魔理沙の妹になりました、妖怪たちにモテモテ(食欲)です 作:元掃除道具
※なのでそちらご覧いただいていたら次話から見て頂いても問題ないと思います。
日中も瘴気の影響で薄暗く、幻覚の作用がある茸などの影響で野生の動物さえ迂闊に近寄らない危険な場所。
ここに住む生物は変わり者が多く、独自の生態系は外敵を寄せ付けないので隠れ住むのにも最適だ。
かつては人が住んでいた跡なのだろうか。
あばら家や地蔵など、生活の跡も残るここは幻想郷にある危険地帯のひとつ、魔法の森。
「お姉ちゃん。もう起きてくれないと、布団も干せないんだけど!」
「あー?」
木々をかき分けてぽっかりと開いた空き地は、瘴気を払う魔法のおかげで正常な空気に満ちている。
ここはしっかりと日差しも確保されていて、森の中にいることを忘れそうになるくらい明るい。
元々あった1階建てのあばら家を改築して棲みついている私たちは、勝手に『霧雨魔法店』の看板を掲げている。
広くない部屋には姉の蒐集品が多く、片付けても片付けても物が溢れて仕方がない。
「んー、あと5時間……」
「もう! 夜更かししているから! 早く起きないと朝ごはんも片付けちゃうよ!」
「うーん……」
真っ白なシーツに金色の髪を無造作に広げ、大きな枕を抱くようにして眠っている姿。
時折むにゃむにゃと口を動かして、少しだけよだれが口元で光っている。
安らかに眠る姿は毎日のことなのに、未だににやけてしまう顔をパンパンと叩く。
いつまでも甘やかしていてはいけないのだ。
久々の晴れ間で、今日はたくさんお洗濯をしないといけないのだ。
未だに起きる気配がないのは
私の双子の姉で、『東方Project』の主人公でもある。
改めて魔理沙が包まれている布団を揺すり、ぐいぐいと肩とか腰の辺りを押してみる。
だけど、強情な姉はなかなか動かない。ムキになって揺すり起こしていると、そのうち観念したのか魔理沙が目をうっすら開きこちらを見上げる。
「もうすこし右側……。あー、いいぜ。その辺が丁度気持ち良い」
「いい加減、起きてよー!」
「まったく、我儘な妹だ」
やれやれと大げさにため息を吐いた魔理沙が、ガバっとこちらを布団に引き込んでくる。
予想もしていない動きに私はなんの抵抗もできず、気が付けば視界一杯に魔理沙の顔。
あたたかい体温の残る布団がばさりと音を立てて体を包み、薄暗い布団の中でもキラキラ輝く金色の瞳がこちらを見つめている。
悪戯っぽく笑う顔は双子だから同じ作りの筈なのに、その表情が魔理沙らしい。
「おはよう、
「お、おはよう……魔理沙」
相変わらず顔の良い姉には、日々綺麗になる魔理沙には、一生慣れる気がしない。
▽▲
私は
魔理沙の双子の妹になった幸運な転生者。
魔理沙の妹で、魔理亞。
魔理沙みたいに可愛い名前だ!
私が転生したことを自覚したのは今よりもう少し幼い頃のこと。
私たちは、大きな商家である霧雨道具店の双子として生まれた。
人間の里の因習として双子の誕生は喜ばしいものでなかったようで、私は周囲から隠すように育てられていた。
といってもそこに暗い思い出は特になく、母さまは優しいし、父さまも不器用ながら愛情を注いでくれている。
唯一残念なことは、魔理沙と触れ合う機会がなかった事くらいだ。
母さまから聞いていた魔理沙のことや、霧雨という名字から「絶対『東方Project』だ! 双子に転生したんだ!」と確信していた。
私はあまり前世の自分自身を覚えていない。
だけどそんな自分のこと以上に『東方Project』のことを覚えているんだから、きっとすごく好きだったんだと思う。
記憶によると、魔理沙はそのうち家を出ていく。
その時に私も一緒について行きたいし、できれば空を飛んだり、他の原作キャラクターたちにも会いたい!
