行けない。
「・・・・それは後でゆっくり説明することにして。」
チン。
昇降機の鈴が鳴る。どうやら目的地に着いたようだ。
「あ!代行!見つけた、待っていたわよ!連邦生徒会長を呼んできて!」
横殴りに響く少女の声。
今度は誰だ。
「うん?隣の大人の方は?」
「主席行政官。お待ちしておりました。」
「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が、今の状況について納得のいく回答を要求されています。」
湧いて出てきた数人の少女達。
推察するに連邦生徒会の下部組織か、どこかの学園の人間であろう。
・・・・いや、七神の様に頭の上に『わっか』が浮かんでおり、何なら翼を生やしたものまでいる。
・・・人外魔境なのか?キヴォトスとやらは・・・。
「あぁ・・・・面倒な人たちに捕まってしまいましたね。
・・・こんにちは、各学園からわざわざ訪問してくださった暇を持て余している皆さん。」
明らかに機嫌の悪そうな声で七神が毒を吐く。
「こんな暇そ・・・・大事な方々がここを訪ねてきた理由は、良くわかっています。」
暇そうと言いかけている。辛辣である。
「学園都市に起きている混乱の責任を問うために・・・・でしょう?」
「そこまで分かっているなら何とかしなさいよ!連邦生徒会なんでしょ!数千もの学園自治区が混乱に陥ってるのよ!うちの学校なんか風力発電がシャットダウンしたんだから!」
自治区・・・・?学園が自治区を持っているのか?
それではその学校の校長や理事長が市長ということになるではないか。
「連邦矯正局で停学中の生徒たちについて、一部が脱走したという情報もありました。」
「スケバンの様な不良たちが登校中のうちの生徒たちを襲う頻度も、急激に高くなりました。治安の維持が難しくなっています。」
矯正局?治安?本当に学園が政治をしているのか?
「戦車やヘリコプターなど、出所のわからない武器の不法流通も2000%以上増加しました。これでは正常な学園生活に支障が生じてしまいます。」
戦車?2000%?
しかもよくよく見たら少女たちは一人残らず銃を所持している。
・・・・・頭が痛くなってきた。
「・・・・。」
「こんな状況で連邦生徒会長は何をしているの?どうして何週間も姿を見せないの?今すぐ合わせて!」
「・・・・連邦生徒会長は今、席におりません。正直に言いますと、行方不明になりました。」
「え!?」
「・・・!!」
「やはりあの噂は・・・。」
急に呼び出されたと思ったら、その呼び出した本人が行方不明・・・・。
腹まで痛くなりそうだ・・・。
「結論から言うと『サンクトゥムタワー』の最終管理者がいなくなったため、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態です。
オマケに行政もできない状態・・・か。
「認証を迂回する方法を探していましたが、先程まで、その様な方法は見つかっていませんでした。」
「それでは、今は方法があるという事ですか、主席行政官?」
「はい。この先生こそが、フィクサーになってくれるはずです。」
「!?」
「!」
「この方が?」
「あ?」
「ちょっと待って。そういえばこの先生は一体どなた?どうしてここにいるの?」
「キヴォトスではないところから来た方の様ですが・・・先生だったのですね。」
「はい。こちらの先生は連邦生徒会長が特別に指名した人物です。」
「行方不明になった連邦生徒会長が指名・・・?ますますこんがらがってきたじゃないの・・・・。」
「それは俺も同じ事だ。寝て起きたと思ったら知らない街、異なる常識。何故か急に先生とやらに指名され、オマケにその指名した奴は行方不明と来た。・・・正直頭が痛い。」
「えっと貴方は・・・。」
「俺は舩坂。舩坂弘だ。」
今、キヴォトスにジェリコの喇叭が鳴り響こうとしていた・・・