シャーレの先生は不死身な兵隊サン 作:富士見の山崎
地下から地上階へと戻る。
階段から上がってすぐの部屋のドアに張り紙がしてあった。
『空室 近々始業予定』
と手書きで書いてある。
手入れはされている様で、埃の一つもありはしない。
「ここがシャーレのメインロビーです。長い間空っぽでしたけど、ようやく主人をむかえることになりましたね。」
「へぇ。中々に綺麗だな。」
ドアを開けて、部屋の中に入る。
中は天井が二階部分まで抜けており、とても広く感じられた。
感覚としては工場や体育館位の天井の高さだ。
「そして、ここがシャーレの部室です。ここで先生のお仕事を始めるといいでしょう。」
「・・・そういえば、先生とやらを引き受けるとは言ったが、仕事は何をやればいいんだ?先生らしく授業でもすれば良いのか?それとも、
本棚を覗き込みながら聞く。
特に何も入っていない。
「それが・・・シャーレには権限はありますが目標のない組織なのです。」
「と、言うと?」
「特に何かをやらなくてはならないという強制力が存在しません。捜査部、とは呼んでいても連邦生徒会長も特に触れられていないんです。」
「つまり、俺に権限を使って好きな様にやれ、と。・・・ますます訳が分からない・・・・・・?なんだこれ。」
部屋の隅に、1.5mはあろうかという木箱が鎮座していた。
それも二つ。
「・・・?以前来た時はその様な箱は無かった気がするのですが・・・。」
蓋をおもむろに開けて驚愕した。
「これは・・・!」
「こいつは俺に戦えって言っているのか?」
あるわあるわ。
三八式歩兵銃に八九式擲弾筒、九六式軽機関銃に九五式軍刀の銃火器刀剣類。
もう一つの箱にはこれでもかという程、三八式実包や擲弾筒弾が詰められている。
分隊なら兎も角、一人ではバカスカ撃ってもまだ余るという量がここにはあった。
「どっから集めて来たんだ、こんなもの。」
「先生はこの銃について何か・・・?」
「いや、いつも使っていた銃と同型というだけ・・・のはずだ。」
試しに三八式歩兵銃を手に取り、見やる。
陛下の銃であることを示す菊の御紋に『三八式』の刻印。小倉造兵廠のマーク。
紛うことなき我が陸軍の三八式歩兵銃であった。
「不良の忘れ物・・・・では無いな、絶対に。」
「連邦生徒会長の配慮・・・でしょうか・・・。」
「そうだろうなぁ・・・・・。」
不良が持っている様な品物であれば、菊の御紋にばつ印が入って廃銃扱いとなっているはずだ。
しかし、この三八はそうでは無い。
まるで俺に渡す事を前提として預かっていたかの様に、菊の御紋が輝いている。
「・・・・いったいどうなって・・・・うん?」
三八式歩兵銃を置いた机の上、その真ん中に布と皮の塊が置いてあった。
「軍衣・・・・・それに弾帯か・・・・・。」
ご丁寧に軍曹の階級章がはってあり、弾帯は弾がぎっしり詰まっていて重い。
「この分なら雑嚢や円匙も探せばありそうだな・・・。」
「先生へかかるストレスを最小限に抑えたかったのでしょうか・・・。」
舞台を仕掛けた本人が居ないとあっては真意も分からない。
「・・・・私たちは彼女を探すのに全力を尽くしているため、キヴォトスのあちこちで起こる問題に対応できるほどの余力がありません。」
「・・・・。」
「今も連邦生徒会に寄せられてくる苦情・・・・支援物資の要請、環境改善、落第生への特別授業、部の支援要請などなど・・・・・。時間が有り余っている『シャーレ』なら、この面倒な苦情の数々を解決できるかもしれませんね。」
「・・・やはりそうなるか。」
七神のこれまでの言動、行政機関首長不在による混乱、そのなかでの行政と同等の権力を持つ機関の設立。
『シャーレ』が官営何でも屋の様な形態にさせられるのは簡単に想像できた。
恐らくこれから連邦生徒会にいい様に使われるのだろう。
「マァ、今更断ることはないが。」
「ありがとうございます。その辺りの書類は先生の机の上に、たくさん置いておきました。」
七神は全部知った上で俺を連邦生徒会の雑用担当にさせたのかもしれない。
「・・・・分かった。」
「それではごゆっくり。必要な時にはまたご連絡致します。」
「(もう二度と来てくれるなよ)・・・じゃあな。」
去っていく七神に恨めしい視線を送りつつ、俺は小銃を担いだ。
・・・・・
・・・・
・・・
施設の外に出てみると、先程の面子が勢揃いしていたので、それとなく合流した。
「ええ。サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会が取り戻したことを確認したわ。」
「ワカモは自治区に逃げてしまったのですけど・・・すぐ捕まるでしょう。私たちはここまで。」
「よろしい。全員、ご苦労だった。」
一応、労いの言葉をかける。
弾雨の中に突っ込ませたのに言葉でしか労えないのがつらい。
「せ、先生こそお疲れ様です。先生の活躍はすぐにキヴォトス全域に広がるでしょう。すぐにSNSで話題になってしまうかもしれませんね?」
「(SNSとは何だ・・・?)そんなに大したことはしてないさ。」
「これでお別れですが、近い内にトリニティ総合学園に立ち寄ってください。先生。」
「(ペコリ)」
「・・・トリニティ・・・ね、分かった。」
「私も、風紀委員長に今日のことを報告しに戻ります。ゲヘナ学園にいらっしゃった時は、ぜひ訪ねてください。」
七神もメガネだったが、こっちのメガネのチナツはまだとっつき易くて素直な性格で助かる。
困った時は是非こちらのメガネを頼りたい。
「ミレニアムサイエンススクールに来てくだされば、またお会いできるかも?先生、ではまた!」
「ウン。じゃあ。」
離れていく生徒たち。
初日から、恐らく有力であろう学園の、それも幹部たちと関係を持てたのは運が良かったのかもしれない。
・・・。
大東亜戦争は終結した。
帝國の軍人たる俺は死んだ。
しかし、このキヴォトスが俺を先生として求めた。
これは、俺、舩坂によるキヴォトスの先生としての始まり。
そして、軍曹舩坂の長い戦いの、まず一つ目の終着点であった。
それを理解した時、俺はキヴォトスに来て初めて、あるかも分からない祖国の方向、東を睨んだ。
かつて死んでいった同胞たちと同じ様に・・・・・・・。
プロローグ完結です。
既に御察しの読者様もおられるでしょうが、リアルが色々と大変なので更新頻度が大幅に落ちます。
申し訳ありません。
更新頻度が戻るまで、暫くはアビドス編への繋ぎとなる幕間を投下させていただきます。
ではまたいつか。
舩坂氏以外の軍人も出すべき?
-
出してほしい
-
出さないでほしい