こっそりそんな野望を隠し、いつか来るそんな日を夢見ながら薄暗い土蔵の中で、天窓から漏れる少しの明かりを頼りにお絵描きをするのが私の日常だった。
そんな日常を変えたのは、魔理沙との最初の出会いだ。
突然ガラリと音を立てて開かれた扉の外、陽光の中でこちらを見つめる金色の勝気な瞳の少女。
想像していたような白黒の魔女衣装ではない、普通の和服を身にまとった女の子。
私と同じ金色の髪で、少し癖のある髪質はゆるゆるとウェーブを描き、ゆったりと長く綺麗に後ろに揃えられている。髪を左片方だけ三つ編みにしているのがとっても可愛い、自信に満ち溢れた姿。
これが主人公だ! と言わんばかりのオーラか、普通に外が眩しかったからか、目を瞑ってしまうような眩しさを覚えている。
土蔵の中には鏡がないので、その時は私も見た目だけは似ていると知らなかった。
でも知っていても見慣れていなかったんだろうし、その自信に満ち溢れた姿はやっぱり私とは全然違うものなんだけど。
「やい、土蔵の幽霊ってお前の事か? なんか、思っていたような姿じゃないなー」
そんな風に声を掛けられたのをよく覚えている。
「ぁ……、え。ゆ、幽霊……?」
間抜けにもぼーっと魔理沙を見上げ、引きつりながら声を出して、なんだか自分のその態度が魔理沙と全然違って、急に恥ずかしくなった。
「誰もいない筈の土蔵から歌とか声が聞こえるって……。なぁんだ、幽霊じゃないのか。なあ、お前は誰だ? なんで私に似ているんだ?」
ずいずいとこちらに迫る魔理沙に、お絵描きに使っていたチラシの束を抱えながら必死に自分の姿を隠し、どこからか飛んで来たお手伝いさんが魔理沙を土蔵から遠ざけるまで私は俯いていた。
「はぁー。あ、焦った……。魔理沙だ、ホンモノだぁ……!」
後からじわじわと本物の魔理沙を見たという興奮が上ってきて、その日は中々寝付けなかった。
その後、魔理沙は人の目を盗むようにして何度も土蔵へ忍び込むようになった。
私も最初はドギマギとして中々うまく喋れなかったのだけど、だんだんと一緒にいる時間が長くなると普通にお話しできるようになり、楽しそうに笑う魔理沙につられてよく笑うようになった。
やっぱり原作通り、魔理沙は魔法に興味を持っていた。
「そのうちこの土蔵だってぶっ飛ばせるような、すっごい強い魔法が使えるようになるんだ!」
「ぶ、ぶっ飛ばすのはやめて欲しいなー」
私たちはこっそりと土蔵の中に、魔理沙が集めて来た魔法の品々を隠していた。
未知のものへの興味は尽きず、ふたりともはすっかり魔法に夢中だったのだ。
「魔理亞はどんな魔法を使いたいんだ?」
「えー、そりゃあやっぱり空飛ぶ魔法!」
「空? そんな簡単な魔法、すぐだぜ! 他にもないのか?」
「うーん……でもやっぱり、わたし自由に空を飛んでみたいなー」
空を飛ぶとか、普通に人類の夢だと思うんだけど。
この身1つで飛べるなんて夢みたいだし、きっと気持ちが良いんだろうなー。
「……そうだな!」
魔理沙がニコッと気持ちのいい笑みを浮かべ、つられてこちらも笑顔になる。
こんなに近くで成長する姿を見ていることが出来る。
それは今も変わらないけど、ようやく出会えた魔理沙に夢中だった。
「バカ親父っ! こんな家、出てってやるっ!!」
お昼からウトウトとしていた私は、魔理沙の怒声で目を覚ました。
なんだなんだと思っているうちに、土蔵の扉ががらりと開いて魔理沙が姿を現した。
「魔理亞っ! いこう!」
「え、うん!」
差し出された手をただ掴み、一緒に蔵の外へ出る。
外は夕方の雲がうっすらと頭上まで赤く染めていて、半分の空が暗く紺色に染まる時間帯。
「ま、魔理沙! 待ちなさい!」
「誰が待つか!」
バタバタと出て来た父さまに向けて魔理沙が閃光の弾幕を放ち、目の前で極光を弾けさせる。
父さまの目がくらんでいるうちに、魔理沙は庭にあった箒へと跨って振り返った。
「魔理亞!」
何も悩む必要はない。魔理沙に掴まり、箒の後ろに跨る。
箒で空を飛ぶ魔法が使えるなんて聞いていなかったけれど、私は魔理沙の事を知っていたから、信頼して身を預けることが出来た。
周囲に魔法が満ちる気配。
ゆっくりと浮かび上がる箒と、それに跨る私達。
「わぁ! ねえ、飛んでるよ!」
「ああ、舌噛むなよ!」
ぐっと箒を掴む魔理沙が、全身を強張らせているのが背中越しに伝わる。微かに震えも伝わり、きっと不安を感じていると察することが出来た。
これは何度目の飛行なのだろう。まだ幼い私たちは、大人の目を盗んで魔法の練習なんてほとんどできない。
でも私は魔理沙を知っていたから不安がなかった。箒に跨り幻想郷の空を駆け、星の弾幕を操る魔法使いを知っているから、私は安心していた。
でも魔理沙は違う。緊張をほぐしてあげたくて、後ろからぎゅっとしがみ付いて頬を背中にくっつける。
「大丈夫だよ、魔理沙だもん。信じてる」
言葉が届いたのか、魔理沙はすこしだけ強張りを解いた。
私にも力があればこういう時に支えてあげられるのになー。
なんて考えつつ、今は一緒に飛べることを楽しんで空を駆ける。
「わはは、悪いな霊夢! 一晩だけ泊めてくれ!」
魔理沙と一緒に辿り着いた神社、おそらく博麗神社。
すっかり暗くなった境内に降り立って、「一晩位なら泊めてくれるだろ」と当てがあるような言い方で母屋の扉をバンバン叩き、中から出て来た少女に開口一番、魔理沙は頼み込んだ。
「はぁー? なに、どうしたのよこんな時間に」
「まあまあ、私とお前の仲だろ。とりあえず入れてくれ、私の妹が寒がっているんだ」
「妹? あんたに妹なんていたっけ?」
魔理沙に手を引かれ、暗がりからそーっと霊夢を伺うと、こちらに気が付いたようで、ぎょっとした顔で身構えられる。
原作で魔理沙と同じく主人公である、幻想郷の素敵な巫女が、まだ幼い姿で目の前にいるのだ。
手に汗が滲むのと、変に緊張してしまって私は声が出せなかった。
土蔵にいた時には気が付かなかったんだけど、私はあまり人と話すのが得意じゃないのかもしれない。
伝えたい言葉はつっかえて喉の奥に消えてしまうし、碌に眼も合わせることが出来ないのだった。
ただ嬉しい気持ちだけは表情に出てしまい、ニヤニヤするのは止められない。
「え、なに!? ドッペルゲンガー?」
「あ、その……」
「双子の妹の魔理亞だ。ちょっと家出してきた」
「ちょっと家出? ……面倒事は御免だけど。まあお茶位は出してあげる」
「お、流石話がわかるぜ。魔理亞、自分の家だと思って楽に過ごすんだぞ」
「摘まみ出すわよ」
一晩だけという約束で私たちは博麗神社に泊まったが、私はそこから数日間を霊夢と共に過ごすことになる。
「あんた、なーんにもできないのねぇ」
「あ、あ……。あの、ごめん……」
「ちょ、ちょっと素直に謝らないでよ! 魔理沙と同じ顔だから、調子狂うわ」
家にいた頃はただ運ばれてくる食事を摂ったり、母さまと遊んだり父さまにお勉強を教えてもらったり。
すべて世話を焼いてもらっていたので、私に生活能力は皆無だった。
「まったく。ほら、包丁を持つ時にはこう! それで、野菜を抑える手はこう!」
「こう?」
「そうよ。……はぁ。魔理沙とは全然違うわねえ」
「えへへ、ごめんね」
そりゃあ魔理沙とは違うだろうなぁ。
まだ小さな霊夢に至近距離で触れ合えているのが嬉しくて、ついだらしのない笑みを浮かべているとまたため息を吐かれてしまう。
せっかく出会えた主人公たちに残念扱いされるのも癪なので、一生懸命お料理位はできるように取り組んでいく。
幸い不器用な方ではないのか、魔理沙の双子だから器用なのか。お料理は早々に覚えることができて、一緒に台所に立つのは早かった。
魔理沙は私を神社に置いた後、すこし実家に戻ると言って出かけて数日は戻って来ていない。
心配している私に「心配するだけ損よ」なんて霊夢が言って、それ以上何も言わず神社に置いてくれた。
数日も一緒にいると流石に慣れたもので、最初は「リアル霊夢だ!」と浮ついていたのもすっかり落ち着きを取り戻すものだ。
慣れてくるとそれはそれで、改めて博麗神社周辺に目が行く。
人間の里からどれくらい離れているんだろう。魔理沙に連れてきてもらったから距離とかはわからない。箒で結構飛んだと思うんだけど。
日中は人の声もなく、獣や鳥の声だけが周囲にある静かな神社。
結界に護られているので心配はいらないのだと言うけど、小さな女の子がひとりでこんなところに住んでいるなんて、寂しいと思うんだけど。
「魔理亞、今日も眠れないの?」
「……」
陽が沈み、室内の明かりを消すとすっかり神社の中も真っ暗闇に閉ざされる。
遠くで獣の遠吠えとか、風の音なのか木々が鳴る音。
そういうものがなんだかとても恐ろしく、私は日中にお掃除とかで体を一杯動かしたのに、全然眠れなくて布団の中でじっと朝が来るのを待っていた。
そういう風にじっと耐えていると、隣のお布団で寝ている筈の霊夢が声を掛けてくれる。
「はぁー。仕方ないわねぇ。ほら、こっちにおいで」
「……うん」
枕だけ持って、霊夢が開けてくれた布団に入り込む。
人の体温が安心感を与えてくれて、すぐに私は眠気を我慢できなくなった。
「……ありがと、霊夢」
うつらうつらと意識を揺蕩わせ、背中を向けている霊夢に向かってお礼を言って眠りに落ちていく。
「よお、世話になったな! 魔理亞、怖い思いはしなかったか?」
数日経つと、魔理沙は平然とした顔で戻ってきた。
その姿は以前のような和服ではなく、白黒の魔女衣装と形容できるような、よく知る姿に変わっている。
「あんたねぇ……。散々人を待たせてそれだけ?」
霊夢が腕を組み、いらいらとした口調で魔理沙を睨みつけると、魔理沙は両手をあげて降参のポーズで改めて謝罪していた。
「家は出て来た! 勘当だってさ。私は魔法使いになるんだ、あの家じゃそれは出来ないね。魔理亞……。お前は、人間の里に戻りたいか?」
「え、ううん。魔理沙と一緒にいたい」
考えるまでもなく答えを伝えると、見開いた目をぱちぱちと瞬きする魔理沙と目が合う。
そんなの、考えるまでもないと思うんだけど。
「魔法使いってなによ。魔理沙、あんた人間をやめるの?」
怪訝そうな霊夢に魔理沙は「いやいや、それは霊夢に退治されるからまだ考えてないけど」と弁明し、頭を掻いてから、改めて私に手を差し出してくる。
「私は魔理亞と一緒に魔法を研究したいんだ。私の我儘だけど、魔理亞は付いて来てくれる?」
「え、一緒に!? やったぁ、頑張ろうね!」
その手を掴んでぎゅっと握ると、魔理沙はまた気持ちの良い笑みを浮かべて私をぎゅーっと抱きしめてくる。
抱きしめられながら内心で慌てていると、少しして魔理沙がこちらを離してから仕切り直すように空咳を打った。
「霊夢には本当に世話になったな。また頼らせてもらうぜ!」
「程々にしなさい。魔理亞も、嫌だったら嫌ってちゃんと言わないとダメよ」
「霊夢、ありがとう! また来るね!」
「どっちも厚かましいわねぇ」
言葉のわりに、ふわりと優しく微笑む霊夢。たくさんお世話になってしまった。
「なんか霊夢、雰囲気柔らかくなったなぁ」
魔理沙が不思議そうに霊夢を見て、霊夢が怪訝そうな顔で魔理沙を見つめ返す。
私も同じように魔理沙を見て、一緒に首を傾げてしまう。
「そうかしら?」
「霊夢は最初から優しかったよ?」
「うーん、私の気のせいか?」
腕を組みながら不思議そうに、魔理沙は首を傾げた。
▽▲
私には双子の妹がいる。双子だから見た目はそっくりだけど、性格や気質は全然違う妹だ。
私と違って、繊細で体の弱い妹。魔法の力も弱いし荒事に向いていない臆病な性格をしている。
優しくて心地よい空気を作り出す、私のたった1人の大切な妹。
土蔵で魔理亞を見つけてから、私は妹に夢中だ。
初めて会うはずなのに、ようやく会えたと感じたのは双子だからだろうか。
私に似ているのは外見だけで、中身は全然違うのに、どうしようもなく私の半身だ。
それが普通の姉妹なのだろうか。血肉を分けた妹を、私は一際愛おしく感じている。
「でも、母さまは私の方が先に生まれたって言ってたけど」
「いいの! 魔理亞は妹! 私がお姉さん!」
元々魔法に興味があった。
実家が魔法の道具を忌避しているのも知っていたけど、惹かれてしまうのはどうしようもない。
妹も私と一緒で魔法が大好きだったから、もっともっと魔法に夢中になっていった。
魔理亞を閉じ込めている家族が、私は好きじゃなかった。
古い因習に従うのも馬鹿らしいし、そんな下らない事の為に魔理亞を閉じ込めているのが嫌だった。
親父とおふくろは酷い人だと思っていたが、あの2人も魔理亞を愛していたと思う。でもやっぱり閉じ込めていた事は許せない。
口うるさい親戚たちから守る為でもあったのだろうが、他にやりようがないのか。
自由に生きられないあの人たちのことを、哀れにも思っている。
「母さまも父さまも、優しい人だよ!」
魔理亞は全然気にしていないけど、私自身も知らずに閉じ込めていた家族のひとりだから許せない。
知っていたら、もっと早くから魔理亞と一緒にいられたのに。
まだ魔法の森に来たばかりの時は私も未熟で、空気の浄化が間に合わず体調を崩すことがあった。
魔理亞がどこからかアリスを連れて来なかったら、私たちはそこで死んでいてもおかしくない。
それくらい魔法の森は洒落にならない環境で、私の考えはとても甘かったのだ。
口元を覆うマスクで表情は伺いづらかったけれど、出会ったばかりだというアリスに心底信頼を寄せて「魔理沙を助けて」と求める妹の姿。
きっと自分も苦しいだろうに、無理して森の中を駆け回ったのか、服は汚れてそこら中に傷を作りながら、魔理亞はそれでも私を撫でていた。
それを受けて戸惑いながら「そういうのに絆される程、私も若くないわよ」なんて言って、浄化の魔法を使うアリス。
言葉とは裏腹に即座に行動しているあたり、情に厚い魔法使いなんだとよく知らない当時の私でも思った。
そしてその熟練した魔法に、最初に覚えたのは安心感や羨望よりも
妹に頼られたい。
はじめて妹を箒に乗せて空を飛んだ時。
小さな命を背負って緊張する私に、妹は頬を寄せて安心していると、信頼していると、頼りにしていると。そう言って、とても優雅とは言えない覚束ない飛行の中で、臆病な妹が少しも怖がらず私に命を委ねた。
その時に覚えた歓喜の味を、私は他の誰にも盗られたくない。
一番妹から頼られる人になりたい。ただ、それにはまだ私は力不足。
それを痛感し、魔理亞を危険に晒してしまった自身の未熟を呪う出来事になった。
▽▲
魔法の森に来たばかりの時、魔理沙が瘴気で体調を崩した。
苦しそうにぜぇぜぇ息をしているのが自分のこと以上に辛く、なんとかできないか必死に魔法を研究したけどその時の私にはどうしようもなかった。
当然のように私も体調を崩していたし、このままでは本当に死ぬんじゃないかと覚悟した程だ。
もしこのままだと私たちが死んでしまったら、魔理沙という主役不在で話が進んでしまう。
そうなると色々な所で齟齬が出て、私の好きな世界が変わってしまう。
そもそも魔理沙に妹なんていないんだから、破綻するとしたら私のせいだ。
それだけはなんとか回避せねば! と、その時私は原作知識を動員して『この森の中にいる
あまりにも必死だったので、途中で意識を失ったのか記憶も曖昧だ。
気が付くとベッドに寝かされて、隣に安らかな寝息を立てて眠る魔理沙を見てボロボロと泣いてしまったのを覚えている。
助けてくれたアリスには、今でも本当に頭が上がらない。
すこしズルいかと思ったけど、アリスなら魔理沙を助けてくれると思ったのだ。
ただ、今の内からこの二人は出会って良かったんだっけ?
なんだか別の問題が起こりそうな予感もするんだけど。
でも背に腹は代えられない! 命が危険なときになりふり構っていられるものか!
私は魔理沙になにかあったとき、自分ができることを躊躇するつもりはないのだ。
魔理沙たちが生きてさえいれば、どうとでもなる!
妹になった私のせいで問題が起こるのなら、私がその問題を解決していつまでも図々しく居座ろうじゃないか!
密かに決意を固め、泣きつかれた私は意識を手放した。
▽▲
お洗濯を終えて晴れ間の見える庭先で、物干し台にシーツを掛けて気持ち良い風を浴びる。
うーんっと伸びをしてから家に戻ると、魔理沙が片膝を立てて本を読みながらおにぎりを頬張っていた。
何気ない日常の一コマがとても嬉しい。今はこうして平和だけど、これから起こる異変にきっと姉は立ち向かっていくのだ。
それが誇らしいのと同時に、瘴気で倒れた時のようにまた苦しんでしまうのではないかと心配も募る。
「魔理沙のことは、何があっても私がきっと守ってあげるからね!」
改めて気持ちを入れ直し、拳を握って気合を入れる。
魔理沙が本から顔を上げ、不思議そうな顔をしてからまたニヤリといじわるな笑みを浮かべた。
「お姉ちゃんって呼べよな。なんだ、また弾幕ごっこで負かされたいのか?」
「う、いや。弾幕ごっこは関係ないし……」
魔理沙がケラケラと笑い、おにぎりをパクパク食べてお茶を飲む。
あ、と気が付いて、傍に寄ってほっぺたのお米粒を取ってあげると、ガタッと立てていた膝を崩して変な体勢になっていた。
「な、なに、どうかした?」
「い、いや……。びっくりしただけだぜ」
「ふぅん、変なの」
「あ、た、食べたな!」
「えぇ? あ、お米? 勿体ないじゃん……」
朝からいつも通り変な姉だ。はやくご飯食べてくれないとお皿洗えないんだけどなぁ。
そろそろ夏を感じる陽気の中。私はこれから起こる異変に、心構えを整えているのだった。